〜冥界〜
冥界、それは死者の国であり、本来であれば生者は踏み込んではならない世界。冥界は神話により様々だが、地下にあるとされており、このメソポタミアにおいても冥界は地下深くに存在する。
龍牙が使った鐘はかつて、彼がこの時代にいた時にこの冥界の主より貰った物で、鳴らすだけで冥界への門が出現し、出入り可能の権利の証となっている。
「さてと……取り敢えず奥に向えばいいか」
「そうね。アイツの事だし奥にいると思うわ」
龍牙は振り返る、そこには女神イシュタルが立っていた。
「……疲れが抜けてないな、帰ったら寝よう」
「幻覚じゃないわよ。ギルガメッシュが死んだって聞いてやってきたのだけど偶々、アンタを見つけて冥界の門を出したから一緒に飛び込んだのよ」
「あの女神イシュタル……此処はエレシュキガルの領域ですけど」
「だから?」
「神話時代からあまり仲が良くないと聞いてますけど」
「私が気に入らないのよ。私の半身でありながら性格も性質も正反対、何時も暗いしウジウジしてるし、アイツはちゃんと役割を全うしてるのだし胸を張っていればいいのに……」
「つまり、姉が心配と」
「ちっ違うわよ!」
神話の時代からあまり仲が良くないと思われていたが、イシュタルなりにエレシュキガルを思っているらしい。依代の影響か、それとも大本のイシュタルの影響なのかはさておき、龍牙はそれを聞き微笑ましく思っていた。
「じゃあ取り敢えず行きましょうか、女神イシュタル」
「……ねぇ、前から思ってたけど他人行儀過ぎない?」
「多少なりに敬意をはらってるんだが」
「なら辞めなさい、もっとこう親しみを込めて話しなさい。敬語も禁止よ」
「はぁ……分かったよ、これでいいか、イシュタル?」
といきなり真っ直ぐ自身を見てタメ口で話し掛けられ顔を赤くするイシュタル。
「やればできるじゃない。さっ……さぁ行きましょう(ヤバッ……胸がきゅんとしちゃった)」
赤くなった顔を隠しながら先に進むイシュタル。龍牙も後に続き歩を進める。
少し進むと大きな門が現れる。
「こんなんあったかな? 以前はなかった様な……一本道だし、これを越えないといけないか」
「チッ……面倒ね」
『創造と破壊の龍を宿せし龍牙に問う』
と何処からともなく声が聞こえてきた。
『美の基準は千差万別のようで絶対なり。黒は白に勝り、地は天に勝る。
であれば……エレシュキガルとイシュタル。美しいのはどちらなりや?』
「ちょっと! 前と質問が違うじゃない! しかも名指しってどういう事よ!」
イシュタルはこの質問に怒り講義するが、謎の声は『こた〜え〜よ』と言うだけ。
「問題に正解しないと進めない感じか……さてどうこたえt「そんなの決まってるじゃない! ねぇ!」」
イシュタルは龍牙の肩を掴みそう言う。よく見れば爪が食い込む程強く握られているみたいだ。
「(何となく予想はつくが)では答えはイシュタル」
それを聞きイシュタルは勝ち誇った顔をし身を翻す。半分脅した様なものなのに満足なのだろうか?
「フフフ、当然よね。アイツは植物と腐敗の女神、私は美と豊穣の女神。どっちが美しいかなんて決まt」
イシュタルが勝ち誇った顔をして、身を翻し髪を靡かせ歩を進める。門に近付いた瞬間
ードガッーン! ー
「アババババババッ」
イシュタルに雷が落ち彼女は悲鳴を上げる。雷が止むと黒焦げになったイシュタルがその場に倒れ込んだ。
「あちゃー……」
『バーカーがー』
「答えはエレシュキガル」
『よーろーしーいー』
謎の声がそう言うとゴゴゴゴッと重い音と共に門が開いていく。
「確か冥界の門は7つだったか……つまりこれが後に6回続くと」
黒焦げになったイシュタルを
残り6つの門、その度に質問に答えようとする龍牙の邪魔をするイシュタル。彼女はその度に冥界の雷を受けていた。何故か1つ目の門以降、雷の威力が上がっていたのは気の所為だろう。
その結果
「力を削がれる=縮むのか……」
龍牙は目の前で掌サイズまで縮んだイシュタルに対してそう言った。
神話の時代、イシュタルは冥界へ降った事がある。その際にも冥界の7つの門を通った、エレシュキガルはイシュタルが門を通る際にその力と権能の象徴する服や装飾品を1つずつ奪い去り、最後には丸裸にしたと言う。今回は力を削がれ縮んだ様だ。
「フハハハハハハ!」
門を超えた所で笑い声が聞こえてきた。振り返ってみると、腹を抱えて笑うギルガメッシュが立っていた。
「アハハハハハ! ぷくく……ぶはぁ、アハハハハハ! はぁはぁ、イシュ……タル……貴様、何だ、そのチンチクリンな姿は! 我を殺す気か?! アハハハハハ!」
「なんですってぇ!」
ギルガメッシュは笑いながら苦しそうに悶えている、そんな彼女を見てイシュタルは怒ったのか飛び蹴りをする。
しかしギルガメッシュは指先でイシュタルを摘み、ぷらっぷらっと揺すっている。
「離しなさいよ!」
「フハハハハハハ! 戻ったら日誌につけなければ『英雄王、チンチクリン女神(笑)の所為で腹筋大崩壊と』」
「誰がチンチクリン女神(笑)よ!?」
「よぉ、ギル。元気そうでなによりだ……死んでるのに、元気と言うのも変な話か?」
「ウム、出迎え御苦労」
「それにしてもギルが過労死とは……昔の俺の方が凄く死にそうだったのに」
龍牙はそう言うとギルガメッシュの笑いが止み、顔を反らす。どうやら彼女も昔の事については自覚はある様だ。
「フム……まぁ、その様な事もあったな。ではエレシュキガルの元に行くとしよう」
「おい、こらっ……って行っちまった。相変わらず自分勝手な……まぁ、仕方ないか」
先に行ったギルガメッシュを追いかけて行く龍牙。
「だから離しなさいよぉ!」
掴まれてるイシュタルの叫びは誰も虚しく響いていた。
冥界の最奥についた。
岩だけの広場と無数の檻の様な物に光の球が浮遊していた。
「此処が冥界の最奥か」
「あぁ……当の本人が見当たらないけど」
龍牙とギルガメッシュが辺りを見回すが誰もいないようだ。
「おーい、エレちゃ〜ん」
龍牙がそう言うと奥の方からダダダダダッと何の音がする。
「その呼び方止めてぇぇぇぇ〜」
どうやら誰かが走って来たようだ。その誰かは龍牙達の元に着く前に石で躓いた。そして顔面から地面に突っ込み、龍牙達の足元まで滑ってきた。
「えっと……大丈夫?」
「ぅう〜……こんな再会なんてあんまりなのだわぁ」
このイシュタルと瓜二つの少女こそ、この冥界の女主人、エレシュキガルである。