風呂から上がり、リビングまで戻ってきた。
「あっつ…」
流石にあの場であれはやりすぎたか。
顔も身体も熱いしなんか今更恥ずかしい気持ちになってきた。
なんや顎クイて。キモすぎにも程があるやろワロエナイぞ。
「えへへ…隼人にシナって呼んでもらえる…」
やられた本人は先程からこれである。
シナ本人には御満足頂けてるし嬉しいのならよいのだけど、やった側としては自分のキモさを再認知するいい機会だった。
これに懲りたら少しは自重しよう、と反省もしている。
「あのさ…自分から言っといてなんだけどそんなに嬉しいんか…」
自己評価が低い童貞の末路である。残念だが俺にはその『大切な人』に並べる気がしない。
「そりゃ嬉しいよ!だって私からしたら隼人も大切な人だもん!」
…ん?
「…あっ!ちっ違くてね!?その大切な人って言うのはこう、いつもそばにいてくれて守ってくれる人って意味で…あ、あれ?」
………
「ちょっなんで笑ってるの!こっちは真剣なのに!」
「あはは、ごめんごめん」
必死に弁明の言葉を探そうとしたシナに笑ってしまった。
笑って誤魔化したが俺の心臓の鼓動はテンポを上げ止まらなかった。
彼女は今、俺の事を大切な人と呼んだ。
しかもこんなに慌てるほどの弁明をするぐらいだ。
…多分、あっちの意味だろう…
シナはもしかして、いやもしかしなくても俺の事が好きなのだろうか…?
いや、いやいやいや…流石に自意識過剰…
…でもないのかも、しれないな…
自意識過剰とはいつも思っていた。
理由は単純、シナが可愛過ぎる、性格が良い、女子力が高い、とまぁ魅力を挙げるとキリがない。
俺は平凡だ。こんなに理想的な女の子と釣り合うわけが無いと俺は自分を卑下し続けてきた。
そうして俺は女の子の好意を無下にし続けてきたのかもしれない。いや絶対そうだ。
ならば自分は自分なりにその好意に返事を返さなければいけない。
「…俺はシナの事、好きだよ」
「…へ?」
シナは呆然としている。
まぁ…そりゃいきなり異性から好意を示されたらびっくりするわな。
俺もさっきびっくりしたし。
「な…な…!?」
「何言ってるかってか。言った通りだよ。シナのことが大好きだ。確かに妹みたい、だとは思ってたけど。俺はシナの事が異性として好きだ」
…なんか風呂の一件で色々吹っ切れたのかもしれんな。こんな小っ恥ずかしい事極力言わないようにしてたんだけどもうリミッター外れたかも。
「…私も、好きだよ。勿論、男の子として」
顔は伏せていたがシナからも返事は貰えた。
とても嬉しかった。なんで嬉しいか、なんて言わなくてもわかるだろ?
「おいおい何見せつけてくれちゃってんだよ」
奥の部屋からゴミが顔を出して煽ってきた。
てかなんでいんだよ。
「なんか入ってきたんですよ」
その後ろからコスモスも出てきた。
「いいっすねぇ青春すねぇ」
「ええい黙れ黙れ」
まさかのクソ先公がいることなんか知らんかったんだから。
「ま、いいんじゃん?見てて面白いもそうだけど」
意外な返事が返ってきた。
「…珍しい」
「ありえなくはないとは思ってたからな。刈谷泣かせなきゃなんでもいいぞ」
「なんか気持ち悪いな」
「うーん殺殺」
「誰だよお前」
だけどほんとに珍しいとは思ってる。
こいつはそういう所は結構細かく言ってきそうなんだが。
まぁ公認なら問題は無いはずなんの公認か知らんが。
ただシナを泣かせる気なんでさらさらない。それは昔からそうだ。
約束は絶対だから。