俺のFateな話   作:始まりの0

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EP79 話し合い(遠坂家)

 ~遠坂邸~

 

 会談の翌日、遠坂邸に居た……と言うより無理矢理連れて来られた龍牙、何やら窶れている。昨夜なにかあったのだろう。

 

 現在、窶れた龍牙は応接室のソファーに座っており、その足の間に座っている子供……正確には若返りの薬で子どもになったギルガメッシュ……つまり子ギルだ。

 

「……何で子供の姿に?」

 

 

「アハハハハ、大人の僕は子供の姿で迫ったらどうなるかと考えて若返りの薬を飲んだみたいで……まぁ、見た目だけ変える物もあったんですけどねぇ……」

 

 

「……何しようとしてるの、バカなの? バカだろ」

 

 

「言わないで下さいよ。僕も気にしてるんですし……それにこの僕の方が龍牙にとっては都合がいいでしょう? 大人の僕と違って僕は空気読めますし」

 

 

「まぁ確かに……本当になんで、あんな性格になったんだろうね?」

 

 こんな会話をしているが、これは龍牙でなければ成り立たない会話である。子供の姿でも、英雄王である。バカなどと言えば宝剣、宝槍で串刺しになってるだろう。

 

「全くです……と言うの訳でこれお願いします」

 

 と子ギルが宝物庫から取り出したのはブラシである。

 

「……はぁ、分かりましたよ、お姫様」

 

 龍牙はブラシを受け取ると、子ギルの髪をブラシでとかし始めた。

 

「素直なのはいいことです。まぁ、僕の髪に触れられるんですから役得ですね」

 

 

「お前の場合、断ると剣や槍が飛んで来るからな。痛いのは勘弁だ」

 

 

「そこは嘘でもそうだと言うべきです、龍牙は本当に女心が分かってませんね」

 

 ぷくっーと頬を膨らます子ギル。

 

「ハイハイ、そりゃ悪かったな……それはそうと、遠坂時臣は遅いな?」

 

 

「そう言えばそうですね、大空洞の聖杯を確認に行くと言ってましたね……そろそろ戻ってきても良さそうですけど」

 

 子ギルは龍牙にブラッシングさせながら宝物庫から取り出した飲み物を飲んでいる。

 

「それで龍牙、これからどうするつもりですか?」

 

 

「取り敢えずは各陣営の説得、聖杯の解体等々……皆ハッピーエンドになる様に頑張るさ」

 

 

「そうですか……そう言う所は昔から変わってませんね」

 

 話をしていると、扉が開く音と共に部屋に入ってきたこの屋敷の主、遠坂時臣。

 

 時臣は子ギルの姿に驚いているが、薬の事を説明すると納得したようだ。

 

「待たせてしまってすまないね。先程、大空洞を確認してきた……どうやら君の言った事は本当の様だ。

 

 大聖杯の中に何かが存在している。もし君の言う事が正しければ……聖杯戦争は中止だ」

 

 はぁ~とため息を吐きながら頭を押さえる時臣。

 

「そりゃそうだな」

 

 

「……君が何者かは分からないが、魔術を扱う者として、この地の管理者である遠坂家の当主と礼を言う。お陰で無駄な犠牲を出さずにすんだ」

 

 時臣は立ち上がると龍牙に対して頭を下げる。

 

「別にいいさ。今回はもう1つ話があってきたんだ」

 

 

「話?」

 

 龍牙が指を鳴らすと、彼の後ろの空間が歪み穴が開くそこから1人の男が現れる。

 

「君は……間桐雁夜」

 

 それは雁夜だった。

 

「時臣……」

 

 雁夜は時臣を視界に捉えると彼を睨む。しかし龍牙からの視線を感じ、睨むのを止め、時臣から視線を外した。

 

「何故、魔術の道から背いた彼を此処に?」

 

 

「その前に……ジャンヌ」

 

 龍牙がこの部屋の扉に向かい声を掛けると、扉が開きジャンヌと1人の女性が入ってきた。

 

「「葵(さん)」」

 

 

「あなた……雁夜くん」

 

 それは遠坂葵……時臣の妻である。

 

「始めまして……遠坂葵さん。まぁ、そこに座って」

 

 

「えっと……」

 

 葵は突然の事で困惑している。何故此処に自分が呼ばれたのか分かっていない。しかし時臣から座る様に促され、彼の横に腰掛けた。

 

「俺は龍牙と言う……一応魔術とかもやってる男だ。

 

 さて話と言うのは時臣氏と貴女に関わる事でね……まぁショックだろうけど、目を背ける事はしないでくれよ」

 

 龍牙はそう言うと子ギルに退くように促し、彼女が龍牙から降りると、小さな置物と金の皿を取り出し目の前の机に置いた。

 

 葵はそれが何か分かっておらず、時臣もその正体が分からないものの、その置物から感じる神秘を肌で感じ取る。続けて、皿に瓶に入った赤い液体を入れ、皿が液体で満たされると置物を中に入れた。

 

 すると置物の上部から光が溢れ、壁に何かが映写された。

 

 ーいやぁぁぁ! なにこれ、いやぁぁ! たすけておとうさん、おかあさん、おねえちゃん! ー

 

 聞こえてきたのは悲痛な叫び声だった。

 

 映し出されたのは……無数の蟲達に蹂躙される少女の姿だった。

 

 そして時臣と葵はその少女に見覚えがあった……ない筈がなかった。間桐桜……旧姓遠坂桜、つまりは時臣と葵の娘だったからだ。

 

「さっ……さくら……?」

 

 

「こっこれは一体……」

 

 目の前に映し出された映像は2人にとっては受け入れがたいものだった。

 

 時臣と葵には2人の娘がいた。2人は愛らしく、姉妹仲も良く、平和な日々を過ごしていた。だが問題があった……2人が継いだ魔術の才能だった。

 

 魔術師の術は一子相伝……つまり1人にしか受け継がれない。故にどちらかを選び、どちらかを潰さなければならない。加えて桜の属性は「架空元素・虚数」と呼ばれる稀有な物だ、魔導の家の庇護がなければホルマリン漬けにされる。

 

 だからこそ時臣は桜を護るためにも間桐家の養子に出した。だと言うのに目の前に映し出された映像はなんだと時臣は思い立ち上がる。

 

「これは一体どういうことだ!?」

 

 

「どういうこと? ……アンタ達夫婦があの娘を地獄落としたんだろう?」

 

 

「私はこの「自分はそんなつもりはなかったとか言うなよ。アンタは間桐の魔術が……いや間桐臓硯がどういう人物かも知らないくせに養子に出したろ。家と家が古くからの付き合いと言うだけで……あの蟲爺は娘を次の世代を産み出す胎盤としか見てなかったのさ」」

 

 

「さっ……さく……らは……?」

 

 葵は目の前の映像が受け入れられない様子だが、やっとの事で声を絞り出した。

 

「小さな子供があんな目に合って無事だとでも思ってるのか?」

 

 龍牙は更に現実を突きつける。それを聞いた葵は気を失いそうになる。時臣も立っていられなかったのか、ソファーに倒れる様に座った。

 

 それと同時に映像が消え、置物と皿がその場から消えた。

 

「まぁ命と身体は無事だ、俺が治しておいたからな……だが精神面は正常とは言えないが、雁夜のお陰で薄皮一枚で保っている」

 

 

「か……りやくん……?」

 

 それを聞いて2人は顔を上げる。

 

「この男は間桐の魔術の事を知ってたから家を飛び出した。でもアンタの娘が間桐の養子となったと聞いて戻ったんだ……とは言え少し遅かったかもしれないが、それでもこの男が戻らなかったらどうなっていたことやら。

 

 俺には魔術の家柄の考えは分からんが……子供を不幸にして繁栄や栄誉を手にする様な家なら潰れてしまえ」

 

 龍牙にそう言われ、彼の言葉が時臣と葵の心に突き刺さる。

 

「……時臣」

 

 そこまで黙っていた雁夜が声を出した。

 

「お前にとっては俺は魔術の道に背いた負け犬だろうさ……だがな! 今のお前はなんだ!? 

 

 魔術の名誉が何だが俺には分からない! だがそれは桜をこんな目に合わせてまで、魔術の道を歩まさないといけなかったのか!?」

 

 雁夜の言葉が時臣の胸を抉る。これを見る前であれば、万が一姉妹共に魔術師となり聖杯を巡って争う事になってもそれは名誉な事だと言っていただろう。

 

 しかし今は違う。彼自信、娘を思い養子の選択した。魔術師として、父として最も良い選択をした筈だったが、結果は娘を不幸にした。こんな事になるのなら間桐以外に養子先を探すなり、他の方法が取れた筈だ。

 

 それは葵にも言える事だった。遠坂の家に嫁入りした時から覚悟はしていた、だがもし自分が反対していれば桜をあんな目に合わせずすんだのではないかと考えてしまう。

 

「何とも皮肉な話ですねぇ……守る為に手放したのに、実際は自分が娘を不幸にしていたなんて」

 

 黙っていた子ギルがそう呟く。子ギルのその言葉が2人に更に追い討ちをかける。

 

「アンタ等の元にあの娘を返すのは簡単だが……どうしたものか」

 

 龍牙はそう呟きながら、どうするかと考えていた。

 

「母親だけは連れて行くか。

 

 どうにも今のあの娘の精神状態じゃ、時臣(アンタ)に会わす訳には行かないしな。

 

 遠坂葵さん……取り敢えず、隣の部屋に待機して貰ってるもう1人娘さんと用意してくれるか? 

 

 今のあの娘に必要なのは、平穏な一時だからな」

 

 

「はっ……はい!」

 

 葵はすぐに返事をすると飛び出す様に部屋を出た。龍牙がジャンヌに目を向けると、彼女はその場から意図を理解したらしく葵を追い掛け出ていった。

 

「ギル、こっちは頼んでいいか?」

 

 

「はぁ……仕方ありませんね」

 

 龍牙は子ギルにそう言うと、部屋を出ていった。




と言う訳で今回は遠坂との話し合いでした。

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