俺のFateな話   作:始まりの0

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 以前に上げていたのが何故か途中で切れていたので再投稿します。


EP75 解放

 -この家に来たときは、いたくて、くるしくて、きもちわるかった………でも、もう何も感じない。

 

 お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも居ない。お爺様がそんな人達は居なかったと思いなさいって言っていた。だからもう、あの人達とは会えないんだと分かった。

 

 ある日、雁夜おじさんが家に帰って来た。おじさんはまたあの人達と会わせてくれると言った……でもおじさんは日に日に痩せて、変わっていった。もう昔のおじさんの面影はない。

 

 でも私は期待してない………おじさんは多分、お爺様に殺されてしまうから-

 

 少女(間桐桜)は諦めていた。

 

 その身は無数の蟲に汚され、苦痛を与えられた事により、彼女は心を閉ざした。そうする事で心が壊れる事を何とか止めていた。

 

 彼女がその様な仕打ちを受けているのか?それは彼女が魔術師の家系に産まれ、才に恵まれていたからだ。

 

 ならば何故、彼女がこの様な目に合っているのか……それは簡単だ、魔術は基本一子相伝の技だ。どれ程、優秀でも一族の魔術を伝えられるのは1人だけ。その場合、片方の才能は潰さなくてはならない。加え娘の才能は特異な物で、家に加護がなければ魔術協会に標本にされかねない。

 

 彼女には姉が居り、その姉もまた優秀な才を持っていた。当主である彼女の父親は悩んだ……「本当にどちらかの才能を取り、片方の才を潰していいのか」と。

 

 故に彼女の父親は娘を養子に出すことに決めた。古くから付き合いのある魔術師の名門の家に養子を出すことで娘の才能を潰さずにすむと考えたのだろう。

 

 彼女の父…遠坂時臣は()を同じく魔術の御三家である間桐家の養女に差し出した。だがこの時、時臣は間桐の当主である臓硯の事をもっと調べておくべきだった。

 

 臓硯は娘を引き取ると直ぐに行ったのは自分の蟲達に娘を辱しめさせた。それは彼女を間桐の属性と合わせる為の調整であり、いずれ優秀な子を産ませる為だ。つまり臓硯は娘を「胎盤」としてしか見てなかったのだ。

 

 家族に捨てられ、苦痛を与えられ、心を閉ざした彼女……今の彼女にとっては希望は毒にしかならない。だからこそ何に対しても期待しない。

 

 今日も何も考えず、感じず、全てを諦め、1日を終えようとしてた少女()

 

 

 

 

 

 

 だがそんな彼女()の前に白い鎧が現れた。

 

「誰?」

 

 桜は鎧に向かいそう尋ねた。普通、自分の家に正体不明の存在が現れたら恐怖するだろう。桜が既に心を閉ざしている事もあったが、何故か目の存在に対して恐怖を感じなかった。

 

「通りすがりさ。お嬢さんは何で地下(こんな所)にいるのかな?ジメジメしてるし、変な虫は一杯いるし、お嬢さんが居ていい場所じゃないよ」

 

 鎧はそう言うと、桜の前に膝を付いた。

 

「お爺様に此処にいる様に言われたの」

 

 

「そう……なら此処から出よう」

 

 

「でもお爺様」

 

 

「大丈夫……外で君のおじさんが待ってるから」

 

 

「雁夜おじさんが?」

 

 

「あぁ」

 

 

「でも……」

 

 桜は蟲達に視線を向ける。ただの蟲ではない臓硯の使い魔達だ、数十秒あれば人1人を食い尽くしてしまう。

 

 鎧は桜が言いたい事が分かった様で、何も言わずに彼女を抱き上げる。彼女はそれに抵抗する事はなかった。

 

「子供は子供らしく笑って、学んで、食べて、寝て、遊び、成長すればいい。だから君はこんな所にいる必要はない。例え蟲爺が何と言ってもね」

 

 鎧はそう言うと、桜を左腕で抱え、右手で腰の剣を引き抜いた。

 

 次の瞬間、蟲達が襲い掛かってきた。桜はそれを見ると目を瞑ってしまう。

 

 だが何時まで経っても蟲達に触れられた感触はなかった。目を開けてみると、金色の翼に吹き飛ばされる蟲達が目に入った。

 

「まずは害虫駆除を始めようか」

 

(FLAME)

 

 金色の翼に付いている赤い宝石が光り出すと、鎧の持つ剣の刀身が炎が纏う。

 

「燃え散れ」

 

 鎧は蟲達に向かい一閃を放つ、蟲達が炎に包まれ一瞬で消し炭と化した。

 

 そして鎧は金色の翼を広げ、宙に浮くと剣を銃に変え天井へと向けた。

 

「私………外に出ていいの?」

 

 桜は鎧にそう聞いた。

 

「勿論」

 

 鎧がそう言うと、銃口に光が収束していく。

 

「今のお嬢さんに出ると言う選択は出来ないだろう。だから今回は俺が背中を押そう」

 

 銃の引き金を弾くと、巨大な光が天井を貫いた。

 

 

 

 

 

 ~屋敷前~

 

「ぉ~」

 

 屋敷前にいた、キルケーは屋敷を貫いた魔力を見てそう声を上げる。その数秒後、少女を抱えた白い鎧が屋敷から飛び出してきた。

 

「それじゃ、行くわよ。魔女さん、問題ないかしら?」

 

 

「当たり前だよ、私を誰だと思ってるんだ?魔女キルケーだよ」

 

 

「あら心強いこと……」

 

 マルタはキルケーに確認すると、マスターから魔力を送って貰う。

 

「愛を知らない哀しき竜……ここに」

 

 マルタの背後に巨大な影が現れる。

 

 彼女が生前に倒した悪竜、リヴァイアサンの子とされる彼を召還した。

 

 トゲを持つ亀の甲羅を持つ竜、タラスク。その外見から一般的な竜とはかけはなれてはいるが歴とした竜である。

 

「星のように!【愛を知らぬ哀しき竜よ(タラスク)】!」

 

 マルタが後方に大きく飛び上がりその杖で………タラスクをぶん殴った。それにより凄まじい速度で回転しながら屋敷に向かい飛ぶタラスク。屋敷にタラスクが直撃すると、大爆発を起こした。

 

「ぉお……すっげぇ」

 

 そう言いながら、鎧は彼女達の前に降りてきた。そして鎧だけが光となって消えた。

 

「じゃあ、婦長………この子の事を頼む」

 

 

「了解です。では私はこの子を連れて帰還すると言う事で宜しいですね、司令官(マスター)?」

 

 

「構わない………それとそっちの気を失ってるおじさんもね」

 

 龍牙はそう言うと、手を翳す。すると空間に穴が開いた。そして自分の腕に抱えている少女をナイチンゲールに渡す。彼女は少女と倒れている間桐雁夜を脇に抱える。

 

「では司令官(マスター)、私はこれで」

 

 彼女はそう言うと、穴へと消えて行った。

 

「さてと………取り敢えず、いきなり屋敷が消えるのは問題だし直しておくか。キルケー、結界はまだ保つかな?」

 

 

「勿論さ、ピグレット」

 

 

「ならいい………」

 

 龍牙が爆散した屋敷の残骸に向かい手を翳すと、残骸が浮かび上がり、光を放つ。

 

「地下は埋めて、取り敢えず側だけでも」

 

 瓦礫は徐々に元の形へと戻って行った。

 

「ふぅ~、これでよし…………後、屋敷に細工して戻るとしよう」

 

 そう言い屋敷の中へと入っていく、ジャンヌ、マルタ、キルケーも彼の後に続き入って行った。

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

「ぅ………此処は……知らない天井だな」

 

間桐雁夜は目を覚ますと、身体を起こした。どうやら彼はベッドに寝かされていたようだ。

 

「俺は………確か敵襲があって……はっ!桜ちゃん!」

 

雁夜は自分が命を捨ててまで助けようとした少女の事を思い出し、ベッドから飛び降りようとする。

 

「おっとそんなに勢いよく降りるなよ、雁夜おじさん」

 

声を掛けられ、顔を上げるとそこには自分の邸を襲撃してきたマスターの少年の姿を確認した。

 

「おまlt「シッ!」!?」

 

少年は人差し指を口の当て、雁夜の声を止める。

 

「お姫様が起きちゃうからね」

 

 

「お姫様?」

 

雁夜はふっと自分の左腕に温もりを感じた。そしてそこに向かい視線を落としてみるとそこには紫色の髪の少女が眠っていた。

 

「桜ちゃん!?」

 

 

「大丈夫だ、今は眠っている………ちょっと前までアンタを心配そうに見てたんだけど、あの場所から解放されて安心したんだろう。ゆっくり寝かしてやれ」

 

 

「……お前が桜ちゃんと俺を?」

 

 

「あぁ、少しばかり手荒になってしまったけどね。先に謝っとくよ、アンタの家をぶっ潰してしまって悪かった」

 

 

「いっ家を潰した?!」

 

 

「あぁ。蟲共は焼き払って、魔術的な物は宝具でぶっ壊した」

 

雁夜はそれを聞いて唖然となる。

 

「蟲爺は殺り損して、アンタも令呪を取られバーサーカーを奪われたけど、後でどうにでもなるから置いておこう。まずは間桐雁夜と間桐桜を救う俺の目的は達成されたからね」

 

 

「???」

 

雁夜の頭の中は?で埋め尽くされていた。何故自分達を救う必要があったのか、そもそも何故この少年は一体誰なのか等、色々な事が彼の頭に浮かぶが答えが出る訳もない。

 

「何故俺を!?それに桜ちゃんまで!?」

 

 

「そうだな………強いて言うなら俺がしたい事をしただけだ。それよりも身体の方は大丈夫か?」

 

 

「えっ?………あぁ、そう言えば身体が軽い。それに痛みもないし……!?」

 

雁夜はふっと壁に掛っている鏡を見た。刻印虫と言われる虫を体内に入れた事により、髪は黒から白髪へと変わり、左半身は麻痺し顔面の左半分は硬直し左眼は視力を失っていた。だと言うのに、現在は身体は軽く、ぼんやりではあるが左眼の視力が回復している。雁夜は自分の顔を触ってみた。少しだけだが肌にハリが戻っていた。

 

「一体どうなって……」

 

 

「まぁ、細かい事は置いといて………これからの事だ。取り敢えず考えているのは2つ。

 

1つは桜ちゃんと一緒にこのまま身体が回復するまで此処でいること。

 

もう1つは桜ちゃんと一緒にこの街を出ることだ」

 

 

「まっ待ってくれ!俺はまだ時臣にf「本当にそんな事をしていいのか?」なに?」

 

雁夜の言葉を遮る様に龍牙は言葉を挟む。

 

「その娘があんな目にあったのは、蟲爺の事をよく調べず養子に出した遠坂時臣の所為でもあるだろう。

 

だが、同時にその娘の父親でもある」

 

 

「父親だから!桜をこんな目に合わせてもいいっていうのか!?」

 

 

「いいや、そうは思わんし、それでいいって言う奴がいたらぶん殴ってる。

 

今の桜ちゃんにとって必要なのは、最も安心できる場所で日常を過ごす事だ。肉体的な傷は治したものの、精神的なものは下手に弄られないしな」

 

 

「桜は魔術とか、医療じゃ治らないのか?」

 

 

「記憶を封じるなりすればいいんだけど、もし記憶が戻った際にどうなるか想像できないしな。特に彼女の場合、属性が希少なもの……それが暴走する可能性もある。

 

だからこそ、今の桜ちゃんに必要なのは」

 

 

「安心できる場所……葵さんや凛ちゃんと過ごす事だと?」

 

 

「あぁ……アンタが遠坂時臣に良くない感情を持ってるのは知っている。だが、時に父親の存在も必要となるだろう」

 

雁夜は何で知ってるんだと言いたかったが、今はそんな場合ではないので言葉を飲み込んだ。

 

「桜ちゃんの事を思うなら時臣の事は諦めろ」

 

 

「ッ………」

 

雁夜は時臣に対する感情が爆発しそうになる。だが、ふっと自分の腕にしがみつく桜へと目を落とす。

 

余程、雁夜の身が心配だったんだろう。少女はぎゅと彼の腕を抱いていた。

 

「俺が復讐を止めれば……桜は元に戻るのか?」

 

 

「完全に元に戻るのかは保証できないが………今よりはマシになる。

 

ゆっくりと時間をかけ心を癒し、成長を見守るしかない。まぁ…………後々、姉妹揃って男を取り合うとかもあるかもな」

 

龍牙の脳裏には茶髪の少年を黒髪の少女と取り合う成長した桜の姿が浮かぶ。

 

「桜と凛が恋!?」

 

未来を想像してかなりショックを受けている雁夜。

 

「そんな未来もあるって話だ。

 

今できる事は1日でも早く母親と姉の元に戻すこと……さて雁夜、アンタはどうする?

 

二兎を追う者一兎も得ずと言うだろ、あんたが選べるのは……遠坂時臣(個人的な私怨)か、間桐桜(少女の未来)かの2つだ」

 

 

「俺は……もし片方しか選べないなら、桜の未来を取る」

 

と雁夜は自分の憎しみよりも少女の未来を取った、龍牙はそれを聞いて嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ならその方向でアンタと桜ちゃんの今後を考えるとしよう、アンタ等はもう少し休むといい」

 

 

「あぁ………龍牙だったか、何で俺や桜を助けたのかは分からないがありがとう」

 

 

「さっきも言った様に俺の個人的な目的の為さ………取り敢えず詳しい事は後々にしよう。じゃおやすみ」

 

龍牙はそう言うと出口に向かって歩いて行く。

 

「あぁ言ってくれて良かった。洗脳する手間省けたな(ぼそっ」

 

 

「えっ、なにって?」

 

 

「いや、何も………じゃ」

 

何やら聞こえてはならない言葉が聞こえたので雁夜は声を上げるが、龍牙は部屋を出て行った。

 

「……良く分からないけど、悪い奴ではなさそうだな」

 

雁夜はそんな事を呟きながら、横になると眠気が襲ってきた。

 

うとうとしながら、これからの事を考えていた。住む場所や、仕事のこと、何より桜の事を考えながら睡魔に身を任せた。




 

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