闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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最近、不運だらけの「 黒兎」です………ホント何も当たらないんですけど。吐血しちゃうよ………


今回はね………オリキャラ要素強いよ。意識して多めにしたよ。Ⅶ組少なめよ←








特別オリエンテーリング

 落ちた先は旧校舎地下一階。形状としては円状の広間だった。

 そこで見たのは───

 

「何があったかなんと無く分かるから聞かないでおく」

 

 ゲンナリした表情でゼダスが言う先にあったのは列車内で会ったリィンが痛々しいくらいに赤い頰を手で押さえている姿とアリサが妙に涙目でそっぽ向いてる姿。

 もう察しの良い方ならば、何があったのか気付くだろう。

 

 多分、床が抜けて、落下する中にリィンは見たんだろう。──落ちるアリサの姿を。

 そして、彼の良心が無駄に働いたのだろう。自分が不利な体勢な事も忘れて、助けに行った結果、俗に言うラッキースケベが発動。

 で、助けられた結果云々よりも羞恥心が上回った結果、アリサが涙目で怒って、リィンに思いっ切りビンタ。概ねそんな所に違いない。だって、リィンはそんな雰囲気する。女難というか何というか……

 

「……まぁ、それはさておき」

 

 人間関係について、当事者以外が云々言うのは御門違いだ。よっぽど悪関係になるか、助けを請われない限りは介入しない。本音を言えば、誰がそんな面倒くさそうな沼に突っ込まなければならないのだ。

 

 それよりも気になるのは落ちた先の空間……随分と広い。声がよく反響する位と言えば想像出来るだろうか。

 そして、そこに円状に並べられた11の台座には、各々が校門で預けたであろう得物と小さな箱が鎮座していた。

 全員が疑問符を浮かべ、ゼダスは考え得る限りの可能性を検討する中、突如鳴り響く電子音。それはここにいる全員が持っている戦術オーブメント《ARCUS》から鳴っていた。

 どうやら通信が入っているようだ、と思うゼダスと、《ARCUS》に関して何も御知らせが無かったであろう他全員はとりあえず開いてみるとサラの声が聞こえた。

 

『全員無事ね?』

 

 多少肝が冷えるくらいの高さだったが、怪我するレベルでは無かった。………怪我したとしても、これを仕組んだであろう学校側に責任を問えば良いだけだ。それで万事解決なのだし。

 

 そして、サラは《ARCUS》に関する説明を始めるが────結社で探った内容とさして変わらなかった。やはり、結社のネットワーク恐るべし。

 

 

 で、説明が終わった後に促されたのが、この部屋にある台座に置かれてある各自の得物を受け取り、小さな箱の中身の確認。

 ゼダスも自身の預けた包みを手にし、満足気に頷く。別に開けて確認する必要は無い。“そこに在る”───そう聴こえる。

 それより件の小さな箱だ、と思い、開くとそこにあったのは金色の宝玉。これは────

 

「マスタークオーツ、か」

 

 戦術オーブメントの中央部に填めるマスタークオーツだった。

 

 クオーツという物は、七耀石(セプチウム)と呼ばれる鉱山から採掘される天然資源の結晶体の欠片であるセピスを原材料に作られた結晶回路の事である。これを戦術オーブメントに装着、同調させる事で導力魔法(オーバルアーツ)が使うことが出来るのだ。

 そのクオーツの進化系。“成長する”クオーツのことをマスタークオーツという。

 ゼダスの台座に置かれていた金色のマスタークオーツは、この世に存在する七属性の内の空属性の物で銘を『オリジン』。奇しくも、《輝く環(オーリオール)》と同属性だった。

 まぁ、別に今更、導力魔法が使えるようになったからといって、総戦力に足しになるかは分からないが、無いよりはマシだ。《ARCUS》に填めてはおく。

 

 そして、全員が得物を装備し終えた頃にサラから通信が。

 

『それじゃあ、始めるとしますか。そこの広間の扉からダンジョン区画になってるから頑張って戻ってきなさい。割と広いし、入り組んでるし、ちょっと魔獣が徘徊してたりだけど………そこまで苦労するのはいないはずよ。無事、終点まで辿り着くことが出来れば、旧校舎一階に戻ってこれるわ』

 

 想像通りというか、随分と面倒というか、一歩踏み間違えば危険のあるオリエンテーリングだとは思うが、多分、文句言った所で何も変わらない。そんな気しかしない。

 

『───それではこれより、士官学院・特科クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。各自ダンジョン区画を突破して、旧校舎一階に戻ってくること。文句があったら………ま、その後にでも受け付けてあげるわ』

 

 どうやら、文句は後でぶつけて良いらしい。その時に遊んでもらうとしよう。本気で戦りに行って壊れないと良いが………

 話が終われば、わざわざ待つ用はない。さっさと進軍して、さっさと到着して、さっさと戦闘。

 やる事が分かっているのなら、進めば良い。

 

 台座から包みを手に取り、ゼダスは足早に扉を目指すが───

 

 

「───待て、ゼダス」

 

 

 先程も聞いた涼しげな声。ラウラのものだ。彼女も赤制服だったから、Ⅶ組なのだろう。

 だが、言葉の内容にはただただ首を傾げるもので、別に問い返す必要は無かったのだが、尋ねる。

 

「………何かな、ラウラさん(・・)? 止める理由とか有りましたっけ?」

 

 行動寸前の時に止められて、無性に癪に障ったゼダスはきっと漫画だったのならば、怒りマークが付いていた表情なのだろう。笑ってはいるが。

 

「そこから先は魔獣が徘徊している………そう、教官が言っていたな」

「(止めたのはそういう訳か………)」

 

 合点が行き、面倒くさそうに頭を掻く。

 こういった筋の話から導き出される話といえば───“護衛”か“協力”だろう。

 だが、どちらも受け入れるつもりは無い。何故なら、得がないし、無駄に気を配らねばならない。生憎、そこまでお人好しでは無い。

 それにこれからの人付き合いを考えて、放つ言葉はこうなった。

 

「護衛も協力も嫌だ。何で俺がそこまで世話しないと駄目なんだ? 出会って、一時間もしてない仲だぞ?」

 

 ───盛大に突き放す一言。しかも、瞳には“信用”の欠片も無い濁った黒さを醸し出しながら。

 

 

「だから、仲良しこよしは勝手にしろよ、気にしないから。ただ自分の力量は自分がよく知っている。この程度で負けるようじゃ話にならないっての」

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 コツーン、コツーン………

 

 歩く度に靴底と石床が鳴らす音が響く。

 

 旧校舎地下ダンジョンの作りは随分単純。これなら少し迷う程度だろう。まぁ、出てこれないなんて結果にはならないに違いない。

 そして、件の魔獣だが…………

 

「準備運動にもならないな。武器使う必要すら無い」

 

 ………感想をまとめれば、こんな所だ。

 弱い。弱過ぎる。

 確かに学生のオリエンテーリング用の強さだとは思う。だが、やはり味気ない。

 現れてきて、襲ってきたものだけは倒すようにしているが、全ては徒手空拳で殺れている。

 

「あー、くそっ………こんな萎えそうな相手ばっかりで気分落ちた状態で《紫電》と戦うとか嫌だぞ。最大に楽しめそうに無い」

 

 口を開ければ、漏れるは愚痴ばかり。

 これはもう、思考停止して完全作業状態で練り歩くか───と思った瞬間。ふと、ゼダスの歩みが止まる。

 

「………………」

 

 気配を感じる。前方20アージュ先の曲がり角の先に何かの気配を感じる。

 明らかに魔獣とは違うその気配は、冷たく鋭利。………ゼダスの首を狙っているように。

 

「………武器だけは出しておくか」

 

 抱えている包みには触れず、制服の袖から拳銃を取り出す。襲撃者らから押収した拳銃の一丁をパクる──もとい拝借していたのだ。

 

 スゥッと息を吸い、止めた上で気配を薄くし、壁伝いに進軍。

 そして、辿り着く曲がり角寸前。

 一気に石床を蹴り、進行方向に拳銃を突き付けると───そこにいたのは白髪の生徒。赤制服なところⅦ組に違いない。

 いきなり拳銃を突き付けられて、呆気に取られているかと思ったが、その瞳に宿るは鋭い刃のような眼光。そして、手に持っているのは鋭い短刀で、現にゼダスに突きつけようとされていた。

 即ち、互いに互いの生命を殺めれる状況で───

 

「…………」

「…………」

 

 殺気の篭った視線を交わし合い───先に折れたのは白髪の生徒。手に持った短刀を手放し、カランと音を立てて地に落ちた。

 

「あークソったれ………聞いてた通りの手練れかよ」

 

 先に折れた判断は正しい。

 あの場で短刀を突き刺すよりも、引鉄を引いて銃弾を打ち込む方が数瞬ばかり早い。

 ならば、サッサと折れてしまう方が吉。殺されるよりはマシだろうし。

 

 だが、ゼダスは警戒を解いた訳では無かった。

 

「………何者だ?」

 

 銃口を向けたまま、静かに問う。

 先程の素早い身のこなしに、「聞いてた通りの手練れ」の言葉。これから導き出すに───こいつは何か知っている。知ってしまっていると本能が告げている。

 場合によっては撃ち殺す………とまではいかなくても、口封じだけでもしておかねばならない。

 

「なんつーか、名乗れば良いのか? 名前はシノブ・エンラ。ちょっと流派を納めてるだけで………ほら、あのアルゼイドの娘とかと同類だ」

「違う」

 

 心の芯まで冷え切り、思考が冴えている状態にあるゼダスは断じる。

 

 

 ────そんな論点のズレた話など求めていない、と。

 

 

「別にその手腕について尋ねている訳じゃない。お前………背後に何がある? 誰から『手練れ』と聞いた?」

「やっぱ、怖ぇわ。凄い怖い。その殺してきた目………清々しいまでに吐き気がする」

 

 己に銃口が向けられていることも気にしない風に睨むシノブ。

 随分と強気なことだ───と、ゼダスは思うが、別に何も問題では無い。

 しかし、どれだけ強がったとしても、銃の存在がある限りは生命は刈り取れる。その上、まだ納得の行く回答を貰っていない。

 

「分かった分かった……少しは落ち着けよ、《天帝》さんよ」

 

 その言葉に銃を握る力が少しばかり強くなる。

 こいつは結社の事を知っている。でもなければ、《天帝》の異名に辿りつくはずが無い。

 ならば、執行者として執るべき対応は───

 

 

 ───バンッ!

 

 

「───ぬわっ⁉︎」

 

 シノブは素っ頓狂な声を出すが、ゼダスは少なからず驚かされた。

 あれだけの至近距離……最早、ほぼ密着状態での発砲を───

 

「避けた、のか?」

「ま、まぁ、テメーの手の力の入り方が確実に発砲してくる風になってたからな。なら、あとはタイミングを合わせて……と言っても、間一髪だったけどな。少しズレたら死んでたぞ」

 

 胸に手を置き、息を吐くシノブ。

 

 今の言い分を鵜呑みにするなら、シノブはゼダスの手の動きを見ていたという訳だ。───近くに死を齎す拳銃があったにも関わらず。

 その死の間際での視点を切り替えれる胆力は生半可な経験だけで鍛えれる物ではない。それこそ、幾度も死線を潜ってきたでもしないと実戦に耐え得るものに成長しないだろう。

 

「お前……本当に何者だ?」

「だから、普通の生徒だっての。…………バカ教官(サラ)の養子ってだけで」

「そういうことか。納得した」

 

 遊撃士の入れ知恵…………なら、結社云々の事について知っていても不思議では無い。

 これなら別に殺すまでしなくて済むだろう。

 常識的に考えて、わざわざ得て危険になる情報を他人に言伝しないだろう。その危うさは《紫電》………サラだって知っているはず。

 そこから導き出すにシノブが結社に関して知っている情報に秘匿性の高い物が孕まれている可能性は皆無と見ていいはず。

 

 ………全部“はず”で無理矢理片付けている感が否めないが、これが一番考え得る最高確率の可能性なのだ。仮定として扱うには十分。

 

  だと理解したなら、次にとる行動はただ一つ。───進軍あるのみ、だ。

 

「………………」

 

 拳銃に安全装置を掛けておき、制服に隠したゼダスはシノブの横を通り抜け、先に進む。

 

「お、おい、テメー! 置いてく気か⁉︎」

「別に付いて来いなんて頼んでないし、いてもいなくても変わらないだろ」

「〜〜〜ッ! っ頭に来た! 意地でも付いて行ってやる!」

「は、はぁっ⁉︎」

 

 まさかの意固地なシノブの選択に思わず声を荒げるゼダス。

 さっきの言葉も十分に人を突き放す物だった。なのに──

 

「(その上で付いてくると言ったのか、シノブ(こいつ)は?)」

 

 訳が分からない。

 その選択は互いの益にならないのは分かっているだろうに、何故その選択をした?

 だが………なんだ。

 今のシノブに何を聞いても、楯突かれる予感しかしない。

 こういう場合は盛大に嫌なのだが───

 

 

「───勝手にしろ」

 

 

 と言い残し、歩みを進める。

 その言葉にシノブはニッと笑い、ゼダスの横に走り寄り、

 

「じゃあ、よろしくな! ……え、えっと名前何だっけ?」

 

 ……まぁ、名乗ってないのだから、シノブがゼダスの名を知る由も無い。

 だが、このまま名乗らずに沈黙を続けるのは得策では無いに違いない。……なんか噛み付いてきそうだし。

 

「ゼダス・アインフェイト」

 

 シノブとの会話は疲れそうな雰囲気がすると理解に至ると名乗りも随分と雑に。ただ名前を述べただけの簡素なものになった。

 

 

 

 

 ─────と、こんな感じで行き当たりばったりで組む事になったゼダスとシノブのパーティーでの行動が始まった。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 一人が二人に。純粋に頭数が二倍になったということは、負担は単純計算で半分になり───多かれ少なかれ負担自体は軽くなる。

 そして、それはゼダスとシノブのパーティーでも例外では無かった。

 

「………なぁ」

 

 何度目か分からない魔獣戦。シノブが合流してから、魔獣と遭遇(エンカウント)する割合が高くなった気がする。………まぁ、ゼダス単独の時は回避して楽してきただけなので、戦闘が増加するのは当たり前だろう。

 

「テメー………何もしてなくないか?」

「付いてくる奴が一人増えた。しかも、完全に予想外にな。なら………普通こき使うだろ」

「何も普通じゃねぇな⁉︎」

 

 ただ戦闘が増えたとしても、その全てを処理するのはシノブ。ゼダスは運良く討たれなかった魔獣を体術で去なしたり、距離を開けたりするだけ。完全に負担の比重が偏っている。

 

「テメーなぁ………実力自体は十分なのに振るわねぇとか損だろ。しかも、その包みは主武装っぽいし………そんな慢心してると足元掬われるぞ」

「───この程度、慢心とも言えないぞ」

 

 ゼダスのその言葉は主武装を使わない理由が根拠となっている。

 

「だって、使うほどの相手がいない(・・・・・・・・・・・)んだ。現に体術だけで何とかなる相手しかいないだろ? ならば、主武装使うよりも楽でいいし………」

 

 と、ここで言葉を区切る。

 その先を言うのは、ちょっと憚られた。言ってしまえば、多分シノブはやる気になって、戦いにくるはずだ。そういう性格だと嫌でも理解させられた。

 因みにその内容というのが………

 

『主武装の露見を極力避けたい』

 

 ………というものだ。

 どんな強力な武器であれ、その使い筋を視られては対抗策を立てられかねない。ただの凡人程度なら、その可能性も皆無と切り捨てて問題無いのだが………何時何処で洒落にならない位の相手が見ているか分からない。気付かない位に隠蔽された使い魔とかが付与されていたらと思うと………

 

「(少しでも危険性を絶っておいて損は無いからな。仕方ないだろ)」

 

 あえて口に出さずに思うだけで留めておく。口は災いの元とも言うし。

 

「そういう楽優先なトコが“慢心”じゃねぇのかよ………まぁ、テメーのことだから、どうでも良いけどな。気にしねぇよ」

「気にしないなら、聞くなよな。触れられたくない事の一つや二つ、誰でも持ってるだろ」

 

 何気無くに吐いたゼダスの言葉。

 だが、それにすぐには返答してこなかったシノブは歩みを止め、若干俯いている。

 

「どうかしたか?」

「………いや、別に何でもねぇよ。テメーでも聞かれたくない事ってあるんだな。つーか、勝手にしろって言った割には構うんだな、テメー」

 

 今何かの片鱗を垣間見えた気がした。

 これは弱味を握るチャンスか───? と思い、ゼダスが言葉を掛けようとしたその時、

 

 

 

 

 グァァァアアアアァァァァァァァァァァァァ!

 

 

 

 

 突如響く竜の咆哮。

 

「これは………」

「随分と大物の雰囲気がするな………行くぞ、シノブ(・・・)

 

 と、言い、走り始めたゼダスの背を見て、シノブは────

 

「───応よ!」

 

 良い声で返し、ゼダスを追いかけて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 







如何でしたでしょう? リメイク前を知ってるかと思われますが、オリキャラのシノブ………口調といい、細部変更加えてます。ただ色んな意味で訳ありなこの子………好きになってくれる方が増えることを祈るばかりですよ………(全ては私に掛かってると思うと胃が痛い)

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