平凡な男と白髪の少女   作:ふれあすたー

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そして夜に

「刈谷は?」

「寝かしてきたよ。ついでにもう1人の方も」

「そうか」

用意してくれた部屋は幸いにもベットが2つあったので2人で使ってもらった。俺に関しては1度意識ぶっ飛んでる時間あったし最悪寝ないという選択肢もある。後者の場合はこいつにも朝まで付き合ってもらうことになるが。

それに、俺も話し足りないことがある。

「なぁ、時の観測者ってのはなんなんだ?」

「それはお前がわかってるだろ。観測するものさ」

「違う。俺が求めた答えはそれじゃない。俺の聞きたい答えはどんな人物なんだ?という事だ」

「それは…言っていいものなのか」

「口止めでもされてんのか?」

「別にされちゃいないが…まぁそうだな、この時期だしもう知られても問題は無いか」

ふぅ、と一息つくともう一度俺の目を見て答え始める。

「時の観測者は先程も言った通り、灘 芙佳。組織のトップにしてその裏で時の観測者として動いていた人間さ」

「…灘はどんな人間なんだ」

「優秀な奴だよ。管理職として職員1人1人のバイタルチェックもするし何かあれば自分から動く。まぁこういう上司が欲しいなってレベルでは優秀。というかお前自身は知らないのか?」

「俺はそこまで関係が深くなかったからな…俺自身興味がなかったといえばなかったんだが」

「あいつは隠居生活続けてたらしいからな…仕方ないといえば仕方ないのだろうが」

そもそも名前を聞いたことがあるだけで顔なんて見た事がない。それ程までに人と関わるのを避けていたのだろうか。

「あと、これだけは言わなければいけない」

「なにさ」

落ち着いて聞けよ、と彼は言う。何を落ち着けというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「灘は、多分初代だ」

 

「…何?」

 

思わず、聞き返してしまった。

「何を根拠にそんな…」

「あの内部機関の存在に決まってるだろ」

内部機関、オメガの事を言ってるのだろうか。

「…俺の立ち位置は誰にも話したことがなかった。仲のいい、それこそ帝や白柊にもな」

「随分なもんだな。仲が良いのに言わないたぁ」

「言えるわけないさ。なんせあの頃から組織は事を荒立ててたんだからな」

「…もう数十年も前の話からか?」

「組織が生まれた時期を考えたら数十年単位じゃ安っぽいもんかもな。もっと、百…いや千は行くだろう」

「そんな前から…」

いや、考えてみれば当然なのかもしれない。

時の観測者はその名の通り『時』という概念を観測している。ならば数百、数千の時なぞ造作もないほどに観ているのだろう。数十年如きで観ているなんて烏滸がましい程には。

「覚えてるか?例の病院の医院長が犯罪者だったっつー話」

「…また懐かしいものを」

言うて半年も経ってない。懐かしい、と括るものでも無いが如何せんこの数ヶ月間色んなことが起こりすぎた。濃すぎた毎日のせいであんなもの1つの日常レベルにまでランクダウンしていたらしい。末恐ろしや。

「あの医院長、お前の言ってた通り過去に大型金融機関の社長補佐を務めていたんだがな、元々あいつはヒラもヒラ、低レベルの職員だったんだよ」

「へぇ、やっぱりその程度の器だったわけね」

まぁ金欲に溢れた奴なんか総じてまともなのはいない。社会的に見てもそんなやつは底辺よりマシレベルが頂点に立つものくらいだ。

「んでなんでその話」

「そいつはおおよそ10年前に突如上まで登り詰めた…なぜだか分かるか?」

「いきなりなぞなぞ出されてもなぁ…まぁそういうのは大抵なんかデカい所をバックにつけたとか邪魔者は消したとかそういうもんだろ」

「大正解」

「マジ?」

「マジ。奴は組織を味方につけた。それだけでどうなるか…なんて想像に容易いよな?」

「…人間抹殺とその情報の隠匿?」

「あぁ。そうして社長補佐にまで君臨した。圧倒的地位を得る簡単な方法さ」

つまりそいつはどこかで組織を仲間につけ、邪魔者を消し更にそいつらの情報を隠匿…まぁこの場合は情報操作だろう…そうして一気に社長補佐に辿り着き絶対的な地位と金を自分につけたかったのだろう。

「分かっただろう。組織は自在に情報を操る力を持っている。それは10年前だけじゃない。俺らが高校生だった、更に10年前の事だってそうだ。知っていたのは俺、帝、白柊、そして坂元という人間だけだった」

「その坂元って奴は?」

「死んだよ。組織との争いでな。多く語る程でもない」

「そうかい」

「話が逸れたな。先程も言った通り俺は誰にも自分の立ち位置の話はしたことがない。あいつらは組織に根強く恨みを持っていたから話す事もままならなかった。だからそれに関しては知るはずもない、のにだ。あのオメガ、と言う奴は知っていた」

「…そうか、オメガは確か」

「そう。俺も正確にそれをこの目で捉えたことはないが精神に代々何者かが宿ってる、というのは本人から聞いたことがあった。奴が俺を知ってるということは灘にも宿っていた、ということしか考えられん」

「…そういう事か」

…だったのならばなぜ灘…いや初代は時の観測者なんかやっているのだろうか。しかも子孫の死を傍観するようなマネを…それを見て楽しむ変態か…もしくは

 

 

 

「干渉できない?」


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