闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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はっぴーくりすます! 「 黒兎」です
今年最後の更新ということで、色々なことを記した活動報告を上げておきますので、この話を読み終わった後にでもお暇があればご覧になってくださいな







想像の答え。それ即ち、創造である

「いよっしゃぁぁぁああああああああああ!!!!!!!! 何とか間に合わせてやったぞ!!!」

 

 まだ日が昇り始めた様な時間帯。ゼダスは1人自室で柄にもなく絶叫していた。

 

 本日は5月の実技テスト当日。つまり、3日前からゼダスが取り掛かったARCUSの魔改造に関する一件を何とかして形にしなければならない期日でもある。

 普段の生活にその空き時間を全て魔改造に捧げるという殆ど休みなしの突貫作業で何とか形に出来た。想像以上に無理矢理なスケジュールでの作業だったが思いの外満足行く形はしている。……と言っても、今日のテストの結果次第ではまた問題点が見つかるのは避けられないのだが。

 しかし、それはそれ、これはこれだ。取り敢えず試験段階までこじ付けれたのだから良しとしよう。

 

「────っと、そうだ。そろそろ朝飯の用意始めないと不味いか」

 

 因みにこの魔改造作業中もしっかりと全員分の料理を作ったりなどの寮の管理人としての仕事も果たしていた。流れで引き受けなければならなかったといえ、仕事は仕事。きっちりとやっていた。

 

 

「──────おい、ゼダス」

 

 

 控えめなノックと共に扉の奥から声がしてきた。この声はシノブだろう。ゼダスは扉を開きつつ───

 

「ん、何か────って、んぐっ!?」

 

 ───シノブに用事を問うたのだが、言い切る前にいきなり口の中に何かを押し込まれた。半ば勢いで咀嚼したのだが、食感と味から察するにサンドイッチか何かだろう。

 ゼダスは何が起きてるのか理解出来ずに眼を白黒させるが、その様子からシノブは意図を汲んだのだろう。事情を説明し始める。

 

「お前、最近根を詰めてただろ。しかも、今日は実技テストだ。少しだけでも良いから休んどけよ。オレが代わりに朝飯の支度やっておいてやるから」

「…………お前料理出来るのか?」

「失敬な! 簡単なのしか出来ねぇけど一応は出来るんだからな!」

 

 簡単なのしか出来ないのか、と内心思うゼダスであったが、正直な話この申し出はとてもありがたかった。

 確かに休みなしでの実技テストは少々辛いものがあるだろう。そういった場合の身体の動かし方なども体得しているとはいえ、休めるに越したことはない。

 

「つーか、最初に言うのはそれかよ………ったく、もっと他にあるだろ」

「分かったよ、不貞腐れんなよな………ありがとな。割と助かる」

「初めからそう言っとけば良いんだよ。んじゃあ、サッサと寝ろよ。………少ししか寝れないけどな」

 

 そう言うシノブの姿は妙に頼りに見えた。小柄な体躯で、見た目だけでは絶対に頼り気ないのだが、その時だけはそう見えたのだ。

 

「(………寝不足か)」

 

 きっと休みを取ってなかった所為だろう、とゼダスは思い、自室のベッドで寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、それじゃあ今月の実技テスト始めるわよー」

 

 先月と同じように学院の敷地内にあるグラウンドに集められたⅦ組一同。各々がこのテストに全力を尽くそうとしているからかとても真剣な表情だった。ただ一人凄い楽しげでそわそわしている奴もいたが、それでも真剣だった。楽しそうだけど真剣だ。

 そんなⅦ組の姿を見て、サラは説明を始める。

 

「今回もこの戦術殻を使って実技テストを行うわ。でも、前回と違って少々手を加えてるし、何より───」

 

 そこで一旦区切ったサラは指をパチンと鳴らす。すると、元いた戦術殻一機に加え、その両脇に新たに二機が虚空から現れた。

 

「───三機同時に相手して貰うわ」

 

 まさかの内容に各自が頭を抱える。

 一応、まだ入学1ヶ月後なのだ。だと言うのに、いきなり跳ね上がった試験の難易度。結社の執行者であるゼダスにとっては別に問題ないとはいえ、ただの学生に向ける内容としては酷に他ならない。

 しかし、そんなことはサラも分かっていたようだ。

 

「少し辛いかもしれないけど、先月の特別実習で何かしら得た物があるなら勝てるはずよ」

 

 何処にも明確な根拠の無い発言に見えるが、その発言は間違っていなかった。

 あの実習の意図。それは取り様によっては如何にも変容するが、Ⅶ組という特科クラスが「ARCUSの真価を探る」を旨に創設させられた以上、そこに関わってくるのは間違いない。

 そして、その意図通りに実習をこなして満足が行く結果を叩きだせたら、ARCUSの特殊機能である戦術リンクが成長を遂げれるだろう。それは確実だ。

 

「最初は先月の特別実習のA班───って言っても、ゼダスは外れなさい」

「ん? 何故ゼダスは外されねばならぬのだ?」

 

 至極当然なラウラの問い。ここでサラに回答させるのではなく、自分自身のことなのでゼダスが答える。

 

「俺はちょっとこのテストでしたいことがあるんだわ。だから、今回は俺一人だ」

「そうか………」

 

 何故か若干残念そうなラウラ。だが、別にゼダス一人の欠員くらい問題ないだろう。現に先月の特別実習終盤ではゼダスが抜けて、戦闘を任せたこともあったのだし。

 

 

「それじゃあ、そろそろ始めるわよ────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、最初にテストを行ったA班は非常に高得点を叩き出していた。

 先月の特別実習での実戦が功を成したのだろう。戦術リンクの扱いが1月前に比べれば非常に巧くなっていた。

 しかも、3日前の自由行動日にまた裏手にある旧校舎の探索に赴いていたそうなのだ。それもこの結果を助長したに違いない。

 

「(つーか、また俺呼ばれてねぇ………って、あの日は朝から技術棟に行ってたんだったな)」

 

 と、思い返しながら、制服裏に仕舞っているARCUS────と、試作品を制服越しにソッと手を添える。

 一応形として組み上げれたとはいえ、ちゃんとした起動実験はしていない。理論上は動くはずなのだが………

 

「(こればっかりは運だよな。時間無かったし)」

 

 自分の番が回ってくるまでは柄にもなく神に祈ろうとするゼダスであった。

 

 

 ────で、打って変わってB班。こちらのテスト結果は………あー、その………何と言うか………もう「酷い」と称するのも憚られるくらいには大惨事だった。

 チームワークなんて糞食らえ。連携も何も無かった。

 このB班の欠陥と言っても差し支えないユーシスとマキアスの不和が原因で戦術リンクはまともに機能せず、フィーは独断で行動する。この班の良心と言っても過言ではないエマ、ガイウス、シノブは何とかチームとして成り立たせようと奮闘していたが、結果虚しく終わっていた。

 

「A班に比べて、B班ときたらもう………殆ど成長が見られないわね。ガイウスにエマにシノブはまだしも………ユーシスにマキアス。あんた達、もう少し何とかならない訳? フィーもフィーで独断専行が過ぎるわよ?」

 

 サラからの酷評に返す言葉も無さそうな雰囲気のB班。現に散々たる結果なのだから仕方ないとも言える。

 

「まぁ、教官。言い始めたらキリ無いんで後にしないか?」

「───ってのは建前で、アンタ早く試したいんでしょ。良いわよ───最後はゼダス! 前へ!」

 

 サラに呼ばれ、ゼダスは前に出る。

 相手は変わらず、戦術殻は三機。どれほどの設定にされているかは分からないが、それなりに骨が折れるのに違いない。明らかに執行者として動いていた時よりも腕は鈍っているし、その上に結社の人形兵器が相手なのだから当然だ。

 とはいえ、胸が高鳴っていないと言えば嘘になる。

 これくらいの相手でなければ、試すに値しない。そういった物が完成したと自負している。

 

「あれ………ゼダス笑ってる?」

 

 ふと聞こえたエリオットの呟き。どうやら無意識のうちに笑っていたらしい。………だが、その笑みが良いもので無いのは想像に難く無い。

 

「あーれーはヤバい笑顔だわ………きっとロクでもないこと考えてるわね」

「ごちゃごちゃ五月蝿いぞ、教官。こちとら楽しみ過ぎて自制心利かなくなってきてるんだよ」

「分かってるわよ。───それじゃあ、始めッ!」

 

 サラが宣言した瞬間、三機の戦術殻は動き始める。それも、先の二組の時とは違い、超高速な上に連携の取れた動きをしてきている。それこそ、戦術リンクを用いての意思疎通が完全に出来ているような動きだ。これは手強い。

 と言っても 、ゼダスなら苦戦するような相手ではない。ならば、心の底から湧き上がる愉しみのままにやるとしよう。

 

 ゼダスは制服をはためかせ、“それ”を抜き出した。

 陽光を跳ね返す白銀の身体、そしてスラッと伸びたそれは──

 

「………拳銃?」

 

 ──何処からどう見ても拳銃だった。

 だが、通常の拳銃とは様変わりしていて、弾倉部分からゼダスが腰に提げているARCUSに配線で繋がれていた。

 

 これがジョルジュとの意見交換を行なった末にゼダスが導き出した解答。銘を「アンチ・ゴスペル」と言う拳銃型補助オーブメントだ。

 

 ゼダスは握ったアンチ・ゴスペルの感触を確かめながら、行動を開始する。

 迫り来る戦術殻。その内の一機が真正面から突っ込んでくる。

 それを目にしたゼダスは適当だが正確に標準を合わせて、アンチ・ゴスペルの引鉄を引く。放たれたのでは普通の銃弾ではなく、光弾。というか、あの輝きは────

 

「───空属性魔法ね。なんだ、ちゃんと作動してるじゃない」

「教官、ゼダスの持つアレは一体何なのだ? 見たところ、通常の拳銃で無いのは分かるが………」

「あいつの強さへの貪欲さの産物よ。私も大体の構造しか知らないけど………」

 

 外野の声を聞き届けながら、ゼダスは戦闘中にも関わらず、アンチ・ゴスペルの特徴を整理し直した。

 

 

 このアンチ・ゴスペルは先述通り、ARCUSの外部補助オーブメントとして作ったものだ。

 ARCUSは現在の表社会に出ている中で───いや、裏社会を含めても「戦術リンク」という特殊機能に着眼点を置くならば───次世代戦術オーブメントと称されるだけあり、性能順に並べると相当上に位置するものだ。となると必然的に導力魔法に関しての動作も速いはずなのだ。現に速いのだ。

 が、ゼダスはそれに満足せずに更に速度を求め、火力を求めた。その結果がアンチ・ゴスペルだ。

 

 ARCUSに登録されている導力魔法を単純に処理速度を特化させたアンチ・ゴスペルで作動させる。これだけでコンマ1秒分位は短縮が可能となっている計算だ。

 その上、導力魔法を発動させる時に決定する必要がある変数の一つである「対象の位置」を簡易的に、直感的に指定出来るようにする為にオーブメントを拳銃状にしたのだ。これで導力魔法使用時の負担が若干和らぎ、連続使用も特段負荷なく実現しているという優れ物。

 ………………突貫作業で作ったことだけあり、本来は無線で扱う物なのだが、未だにARCUSと有線で使用している。戦術リンクとの同期させるには時間が足りなかった。

 

 

「(これが俺の答えだ─────ッ!)」

 

 

 放たれた導力魔法───空属性の初歩的な魔法である「ゴルトスフィア」を束ねた弾を寸分も絶やすことなく撃ち続ける。

 従来の拳銃とは違い、残弾数という概念は存在しない。使用者の魔力が底尽きない限りは幾らでも放つ事が出来る。こと、空属性の至宝《輝く環》と繋がっているゼダスにとって、空属性の導力魔法なんぞは魔力使用を最小限に抑えても存分な火力で発動出来る。弾切れなど起こすはずがない。

 無数の魔力弾が戦術殻達を襲う。戦術殻の装甲何のその。段々と戦術殻は無残な鉄塊へと変貌していった。

 

 ………それからどれだけの時間が経っただろう。そこまで長い間では無かったのは確かだが、ある程度の時間が経過した後、戦術殻は三機共に煙を上げて行動を停止した。見るも無惨とはこういう事を指すのだろうというくらいに穴だらけになっていた。

 

「あー満足満足! 試作中でも案外いけるもんだな!」

 

 学院に入って以来の最高の笑顔を浮かべ、感触を述べるゼダス。そんな状況にサラは顳顬に皺を寄せながら、

 

「ゼ〜ダ〜ス〜………アンタ、調子に乗り過ぎでしょッ! 一体これどうする気なのよ!?」

「は? そりゃ、教官が何とかしてくれるんだろ? だって、俺許可貰ったし。俺が本気でやったら、こうなるって想像ついただろ? だって俺は───」

 

 そこまで言ってゼダスは慌てて口を噤む。

 余りの出来に自分の想像を超えて浮かれていたのだろう。あのままでは自分の素性に関してうっかり口を滑らせてたに違いない。そうなれば色んな意味で大惨事確定だ。

 

 急に黙ったゼダスをクラスメイト一同は不思議そうに見つめるが、サラはゼダスが押し黙った理由に察しが付いたのだろう。ニヤニヤと何か悪さを感じさせる笑みを浮かべながら、

 

「へぇー、うん、そうね。確かに私の考えが足りてなかったわ。でー? 俺は何なのかしら〜?」

 

 ………………あとで絶対逆襲してやる。

 

 サラの言葉に内心そう思ったゼダス。ただこの場では何か別の話題で話を背けなければならない。

 

「そういえば、また実技テストの後に次の特別実習の行き先とメンバーの発表するんだろ?」

 

 我ながら話の逸らし方が下手だとゼダスは思った。

 しかし、サラとて無闇に弄るつもりは無かったのだろう。ゼダスの話題転換に乗り、封筒を全員に配布し始めた。

 先月通りなら、ここに特別実習のことが記されている。全員即座に封を切り、中を確認するが───全員固まった。それもそうだ。その内容が………

 

 

 

【5月特別実習】

 

A班:リィン、アリサ、エリオット、ガイウス、ラウラ(実習地:古都セントアーク)

 

B班:ゼダス、マキアス、ユーシス、エマ、フィー、シノブ(実習地:公都バリアハート)

 

 

 

 最早、犬猿の仲であることが周知されているマキアスとユーシスがまた同じ班。これに関してはまだ分かるとしても、実習先がバリアハート………ユーシスの実家であるアルバレア家が直接治めている有数の貴族都市だ。これは最悪のパターン、もう二人の関係が改善出来なくなる可能性もありえる。

 それくらいに環境が悪い。サラは何かの思惑があるのだろうが………そんなことを抜きに異議を唱えたくなる人はいるわけで………

 

「───冗談じゃない! サラ教官! いい加減にしてください!」

「こんな班分けは認めない。再検討をしてもらおうか」

「もう決定したから聞いてあげるわけにはいかないんだけど………ま、良いわ」

 

 サラはそう言いながら収めていたブレードと導力銃を構える。

 瞬間、鳴り荒れる雷撃。可視化されるまでに高まったサラの戦意にフィーとシノブは溜息を吐く。

 ああなってしまっては止めようが無い。そして、異議を唱えたマキアスとユーシスがそんな状態のサラを止めれるはずもないのは全員の共通の見解だった。

 しかし、二人にとっては退ける戦いでないのも理解出来る。そんな中───

 

「折角だし、リィンも交わりなさい。まとめて相手してあげるわっ!」

「お、俺!? ………了解です!」

 

 急な要請に驚きを隠せずにいながらも、リィンは太刀を抜き構える。

 勝てないどころかまともな戦闘とすら呼べないものになることは分かっているのに参加するところ、リィンも男の子なのだろう。

 

「トールズ士官学院所属、サラ・バレスタイン参るッ!」

 

 その戦意に塗れた名乗りが耳に届いた瞬間、対峙していた三人は同時に宙に舞った。

 雷光一閃。眼にも止まらぬ速さで振り抜かれた斬撃に三人はやられたのだ。

 こういう身近な場所にいて、普段はあまり意識していないのだが、サラは昔は《紫電》の異名を持った元A級遊撃士。弱いわけがなかった。

 

「あらー、もう終わり? ………まぁ、これ以上立ち上がられても結果は同じだから、やろうがやらまいがどっちでも良いけどね」

 

 明らかな挑発だが、彼我の戦力差を顧みると抵抗するのも馬鹿馬鹿しい。リィンにとってはゼダスを相手取っている時と感覚は大して変わらなかった。

 今の自分ではどれだけ抗っても届かぬ場所にいる相手。武と知を振り絞っても圧倒的な“力”の前には意味を成さない。

 

 

「───というわけで、行き先も班編成も変更無しで次回も頑張ってきなさいな。お土産楽しみにしてるわよ〜」

 

 

 絶対に教官宛にお土産とか買ってこないから………

 

 そう思うⅦ組一同であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ゼダス………」

 

 実技テストが終わり、各々にグラウンドを離れ始めた時、ふとゼダスはそう呼び止められた。

 声の主はフィー。銀髪で、動物で例えるなら猫みたいな子だった。

 

「ん? なんか用か?」

「………………」

 

 無言で薄緑色の瞳に見つめられ続ける。別に見つめられた程度でたじろぐ様な柔な精神では無いが、流石に気持ちよくは無い。

 とりあえず話を進めようとゼダスは口を開くが────フィーは背伸びして、ゼダスの口元に指を置き、言葉を発すことを止めさせた。

 

「………その様子だと覚えてないっぽいね」

「は………?」

「でも、いい。絶対に分かる時が来る。時間が解決してくれる。だから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ゼダスはゼダスのままでいて。約束だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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