進行
「よう、元凶」
「酷いなぁ。僕はこんなに舞台作りをしたってのに」
「人を殺して従順な奴を壊して脅しの手紙まで押し付けておいて舞台作りだぁ?お前寝ながらここまで来たのか?」
「そうだねぇ確かに今の僕なら寝ながら歩行も出来るけど」
「お前の事聞いてないぞ黙って死ねガキ」
「わぁ理不尽。こんな大人に負けないで頑張るぞ」
無駄な口論が続く。聞いての通りほんとに無駄なのでさっさとこいつを殺してAPを取りたい。
「…お前だろ?あの手紙」
改めて聞き返した。無論聞くまでもないし無意味なことを言うとも思えないが。
「そうだね」
「理由は?」
「うーん理由って言われると答えづらいよね」
「お前独自の感性なんか聞いてねぇんだよさっさと答えろ」
「またまたぁ。分かってるくせにぃ」
ヘラヘラと奴の口は止まらない。
分かってはいる。いや、分かっているというかこれは『予測』ではあるが。
「…分かるの?」
「なんとなく、な」
そう、至って単純。
俺らには理解し得ない謎の行動力ではない。ましてや論理的な行動でもない。
奴のふざけた性格を冷静に考え直してみれば分かることである。
「そう、言うなれば…」
「「余裕」」
「ってやつだろ?」
そりゃそうだ。
そもそもあんな手紙をあいつの家に届けた所で何らかの対処が来るのがオチ。
この家の人なり先生を狙うなりしたいなら闇討ちすればいいだけの事。それにこいつは闇討ちが嫌いな訳でもなんでもない。むしろ計画の為には手段を問わぬ程のクズだ。日本人のくせに侍精神というものが無い。ほんまクズ。死ね。
そんな奴がわざわざ行動の阻害になるような事なんてする訳が無い。無意味だ無駄だ愚かしい。
ならば考えられるのは一つしかない。それこそが『余裕』。
「ほんっと腐りきった性格しよってからに…」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
なはは、と頭を掻きながら笑う。
「…さて、わかってると思うけど僕はこの家に用事があるんだ。退いてくれないかな?」
「退くと思ってんのか」
「まぁ想定範囲内だけど」
影魔は指を鳴らすと視界が一気に歪み、何かが襲いかかってくるのがわかった。
「しゃがんで!」
「ヘェイ!!」
「なんですか今のなっさけない声…」
仕方ないでしょ。襲ってくるのがわかっても光学迷彩でほぼ見えなくなっているため攻撃方法など分かるわけもない。シナの指示なしでは1秒で死ぬ自信がある。
「わりと今の状況ダサいですよ」
「るっせぇ!無理なもんは無理だ!手伝え!」
「はいはいマスターのご指示とあらば」
すぐさまコスモスが前線に出ると天高く飛び照準をこちらに絞って何かを撃ちこもうとしていた。
「…一応聞くが、何をするつもりだ?」
『大丈夫です。直撃しなきゃ死にゃあしません』
「マジで何撃ち込む気だよ!」
『では行きますよ〜』
「軽い!」
空から大量に降り注いできたのは、何かの塊。雨のように降り注いだ為逃げ切るとか当たり前のように無理であったがすぐに何が撃ち込まれたのかがわかった。
「…!チッ…これは…」
「ペイント弾…!」
「しかもこれ、蛍光塗料付きか…!」
時間も夜、暗闇ではすぐに見失う事も考慮してか対策はバッチリのようだ。最初からやってほしかったが。
「ナイスだコスモス!」
『もっと褒めてもいいんですよ』
「やっぱやめとくわ」
「酷いですよ」
「もう戻ってきたのかよ!」
「まぁ、そんないけずなマスターも好きですよ」
「いきなり愛の告白やめて?」
「ちょっ、コスモス!隼人は私のモノだからね!」
「覚えておくといいですよ支那美さん。こういう悪女が世の中にいることを」
そう言うとコスモスは機械なのに何故か柔らかい大きめの双丘が俺の腕に押し付けてきた。そんな事されるとまた余計な事に巻き込まれるためご勘弁頂きたい。めっちゃ柔いやんこれ。
「今絶対えっちなこと考えてた!」
「考えてましたすいません!」
「隼人は後で殴る!コスモスはお説教!」
「差が」
「今はそんなことよりあれの討伐を優先!」
指を指した先はずっと無視され続けてきたことでか分からないが怒りが溜まった影魔がいた。
「…君、余裕ぶってきたのにここまで無視してくれるんだねぇ」
「わぉ、お怒り?」
「けっこうね」
「のわりには攻撃してこなかったし実はツンデレさん!?うわキモッ」
「これも余裕、と捉えてくれて構わないよ。最もそっちも余裕そうな顔で来られると困るけどね」
ふぅ、と一息つくと息を吸い、また言葉を発する。
「最後の警告だ。退かないと、ここらが血の海になるけど」
「そんな蛍光塗料塗れの軍団連れて言われる筋合いねぇなぁ…それにその血、全部お前らのだからな?」
「まったく…これだから君は…」
やれやれ、と一言。
「全力で行くよ」
「勿論だとも。お前を殺して終わりだ。影魔」