三女神同盟、この第7特異点において存在する女神達、エレシュキガル、ティアマト、ケツァル・コアトルの三女神が結んだ同盟だ。
三女神間で結んだ契約は、それぞれの女神達の活動において不可侵を守る事であり、もし破れば死が待っているというものだ。
「さてと……貴女がケツァル・コアトル?」
龍牙はジャングルを抜け、神殿までやってくると待ち構えていた女性にそう尋ねる。
「はーい! そうでーす! 私がケツァル・コアトル、貴方は誰かしら? 人間……よね? 翼が生えてるけど、人間よね?」
背の高い女性、勿論ただの女性ではない。
真名ケツァル・コアトル、中南米、アステカ神話における最高存在の一柱であり。生命と豊穣の神、文化の神、雨と風の神、太陽の神として崇められていた存在。
「龍牙という。ちょっと特殊な人間さ、今は人類の為に戦ってる。
此処に来たのは戦う為じゃない、三女神同盟の一角の貴女に用があってね」
「私に?」
「人類を滅ぼすのは止めて貰いたい」
「嫌だと言ったら?」
「戦うしかない……出来れば戦いは勘弁して欲しいんだけ……」
「嫌で〜す。私、とっ〜ても興奮しています! 何せ貴方がとても強そうだからでぇーす!」
どうやらケツァル・コアトルは戦う気満々の様だ。
「ハハハ……はぁ……ですよねぇ」
龍牙は苦笑いしながら、諦めた様な表情をしていた。
「女神相手だ……こっちも本気出さないとな。俺が勝ったら言うことを聞いて貰うぞ」
そう言うと龍牙が光に包まれ、
「「…………」」
互いに無言のまま、睨み合いが続く。
端から見ればただ突っ立ってるだけにみえるが、そうではない。互いに強者である故に、相手の動きを見ながらも、頭の中で無数の攻防を繰り返していた。
風が吹き近くの木から葉が落ちてくる。カサッと葉が小さな音を立てて地に落ちた瞬間、待ってましたと言わんばかりに駆け出した。
龍牙とケツァル・コアトルの拳がぶつかった数秒後、遅れてゴォーと衝撃が発生、2人を中心に周囲の物を吹き飛ばす。
「凄い……凄いでぇーす! 私の本気の一撃を真正面から受け止めるなんて! 神でも中々いません!」
ケツァル・コアトルは自身の本気を受け止められた事を歓喜した。
「そりゃどうも……成程、こりゃギル達じゃ分が悪い訳だ」
拳と拳かぶつかり合い、力が拮抗している中、何事もないかのよう様に会話している2人。再び離れると、最接近、両者は互いに拳を交える。
「善性の頂点……つまりは善性の力では傷付かない訳か」
「その通り! この短時間で私の特性を見抜けましたね!」
「骨の一本でも貰うつもりで殴ったのに皮膚に掠り傷もついてない。神の力でも貫通する力だったのに……今の俺の状態ではダメージには期待できないか、ならっ!」
創造龍の鎧が黒い光に包まれていく。
【破壊龍:
創造龍から破壊龍の鎧に切り替える。
「グオォォォォ!」
漆黒の力が溢れ出し、龍牙に収束していく。
「っ! これは……」
「あまり時間がない……次で終わらせるぞ」
龍牙の全身に力が巡り、人の域を越え、神の領域へと引き上げる。
「凄い……凄いです! 血が滾ります! いいです! 私も次に全部乗せま〜す!」
ケツァル・コアトルも神の力を発動する。ケツァル・コアトルは太陽の神としても崇められていた。故に彼女の発する力は太陽そのものだ。凄まじい熱気が彼女から発せられ、その両腕に灼熱の炎を纏う。
「はあぁぁぁ……」
龍牙は腰を落とし構えを取る。
「いきまーす!」
ケツァル・コアトルはそう言うと、その場から消えた。彼女は一瞬の内に龍牙へと接近していた。
「はあぁぁぁぁぁ!」
灼熱の拳が龍牙に迫る。
「っ……おおぉぉぉぉ!」
龍牙は顔に迫った拳をギリギリ避けると、彼女の懐に潜り込み自身の拳を放った。
「……何の真似ですか? 拳を止めるなんて」
龍牙はその拳をケツァル・コアトルの胸に当たる寸前で止めていた。
「アンタならこの一撃が自分の致命傷になると理解しているだろう?」
「えぇ……少なくともこの霊基が傷付いていたでしょうね」
「俺は少なくともアンタが人を見下し、玩具にする様な神には見えない。それなら俺が破壊するべき対象じゃない。
それに開始前に言った筈だ、俺が勝ったら言うことを聞いて貰うと。
俺は人の未来を護りたい、だからアンタの力を貸してもらう」
破壊龍の鎧を解除し、そう言った。龍牙の顔は半分はケツァル・コアトルの拳で焼け爛れていた。
「口約束ですよ? 私が裏切るとは思わないのですか?」
「俺が見る限りはそんな人には見えないし、それに裏切られるなら、信じ切ってから裏切られた方がいいしな」
そう言って子供の様に笑う龍牙。
「……」
ケツァル・コアトルは俯いている。
「?」
「私……とぉ〜ても! 貴方が気に入りました! 私、貴方の力になりまーす!」
「あっ……どうもありがとう」
2人が話していると、ガサッガサッと茂みが揺れる音がした。2人がそちらを見てみると……
「あたたたたっ……あんのやろぉ〜ひき逃げしやがってぇ」
虎の服を着たボロボロの女性が出てくる。
「あっあんたは……うわぁ……イシュタル、エレちゃんに引き続き、エミヤの胃に穴が空きそう」
その女性の顔を見て龍牙はそう呟く。
「あっー! お前は! 良くもアタシをひきやがったな! ククるん! そいつ引き渡して! このわたっ「ジャガーマン、少しうるさい……後、少しお願いがあるの」」
ケツァル・コアトルはジャガーマンに接近する。
「ククるん! 私はその「いいわね?」はい! 分かりました!」
ケツァル・コアトルの圧に負け、ジャガーマンは彼女の言うことを聞くことにした。
「それでは行きましょう!」
「えっ……ちょ」
ケツァル・コアトルに抱き抱えられると、その場を飛んだ。
〜ウルク 王宮〜
「それで?」
ゴゴゴゴゴッと凄まじい圧を出しながら玉座に座るギルガメッシュ。その横には苦笑いしているシドゥリがいた。
「ぇえ〜と……ギルの命令通りケツァル・コアトルの協力をだな」
「私、ケツァル・コアトルはダーリンに従いまーす」
そう言いながら龍牙に抱きつくケツァル・コアトル。
「ほぉ……」
ギルガメッシュの圧が更に強くなる。
このままでは拙いと思った龍牙は周囲を見回す。衛兵達はその視線に気付く。
「そろそろ交代の時間だ! 駆け足!」
衛兵達はその場から駆け足で去って行く。次はシドゥリに目を向ける。
彼女は龍牙の視線に笑顔で返す、しかしその顔は『御自分の不始末は御自分でお拭い下さい』と言っていた。
既に逃げ場はない、どうするかと考えていると、
「ギルガメッシュ王、報告を……」
立香とマシュ達が報告にやって来た。龍牙は助けの視線を彼等に送るが、
「……出直します」
「そうですね、そうしましょう」
どうやら空気を読んで出直した。
「さて……邪魔はなくなった。説明して貰おうか」
(俺も逃げ出したい)
さて龍牙はこの場から生還できるのだろうか?