平凡な男と白髪の少女   作:ふれあすたー

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87話

「…?あれ?」

俺は確かぶん殴られたはずなのだが不思議と痛みがなかった。

怖すぎて咄嗟に閉じた目を恐る恐る開けてみる。

「…あー…」

「あ、起きた」

そこに広がっていたのは、見知ってはいないが見たことのある風景であった。遥か前に殴られた時に、一度だけ来たところ。

そして真横に座っている少女。この子も一度だけ見たことがある。コスモスと同じで異常に長い名前の子。

「…もしかして2度目の来訪?」

「そうだね、ちょっと前にいきなり転送されてきてびっくりしたよ」

今回連れてこられた場所は前回と少し違って一面の花畑のようだ。よくわからんが綺麗な色の花が沢山咲いてる。よくわからんけど。

「…なぁ。そういえばなんだけど」

前々から気になってはいた、この子のこと。殴られる…違う違うここに来る機会が今の今までなかったものだから聞けないことがあった。

「君ってさ、刈谷支那美って子、知ってる?」

そう、問は至って単純。シナの事を知っているかどうか。むしろ知らないのならばすべての説明に納得がいかなくなってしまうがとりあえず聞かなければ始まらない。

「…それって私の宿主?」

帰ってきた答えは思ったより斜め上の回答。何?何だって?宿主?

「宿主ってどういうことよ」

「簡単だよ。ここは私の宿主の精神世界。今まで見てきた情報が全てここに集約する場所でもある」

所謂脳に近い感じかな、と淡々と説明する。

当の俺、まったく頭に入ってこない。

「は?え?ちょっと待って情報量が…」

「あー…そんな一気に説明されても困るよね…じゃあ改めてまずは私の紹介から」

少女は立ち上がり、自分の名を名乗った。

立ち上がった時にちらりとスカートの中が見えたが余計な詮索はしないことにしよう。

…シナと同じだった。

「私の名前は〜…まぁどちらかといえば呼び方?識別番号?に近いかもしれないけど…私の呼び方はEFKT-vΩ、けど最近名前が長いから新しい呼び名が欲しいなって思ってきた所」

「それはわかる」

「で、ここはさっきも言ったけど私の宿主、多分刈谷支那美って子で合ってると思うけどその子の精神世界。外で得た様々な情報は全てここに集まる」

「…なるほど、だからその見た目…」

めちゃくちゃシナに瓜二つなのも納得は行く。そりゃ自分の容姿はよく見るんだから似るわな。

「そして私がここにいる理由、それは代々伝わってきた力の抑止力のため」

「…ん?」

力…?

「宿主は今3代目。過去に同じ力を持っていたとされる2代目の血が繋がっている。だから私がここにいる」

「おいおいちょっと待って」

力ってなんだよいきなり。意味わからんことをめちゃくちゃ言われて思考が追いつかなくなってきた。

「力ってなんなんだよそれ」

「…初代が持っていた、神の力。所謂神力」

「…御伽噺も大概にしてくれるか?」

「君が時を渡ってきたのもかなりの御伽噺だと思うけど」

「そうだな。それを言われちゃ俺は何も言えん」

よくよく考えてみればこの時間軸の人間に「時を超えてきました」なんて言ったら「何言ってんだお前」と一蹴されてしまうのがオチだ。お互い様というやつだろう。

「にしても神の力ねぇ…」

そりゃ人間離れした能力を持ってるわけだわな…そんな不思議な話の一つや二つはないとマッハを超える一撃なんぞ出せるわけねぇもんな…つか、封印されててもこれかよ…

…ん?でも…

「その…シナは一度死んでるわけなんだが、神の力ってのも無敵ではないのか?」

そんな力を持っていれば文字通り敵無し、所謂無敵というやつだと思っていたのだがそんなことはないのか。

「問題はそこ。自分の攻撃の反動は耐えられるけど他者からの攻撃はどれほどまでに解放しても結局耐久力は肉体依存になっちゃうの」

例えばめちゃくちゃに鍛えてる人がこの力を持てば耐久力も相対的に上がる、ということか。

確かにお世辞にもシナは鍛えてる、とは程遠い。むしろ華奢な方だ。耐久力に難があるのは仕方の無い事。

「つまり神力は物理寄りって事なんだな?」

「正確に言えば相手に及ぼす全ての効果を増幅させること。相手の肉体を弱くする魔法を唱えたらその効果が倍増したりとか」

「…それってつまり痛覚とかもいつも以上に敏感になるってことか?」

「そう。そういう点では物理、ってのはいい。与える時のダメージを増幅させる、与えた後の波の揺れ、つまり重さを増幅させることが出来て、実質的なダメージは4倍増しと言ってもいい」

「あー…」

異常なあの痛み。単純に強化された攻撃だけでなく俺の痛覚自身も弄られてたのか…そりゃ気絶もするわな…

「…ある程度は、わかった。君がどんな存在かも」

ここまで聞くと不思議と納得はした。まぁ今までの事象を重ね合わせれば当然と言えなくもないが。

「それに、そろそろ時間っぽいしな」

「あっ…」

自分の身体がブロック状にバラバラになっていく。この世界での活動限界が来たのだ。

「なぁ。ここにいるのも、神力ってやつなのか」

「…6割はそうかも。だけど残りは違う。また別の力が働いてる」

これ以外にも不可思議な力があるのか。世の中ってのはこえーな。

「んじゃ、俺は元の世界に帰るわ。じゃーな、オメガ」

「…オメガ…安直だね」

「うるせぇ」

「冗談だよ。…ありがとね」

「おう」

自分の身体が砕け散ると視界は真っ暗闇となった。


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