「…そうか」
先生に報告も兼ねて連絡を入れたのだがどうやら最悪の出来事はまだまだ続いていたようだ。
先生の奥さんは、死んだ。何故和真が生かされていたのか、それはわからない。分かるわけもない。
ただ分かることは一つ。確実にあいつはこちらに対して宣戦布告をしてきている事だ。
『お前の収穫ってやつは家で聞く…とりあえず今は落ち着かせてくれ…』
「わーってるよ、できるだけ早めには帰るつもりだ」
『あぁ…また後でな…』
切断音が聞こえ、通話が終わる。
「…ったく、上等じゃねぇかよ。テメェがそこまでするなら俺らも正面から殺してやるよ」
時間なんて本来好きに操るなんてことも出来ない。死した者たちが現世に帰ってくることもありえない話だ。時を遡り、一度は失われた命の灯火を再び灯した俺が言うのはとても説得力はないが。
弔いも必要だ。ただ今やる事はそれではない。これが間違っていてもいい。それで俺の…いや、俺達の気が晴れるなら。
これは戦いじゃない。ましてや清々しい決着なぞ誰も望んじゃいない。
復讐。ただ一つ、その言葉だけで埋め尽くされる。
「…それが例え…」
…いや、よそう。最悪の考えを持てるほどの余裕があるのならばまだ精神面を完全にやられてはいない。無駄に体力と精神力を削るのは愚策だ。
それに。
「まだ秘策がある…そんなことをするまでもない、か」
とは言ってもこれを無闇に切った所でどうにかなる訳でもない。あくまで最後の一押しだ。
「兎にも角にも全ては工場、か…」
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「ただいま」
「…来たか」
「丁度いいくらい、だろ?」
「まぁな…」
先生は疲れていた。目の前で教え子と妻が変わり果てた姿でいたのだ。むしろこれが普通である。
「2人は火葬場に送ることにしたよ…こんな事、サツに話しても意味無いしな…」
「賢明だな」
警察などは当てにならない。何せ相手が相手だ。例え追いつけたとしても蹂躙されるのがオチだろう。
「それより和真は?」
「…なんとか落ち着かせたよ。今はコスモスが面倒見てくれてる」
「そうか…」
多分あいつは一生あの事がトラウマになることだろう。朝起きたら母親が死んでいた、なんて普通は考えられないから。
「んで、収穫ってのは」
「…白石第二工場跡地だとよ」
「…!?あそこが…なんで…!」
「馴染みのあるところか?」
「…初代のいた場所さ」
初代…だと?
「いつ行くんだい?」
「…今すぐに決まってるだろ?」
「だろうな。OK」
先生はコートのポケットから車のキーを引っ張り出す。
「…なぁ、お前はこれが間違ってると思うか?」
「あ?なんだよ急に」
「不安なんだよ…果たして今からやることは正しい事なのか…」
「…いいだろ別に。正解不正解なんてない。俺らが今からやることが全て正解さ」
「…はっ。やっぱお前はお前だな。迷いが晴れたわ」
こいつはこいつなりに迷っていたらしい。果たして復讐が最善手なのかどうかを。
俺は手助けはしない。代わりに、振り落とすようなこともしない。
全てはシナの為に。ただそれだけだ。
「…行くか」
「終わらせにな」