ならば何故、龍牙は
「さてと……魔力は貯まったな。さて、ハサン? それとも山の翁と呼べばいいか?」
「好きにせよ」
「じゃあ、翁で……取り敢えず、翁は」
「獣に堕ちし奴等の首を断つ」
ギンッとその目が光り、暗殺者に似合わぬ大剣を引き抜いた。
「分かった。じゃあ、他の者達はもう暫く頼む。創造の龍よ、我が身を纏え」
龍牙はその身に創造龍の鎧を纏い、翼を広げた。
「汝が準備を行う時間は我等が稼ごう」
山の翁はゆっくりとその歩みを進めた。彼の前には無数のアサシン達がいる。
此度の聖杯戦争にて召喚されたアサシンは、百貌のハサン。山の翁の名を継ぎしハサン・ザッバーハであり、多重人格者。多重人格を駆使して暗殺を行っていた。現在は
何故なら、初代山の翁は始まりのハサンであり、終わりのハサンだからだ。歴代のハサンは皆、死ぬ時、初代に首を刎ねられその役目を終えたからだ。百貌もまた例外ではない、目の前の山の翁こそ、ハサンにとっての『死』なのだ。
「百貌よ……我が最後に首を断った者よ。貴様は我等が神の教えに背き、己の
なんと言う堕落……この愚か者め! その首、再び我が断つ! 首を出せ!」
ぶわっと彼の身体から漆黒のオーラが立ち上ぼり始めた。
「『神託は下った。聴くが良い、晩鐘は汝の名を指し示した。
告死の羽──―首を断つか【
死を告げる天使の名を冠する宝具が解放された。
山の翁の大剣は何の変哲もない大剣であるが、彼が生涯振るい続け、信じ続けた信仰が染みついており、幽谷の境界を歩み続ける剣は、振るう度に全ての命に死を与える。
その一撃を百で貌のハサンを切り裂いた。
「「「くぎゎ……ぁあああ」」」
「ぁあああ……鐘の音が……初代様……申し訳ありま……せ……ん」
最後に正気に戻ったのか、百貌のハサンは山の翁に謝罪し消滅し、そして他の分身体も消滅した。
再び泥の中からハサン達が出てくるかと思ったが、もう出てくる事はなかった。
「アサシンが消滅した……」
「ワハハハハハ! 凄まじい殺気! 凄まじい剣気! うむ! 是非とも余の配下に誘いたい!」
「ほぉ……」
それを見た各サーヴァントは様々な反応を示すが、その手は止まっていない。
アサシンは消えたものの、未だに蟲とバーサーカーがいる。
「Aaaaaaaaa!」
「ぐっ! バーサーカー!」
「取り込まれても、やはりですか!」
バーサーカーはセイバーとジャンヌを執拗に狙い、機関銃を連射している。
「何故此方ばかりを」
「それは……貴女がアーサー王だからです、セイバー」
「どういう事です、ルーラー?」
「バーサーカーは……彼は円卓の騎士の1人、ランスロットだからです」
「なっ!?」
セイバーは驚愕する。セイバー……アルトリアにとってランスロットは最も信頼し、敬愛する高潔な騎士だった。その彼が狂戦士に堕ちる等信じられなかった。
「ランスロット……ほっ本当に貴方なのか!?」
「Aaaaaaa……」
バキッという何かの砕ける音と共にバーサーカーを覆う霧が消え兜が割れ、その手に剣を装備する。
「ぁぁ……サー・ランスロット! 何故!? 何故貴方が!?」
「Ar……thur」
「何故貴方程の騎士が! バーサーカー等に!?」
「セイバー」
かつての盟友が魔道に落ちてしまった事に悲しみ膝をつくセイバー。ジャンヌにはその悲しみが理解できた。
本来、この聖杯戦争に召喚される筈であったキャスター……ジル・ド・レェ。彼もまた素晴らしい騎士であったが、ジャンヌの死を切っ掛けに狂い、魔道へと堕ちてしまった。それを第1特異点で目の当たりにしたジャンヌ。
「セイバー、貴女がすべき事は嘆く事ではありません。
貴女がすべき事は、理由はどうあれ道を誤った盟友を
ジャンヌはセイバーにそう言う。第1特異点でジャンヌは盟友を止める為に己の剣で彼を貫いた。
「っ……ランスロット」
セイバーは再び
「私は……今を生きる人々を守る為に、貴方を救う為に、貴方を斬る!」
その聖剣が解放され、刀身が眩い光を覆う。
そしてセイバーとバーサーカーの繰り出す無数の剣撃が火花を散らす。
「ハアァァァ!」
「Arthuraaaaaaaa!」
互角の激闘を繰り広げているセイバーとバーサーカー。しかし何かの切っ掛けがあれば、決着はつくだろう。一度互いに距離を取り、息を整える。
「ふぅふぅ……」
【友を止めたいですか?】
「!?」
セイバーに誰かが声をかける。普通は何処の誰かも分からない声が語りかけてくれば警戒するが、この時、彼女は何故か声に対して安堵した。
【止めたいのであれば力を貸しましょう】
セイバーは声の正体は分からないものの、何処か安心する様な声に答える。
『ランスロットを止めたい! 何処の誰かは知りませんが、力を貸して頂きたい!』
【いいでしょう】
その声と共にセイバーの身体に力が溢れ、彼女の周りに人の形をした光が複数現れる。
「これは……」
『王』
『参りましょう』
『行くぜ、父上!』
光の正体はかつて自分に仕え共に戦った円卓の騎士達だった。
「皆……」
『ランスロット卿を止めましょう』
「えぇ! 行きましょう!」
セイバーはかつての盟友共に駆け出す。
『おらおらっ! なに父上に剣を向けてんだ!』
『ランスロット卿、貴方らしくもない。さっさと目を覚ましなさい!』
「Aa!?」
これには狂化されたランスロットも驚いているらしく、動きが鈍くなる。
『何やってるんですか! このおっさん!』
紫色の髪、大きな盾を持った騎士にそう言われ大きな一撃を喰らうバーサーカー。吹っ飛ばされた彼は泣いていた。それ程痛かったのか、全く別の要因かは不明だがダメージは大きい様だ。
「ハアァァァ!」
大きなダメージを受け立つのもやっとなバーサーカーは最後にセイバーの一撃をまともに喰らった。
「がぁ……」
「サー・ランスロット」
「ぁあ……やっと……やっと貴方の手で」
バーサーカーのその顔は穏やかなものだった。完全に霊核に砕かれたらしく、彼は消滅した。
それらを見ていた龍牙は動き出す。
「始めよう」
創造龍の鎧を纏った龍牙は、創造龍の翼を大きく広げる。創造龍の翼には12の宝玉が嵌められている。それぞれが万物の象徴だ、それが今、眩い光を放つ。龍牙はその翼で自身の身体を包んだ。
ー我が声に応え、目覚めよ。【無】より産まれ万物を創り、世界を形成せし、母なる創造龍よ。
【創造】により無より世界を創れ。偉大なる母の愛により、輪廻の輪の魂達に新たなる【生】を与え、世界を循環させよ。
我【楔】として、【裁定者】としての役目を果たす。我が魂力を喰らい、我が肉体を通し現世へ顕現せよー
「【
眩い光と共に、龍牙の身体を通し、総ての母たる創造龍が顕現した。
破壊龍が破壊や死、恐怖の化身であるならば、創造龍はその対を成す存在。彼女から発せられる暖かな光は、全てを慈しむ母の愛そのもの。光に照らされた泥と眷属達は浄化され、消滅していく。
【ガアァァァ!】
咆哮と共に光が強くなり、泥の面積が狭くなり、
【此処で終わらせよう】
龍牙の声と女性の声が重なり、龍化した彼から凄まじい力が溢れ出す。
【
龍化した龍牙は七色のブレスを放つ。
そのブレスを受けた