「えっと……」
俺達はジル・ド・レェに村人を託して、藤丸君達と合流していた。エミヤとクーフーリンは俺の判断で彼等の所に残してきた、もしもの時の為にだ。
離れる前に、ジルが付いてくると一騒ぎあったがジャンヌの目潰しで騒ぎは収まった。目を潰しをされたのにジルが嬉しそうだったのは気の性だろう。
さて、藤丸君と合流したのはいいのだが……
「あの2人ともそろそろ離れて欲しいんだけど」
藤丸君は清姫とエリザベート・バートリーに引っ付かれていた。因みにマシュはその後ろで頬を膨らませている。
清姫……安珍清姫伝説で有名な少女。逃げた安珍を追い掛けて竜(または蛇)へと変わり、寺の鐘に隠れた安珍を焼き殺し、自らも身を投げれたと言われている。嘘つき焼き付くすガール……ヤンデレである。
エリザベート・バートリー……美しさを保つ為に女性の血を浴びていたと言われており、竜の魔女の方のジャンヌが召喚したカーミラのモデルとなった伯爵夫人。アイドルを称しているが、美声を台無しにする壊滅レベルの音痴。赤い皇帝と一緒にすると、その場は殺人現場になるに違いない。
「君も大変だね………色々と」
同情の眼で彼を見ながらそう言うと、「だったら助けて下さい」と言う眼で龍牙を見るが首を横に振られた。
「ぇ~と………取り敢えず、状況説明しよっか」
ー俺と藤丸君は互いに情報交換をした。ロマンとダ・ヴィンチちゃんも通信で参加してる。
まず俺達は村人達を無事に届けた事を伝えた。
藤丸君達は無事に龍殺し…英雄ジークフリートと無事に出会えた。その際にジャンヌ・オルタ達と鉢合わせして戦闘になったがジークフリートのお陰で、ジャンヌ・オルタ率いる魔竜ファヴニールを退けたという。
だがジークフリートには呪いが掛かっており、今はまともに動けないらしい。横にいる清姫とエリザベートはジークフリートを探す途中で喧嘩をしてる所に出会ったと……取り敢えず言えるのは御愁傷様だな。
それで呪いを解くためにジャンヌに視て貰うと、聖人が後1人必要だとかー
「なぁジャンヌ」
「はい、何でしょう?」
「つまりはジークフリートに掛かってる呪いを解くにはジャンヌだけでは力が足りないと?」
「はい。最低でも後1人、聖人がいなければ彼の呪いは解けません」
「(それで、あの人を探さないと行けない訳なんだが……)聖人ではないけど、聖なる力ならある訳だし……こいつで何とかならないかな」
龍牙はそう言うと、
「光・聖を司る創造龍の宝玉……これの力があればジャンヌだけで解呪できないか?」
「凄い聖なる力……確かにこれがその力があれば彼の呪いを解く事は可能です」
「なら話が終わった後に解呪するとしよう……それで話の続きなんだけど……ジャンヌ・オルタは新しいサーヴァントを召喚してたんだね?」
「はい……真っ黒な騎士と緑色の狩人、多分クラスはバーサーカーとアーチャー……後は黒いコートの英霊……その人については」
立香はマリーとアマデウスの方を見た。
「多分クラスはアサシンだね」
「彼の名はシャルル=アンリ・サンソンよ」
シャルル=アンリ・サンソン……暗殺者ではなく処刑人。パリにおいて死刑執行を務めていたサンソン家の4代目であり、死刑を廃止する様に幾度も国に嘆願したが受け入れられず、死刑を執行し続け最後には自身が最も敬愛する国王と妃……つまりマリー・アントワネットを処刑した人物だ。
「処刑人か(見てはないから何とも言えないけど……変わってなければあの者達……全員狂化されてるから真面に会話なんてできないだろう。まぁ一日でも早く決着をつけないと犠牲が増えるばかりだしな)」
「龍牙先輩どうしました?」
「いや……その様子なら次々にサーヴァントを呼ばれる可能性がある。ならば一気に決着をつけるべきだと思ってな、次の犠牲が出る前に」
「でもワイバーンや魔竜……サーヴァント達、それに竜の魔女。そう簡単には……」
「確かに……エンキを使う訳にもいかないしな」
「「「エンキ?」」」
龍牙の言ったエンキという言葉に全員が反応した。彼はそれを見ると黄金の双剣エンキを取り出した。
「終末剣エンキ……此奴を使えばノアの大洪水の原型…【ナピュシュティムの大波】を引き起こせる。まぁでも……使えば」
『ダメェ!絶対ダメェェェェェ!そんなことしたら、フランスが滅んじゃうじゃないか!却下です!』
「アハハハハハ……だよね。俺も使いたくない……だから別のを使うさ。一先ず、作戦を考えるから皆はゆっくり休んでよ」
龍牙はそう言うと、ジャンヌと共にジークフリートの解呪を行った。そして立香達から離れた龍牙は少し離れた場所に座り込むと状況の整理を始めた。
―こっちの戦力は俺、牛若丸、ジャンヌ、マリー、アマデウス、ジークフリート、マシュ、ダレイオス……エミヤとクーフーリンはジル・ド・レェの所にいるから除外と考えてる。もしもサーヴァントがあっちに攻め込んだら、フランス軍と言えど保たないし。
相手はジャンヌ・オルタ、キャスターのジル、狂化されたヴラド三世、カーミラ、ランスロット、アタランテ、サンソン……多分、他にも呼ばれてるだろう。だが問題はファヴニール……それにキャスターのジルだ。Zeroみたいな海魔を呼ばれたら困るしな。一気に殲滅が望ましい……か―
「なら……久々にアレを使うとするか」
龍牙はそう呟くとニヤッと笑みを浮かべた。
「ふぅ……ふぁ~、眠い。今日は色々とあったな、ジャンヌの眼球突きとか、ジルの悶えながら喜んでいる姿とか、エミヤが料理をして活き活きしている姿とか……民の喜ぶ姿とか」
「民の喜ぶ姿ですか?」
「うん……ぇ?」
声のした方向を見ると、ジャンヌが立っていた。
「何か用か?」
「あっはい、少しお聞きしたい事がありまして」
「なに?」
「貴方はどうして戦うのですか?」
「えっと……急にどうして」
「私は生前、戦乱の世で家族を奪われました。そんな中で民達の平穏を護りたいと言う思いがあり、そして主の声を聞き戦う事を決心しました。私には国を、民を護りたいと言う意志が在った……でも貴方は何故、死ぬかもしれない戦場で戦うのですか?」
「俺の戦う理由……そこまで難しい事じゃないよ。世界を護る事が……母より与えられた存在意義、2体の龍を与えられた者の運命、後は………俺が戦うと決めたからさ。それに……もぅあんなのはごめんだ」
そう言う龍牙、ジャンヌはその言葉の意味が分かる訳がない。
だがその時の龍牙は哀しみ・怒り・後悔と言った感情が入り混じった表情をしていた。それを見た彼女は、彼にそれ以上聞く事は出来なかった。
「さぁ~てと明日に備えて今日はゆっくりと休むとしよう」
龍牙はそう言いながら何時もの表情に戻ると、休む為に近くに在った木にもたれ掛かる。
「じゃあ、俺は寝るよ……ジャンヌも少しでも休んでおきなよ。明日はこの特異点最後の戦いになる………から……やすん……くぅ……すぅ」
余程疲れていたのか、言い切る前に眠ってしまった。
ジャンヌは少し困惑していたが、明日は決戦。このまま龍牙を休まようと考えた、だがこのままではゆっくり休めないだろうと考え、在る事を考えて実行した。