~荒野~
龍牙はギルと初めて会ったこの荒野で、色々な事を思い出していた。
この世界に来てギルと初めて会った日のこと、ルガルバンダ王と色々な話をしたこと、ギルが女だと発覚した日、
沢山の思い出がある、楽しかった事も、辛かった事も、死にそうになった事も…………アレ?死にそうになったのが、7割くらい占めてんだけど。
まぁ………それなりに良かったさ、此処での生活は面白かったさ。大事な物も出来た………だから俺の総てを賭して護るさ。絶対にな……。
《ヴオォォォォォォォォォォ!!!》
龍牙は轟音で我に帰ると、地平の彼方から来る巨大な牛を確認した。
それは雲が小さく見える程、巨大な躰で天を翔ける
龍牙はその場から飛び上がり、イシュタルと同じ高さまで上昇する。イシュタルは龍牙を見るとニッコリと笑みを浮かべた。
「考え直して頂けましたか?私の物になることを」
「俺も返事を返さなかったのは悪かったと思ってるよ、女神イシュタル」
龍牙はそう言うと、イシュタルは表情を明るくする。
「しかしだからといって、
「私の物となってくれるなら、不敬を働いたギルガメッシュと
イシュタルは学ばない愚神であるが、慈悲の心はある。何より人間を愛しているのだ。特に自分の信者には慈悲と愛情をもって接するほどに人間を愛している。
「………まずは俺の返事だが……俺はアンタの事を1つも知らない、知らない相手を愛せないし愛する気も無い」
「ならば今から知っていけば良いではないですか」
「まぁ……そうなんだが……それでもギルとエルキドゥを……俺はアイツ等の事も大切だ」
「……まさか……フフフ、そうですか。私よりもあの娘達を選ぶと言うのですね」
「いやだから話し合いを」
「必要ありません。あなたが大切に思うあの2人とウルクには消えて貰いましょう」
「あぁ……やっぱ話し合いは無理か。最後に言っておくけどアンタは本当の俺を知らない、だから俺はアンタの気持ちに答えることはできない」
「何を言っているのか分かりませんが……貴方が私の物にならないのは分かりました。もういいです……さようなら、私が本気で愛した人…ウルクと共に滅びなさい」
イシュタルは哀しそうな眼で龍牙を見つめ、聖牛に命令を下す。
「消し飛ばしなさい……
照準はいうまでもない、龍牙とその背の遥か遠くにあるウルクだ。
龍牙はそれを前にしても武器を手にしない。イシュタルは絶大な力を前に絶望したのかと思った。
だが龍牙には武器等必要ない、なんせその身には真の原初より産まれた2つの力があるのだから。
《ゴオォォォォォォォォォォォ!!!》
放たれた神の一撃、それは一瞬で龍牙を飲み込んだ。そして遥か遠くに在るウルクを滅ぼす……筈だった。
その滅びの一撃は何の前触れもなく消滅したのだ。イシュタルは何が起きたのか理解できなかった。
そしてその眼で、滅びの一撃に飲まれて消えた筈の龍牙の姿を捉えた。
「ばか………な。そんな訳がありません!一体何をしたのです?!あの一撃を消し去るなど……神霊くらいなもの!それをどうして!?」
「アンタは破壊龍の戦いの時に実際にその力を目にした訳じゃないから知らないだろうけど……これが破壊の力だ」
先の破壊龍のことは、神の中ではその場に居たアヌ神、シュマシュ神、マルドゥク神、ニンスン神達しか知らない。アヌ神はシュマシュ神達にもギルガメッシュ達にも口外しない様にした。
イシュタルがどうやって知ったのかは定かではないが、詳細な事は知らされていない。故に破壊龍がどの様な力を持つか、どの様な存在かも知る由はない。
「『我は……産まれし………である』」
-我は無より出でし破壊の龍なり-
「『破壊龍よ………れ』」
-破壊の力をもって、王が敵を破壊しよう-
「『我、………と化し世界も………破壊し無へ……う………には死を与え………輪廻に還そう』」
龍牙は詠唱を終えると眩く禍々しい光が包み込み、辺り一面を覆う。
そして現れたのは、巨大で強大な何か……イシュタルはそれを目にして恐怖する。何かは咆哮と共に
恐怖したイシュタルは逃げ出す、目の前の存在は神を滅ぼすものだ。そして龍牙の言葉を思い出した。
-それにアンタは本当の俺を知らない-
だがそんなこと、考えている暇はない。一刻も早くこの場から逃げることを優先した。
強大な何かはそれを見て咆哮した。