~宮殿 玉座の間~
ギルガメッシュが王位を継いで数年。
龍牙はギルガメッシュの政を補佐しながら過ごしていた。龍牙がウルクに戻ってきてからと言うもの、ギルガメッシュの横暴は龍牙により少しではあるが抑えられていた。それでも民は苦しんでいる、王の暴挙を補うのも補佐の役目、龍牙は朝も夜も関係なく忙しく走り回っていた。
だがそんな時、龍牙の夢の中にアヌ神が現れた。
「どうかしたのか、アヌ神?また将棋か……それなら今度にしてくれ、今日は疲れてる。ゆっくり休ませてくれ」
龍牙は破壊龍の一件以降アヌ神やシャマシュ神、マルドゥク神と交流している。アヌ神からは正式に終末剣を譲渡され、俺が休みの日は創造龍の能力を用いて創った将棋やらチェス、トランプなどをして親睦を深めている。
神は嫌いだと言ってなかったか?
傲慢な神は嫌いであるが、アヌ神達は人間と共存しようとする神々である。敵対する理由がない以上、必要以上に毛嫌いする気はないし、向こうが友好的なのに一方的に嫌うのは失礼だろう。それに話せば中々に楽しいし、この世界の魔術や神秘を知る機会でもあるからだ。
『いや今日は遊びに来たのではない……龍王よ』
龍王とはアヌ神達が俺につけた仇名である。
『我は驕ったギルガメッシュを戒める為に女神アルルに命じ【諌める者】を創り、地上に送った。そなたにはその者を探し出して欲しい』
「【諌める者】……か」
『戦神二ヌルタの力も宿っている為、ギルガメッシュと同等の力を持っている………では頼んだぞ』
アヌ神はそう言うと消えてしまった。
その夢を見た次の日、狩人親子から平原に現れる野人を倒して欲しいと懇願された。
龍牙は前世の知識とアヌ神から告げられていたので、その野人が【諌める者】だと知っていた。
「ギル……この件は俺に任せて欲しい」
「ほぉ……お前がか……良いだろう、お前であればそう簡単に死なんだろうしな」
「(いや過労で死にそうだ)後、シャムハトを連れて行きたい」
「シャムハトを?……まぁいいだろう。疾く行け」
そうして俺はシャムハトと共に野人の出る平原へと向かった。
~平原~
狩人親子の案内でやって来た龍牙とシャムハト。
「龍牙様」
「ん?」
「何故私を供に選んだのですか?」
「それは貴女が娼婦であると同時に巫女であるからさ。今回の野人は神々が驕ったギルを諌める為に送った者……今の奴は獣でしかない、だからこそ貴女の力で奴に理性を与えて欲しいんだ」
「天の神々がその様な………分かりました。私に出来るのであれば」
2人はそう話していると、獣達の水飲み場にやって来た。その水飲み場には獣達と……泥の様な身体の野獣がいた。
「アレが……シャムハトは此処で待っていて」
龍牙はシャムハトを此処で待機させると、自分は獣達に近付いていく。
獣達は龍牙に気付くと、何故か逃げもせずに逆に近寄って来た。
(フフフ、こんな事があろうかと思ってウルクの獣達とは友達になっていたのだ)
野人は初めて見た獣以外の存在……人間で在りながら異なる何かを宿す存在を警戒する。恐らく獣の本能が龍牙の中の2体の龍の力を感じたのだろう。
「母神に造られた泥の獣よ、俺はお前の敵ではない……傷付けもしない。だからお前の力を貸してほしい」
そう言って野人に手を伸ばす、野人は始めは警戒していたが龍牙に敵意が無い事が分かると自らその手に触れてきた。
(ふぅ……なんとか上手くいったな。後はシャムハトに理性を与えて貰って、俺が知恵を与える)
そうして龍牙とシャムハトは行動を開始した。
1週間、シャムハトに野人を預け、俺はそこに通い知恵を与えた。やがてその姿は獣から人……シャムハトと瓜二つとなった。そして名前を与える【エルキドゥ】と。
こうして力の大半と引換えに人間の姿と知恵を手にしたエルキドゥを連れ、ギルガメッシュの元に向かった。
~ウルク~
待っていたのは威圧を放つ黄金の鎧を纏う女王だった。
「貴様が……………我を諌めるだと?」
「そうだ。僕が君の………慢心を正そう」
と始まった戦い……1対1の戦いなんて生易しいものではない、どう見ても戦争だ。シャムハトはこの戦いを「世界が七度生まれ、七度滅びた様だった」と後に語る。
「っておい、こんな所でしたら街に被害が出るぞ」
龍牙はそう言ったが、戦いに夢中の2人にはそれに気付かない。この時は殴り合いや剣での攻防なので良かったが、ギルガメッシュは宝具を財宝庫……
エルキドゥもコレに対抗し、自分の能力で地面により武器を創り出し放つ。武器と武器はぶつかり、弾け飛び街へと被害を出し始めた所で龍牙が動いた。
街に被害を出さぬ様に、結界を張り飛来する宝具をエンキで弾き続けるが、無尽蔵な武器を弾き切れず巻き込まれた龍牙。
「こらぁぁぁぁっぁぁ!!テメェ等ァァァァァァ!!!」
飛んできた武器に巻き込まれボロボロになった事で龍牙の堪忍袋の緒が切れた。日頃のストレスもあり、溜まっていたものが爆発した。
龍牙は間に入り、エンキで2人の攻撃を止めていた。ギルガメッシュとエルキドゥは戦いを止められ、文句を言おうとしたが龍牙の顔を見て止まった。鬼神すらも裸足で逃げ出す程の怒りの表情を見てギルガメッシュとエルキドゥは命の恐怖を感じ固まっていた。
「人様に」
総てを凍て付かせそうな低い声で呟く……そしてギルガメッシュとエルキドゥの鎧と服を掴む。
「迷惑かけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そのまま2人を荒野の方に向かい投げ飛ばした。
その時の龍牙を見てシャムハトは『恐怖の大王が舞い降りた』と語る。これから続く数日の戦いの中で唯一戦いが止まった瞬間である。
~荒野~
龍牙に投げられたギルガメッシュとエルキドゥは荒野に着地していた。
「………龍牙、怖かったね」
「うむ……普段、滅多に怒らんからな。あぁいう奴ほど怒ると怖いのだ」
エルキドゥはそれに同意し、互いに顔を見合わせ落ち着くと再び戦いを始めた。
それから数日の2人は戦い続けた。龍牙はと言うと、ウルクに被害が出ない様に不眠不休で結界を張り続けていた。
ギルガメッシュとエルキドゥは数日戦い続けて、同時に倒れ込んだ。既に限界であった為、2人はピクリとも動かない。
「はぁはぁ………お互いに、全て悉く出し尽くしたか」
ギルガメッシュの表情は、財宝を全て使い切り、満身創痍にも関わらず晴れている。恐らく、此処まで全力で戦ったのは彼女の人生で初めての事だろう。
「大事な財宝を使い尽くして惜しくないのかい?」
エルキドゥはギルガメッシュにそう尋ねる。
「なに……それに値する輩で在れば、くれてやるのも一興。だが財を投げ放つなど…悪い癖を付けさせてくれた……まぁそれも悪くない」
ギルガメッシュはそう言うと、笑みを浮かべた。
こうしてギルガメッシュとエルキドゥは友となった。
その頃、ウルクでは………不眠不休、全力で国1つに結界を張り続けた龍牙は戦いが終わったのを感じ取ると気を失っていた。
それからギルガメッシュは何に対しても、龍牙やエルキドゥの意見を聞く様になり少しは暴挙もマシになった……が龍牙は日々ストレスで胃を傷めている。
「はぁ……疲れたぁ」
「龍牙、お疲れ様……眼の下凄い隈だよ」
「完徹5日目だからな………」
この所、龍牙は眠れていない。それは何故かと言うと、つい先日起きたギルガメッシュとエルキドゥの戦いで出た国への被害の後始末である。
現在、龍牙はエルキドゥと共に街の中を歩いている。偶々出会ったエルキドゥに散歩に誘われ、息抜きに散歩している。
「そう言えばエルキドゥのその姿はシャムハトを真似たんだったな」
「うん、僕は泥人形だからね。男でも女でも、動物でも、武器にも鎧にもなれるよ」
「へぇそうなんだ………この見た目で男と言うのは勿体無いと思う」
「龍牙は僕が女の子の方がいいの?」
「うん、だって可愛い女の子に囲まれてみたい……と言う訳で女の子で居て下さい」
何とも不純な理由であり、普段は決して言いそうにない事を言う龍牙。恐らく疲れているんだろう。
「まぁ僕はどっちでもいいし……じゃあ女の子でいるとするよ」
こうしてエルキドゥの決まっていない性別が決まった(何時でも変更可能)。
「っ!?」
龍牙は何か不気味な気配を感じ振り返るが何も無い。
「どうかした?」
「いや……なんか妙な視線が……気のせいか」