「あ……あ……」
目の前の光景に驚きを隠せない。
確かにあの校長だ。
胡散臭さはあるが、だからこそこの蘇生法は成功すると思っていた。が。
だが、実際に目の前で彼女が蘇ったのだ。
成功すると思っていても驚かないはずがない。
俺はおろか、先生までも呆然としている。
一方校長は「うんうん」と首を縦に振りながら笑顔になっている。どうやらこの機械が運用可能ということに満足しているらしい。
そして肝心の、白髪の彼女は。
「…あれ…?…私、殺されたはず…」
自分が今どういう状況なのかわかっていないようだ。
そして周りを見渡し、俺らを視界に入れ、俺らと同じように驚き、瞳の奥から涙を流し始める。
「…え……え…?」
溢れ出る感情は頬を伝い、そして腿の上でぎゅっと握られた手の甲へと落ちてゆく。
「は………や…と……?せん……せい…」
感情は止まらない。ぽたぽたと手の甲へ落ちてゆき、白い腿の上にまで流れていく。
「夢…じゃ、ない、よね…」
「…夢なわけ、ないだろっ…!!」
「…当たり前だ…!」
少女はとうとう抑えきれなくなった。
「うわあああぁぁぁあぁあぁあああん……!」
俺らも感情をこれ以上抑えられなくなり、少女へと駆け寄る。
「辛かったな…!よく耐えたな…!刈谷…!」
「おかえりっ…!支那美…!」
少年らはその済む時まで大声で泣いた……
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「ひとまずは感動の再開、誠に祝したいところだ。おめでとう」
「お前実験とかなんとか考えてただけだろ」
「細かいことは気にしないの。成功はしたんだから」
「それ結果論」
「しかし一つ問題があってね」
「無視かい」
「刈谷支那美君の魂がまだ完全に今の肉体と癒着しきってない、という点だ」
「つまりこれだけだとまだ不完全だと?」
「端的に言えばそういうことだね。最も、こちらで治す方法はないから模索しながらになるけど…」
「でもそういうのってよくある自然治癒しかないんじゃないんですかね…」
「まぁ確かにそれが一番なんだろうけどいつ支那美君の体から魂が離脱するか分からないからね。ここは荒くても即時治癒の方がいいと思う」
「支那美に手は出させねーぞ」
「分かってるよ。だから君から手を出してほしい」
「……え?」
「は???」
「だーかーらー、あれよあれ。スキンシップよ」
「お前何言ってるかわかってる?」
「穢れた不純物に純潔な美少女を襲えって言った」
「よしわかったお前の墓がここに建つぞ喜べ」
「わぁ喜ばしいな。あと1万4000年後に建ててほしいよ」
「殺すぞ」
「きゃあ怖い怖い」
「きっしょ…」
「なんだよせっかくノってあげたのに」
「あ?」
「と、とりあえず落ち着いて二人とも」
まるで作られたような世界を支那美によって制される。
「ま、そういう事よ。要は2人で性交渉でもすればすぐに魂癒着するって」
「ふぇ!?」
「お前今とんでもねぇ事言いましたよね?」
「いや直接言わないだけマシだと思うよ?」
「教育に悪いのでやめてください」
「ほらほら水原君も子供達からかおうよ」
「やめときますわ。訴えられたら負けるんで」
「なんか私が悪者みたいじゃないか」
「実際悪者だろうが純粋な子にそんなこと教えんな」
「は、隼人と、せ、せいこう、しょう……」
「やめなさいお嬢すぐあいつの言葉は忘れろ」
支那美は頬を赤らめのぼせている。
「いやまぁ性交渉じゃなくてもいいけどさ。大切な人と一緒にいればそれだけ魂もそこに留まりたいだろうしなんでもいいよ。まぁ身体触れ合った方が思い出に残りやすいかなぁと思って」
「度が過ぎとるわボケ」
「あぅぅ…」
「お嬢?帰ってこーい」
「こりゃ当分帰ってこねぇな」
「まいったなぁ…何してくれとんのじゃ」
「まぁまぁいいじゃない。この子もそういう事覚える日が来るよ」
「「やめてください死んでしまいます」」
「まるで娘のようだな」
「実際娘のようなものですし」
「どっちかと言うなら妹」
「親離れって知ってるかい?」
「「そんなのありません」」
「大変そうだなぁ彼女も」
実際子供なのはこの2人だが野暮なツッコミはしないようにした。
そうこうしてる内に外はどんどん暗くなる。
「…もう夜か」
「帰るか」
「その方がいいね。私も鍵閉めなきゃいけないし。ほら、帰った帰った」
「この野郎」
「刈谷もいるしさっさと帰るぞ」
「ま、そうだな」
隼人はショートしていた支那美をおぶって水原と共に部屋の外へ向かう。
「あ、そうそう二人共」
突然校長から声が送られ、2人は振り向く。
「…今日はお疲れ様。そして改めておめでとう」
「…あぁ」
「…ありがとうございます」
短く返すと2人は再び前を向き部屋を出る。
「…これで支那美君は生き返り、運命は変わった。
この事実を見ても尚、君は先へ進むかい?
だって彼女は蘇り、何とも見事なハッピー展開じゃないか。
これ以上覗く必要は無い。君はここでこの物語の鑑賞をやめた方がいい。
後悔することになるぞ」
1人の若い女性は確かにこちらを見た。
それは鋭く、冷たい目。
「君にこの物語を読み進める勇気はあるか。
ないなら今すぐに閉ざしたまえ。
ここから先の話は夢も希望も。
そして生存者もない。
茶番の終わりであるとともに。
終わりの始まりだ」
女性はそう語ると部屋を出てこう捨てた。
「まぁ…世の中美味い話なんてあるわけがないってことさ」
4章閉幕。
5章の幕開けであると共にラストスパートの始まり。