今は最終決戦と免許の取得とバイトが私の全て。
だが、リア充にムカつくのも事実。
故に自分なりの爆弾を書いた。
それがコレだ。
───地面が硬ぇ……。
何時の間にか仰向けに寝転んでいたらしいこの身体。
ベッドでも布団でもないただの床に転がっているため、身体の節々が痛い。
フォウ……キュ、キュー?
───何だよ、誰だよ顔舐めんな。
「あの、先輩。 昼でも夜でもないので、起きてください」
物静かな雰囲気の声が聞こえる。
ボヤけた視界に映るのは、眼鏡と…胸か………うん、柔らかそう。
ダメだ、まだ半分くらい脳味噌が夢の彼方に旅立っている。照明が眩しい、あとさっきからよくわからんモノに顔を舐め回されてる。
───起こしてくれ。
「えっと、それは目を覚ますという意味の起床でしょうか? それとも上体を起こせばいいのでしょうか?」
───手。
「え? 手、ですか?」
───ん、そのまま引っ張って起こして。
「む、先輩は結構我儘なんですね」
ちょっと不満気ながらも、よいしょっと引っ張り上げてくれた。親切だ。
起き上がると、顔に乗っていたのであろうモノが、コロコロと転がり落ちてきた。
リスっぽい犬とでも言おうか……珍妙な動物であることには違いない。
思わず抱き上げてマジマジと観察してしまった。
───何こいつ、犬? いや、リスか?
フォウッ、キュー、キャーウッ!
「この子はフォウさんです。 このカルデアに住んでおり、主に私がお世話をしています」
フォウフォウ
───モッサモサだなお前。 ああ、ところで、君は?
「私は、マシュ・キリエライトと申します。 先輩と同じで、このカルデアのマスター候補者です」
カルデア? なんで新バビロニアが出てくんの? ここどう見ても現代建築技術で建てられてるぞ。
あとマスター候補者とは何ぞ……。 俺そんなインチキくさいものにエントリーした覚えねぇよ。
など、疑問に思う点がいくつかあった。
自分はさっきまで科学的な魔術の研究に勤しんでいたはずなんだが、ミスってテレポートでもしたのだろうか。
あと、『先輩と同じ』と言ったな。
つまり、自分は何時の間にかそのマスター候補者とやらにエントリーしてしまったのか。夢遊病は患っていないはずなのだが。
───俺は藤丸立香。 自己紹介をした上で変な事を聞くが、
「え、ええ? あの、先輩は先ほどカルデアに到着したばかりで私もあまり、というよりこれが初対面ですが……」
───じゃあ、何で俺を先輩と呼ぶんだ? 面識は無いんだろ?
「私にとって、大抵の方々は人生の先輩なんです。 あの、嫌、でしたか?」
心なしか泣きそうな顔で聞いてくるこの後輩。
なんか自分が泣かしてるみたいで罪悪感が半端ない。いやマジで。
このまま嫌とか言うと本気で泣き出しそうなので、取り敢えず無難な答えを返す。
───嫌じゃない、むしろ嬉しい。 だからその泣きそうな顔をやめてくれ。
「泣きそう…でしたか?」
うんうんと頷き肯定する。すると両手で抱えていたフォウという珍獣も同じ動作をした。
おかげで見事に動きがシンクロし、マシュにクスリと笑われた。
笑われた理由がわからず軽く首を傾けると、フォウも傾ける。またシンクロした。また笑われた。
そこでようやく原因に気付き、お前かコンニャローめと両頬をムニムニする。
フョ〜ウッ、ウニュムキュ!
───なんか、楽しいなこれ。
思わず夢中になってムニムニし続けた結果、フォウが逃げた。
名残惜しさを少々残しつつ、どっこらせと立ち上がった。
埃なんて付いてはいないが、一応パンパンと払っておく。
───さて、と。 これからどうしたもんか。 なんか挨拶しときゃ良い知り合いさんとかいる?
「えっと、まずはここの所長と、レフ教授と、あとDr.ロマ二という人がいます。 おすすめはレフ教授ですね」
───んぁ? 所長さんはやめといたほうが良いのか?
「はい。 あの、その、なんというか、神経質で気難しい方なので。 それに、恐らく今は機嫌がよろしくないと思われますので、余計に」
ほーん、なるへそ。
そんな軽〜い気持ちで、まあ何とかなんだろと思いつつぐぅっと背伸びをする。
その時に背骨あたりからなにやらやばい音が連続したが、眠気は消えた。うん、スッキリ。
マシュは俺の頭辺りを見て、寝癖ついてますよと教えてくれた。
適当にガシガシと乱暴に直そうとすると、マシュがここですと自分の頭を指して言った。なにやら面倒くさかったので、手に魔力を通して無理やり直す。
科学的な魔術を研究していれば、自分の手をドライヤー代わりにするなど朝飯前なのである。
───んじゃ、案内頼む。
「はい。 では、こちらの方───って、あれ?」
なんか来た。
緑の服着て緑の縦長ハット被ってて、どう言ったらそんな髪型になるんだとツッコミ入れたい頭。きっと帽子の中はハゲているに違いない、うん。
よし、今この瞬間にあいつの渾名はツインテザビエルに決定だ。
もちろん、口には出さないが。
「やあ、マシュ。 まだこんなところに居たのかい? そろそろ戻らないと、所長がお冠だよ」
「すみません、レフ教授。 少し先輩との会話が長引いてしまって」
「ほう、君がかい? 珍しいこともあるものだな。 さて、初めまして。 私はレフ・ライノール。 このカルデアに所属している一職員だ。 主に所長の補佐を務めている」
───藤丸立香。 よろしく。 うん、確かに教授っぽいなあんた。
礼儀のれの字もない挨拶だった。
これにはレフも軽く頰を引きつらせている。マシュはなんか凄いですみたいな視線を向けていて、やっぱりどっかズレてんだなこの子と思った。
ともあれ互いに握手をし、挨拶を済ませると、これから所長の話があるとのことでレフは急かして案内する。
自分がここにいる理由も原因もまだよくわかっていないが、取り敢えずなるようになるだろうと流れに身をまかせることにした。
◆*◇
「おはようございます、皆さん。 私は、ここカルデアの所長を務めているオルガマリー・アニムスフィアです」
あれがカルデアの所長……。
最前列の、しかも目の前に立っているせいか表情がよくわかる。
眉間にある小さい皺、少し不機嫌そうな目、軽くへの字に曲げられた口。
なんとなく、自分とはあまり反りが合わなさそうな気がした。てかちっちゃいなこの人。
気づかれないように嘆息し、ポケットに手を突っ込む。
ここに来るまでにビスがひとつ落ちていたので、形状変化を使ってピッキングツールを作っていた。
と言っても、遊び半分の代物で、この先使うことも無いんじゃないかと思っている。
作成した理由としてはもともとの癖というか、研究課題からくる病気みたいなもので、ペンチとかスパナとかドライバーなどの物がないと不安だったのだ。
しかしビス一本で作れる質量物など限られている。だから仕方なく小さめのピッキングツールで妥協した。
ポケットの中でそれをニギニギして遊んでいると、ふと視線を感じた。
それは自分の右手を刺し、次第に空気がピリピリし始める。
なんじゃいと思いながら視線を前に向けると、所長がすんげー形相でこっちを見ていた。
「あなた、さっきからずーっとポケットに手を入れて下を見てるけど、私の話を聞いているのですか?」
───聞いてますん。
「な…ッッ。 いえ、いいでしょう。 では私が先ほど注意事項として説明した内容を述べなさい」
───カルデアにエロ本を持ち込むな。
「全然違いますッ!!! 全く話を聞いていないじゃない!! というかえ、
顔真っ赤にしてプンスカ怒る所長。
端的に言って凄く可愛い。
もっと揶揄って困らせて涙目にして、泣きだす3秒前くらいでよしよししてあげたい。
と、そんな黒いことを考えているうちに、所長が目の前まで迫っており。
───バチィィィンッ
問題児の頬に全力ビンタを見舞った。そしてそのまま部屋を退場し、辺りは沈黙に包まれる。
マシュは大丈夫ですか先輩と心配してくれている。所長さんには悪いが大して痛くなかったのでジェスチャーで平気平気と伝えておいた。
暫くすると、各自あてがわれた部屋に向かうよう指示が出され、1時間後にレイシフトを行うこととなった。
俺は、なにぶん目覚めたのがつい先ほどなので何も知らせを受けていなかったっつーか、ぶっちゃけると自室がわからん。
テキトーにぶらぶら散歩でもしよう、運が良かったら見つかるっしょ。と、これまた軽く事態を受け止めて行動した。
◆*◇
運が良かった。
見つかったよマイルーム。最初知らん人が入ってたから違うかと思ったけども。
なんだよこいつ、童貞くさいな。女性に縁がなさそうな顔してらぁ。
ちなみに俺は既に卒業してる。喰われる側、だったが。
初体験が被害者とか難易度高いわ。まあ確かにあの時の俺は
せめてもの救いは、相手が美人だったことぐらいか。
まあ、そんなこんなでマイルームを無事発見して、童貞人間ロマンと他愛もない会話を楽しんでいた。
「ねえ、君の科学的魔術って具体的にどういうものなんだい?」
───読んで字の如くっつーか、俺が勝手にそう言ってるだけ。ぶっちゃけ言うとな、普通の魔術と大して変わらないんだよこれが。
「へー、そうなんだ。僕が以前ハマったアニメもね、世界を救うために魔法少女たちがチェーンソーとかハルコンネン改とか使ってね、油と硝煙の匂いを漂わせながら原住民と言う名のインベーダーを千切っては投げ捌いては捨てての見事な攻防戦を繰り広げてね、最終的には未来からやってきた自分たちと戦って共倒れからの魔王が世界を握っちゃうという、無骨ながら感動的で救われない話なんだ」
───すげぇなそれ、最初に出た魔法少女要素どこいったんだよ。何をどう混ぜ合わせたらそんな無茶苦茶なごった煮アニメが出来んだよ。しかも救われないのかよ。逆に興味が湧いてきた、観てみたい。
そして、結局平和なのほほんとした空気の中で途轍もなく物騒な内容のアニメを見ることとなり、ほんわかしてるのかワクテカしてるのかわからなくなっていた。
それにしてもこの二人、この後すぐにレイシフトの試験があることを覚えているのだろうか?
また所長の特に愛とか無い鞭が振るわれ────
ドッガァァァァァァァァ!!!
───おわっ、なんだよオイ、爆発か!?
「ば、爆発って……いったい何が!?」
───知るか! とにかく非常事態なんだろ、動くぞ!
突如カルデアを襲った原因不明の爆発。それは人理継続保障機関のシステムに多大な影響を及ぼした。
それだけでは無い。
カルデアで観測していた未来領域が消失したのだ。
それは人類の未来が消えたも同義。つまりは人間という生物の絶滅証明に他ならなかった。
「立香君は他のマスター候補者の無事を調べてくれ! 僕はモニタールームの方を調べるから!」
───了解、気をつけろよ。
「ああ、君こそね」
───ッハ、俺の魔術忘れたのか? その気になりゃ部分的に酸素消して消火出来んだよ。
フォウッ!
───あん? まあいい、この際だ、お前も手伝え!
いつの間にか合流していたフォウ。
捨て台詞とも取れる言葉を交わしながら、二人と一匹はそれぞれ別方向に走った。
しかし、立香は他のマスター候補者など正直どうでもよかった。
ただ、彼女だけは何故かひどく心配になった。目を開けたその時に、初めて出会った彼女。自分を先輩と呼んで慕ってくれるどこか抜けた可愛らしい後輩───
───マシュ……ッ。
駆けた。インドア派な肉体が悲鳴をあげても無視した。周りが燃え盛り、小さな爆発を起こしても構わず走った。
だが、あいつは違う。マシュは違う。
意地でも救ってやる。あんないい娘が女磨く前にくたばるとか冗談でも認めねぇよ。
───マシュ、返事しろ! 何処だ、何処にいる!
中央管制室に入ると、そこは一面の炎に包まれていた。火が強すぎる、並みの火災ではない。おそらく魔術を織り交ぜて起こされた現象だろう。
状況は最悪。これではマシュの生存など絶望的だ。
だが知るかよそんな
「……ぁ……せ、先…輩………ッ」
!!!
聞こえた、聴こえた!
───マシュ! 無事か!
「っく……ッ、現状、無事とは……言えません。 下半身の、感覚がッ……無くて……ッ」
───あぁクソッ、瓦礫に潰されてんのか! 待ってろ、今これ除けてやるからな……!!
魔力を全身に巡らせ、筋繊維を無理矢理膨張させる。腕とか肩周りの服がキツイが関係ない。
しかし、一番大きな瓦礫の塊がマシュの下半身を押し潰してしまっている。持ち上げようとしても、先にこちらの肉体が悲鳴を上げてしまう。
マシュもか細い声で逃げてくださいと言っているが、ピンチのヒロイン見捨てて情けなく生き残るとか死んでも御免だ。
爪が割れる。皮膚が裂け、体のいたるところから血が吹き出す。充血した目からは血涙が流れ、白かったカルデアの礼装は瞬く間に赤色へと変わってしまった。
「先輩、もう、やめてください……! このままでは、先輩が…壊れてしまいます!」
───うるせー、黙って助けられてろよ後輩。 それとも何か? 俺に可愛い後輩見捨てた最悪な先輩にさせたいのかマシュは。
「今は……そんな冗談を言ってる場合では…………ぁ、ぁああ」
───あ"? なんだよこのクソ忙しい時に………って、はあ!?
カルデアにおいて最も重要な装置の一つ。ヒトの未来保証を示す小型の星。
そのカルデアスが真っ赤に燃えていた。
すると、新たなアナウンスが流れ始めた。
『観測スタッフに警告。 カルデアスの状態が変化しました。 シバによる未来観測データの書き換えを行います。
近未来100年までの地球において
人類の痕跡は 発見 できません。
人類の生存は 確認 できません。
人類の未来は 保証 できません。』
それは人類の絶滅
原因はどう考えてもこのカルデアを襲った爆発だろう。
しかし───
───おいマシュ、ここの設備欠陥品まみれじゃねぇかよ。 なぁにが発見できないだ、なぁにが確認できないだ、挙げ句の果てには保証もできませんって、ボケてんのかこのポンコツがぁ!!
「…せ……先、輩…」
───今! ここに! 居んだろぉがぁ!! 近未来どころか
後ろで隔壁が降りる音がした。
もうここからの脱出も不可能となってしまった。
『中央区隔壁封鎖。 館内洗浄まであと180秒です』
───おぉおぉおおおおるぁあああああ!!!!
マシュの上にあった瓦礫をなんとか除けることに成功し、魔力も体力も空っけつになった状態で担いだ。
出口は無い。が、何とかしてやる。
偉い人も言っていた。逆に考えるんだ、と。
作っちゃえば良いさ、と。
だが、肝心の魔力は枯渇した。
ならば魔術師らしく、他所から調達するまでだ。
一度マシュを下ろし、座り込む。そのままマシュを姫抱きにし、顔を近づけた。
───マシュ、すまんが緊急事態だ。 俺なんかで悪いが、協力してくれ。
「先輩……? あの、何を……」
───魔力供給だ。
「へっ? あ、あの、私なんかで……いえ、私しかいませんね。 あの、不束者ですが……その、お願い、します」
───ああ、怖かったら目ぇ瞑ってろ。なるべく早く済ます。
燃え盛るなか、二人の男女が見つめ合う。それは何故か、とても神秘的なものに見えた。
『コフィン内のマスターの バイタル 基準値に 達していません。 レイシフト 定員に 達していません。
該当マスター検索中………発見。
適応番号無し。再設定開始……完了。
適応番号48番 藤丸立香 をマスターとして設定します。
アンサモンプログラム スタート。 霊子変換を開始します』
「先輩。 手を、握ってください……」
『レイシフト開始まで あと3』
───わかった、いくぞ。
『2』
2人の唇が重なり、僅かに水音を奏でた。そのまま舌を絡め、頬の粘膜を通して体液を交換し、魔力を供給する。
『1』
すると、マシュの手を握っていた右手に焼けるような痛みが走った。
舌を絡めているため今は食いしばることもできなかったが、横目で確認する。
そして驚愕した。
右手の甲にはなんと
『全行程クリア。 ファーストオーダー 実証を開始します』
3画の令呪が刻まれていたのだ。
2人のこのシーン大好きです。
レフは真剣に禿げればいいのにと思いました。
おーさまー、バリカンの原典とか無いー?