玉座の間にて繰り広げられる攻防。
片や神秘を宿した無数の杖から放たれる魔術と、マシュとアナによる物理攻撃。片や宝石を媒体にした魔術に加え、神舟から放たれる一撃。
広いとは言え、建物の中で放つものではないのだが、ギルガメッシュとイシュタルはヒートアップし止まる事がない。
兵士達はイシュタルに因縁をつけられるのを恐れてはいる。老年の兵士達は若い兵士達を逃がし、自分達はシドゥリと玉座の前に陣取り、守りの体勢に入っている。
何せ、玉座の後ろには龍牙が居る。この状況で龍牙に何かあった場合、ギルガメッシュとイシュタルの本気の殺し合いが始まるのを知っているからだ。
龍牙は事の次第を玉座の後ろから見ていた。
「シドゥリ、シドゥリ」
「はい、何でしょうか?」
「1つ聞きたいんだが……何故イシュタルはあんな姿に?」
「そうでしたね……龍牙様は御存知ではなかったんですね」
シドゥリは説明を始める。今や神々はその姿を隠し、姿を現す事はなくなった。
だからこそ、巫女所は神を呼ぶ儀式を行った。儀式は女神イシュタルを依代に降ろす事で召喚は成功した。
「道理で……人間臭い性格になった訳だ。以前よりはマシな感じだな」
龍牙は玉座の影から戦いを覗いた。
「とは言え……このままじゃ政務が滞るんだよな。只でさえ量が多いのに」
「龍牙様、いけません! 王の機嫌が」
「それより徹夜の方が嫌なんだ! 一度滞ると徹夜地獄が始まるんだから!」
龍牙はそう言うと、久しく使ってなかったエンキを呼び出し飛び出した。
「このぉぉぉ!」
「フハハハハハ! 踊れ! 踊れ!」
戦闘は激しくなっていき、あちらこちら破壊されていく。
「さっさと消えろ! この淫◯女神が!」
「何ですって!? アンタだって人の事を言えないじゃない! あの人を誘惑してたじゃない!」
「奴は我の物だ! 我がどうしようと貴様に関係あるか!」
途中から互いを罵倒する口戦が始まり、更に攻防も強くなる。
「えっとマスター……私達はどうすれば?」
「私は嫌です」
「どうしよう……?」
途中から戦いに入れなくなったマシュ、アナ、立香。
何せ同じ男に惚れた女と女の戦いだ、入れる筈がない。
「どうせ、貴様など奴に相手されん!」
「アンタだって我が儘放題でいつ嫌われるのやら。私ならそんな事にはならないでしょうけど!」
「我儘を具現した様な貴様がほざくな!」
「そっくりそのままアンタに返すわ!」
全ての言葉が自分に返ってきてるのだが、互いに気付いていない様だ。
「はい! そこまで!」
ギルガメッシュとイシュタルが再びぶつかり合おうとした時、間に割って入る存在がいた。龍牙だ、彼はエンキの剣先を両者に向けている。
「龍牙!?」
「あっあなた、戻ってきてたの!?」
「2人ともそこまで! 周りを見ろ! どれだけ破壊するつもりだ?!」
そう言われ、ギルガメッシュとイシュタルは周りを見てみる。破壊された壁、床、柱、上げればキリがない。そして互いに顔を見合せると
「「コイツが悪い!」」
互いに悪いのは相手だと言い張り指差すギルガメッシュとイシュタル。
「両方悪いわ!」
龍牙はそう言うと、ギルガメッシュとイシュタルの頭に拳骨を落とす。
「「っ~!!」」
「ギル! お前はもう少し周りの被害を考えろ! お前の宝物庫の物は1つだけでも強力なんだから!」
「しっしかしだな」
「しかしもかかしもあるか! これを直すのにも時間と人手、資材がいるんだぞ! 平和な時はまだしもこの大変な時に周りに迷惑をかけるな!」
「はぃ……」
ギルガメッシュは久しぶりに龍牙に怒られた事と、龍牙を本気で怒らせたらまずい事を身をもって知っているので大人しくしていた。
「それと女神イシュタル!」
「はっはい!」
「昔からのギル達と仲が悪いのは知ってるし、アンタの性格もある程度把握してる。けど一応この都市の神ならもう少し考えて貰いたい」
「でっでも! 私はーむぐっ!?」
と反論しようとしたがギルガメッシュに口を塞がれる。
『馬鹿者! 今のこやつに逆らうな! 本気で怒らせたら大変なのだぞ!』
『はぁ!? この私を怒るなんていい度胸じゃない!?』
『黙れ! 貴様はあの恐怖を知らんからそんな事が言えるのだ! 前に我とエルキドゥが奴を怒らせた時、説教が3日間続いたのだぞ!』
『3日!? 長いわ!』
『あの時は半月程徹夜させていたからその時の影響もあるだろうが……アレを見たアヌ神やシャマシュ神は即効逃げ居ったわ!』
『お父様達が逃げ出すってどんなに怖いのよ!? と言うか全面的にアンタが悪いじゃない!』
と小声で話し合っている2人。
「取り敢えず分かって貰えたら俺はそれでいいけども……ギルは政務に戻って、女神イシュタルはぶち破った天井直してからお帰り下さい」
「「はっはい」」
「後、女神イシュタル。これ以上此方に被害がある様なら……その時は覚悟しておいて下さい」
龍牙が笑いながらそう言う。
「ひゃ……ひゃい!」
笑っているものの、有無を言わさない迫力により裏返った返事を返すイシュタル。
「さてと……藤丸君とマシュ、アナはご苦労様。悪かったね、変な事に巻き込んで」
「えっと、いえ……俺達始めしか参加してませんし」
「そりゃ仕方ないよ。じゃあ取り敢えず、シドゥリ。彼等を来賓館へ、色々な仕事を与えてやってくれ。そうすればギルも話をする気になるだろうから」
「承知しました」
「ギルもそれでいいな?」
「うっウム」
「以上、解散!」
龍牙はそう言うと政務へと戻っていった。
それを見たシドゥリ、兵士達は思った。
(王だけでなく、女神イシュタル様さえも叱って、諌めてくれるのはやはり龍牙様しかいない!)と。
ギルガメッシュの盟友、エルキドゥの姿をした何者かは上空からウルクを見下ろしていた。
(なんだ、この気持ち悪さは……)
エルキドゥ? は胸を抑える。
(ギルガメッシュ……龍牙……奴等の事を考えるとノイズと不快さは……一体なんだ?
ノイズの中に混じっているのは…………この
エルキドゥ? の目から涙が流れ出す。
(なのに……なんでこんなにも僕の心を乱すんだ)
エルキドゥ? は泣きながらその場から離れ飛んでいった。