龍牙はホテルの屋上から街を見下ろしていた。
「ちっ……やっぱりか」
「マスター、これは」
異変に気付いたサーヴァント達は直ぐに現界する。
「あぁ……仕方ない。今日中に終わらせるか、結界も持って明後日までだろうから」
~ホテルの一室~
このホテル一室……正確にはこの階全てを借りているランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
彼の前にいきなり現れた龍牙。
「……いきなり現れるとは思わなかった」
「いやぁ、すまないね。ロード・エルメロイ……状況が変わったからね。急がないといけないからな。
それで例の話は考えていたくれたか?」
「まぁ……確かにあの宝物とサーヴァトの所有権は釣り合う物だ。ランサー」
ケイネスの横にディルムッドが現界した。
「お前に異存はないか?」
「主の命ならば……」
「では始めよう……アンタがするのは簡単だ。令呪を3画をもって命じればいい」
「宜しい……聖杯戦争が中止してしまったんだ。これではサーヴァントを従えてる意味がないからな。
令呪3画をもって命じる。ランサー、これからは無皇 龍牙に仕えよ」
ケイネスは全ての令呪を使いそう命じた。
「ランサー、ディルムッド・オディナ。汝の身、これより俺に預けろ」
「承知……っ! これは!?」
龍牙とディルムッドの間に契約が結ばれた瞬間、彼に龍牙の戦いの記憶が流れ込んだ。
「これが貴方が戦ってきた道なのですか……」
「あぁ、勿論、俺に仕えるのが嫌ならこの戦いまででいい。共に戦ってくれればいい」
「いいえ。騎士として、人の為に、未来の為に、この槍、御身に捧げましょう!」
こうして正式にディルムッドとの契約は完了した。
「さて……次は此方だな」
龍牙は机の上に赤い石を置いた。
「まさかこの目でこの石を見れるとは……」
「賢者の石……その原典だ。鉱石科のロードたるアンタには喉から手が出る程の代物だろう?」
「あぁ」
龍牙がケイネスと交わした約束は、ランサーのマスター権と賢者の石の原典との交換だ。
「それとこれを」
龍牙は追加で、机の上にピンク色の液体の入った瓶を置いた。
「これは?」
「婚約者の問題を解決する魔法の薬だ」
「媚薬か?」
「あぁ、ディルムッドの魅力にかかってるなら、それに負けない男の魅力を見せればいい……それと直ぐにでもこの街を離れた方がいい」
「どういう事……と聞きたいが、君の顔付きを見るに余程の事らしいな。その忠告、感謝しよう」
龍牙はそう聞くと、背後に手を翳し空間に穴を開ける。
「ではな、ロード・エルメロイ」
龍牙はそう言うと、穴へと消えて行った。ディルムッドも彼に続き穴に入ろうとするが、一度止まり振り返る。
「ケイネス殿、短い間でしたが御世話になりました。
どうか、ソラウ殿と御幸せに……では」
そう言い一礼すると、彼は穴の中へと消えて行った。
「全く……騎士道とやらは理解できん。だが悪い男ではなかったな」
そう言うと宝石と媚薬を懐に仕舞い、婚約者の元に向かうのであった。
~教会~
この教会の神父、言峰綺礼は日課である祈りを父と共に行っていた。
(
なんだ、この言い様のない歯がゆさは)
綺礼は心に引っ掛かっている何かを感じていた。しかしそれが何なのか分からなかった。
静かな時間が過ぎる中、突如それは起きた。
「ご機嫌よう!」
言葉と共に教会の扉が大きな音をたてて開いた。
「「……」」
父・璃正と綺礼は直ぐに振り替えると、そこには小さな子供を抱える白い鎧を纏った龍牙がいた。
「教会に何用かね……懺悔かな?」
「人拐いは感心しないがね」
2人は龍牙が抱えている子供を見てそう言う。
「失礼な……ちゃんと説得(と言う名の脅迫)してきました」
「それで、何処のだれを……」
綺礼は龍牙がその場に下ろした子供を見て言葉に詰まる。その子供は銀髪金眼の幼女だ。綺礼が驚いたのはそこではない、この子供の姿が自分が知る女性と良く似ていたからだ。
「カレン・オルテンシア……お前の娘だよ、言峰綺礼」
「!?」
その言葉に綺礼と璃正は驚いた。
「なっ「何で連れてきたか? 簡単さ、子供が親といるのは当然の事だろう? 聖杯戦争も中止になったんだ、此処に居ても問題あるまい」」
龍牙はそう言いながら鎧を消す。カレンと呼ばれた少女は綺礼達を見ると龍牙の後ろに隠れた。
綺礼からすれば、もう2度と会うことはなかったであろう娘との再会が果たされ、彼の運命も変わっていく事になる。