龍牙達はラ・シャリテから撤退し、生き残った村人達を助けたエミヤとクーフーリンと合流するべく合流ポイントへと向かった。
来た時の様に、龍牙により運ばれた立香達。合流ポイントはラ・シャリテの近くの森を抜けた先だ、そこまでは数分で到着した。だが龍牙はポイントまで行かず、近くに立香達を降ろした。
「無皇さん、此処ですか?」
「いや、ポイントはもう少し先なんだが……問題は」
龍牙はジャンヌの方を見た。エミヤ逹が助けたのはラ・シャリテの村人達、襲ったのはジャンヌと同じ顔をしたジャンヌ・オルタ。この状況でジャンヌを連れて行けば騒ぎになるのは間違いない。
「……取り敢えず、藤丸君とマシュは先にエミヤ逹と合流してきてくれ」
「分かりました。行こう、マシュ」
「はい、先輩」
立香とマシュはエミヤ達の方へ先に向かった。
「主殿、サーヴァントの気配です」
「うん、そうだね」
牛若丸がサーヴァントの気配に気付き、その方向を睨む。
「ちょっと待ってくれよ、僕等は君達と戦う気はない」
そう言って木の陰から出て来たのは、2人の男女だった。
「武器をしまって下さらない?私達、戦う気はないの」
赤いドレスを着た女性がそう言うが、牛若丸は刀の柄から手を離さない。
「牛若、彼女達は大丈夫だ」
「……分かりました」
牛若丸は刀から手を離すが、未だ現れたサーヴァント達の事を警戒しているのか龍牙の前を庇う様な体勢でいる。
「取り敢えず自己紹介だ。俺は無皇龍牙、未来からこの異常を修正しに来た者だ」
「まぁ!未来から来られたの?!」
「俺達の目的はこの時代を修正すること……つまりはこの騒ぎを起こしてる奴等を倒す。そっちの目的は時代は違えど
「あらっ?私、名前言ったかしらアマデウス?」
「いや、マリーは言ってないと思うよ」
「なら貴方はどうして私の事知っているの?もしかして貴方もサーヴァントで、何処かで会ったのかしら?」
「いいや、俺は一応生身の人間。貴女に会うのは初めてですよ王妃様、それにモーツァルト」
―マリー・アントワネット:国を愛し、民を愛し、国に愛された。産まれながらにしての
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:世界に名立たる天才作曲家にして演奏家。音楽に対しては聖人、人間に対してはクズの部類にはいるらしい。あんまり星1だからあんまり育てなかったな……でも彼の音楽は常にマリー・アントワネットの為に捧げられていたらしい。男としては見習いたいと思う―
「僕の事まで……一体、君は何者だい?」
「人間ですよ……知っているだけのね。俺はこの世界を護らないとならんので戦うが、貴方達はどうする?」
「貴方が誰かは分からないけど……民を護って下さるなら是非とも協力させて頂くわ。ねぇアマデウス」
「まぁ、マリーがそう言うなら」
「それで、そちらは?」
マリーはジャンヌの方を向いてそう言う。
「わっ私はジャンヌ・ダルクと申します」
「知ってますわ!憧れの聖女ジャンヌ・ダルク!」
「…………私は聖女なんかではありませんよ」
「えぇ、皆もそれは分かっていたと思います。ですが貴女は聖女と呼ばれるに相応しい功績を残した。オルレアンの奇跡、ジャンヌ・ダルク」
顔を赤くし聖女である事を否定するジャンヌ。だがジャンヌの残した功績は聖女と呼ばれるに相応しいものだとマリーは言った。そんな話をしながら、互いに情報を交換していた。途中で、立香やマシュ達とも合流し召喚サークルを近くの霊脈に設置した。村人達は今はクーフーリンの作ったルーンの結界内に居るので、現在は安心らしい。
これからどうするか話し合いの最中に龍牙は何かを感じて、森の奥の方を見る。
「主殿、どうかなさいましたか?」
「……竜の気配だ。どうやら向こうの聖女様が来た様だな」
龍牙の言葉を聞いて、皆は戦闘準備に入る。その数秒後、空からワイバーンの群れが現れた。だがワイバーン達は襲い掛かって来ない。その中の1体のワイバーンの背からサーヴァントが降りてきた。
「こんばんわ、皆さま。騒がしい夜ね」
「全くだ。聖女マルタ、その様子じゃ残ってる理性を振り絞って此処にきた感じかな」
「えぇ、あの竜の魔女の所為で今にも暴れ出しそうだけど………残った理性が貴方達を試せと囁いている。竜の魔女が騎乗する究極の竜種……私を越えれなければ、アレは倒せないもの。それにしてもあのワイバーン達使えないわね……いや貴方がいる所為かしら、謎のマスターさん?」
マルタは興味深そうな眼で龍牙を見る。
「多分正解かな、幻想種と言えど獣としての本能があるからな……ワイバーン共も自分の命は惜しいらしい。藤丸君達は下がってな」
「でっでも」
「未だ顔色が戻ってない、そんなんじゃ真面に指揮できないだろう」
立香にそう指摘された、確かに未だ顔色が悪い。あの様な惨劇を見たからだろう、一般人の彼に直ぐに立ち直れと言うのは酷である。しかし本来なら此処で戦うしかない。だが此処には本来居ない筈の
「これから悲惨な事が数多くある………辛くて膝を付く事もあるだろう、でも最後には立ち上がれ。立ち上がり、戦わないと明日はない。だが辛い時は休みも必要だ、君が自分で立ち上がるまでは俺がサポートする。今は休息の時だ、君は休んどけ………無理しても強くはなれん」
龍牙はそう言い、立香を下がらせる。龍牙なりに立香の身を案じてるのだろう。
「話は済んだかしら?私も自分を抑えるのが大変なんだけど」
「待ってくれてありがとう」
「敵に礼を言うの?可笑しな人……我が名はマルタ!そして出でよ我が宝具、【
彼女の身から魔力が溢れ、呼び掛けに応えた巨大な亀の様な竜【タラスク】が顕現した。
「私如きに勝てぬ様では竜の魔女には勝てませんよ」
「そりゃそうだ」
【
龍牙はそう言うと、
「あの人と似た光………」
《グゥゥ………》
マルタとタラスクは龍牙の鎧から溢れ出る力に気を圧されるが、それを振り払う。
「さて……行きますか!」
「タラスク!」
龍牙はその場から飛び上がると、マルタはタラスクに指示を出し龍牙を追撃させる。
「おらっ!」
タラスクの体当たりを避け、すれ違い様に甲羅へと攻撃する。
―ガァン!ガキィ!―
「かってぇぇぇぇな!おい!」
「その程度の攻撃でタラスクの甲羅には傷1つ付きません!」
「成程……ならこうするまでだ!」
龍牙はタラスクの背に向かい翔け出した。そして自分の魔力で筋力と俊敏を強化する。
「1回で駄目なら10回!10回で駄目なら100回繰り返すまでだ!」
―ガンッ!ガガガガガガッ!―堅い物と物がぶつかる音が響く。龍牙の鎧を纏った拳とタラスクの甲羅のぶつかる音だ。
「何度やっても無駄……はっ!まさか!」
「どっせぇぇぇぇぇぇぇ!」
―ガァン!ビキッ!―
数十回拳を繰り出した所で、大きく腕を引き拳を放つ。凄まじい音と共にタラスクの甲羅に罅が入る。龍牙は出鱈目に拳を繰り出した訳ではない、数十回の拳を全て同じ一点に寸分違わず放っていた。例え強固な甲羅であっても、同じ場所を集中的に攻撃されれば傷が入るだろう。
「くっ!調子に乗るんじゃないわよ!『愛を知らぬ哀しき竜よ。星の様に!』」
完全に口調が変わったマルタはタラスクの真名を解放する。その全ての魔力をタラスクに注いだ。此処で決めに来るのだろう。
「【
タラスクは光を纏い、高速回転をしながら龍牙に向かい放たれた。
龍牙はそれを見ると、右手で腰の剣を抜いた。剣はライフルの様な形へと変形した。そして銃口に瞬時に魔力が収束する。
「【
白い閃光が光を纏うタラスクの身体を貫通した。
「嘘っ……」
「もう、休みな」
「しまっ……!」
タラスクが倒された事で唖然としていたマルタの懐に潜り込んだ龍牙はそう言うと、剣でマルタを斬り裂いた。
マルタの傷口から黄金の粒子が噴き出し始め、ゆっくりと倒れる。龍牙はそんな彼女を抱き留めると頭部の鎧が消え、顔を現す。
「ふふ……優しいのね」
「君に敬意を示しているだけだ。狂化されながらも、聖女たらんとした君にね」
「そう……全く、聖女の虐殺なんてさせんじゃないってぇの」
「魔女のドラゴンの天敵はリヨンかい?」
「何故それを……貴方は本当に何者なの?」
「さてね……せめてもの冥途の土産に教えて上げよう。俺は【異世界の神殺しさ】」
とマルタにだけ聞こえる声でそう言った。それを聞くと、納得した様な顔をするマルタ。
「そういう事もあるのね………ごめんなさい、タラスク。今度は、まともな所に召喚されたいわね」
そしてマルタは完全に消滅した、それにより宝具であるタラスクも消滅する。
「………ふぅ、一先ずは此処までは変わってないか」
龍牙はそう言いながら鎧を解除した。そして空の光輪を見上げた。
「何にせよ……早く終わらせたいものだ、この様な惨劇は」
~マルタを倒した翌日~
龍牙は目を覚ますと、朝日を見ていた。特に変哲もない朝日であるが、非日常である現在からすれば、今日を迎える事のできた喜びが在った。
「今日を迎えれた……はぁ、これが何もない日常なら嬉しいんだがな」
「あっ……無皇さん」
「ん?藤丸君か……おはよう」
「おはようございます」
どうやら立香も今、起きた様だ。
「顔色は戻ったな……今日は行けそうか?」
「はい……昨日はすいませんでした」
「別に君が謝る必要はないさ。あんなもの見ればあぁなるのが普通だ……昨日も言った様に無理はするな。辛い時は休んどけ、それもマスターに必要な事だ。そうじゃないといざと言う時にサーヴァント達が動けなくなる」
「はい……あの無皇さん。無皇さんも始めは俺みたいだったんですか?」
「そうだよ………もっと悲惨な状況だった。あの時は数日、飯が食えなかったくらいだ。今じゃそんな事はないけど……怒りは心の中に持ってるよ」
「……俺も……俺も……俺も強くなりたい。今の俺はマシュやダレイオス逹に頼ってばかりです。だから強くなりたい、皆の足を引っ張らない様に」
「……自分なりに頑張ればいいさ。ただサーヴァントや魔物と戦おうとしないでくれよ、俺みたいなのは特異なんだ。それに……強大な力って言うのは良い事ばかりじゃない。だから君は君の出来る事をすればいい、君にはマシュやエミヤ逹がいるんだから」
「はい!でも無皇さんはどうしてあんな力を……」
「元からアレ等は俺の中に在ったのさ……いや、正確にはアレ等の力を使う為に俺が産まれたってところか」
「それってどう言う……」
「おっとそろそろ朝飯にするとしよう、腹が減っては何とやらだ」
龍牙はそう言うと、話を打ちきり皆の元へと戻るのであった。その背中を見ながら立香は思う。
―きっとあの人は凄い経験をした来たんだろう……力の話をした時、とても哀しそうな顔していた。何時か追い付きたい。あの人の様にサーヴァントと戦う事は出来なくても、共に戦いたい―
立香はそう思いながら龍牙の後を追った。