「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。
多少は使えるかと思ったが………小間使いすらできぬとは興醒めだ。下らない。実に下らない。やはり人間は時代を重ねるごとに劣化する」
突如、この特異点に降臨したヒトの様な影はそう告げる。
「マシュ、マスター、下がれ」
「あぁ、その方がいい。ありゃあヤクいぜ。まっとうな娘っ子が直視していいモンじゃねぇ」
エミヤと金時がそう言うとサーヴァント達が一斉に前に出た、立香とマシュを庇う様に武器を構える。
「そのようでございますねぇ。私も退散退散。一尾の身では見るだけで穢されそうです」
「オイ、なんだこのふざけた魔力は。竜種どころの話じゃねぇぞ。これは、まるで」
「伝え聞く悪魔、天使の領域か。いや、それでも物足りない。このシェイクスピア、生粋の魔術師ではないとはいえ、キャスターの端くれとして理解しました。
無尽蔵とも魔力量。存在するだけで領域を圧し潰す支配力………まさに、まさに神に等しい創造物!というか神そのもののような気さえします!
そうですな、我が友アンデルゼン!我々はそろそろお暇しましょうか!」
「貴様はどうしてそう大げさなんだ。だいたい神といっても種類があるだろに。俺が怖いのは編集の神だけだ。
まぁ逃げるのは賛成だが、まさか本命がこの段階でやってくるとはな」
玉藻の前、モードレット、シェイクスピア、アンデルゼンがそう言う。モードレット以外はどうやら逃げようとしている様だ。
立香の通信機からドクターロマンの声が聞こえる。謎の敵の登場で映像は届いてない様だ。
「ほぅ、私と同じで声だけは届くのか。カルデアは時間軸から外れたが故、誰人も見つける事はできない拠点となった。
あらゆる未来―――すべてを見通す我が眼ですら、カルデアを観る事は難しい。だからこそ生き延びている。無様にも。無残にも。無益にも。
決定した滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海にただよう哀れな舟だ。
だが、それがカルデアであり、藤丸立香と無皇龍牙と言う個体。
燃え尽きた人類史に残った染み。
影は淡々とそう語る。そして、より一層その存在が強くなり続けている。
そして立香がその影に向かい叫ぶ。
「お前がレフの言っていた「王」か!」
「ん?なんだ、既に知り得ている筈だが?そんな事も教わらねば分からぬ猿か?
だがよかろう、その無様さが気に入った。聞きたいならば応えてやろう。
我は貴様等が目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。
名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」
ソモロン王。聖書にも登場する古代イスラエルの王。ダビデの息子であり、72柱の悪魔を従えイスラエルの最盛期を築いた王であり、歴史上最も偉大な魔術師だ。
そのソロモンが登場した。サーヴァント達は彼の王の登場に驚愕している。
ソロモンとサーヴァント達が会話する中、龍牙の耳にはそれが全く届いてなかった。
(アレはサーヴァントとは違う1つ上の冠位…………だがそれだけじゃない。奥に隠れているのはもっと違う………異質な存在。
ソロモン、魔神柱、冠位、蘇生……………そうか、そう言う事か)
「さて………今の私は貴様に聞きたい事がある。無皇龍牙」
ソロモンはあろうことか、龍牙に声を掛ける。
「貴様は一体何だ?フラウロスを屠る程の力を持っていながら、我が眼を持ってしても見通せぬ存在。そんな物は在ってはならぬ。
それに何故、
ソロモンが龍牙に向かいそう言う。その言葉にこの場にいる全員が疑問を感じた。『そこに居ながら、存在しない』。その言葉はあまりにも矛盾しているからだ。
「生憎俺はそういう存在でな。それが分からないのならそれがお前の限界だ。
まさか
龍牙はニヤッと笑みを浮かべながら、ソロモンに言い放つ。
「なに?」
「人より出でた身でありながら人を否定しようとは…………命も輝きも知らず、生の喜びも知らず、他者を愛する事も知らず、怒りや憎しみと言った負の面でしか人を見ぬ存在が、人間を、歴史を否定するとはな。
腹立たしい、これでは
龍牙は圧倒的な力を持つソロモンに対して言い放つ。
「くっ………クハハハハハハハハ!産まれ十数年しか生きていない小僧が知った口を聞く。
だが面白い。ならば我が力を知り絶望するがいい。此度は6柱程度で遊んでやる!」
ソロモンがそう言うと同時に、6柱の魔神柱が顕現した。
魔術王との最初の戦いが今、始まる。