「お前は昔は武器を使うやつだったのになぁ」
「はは、流石にそれだけじゃ芸が無いってもんだろ?どんな時にも対応できるように素手の戦いも心得てなきゃね」
「まぁな、武器があっても失っちゃ無力、奪われたら逆に劣勢になる諸刃の剣だもんな。その心がけはいいと思うぞ」
「君に褒められるのはちょっと気持ち悪いね」
「俺もそう思う。自己嫌悪が半端ない」
無駄な喋り合いをしてるように思われるが、本当にその通りである。
影魔と俺の1on1、まぁガチバトルの真っ最中である。そのくせ口は止まらんが。
顔に来るストレートをいなし、カウンターのボディブローを決めに行く。が、それも捌かれ後頭部に一直線で裏拳が飛んでくる。しかしこれも捌き腕を掴み一本背負いを決めに行く。でもそれを読んだかのように振りほどき…とカウンター合戦が延々と続いている。
ちなみに見えない敵の方はシナとコスモスが全て叩き潰してくれてる為こちらには邪魔が入る事は無い。また、この試合は俺が望んだためシナ達にも入らないようにしてもらった。どこから狙われてるかわからんし1人なら避けれるからである。
「…先生を殺す必要があるのか」
「勿論。邪魔だから」
「なんのだよ。あいつはうざいがこの一件には関係の無いはずだ」
「ノンノン。関係ないってことなんてありえないんだよ。君が関わってる時点でね」
「なら俺が関わりあいをやめれば…ってもう遅いか」
「あぁ、もう何もかも遅すぎたんだよ。君も、彼も、そして彼女もね」
「…なんだと?」
長いカウンター合戦が続いたが影魔が俺の掴みを捌いたことでお互いが後ろに下がり構えをやめずに睨み合う。
「君は気付いてないんだね、過去も、今も」
「…気付いてたらとっくに最善策を張ってる。今の俺にはさっぱりだ」
「半信半疑、って所かな?」
「7割がた信じてるよ。少しの疑いがあるってぐらいだ」
「ふーん。なら早めに君の悩みの種を取り除いてあげるよ」
影魔は突然手元を赤く光らせた。それはラノベとかでよくある、異世界で見るような魔法にそっくりだった。
「くそっ…!防御が…!」
「遅いよ!」
突如、光は最高点に達し、その光からは夥しい量の火炎がこちらに向かって一斉に向かってきた。
「マスター!」
声が聞こえたと同時に自分はとてつもない浮遊感に襲われた。
「うわ…!生きてる…!?」
「当たり前ですよ私が助けたんですから!」
コスモスが咄嗟に俺を持ち上げてくれたようで火炎からの危機は脱した。
「てか火!火!」
「大丈夫です。その辺の消火栓大量に破壊しといたので」
見るとあちこちから水が吹き出しておりいつの間にか火炎が消しさられていた。
「…戻ってくる気はないようだね」
「当たり前です。貴方は私の事を破壊しました。元マスターであろうと、私はその行為が許せない。それだけですよ」
「だが君は彼女を」
「だからなんだって言うんだ」
言い終わる前に俺が割り込んだ。
「こいつはお前に囚われ、お前に怯えて生活していた。感情という機能を搭載したくせに常識的な、女の子らしい生活を送らせてあげないお前が全部悪いだろ」
「…マスター…」
「それにな、それを分かり、その気持ちを理解できたからこそこいつを仲間に入れた。しっかりシナも通してな。だから失ったお前にグチグチ言われる筋合いなんかねぇ。死んで出直せ」
「…うるさいよ」
「はぁ?うるさいってお前…」
「うるさいうるさいうるさい!お前は僕の苦悩がわからないだろう!誰からも認められず認められたと思ったら落とされる!やっとここまで登り詰めた地位も全て消えた!僕は…認められなきゃいけないのに!」
影魔は声を荒らげ感情的に吐き出した。それは俺が見た事のない影魔だった。
「なのにお前は!僕に創られただけのゴミのくせに!何故僕より良い生活を送っているんだ!?天才になるための礎如きが!ただの駒が!何故!?」
…こいつはこいつなりの苦悩があった、らしい。確かに研究員共々こんなガキが自分より地位が高けりゃ思うところはあるだろう。自分とは比べ物にならないほどの実力差がはっきりと知らしめられるのだから。だからこそこいつ自身はそんな大人の『悪意』と言うやつから地位や信頼を下げられ尚、ここまで登り詰めたのだろう。
だが。
「それがお前の『俺らを襲う理由』ってやつか?そんなものじゃ俺らは砕けないぜ」
「それは貴方が劣等だからじゃない。私たちとの実力に差がある訳でもない」
「「お前(貴方)との『誰か』の為にあり続ける意思の差だよ(です)」」
「…はは、なんだよ…
なんなんだよぉぉおぉお!!!!!」
影魔の身体が突然帯電し始める。
「何が意思だよ…その誰かは…俺の為じゃダメなのか…?俺自身の為、全ては自分の為じゃダメなのか…?何が違う…お前らの…その自己満足の『友情』と何ら変わりねぇじゃねぇか!!」
影魔の帯電量が更に増え始める。
「マスター!離れますよ!」
「頼む!」
流石に近くにいるのはマズいと悟りコスモスの身体を強く掴む。
コスモスはすぐさまその場から退避を始める。
「なんだ…何も変わらないじゃんか…お前ら3代目だけじゃない…2代目も…初代も!」
…何を言っているんだ…?
「…!マスターマズイです!このままだと周りの被害も…!」
影魔は先程とは比べ物にならないほどの電力を帯びている。
「何かを撃ち込んで被害を…」
「いやダメだ!プラズマは固体、液体、気体のどれにも当てはまらない状態、いわば第4の状態だ!水や炎と違い何かを撃ち込んでも気体や液体ではないから被害を抑えられない可能性もある!」
そもそもプラズマというのは電磁場と荷電粒子群が相互作用する複合である。水が駄目なのは勿論の事、弾丸を打ち込んでも磁場で通らない可能性もある。その他の方法も無くはないが周囲に被害が出ないとは言い難い。
…打つ手無しか…!
「コスモス!俺が受ける!下ろせ!」
「は!?そんなことできる訳が無いでしょう!私が…!」
「なら私がやればいいんだね?」
「「え?」」
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…ん?ここは…
「目が覚めましたか」
「…コスモス」
「マスター、あの時に少し気を失ってしまったみたいで。周りの安全も確保出来ましたし下ろさせていただきました」
「…そうか。ありがとう」
そんなことより気になる事がひとつある。
「先程の声の主ですよね」
「あぁ…」
あの声は間違いなく、シナであった。彼女が咄嗟に俺達や周りの被害を抑えてくれたと思ったのだ。彼女の事だ、やりかねない。
「…あの方は支那美さんではありませんでした」
「…なに?」
俺があの声を聞き間違えるわけがない。何百、何千と聞いた声だ。
「…家に戻りましょう。全てがわかります」
コスモスは立ち上がり、先生の家へと歩行を進めた。
俺も立ち上がり、後を付いて行く事にした。