俺のFateな話   作:始まりの0

94 / 109
EP87 終幕

 冠位(グランドクラス)のサーヴァントとは元来、個人に呼びださせる事はない。人類悪(ビースト)に対する最終兵器として抑止力により呼び出されるサーヴァントだ。

 

 ならば何故、龍牙は山の翁(グランド・アサシン)を呼び出せたのか? 理由は簡単だ、龍牙もまた抑止力の力を使いサーヴァントの出力を上げている。人理を守ると言う名目で抑止力と契約し、繋がっているからだ。ならば冠位のサーヴァントを呼べても不思議ではないだろう。

 

「さてと……魔力は貯まったな。さて、ハサン? それとも山の翁と呼べばいいか?」

 

 

「好きにせよ」

 

 

「じゃあ、翁で……取り敢えず、翁は」

 

 

「獣に堕ちし奴等の首を断つ」

 

 ギンッとその目が光り、暗殺者に似合わぬ大剣を引き抜いた。

 

「分かった。じゃあ、他の者達はもう暫く頼む。創造の龍よ、我が身を纏え」

 

 龍牙はその身に創造龍の鎧を纏い、翼を広げた。

 

「汝が準備を行う時間は我等が稼ごう」

 

 山の翁はゆっくりとその歩みを進めた。彼の前には無数のアサシン達がいる。

 

 此度の聖杯戦争にて召喚されたアサシンは、百貌のハサン。山の翁の名を継ぎしハサン・ザッバーハであり、多重人格者。多重人格を駆使して暗殺を行っていた。現在はこの世、全ての悪(アンリ・マユ)の眷属に成り果て、意志なき獣となってしまったが、彼女もまた山の翁の1人。故に百貌のハサンは恐怖する。

 

 何故なら、初代山の翁は始まりのハサンであり、終わりのハサンだからだ。歴代のハサンは皆、死ぬ時、初代に首を刎ねられその役目を終えたからだ。百貌もまた例外ではない、目の前の山の翁こそ、ハサンにとっての『死』なのだ。

 

「百貌よ……我が最後に首を断った者よ。貴様は我等が神の教えに背き、己の(願い)の為に異端の杯を求め、挙げ句の果てには獣へと堕ちたか。

 

 なんと言う堕落……この愚か者め! その首、再び我が断つ! 首を出せ!」

 

 ぶわっと彼の身体から漆黒のオーラが立ち上ぼり始めた。

 

「『神託は下った。聴くが良い、晩鐘は汝の名を指し示した。

 

 告死の羽──―首を断つか【死告天使(アズライール)】!』」

 

 死を告げる天使の名を冠する宝具が解放された。

 

 山の翁の大剣は何の変哲もない大剣であるが、彼が生涯振るい続け、信じ続けた信仰が染みついており、幽谷の境界を歩み続ける剣は、振るう度に全ての命に死を与える。

 

 その一撃を百で貌のハサンを切り裂いた。

 

「「「くぎゎ……ぁあああ」」」

 

 

「ぁあああ……鐘の音が……初代様……申し訳ありま……せ……ん」

 

 最後に正気に戻ったのか、百貌のハサンは山の翁に謝罪し消滅し、そして他の分身体も消滅した。

 

 再び泥の中からハサン達が出てくるかと思ったが、もう出てくる事はなかった。

 

「アサシンが消滅した……」

 

 

「ワハハハハハ! 凄まじい殺気! 凄まじい剣気! うむ! 是非とも余の配下に誘いたい!」

 

 

「ほぉ……」

 

 それを見た各サーヴァントは様々な反応を示すが、その手は止まっていない。この世、全ての悪(アンリ・マユ)の眷属達をそれぞれの宝具で蹴散らしていく。

 

 アサシンは消えたものの、未だに蟲とバーサーカーがいる。

 

「Aaaaaaaaa!」

 

 

「ぐっ! バーサーカー!」

 

 

「取り込まれても、やはりですか!」

 

 バーサーカーはセイバーとジャンヌを執拗に狙い、機関銃を連射している。

 

「何故此方ばかりを」

 

 

「それは……貴女がアーサー王だからです、セイバー」

 

 

「どういう事です、ルーラー?」

 

 

「バーサーカーは……彼は円卓の騎士の1人、ランスロットだからです」

 

 

「なっ!?」

 

 セイバーは驚愕する。セイバー……アルトリアにとってランスロットは最も信頼し、敬愛する高潔な騎士だった。その彼が狂戦士に堕ちる等信じられなかった。

 

「ランスロット……ほっ本当に貴方なのか!?」

 

 

「Aaaaaaa……」

 

 バキッという何かの砕ける音と共にバーサーカーを覆う霧が消え兜が割れ、その手に剣を装備する。

 

 無毀なる湖光(アロンダイト)、円卓の騎士ランスロットの持つ神造兵器だ。

 

「ぁぁ……サー・ランスロット! 何故!? 何故貴方が!?」

 

 

「Ar……thur」

 

 

「何故貴方程の騎士が! バーサーカー等に!?」

 

 

「セイバー」

 

 かつての盟友が魔道に落ちてしまった事に悲しみ膝をつくセイバー。ジャンヌにはその悲しみが理解できた。

 

 本来、この聖杯戦争に召喚される筈であったキャスター……ジル・ド・レェ。彼もまた素晴らしい騎士であったが、ジャンヌの死を切っ掛けに狂い、魔道へと堕ちてしまった。それを第1特異点で目の当たりにしたジャンヌ。

 

「セイバー、貴女がすべき事は嘆く事ではありません。

 

 貴女がすべき事は、理由はどうあれ道を誤った盟友を斬る(救う)事ではないですか!」

 

 ジャンヌはセイバーにそう言う。第1特異点でジャンヌは盟友を止める為に己の剣で彼を貫いた。

 

「っ……ランスロット」

 

 セイバーは再びエクスカリバー(聖剣)を握り締め、立ち上がる。

 

「私は……今を生きる人々を守る為に、貴方を救う為に、貴方を斬る!」

 

 その聖剣が解放され、刀身が眩い光を覆う。

 

 そしてセイバーとバーサーカーの繰り出す無数の剣撃が火花を散らす。

 

「ハアァァァ!」

 

 

「Arthuraaaaaaaa!」

 

 互角の激闘を繰り広げているセイバーとバーサーカー。しかし何かの切っ掛けがあれば、決着はつくだろう。一度互いに距離を取り、息を整える。

 

「ふぅふぅ……」

 

 

【友を止めたいですか?】

 

 

「!?」

 

 セイバーに誰かが声をかける。普通は何処の誰かも分からない声が語りかけてくれば警戒するが、この時、彼女は何故か声に対して安堵した。

 

【止めたいのであれば力を貸しましょう】

 

 セイバーは声の正体は分からないものの、何処か安心する様な声に答える。

 

『ランスロットを止めたい! 何処の誰かは知りませんが、力を貸して頂きたい!』

 

 

【いいでしょう】

 

 その声と共にセイバーの身体に力が溢れ、彼女の周りに人の形をした光が複数現れる。

 

「これは……」

 

 

『王』

 

 

『参りましょう』

 

 

『行くぜ、父上!』

 

 光の正体はかつて自分に仕え共に戦った円卓の騎士達だった。

 

「皆……」

 

 

『ランスロット卿を止めましょう』

 

 

「えぇ! 行きましょう!」

 

 セイバーはかつての盟友共に駆け出す。

 

『おらおらっ! なに父上に剣を向けてんだ!』

 

 

『ランスロット卿、貴方らしくもない。さっさと目を覚ましなさい!』

 

 

「Aa!?」

 

 これには狂化されたランスロットも驚いているらしく、動きが鈍くなる。

 

『何やってるんですか! このおっさん!』

 

 紫色の髪、大きな盾を持った騎士にそう言われ大きな一撃を喰らうバーサーカー。吹っ飛ばされた彼は泣いていた。それ程痛かったのか、全く別の要因かは不明だがダメージは大きい様だ。

 

「ハアァァァ!」

 

 大きなダメージを受け立つのもやっとなバーサーカーは最後にセイバーの一撃をまともに喰らった。

 

「がぁ……」

 

 

「サー・ランスロット」

 

 

「ぁあ……やっと……やっと貴方の手で」

 

 バーサーカーのその顔は穏やかなものだった。完全に霊核に砕かれたらしく、彼は消滅した。

 

 

 

 

 それらを見ていた龍牙は動き出す。

 

「始めよう」

 

 創造龍の鎧を纏った龍牙は、創造龍の翼を大きく広げる。創造龍の翼には12の宝玉が嵌められている。それぞれが万物の象徴だ、それが今、眩い光を放つ。龍牙はその翼で自身の身体を包んだ。

 

 ー我が声に応え、目覚めよ。【無】より産まれ万物を創り、世界を形成せし、母なる創造龍よ。

 

【創造】により無より世界を創れ。偉大なる母の愛により、輪廻の輪の魂達に新たなる【生】を与え、世界を循環させよ。

 

 我【楔】として、【裁定者】としての役目を果たす。我が魂力を喰らい、我が肉体を通し現世へ顕現せよー

 

「【創造龍(クリエィティス・ドラゴン)龍化(ドラグーン・ドライブ)】」

 

 眩い光と共に、龍牙の身体を通し、総ての母たる創造龍が顕現した。

 

 破壊龍が破壊や死、恐怖の化身であるならば、創造龍はその対を成す存在。彼女から発せられる暖かな光は、全てを慈しむ母の愛そのもの。光に照らされた泥と眷属達は浄化され、消滅していく。

 

【ガアァァァ!】

 

 咆哮と共に光が強くなり、泥の面積が狭くなり、この世、全ての悪(アンリ・マユ)の周囲のみとなった。

 

【此処で終わらせよう】

 

 龍牙の声と女性の声が重なり、龍化した彼から凄まじい力が溢れ出す。

 

創造龍の息吹き(クリエィス・ブラスター)

 

 龍化した龍牙は七色のブレスを放つ。

 

 そのブレスを受けたこの世、全ての悪(アンリ・マユ)の依形となったユスティーツァは安堵の笑みを浮かべながら消滅した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。