闇影の軌跡 〜黎明〜 作: 黒兎
最近、プリヤの曲好き過ぎて作業用BGMとして起用している「 黒兎」です
さぁ、ようやく序章終了です。やったー 黒兎さん大勝利!(本来なら昨年末までに到達しておきたかった所)
超久々の対人戦闘………空白期間長過ぎて感覚を忘れててすまない………読みにくいかもです
正式に特科クラスⅦ組の発足が宣言され、それは全員無事に特別オリエンテーリングを終えた事を指し示している。
故にもうこの旧校舎地下に留まる理由は無い……無いはずなのだが。
何故か、誰も一向にこの場から離れようとしなかった。
その原因は────
「…………」
────無言で軽くウォーミングアップしているゼダスと。
「…………」
────同じく無言で髪色と同じ深紅の導力銃をクルクルと回しているサラがいたからだ。
当の本人たち以外は、何故こんな状況になったかは理解出来ていない。
しかし、この二人の眼の真剣さが何か普通でないことが起きると物語っているように思え………結果、誰もがその光景を無言で見入る他無かった。
―――*―――*―――
特別オリエンテーリング前に交わした口約束───「最後まで辿り着いたら、遊んであげる」。
そして、ゼダスは現に最後まで辿り着いた。ならば、叶えてもらっても何の問題もない。
その事実から来るゼダスの随分と押し殺した闘気はサラの肌を以って、ひしひしと感じていた。
「(今まで何度かは執行者と殺し合ったことはある………けども、ここまで明確で一点集中な戦意は初めてだわ)」
他者には一切欠片すらも露見させずに、ただ対象を襲う細き、鋭き戦意。
だが、細くありながら、その戦意はまるで竜が顎門を開いて待ち構えているよう。軽々に飛び込めば、即座に呑まれるのが眼に見ている。
これは簡単に済みそうにないと思うサラを尻目にゼダスも思考を奔らせる。
「(強くはあるかもしれないが、充分勝てるな。………なら、楽しむだけ楽しもう)」
と、思うところ、負けるなんて毛頭考えていない。
執行者がこんな所で負けない。負けていられない。
失った記憶を取り戻すべく、全てを喰らわんとしたからこその絶対勝利の想い。
その想いが胸中にある限り、ゼダスという存在は決して負けないし、折れない。
そう………そうするしか────
「そろそろ良いかしら?」
不意に掛かるサラの声。
少し思案に暮れ過ぎて、周りと見ていなかったことを反省しながらもゼダスは、
「ああ、いつでも良い」
と応答する。
しかし、言葉と裏腹にゼダスは素手のまま。つまり、サラ相手でも主武装を使う気が無いのである。
だが、サラはゼダスの主武装に関しては知っている。学院側に申請しなければならかったのだから、当然と言えば当然。
故に主武装を使わないで戦うというのは完全に“慢心”にしか思われないのだが、生憎この場にいるのはゼダスとサラだけでは無い。別に居なくてもいい
そんな衆の前でゼダスの主武装───ちょっと世間一般ではお目にかからないであろう物は極力使いたくない。…………が、相手は十二分に実力者。最悪は使わざるを得ないかもしれないが、それはその時で。
つまりは最初は徒手空拳で戦い、相手の力量等々を計ってから展開を変える戦法で行く。
ゼダスの意が固まったことを確認し、サラは左手に握った深紅の導力銃から弾丸を一発取り出して、言い放つ。
「今からこの銃弾を投げるわ。そして、銃弾が地面に着いた瞬間、スタートで良いわね?」
「別に構わない。ルールはそっちに全部任せる」
「あっそ。じゃあ、致命傷以外は全部当てに来ていいわよ。フィニッシュは寸止めってことで」
こうやって戦うことになっても、今は教師と生徒。流石に戦場宛らに生命の奪い合いとは洒落込めないようだ。
少々落胆したいが、常識的な判断で安堵すべきか否か……と思っていると、サラはコイントスの要領でピンッと銃弾を跳ね上げる。
そこまで明るいとは言えない空間の中、煌めく銃弾の輝き。それは天の彼方まで昇り行くのかと一瞬錯覚を覚えたが、次の瞬間には重力に押し負け、地へと回帰してくる。
その様を眼で追い───落ち終わる直前、サラと目線が合う。
明確な闘気と鋭利な戦意を宿すその琥珀色の瞳がより一層ゼダスの心を踊らせた。
嗚呼、ゾクゾクする。身体の芯から震えてくる。なんと───心地良いことか。
────カキンッ!
石床に銃弾が跳ねる音が響くや否や、ゼダスは地面を蹴り砕き、一気に加速。
一切速度を緩めずに近付き、開幕速攻を狙おうとするが───それを許すほど、サラは甘くない。
導力銃を高速三連射。しかも、両端の逃げ道を塞いだ上での中央射撃。
先手を取られた時の対応としたら、定石にして模範と取れる。よく出来ている。
……だが、今日の列車内での一件を知っている者ならば、理解出来ているはずだ。ゼダスの体術の前には銃弾はさして意味を成さない事に。
しかし、その程度の事実は執行者であると知っているのならば、予想出来て然るべき。寧ろ、ただの銃弾風情に殺られる訳ないのだ。
故に放った弾丸はただの銃弾では無く───
「(雷電を纏った銃弾………《紫電》の異名を頂くだけはあるな)」
流石に紫電の弾丸を素手で掴んだり、弾いたりすることは難しいというか無理。
普通の弾丸を掴むよりも痛覚に響くし、雷電の影響で数瞬の硬直なんて発生しようものなら、後々の戦闘に影響を及ぼす。
ならば、この状況を切り抜けるにはどうするのが最適解か。ゼダスの頭は刹那よりも短い時の間、一気に思考を加速させる。
順当に考えれば、防げないのなら避けるに限る。
だが、左右は紫電の弾丸が通り抜けている所為で横への回避は無理と見ていい。
ならば、上。上なら跳躍すれば避けれる。だが、サラの導力銃に弾丸が残っていたら、空中にいる間に撃ち抜かれる。
と、残るは………
「(───下。多少は無謀だが………………試すだけ試すっ!)」
加速によって生まれた運動エネルギーを全部右腕部に収束。力の溜まった右拳を───地面に叩き付ける。
すると、石床はいとも容易く砕け散り、破片が舞い上がる。そして、ゼダスは瞬間の時の中、極限まで集中し、一番大きな破片を左ストレートで弾丸の様に撃ち出し、紫電の弾丸と衝突させる。
「避ける手段はほぼ対策されていると仮定してからの破片で相殺、か………随分と荒技だけど、神業でもあるわね」
流石のゼダスも、砕いて跳ね上がった破片を動く弾丸に打つけるなんて高等技を試す訳が無かった。結果、自らの腕で撃ち出すという工程を挟まざるを得なかったが、それでも間に合わせるという手腕の良さは舌を巻くものがある。
「まだまだ朝飯前だっての。その場凌ぎの即興技にそこまで言われる筋合いは無い」
地面を殴り付けた右手に付いた欠片を払いながら、何でも無いと断言するゼダス。
言葉を交わすよりも戦いたい───そう言わんとする風に拳を構え直す。
その姿にサラは過ぎった疑問というか意見を発したくなった。
「アンタ………やっぱり、主武装使わない理由が分からないわね」
「………………別にどうでも良いだろ」
「だって、徒手空拳だけでもそれだけの実力持ちなら、別に主武装露見したところで対応出来るでしょ? なら───
何気無く言い放ったサラの言葉。
その言葉にゼダスは表情を変えずに───不自然なまでに平静を装って、言葉を返す。
「もう一度言うが、どうでも良いだろ? 別に主武装が使えない訳じゃないし、最悪の場合は使ってみせる。だったら、御託を並べるよりも戦え。戦って、本気を引き摺り出せよ。そっちの方が普通に早い」
くだらない言葉を並べる暇があるのなら戦え───と、態度でも示し、構え直す。
しかし、ゼダスがそう言ってくるのは最初から予想の範疇だったのだろう。サラは深紅の強化ブレードを構え、仕掛けてくる。
《紫電》サラ・バレスタインの主武装は導力銃と強化ブレード。遠距離も近距離も対応出来るという優れた組み合わせだ。
それに加え、彼女の魔力自体がそうなのかは分からないが、雷の扱いにも長けている。
その才能に血も滲むような努力の末が最年少のA級遊撃士という結果。
確約された実力。それを体験出来るとなると多少は胸が踊るのだが、さっきの問答が心に苛立ちを残していったからか、素直に楽しめそうに無い。
風切る音と共にゼダスの身にサラの刃が襲い来る。
その全てを手刀で跳ね返すのだが、刃には雷電が付与されていて、接触を限り無く少なくしてはいるが………
「(チッ………)」
身体に雷撃が流れ込んで来て、ゼダスの身体を蝕む。
雷撃の度に身体に命令を下す電気信号が狂うが、その度に無理矢理信号を書き換えて、何とか運用させているが、こんな荒技が何度も何十度も使えるはずは無い。
早めに決着を付けるが吉だ。そして、押し切る術は持ち合わせている。
まだ身体に自由があることを拳を握り締めて確認。
「(嗚呼、まだ動く。次───斬撃一往復分の後の射撃を躱し、反撃で終局だ)」
今まで蓄積してきた行動パターンから次の手の数々を割り出し推測。
他聞よりも自分の体感して得た情報の方が的確であり、ゼダスの執行者としての観察眼を以ってすれば、殆どの場合読み違える事は無い。
予測通り、左右への斬り払いを避け、その瞬間を狙った射撃は紙一重で回避。
その瞬間、サラの攻撃が止む一瞬。ゼダスは左腕に溜めた力をパイルバンカーが如く、最短射程最高火力でサラの腹部を撃ち抜く。
一切の容赦も情けも慈悲も無い一撃にサラは表情を歪ませるが───
「───ハァッ!」
まさかの強化ブレードで反撃。
充分過ぎる程の痛みで行動不能のはずなのに反撃してきた。この場合は予想外で、完全に避け切れずに頰に刃が掠めて行く。
その時、ゼダスの中で
ぐったりと地に倒れるサラを見下ろすゼダスはハァハァと肩で息をしていた。
別に苦戦した訳じゃないし、大して疲れている訳ではない。執行者として働いていた時にはもっと疲れたこともあった。
なのに………それなのに。
「(胸糞悪くて、吐き気がする………何だ、この気分)」
変な気分が絶え間無く襲い来る。
雷撃を喰らいながら無理に身体を動かしたからか? 電気信号を自ら書き換えたからか? それとも───サラの言葉に柄にも無く精神を揺すられたからか?
「………………クソッ」
漏れた言葉は短いながらもゼダスの現在の心境を表すには充分で………
「お前らの誰でも良いけど、教官運んでやってくれ。確か駅近くの建物が寮なんだろ? 先に行かせてもらう」
そう言い残し、ゼダスが去って行く姿をⅦ組メンバー全員、呆然と見詰める事しか出来なかった。
―――*―――*―――
貴族専用の学生寮、平民専用の学生寮とは別にⅦ組にも専用の学生寮が誂えてあった。貴族の第一、平民の第二と来て、Ⅶ組の第三学生寮。
駅近くの空き家を改修したらしいが、学院からは若干遠い。しかし、交通の利便性を考慮すれば充分に良い立地だ。
気分悪い中、何とか寮まで辿り着いたものの、安全上を鑑みれば当たり前なのだが施錠されていた。ちょっと………ほんのちょっとだけ癇に障った結果、秒速で
寮に入るや否や、
とりあえず、荷物の類いを部屋の端っこに全部押しやり、備え付けてあるベッドに倒れ込む。
気配を探るに、周りには誰もいない。ならば、いつでも動ける様にだけはしておいて、休憩して良いはずだ。
「………………」
特に独り言や愚痴をボヤくでなく、全身を弛緩させる。特段疲れた訳で無いにしろ、多少楽に感じる。
地下での戦闘が終わった頃には既に夕方だったのだろう。窓から差す夕焼けが妙に眩しい。
さて───何故、気分が悪くなったか。そこを考えれるまでに思考が落ち着いてきた。
気分が悪くなった要因は分かっている。行動不能のはずのサラが放った最後の反撃だ。
故に分からない。───何故、その要因で気分が悪くなる? ここまで胸糞悪くなる?
完全に思考の迷路に陥っているのは理解出来ている。そして、今のゼダスがその迷路から抜け出す解法を持っていない事も理解出来てきたところだ。
「初日から、こんな面倒な課題に打つかるとはな………先が思いやられるというか何とやら」
そんなこんなで始まる埒外過ぎる執行者の初めてにして、新たな学院生活。
周りで巻き起こる様々な事案や事件が織り成す人間模様。
その結末を知るのは在るか分からぬ神か、それとも《盟主》か、それとも────………