闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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毎週毎週、シンフォギアで泣いたり興奮したりで大変な「 黒兎」です
先週は切ちゃんで、今週は響の所為で私のメンタルは大惨事です。大変です。ヤバいです(語彙力)






事の顛末と第一回特別実習終了のお知らせ

「ここは…………」

 

 眼が覚めたゼダスは今見えている風景に首を傾げた。

 前後左右何処を見渡しても、視界に入るのは金色に光る世界のみ。寧ろ、他に何も見えないし、何もない。

 ただ眩く光るこの世界はこの世に在らざるもののような雰囲気がした。

 

「そっか……ここは《輝く環(オーリオール)》が見せてる世界か」

 

 自身の身体の中に《輝く環》の欠片が在るのだから、こういう現象に巻き込まれても何らおかしくない。こんな何を伝えたいのか不明瞭なものを本人の自由意思関係無く見せることなんて《七の至宝(セプト=テリオン)》の一つなら造作もないのだろう。

 ということは、眼が覚めたという錯覚に陥ってるだけで肉体はまだ覚醒していない訳だ。肉体が覚醒していれば、自然公園────少なくとも見知った光景を眼にしているはずなのだから。

 

 そう思い至った瞬間、金色の世界が形を変え始める。

 金は色を変え虹に。無だった世界は有に。変異していく世界は最終的に黒一色に染まった。

 しかし、それは先の完全な無の金色空間ではなく、何かを感じれる黒い空間。

 

「何処と無く冷たさを感じるな………」

 

 この冷たさは恐らく人為的なもの。これならさっきの金色空間の方がマシだ、と思うゼダス。

 だが、《輝く環》はこんなものを見せて何をしたいのか。理解出来ない中、突如光が差す。

 どうやらここは内装から察するに研究室の類いらしい。が、何の研究をしているのかまでは分からなかった。

 

 

 

 ────コツン、コツン。

 

 

 

 ふと、響き渡る足音。先の光はその足音の主が入ってきたことによって差されたようだ。その主を見ようとするが………

 

「(………………? なんで見えない………?)」

 

 その姿が鮮明に捉えられない。特に顔。顔の部分なんて、そもそも視認すら出来ない。別に何かで覆って隠されているわけでもないのに見えない………

 

「(これは一体………………)」

 

 理解が追いつかない内に、その人影は歩み寄り、まるで語りかけるように言葉を紡ぎ始める。

 

『あぁ………いつ見ても綺麗ね。やはり、私が────するだけあるわ』

「(? ………今なんて………………)」

 

 所々聴こえないが、そんなこと御構い無しに言葉は紡がれ続ける。まぁ、これは《輝く環》が映し出した世界だ。ゼダスに対しての言葉で無い以上、別に問題無いのだが………だが、何故か心に引っ掛かる。

 

 

 

『でも、お前は────な存在。───な存在だ。如何に綺麗だとしても────ならない』

 

 

 

『だから、私は───をする。お前を使って、私は───』

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「──────ッ!」

 

 急に起き上がるゼダス。その顔には相当な量の汗が見えた。

 

「さっきのアレは…………クソっ。なんでこんな気持ちになる……」

 

 あの一方的に語りかけてきた相手。喋ってた内容もその姿も全てが不明瞭な相手にゼダスが抱いた感情は摩訶不思議と言われても問題無いものだった。

 

「(本来は正体とか発言内容に疑問を浮かべるべきなんだ……それは分かってる。なのに…………なのに何で俺は───あいつに懐かしさを(・・・・・)覚えた(・・・)⁉︎)」

 

 まるで何処かで見たことがあるような。そんな既視感を感じざるを得なかった。…………相手の素性の何一つも分かっていないのに。

 そもそも、アレは《輝く環》が映し出した世界だ。それが実在しているなんて保証は無い。

 そんなもので一々情緒不安定になっていたら気が保たないし、その程度では《七の至宝》を扱うのに分不相応なのだろう。気にせずの精神が大事だと学んだゼダスである。

 

 ちゃんと意識が覚めたと実感出来たからか、状況を理解するためにゼダスは一度周囲を見渡す。

 記憶の最後にいた場所であるルナリア自然公園とは全く違っていて、内装から考えて多分軍の医療用テントだろう。本来ならば、そう察するには材料が少な過ぎるのだが、ゼダスにとっては確信でしかなかった。何故なら───

 

「───目が覚めたのですね」

 

 と言って、テントの中に踏み入ってきたのは透き通る様な薄氷色の髪をサイドテールに纏め、灰色の軍服を身に纏った女性だった。

 彼女はTMP───《鉄道憲兵隊(Train Military Police)》と呼ばれる組織の統率を担っている人物。名をクレア・リーヴェルト。

《鉄道憲兵隊》は帝国の治安維持を主としていることとその名の通り帝国内に張り巡らせてある鉄道網を駆使して各地に展開することで有名である。

 そんな帝国政府直轄の組織……しかも、その統率を担っている人物がわざわざゼダスを訪ねに来た。事情の知らぬ者から見れば首を傾げる一択のこの状況にゼダスは特に何かを思うでなく、普通に会話を始める。

 

「悪いな、迷惑掛けて」

「別に良いですよ。どうせゼダスさんのことですから、無茶をしでかすのは想定内でしたし」

 

 謝罪混じりの御礼にクレアはあっさり返答。内容に納得のいってないゼダスは、

 

「何だよ、その俺が毎回無茶してるみたいなのは」

「少なくとも私が見ている時の殆どは無茶してますよ。少なくとも客観的に見たら“無茶”です」

 

 そこまで言ったクレアはゼダスが寝ていたベットの横に設置してあった椅子に腰掛ける。

 その行動を境に二人の空気が変わった。軽口を叩ける様な雰囲気でなく、真剣な───そして、冷たい緊張感が感じ取れる様にはなっていた。

 

「───で、ゼダスさん。一体どういうことか説明して頂けますか?」

 

 この一言だけ見れば、何のことを指しているのかは全く以って理解出来ない。だが、当事者であるゼダスにとっては何のことか分かっている。

 

「いつまで経っても動かない《鉄道憲兵隊(お前ら)》を焚き付けた────ただそれだけだ」

「それはこのケルディックの街で起きていた貴族平民間の軋轢があそこまで酷いと思っていなかっただけで……」

「…………悪い悪い。ちょっと意地悪な言い方をしたな。お前らに出張ってもらった方が収拾付き易かっただけだよ」

 

 二人が話すは、ケルディックの街で起きていた先の一件──Ⅶ組A班が解決を請け負っていた事件の話だ。

 請け負った手前、解決しないわけにはいかなかったのだが、そうなると最後の最後で厄介ごとが溜まりかねない。例えば、太刀打ち出来ない“何か”をぶっ込まれるか、自棄になって後先考えない決死の策を講じてくるかとか。

 ならば、そういう厄介ごとは他人───専門家に任せるのが一番楽で手っ取り早い。

 というわけで、ゼダスは《鉄道憲兵隊》を頼ったのだ。

 

「……にしても、普通に連絡してくれれば良かったのに」

「普通に連絡しても聞き入れてくれないだろ。何かのイタズラ電話かと思われて一蹴されるのがオチだ。本来は街でのイザコザとかは領邦軍が何とかするべきなんだし。…………まぁ、今回はそいつらが敵だったから無理だったけど」

 

 ゼダスがクレアの耳に街の事態を伝えた方法は少々と遠回りの方法だった。因みに関わってくるのはアリサと一緒に領邦軍の詰所に押し入った時のこと。

 あの時は無理矢理押し入った挙句にゼダスが中の連中を殆ど行動不能にしたという訴えられても文句は言えないような内容だったのだが、その過程においてゼダスはアリサを蹴飛ばして詰所の外に叩き出している。

 もし、学徒と思しき服装の少女が領邦軍の詰所から思いっ切り飛ばされていたら、否が応でも話題になる。そして、それが街中に蔓延すれば、自ずと《鉄道憲兵隊》の耳にも入り───そして、何か異常事態が起きている、と思わせることは辛うじて可能なのだ。

 

「あんな回りくどい方法で伝えたのは悪いが、実際動いてくれたし良かったってことで。────現に俺も助けられたしな。な、リンナ」

 

 ゼダスはテントの外に目線を移す。すると、居心地悪そうに顔を覗かせる紫髪の少女───リンナがいた。

 

「それにしても盗み聞きとは全く柄にもないことを」

「ち、違っ───別にこれは事情聴取的な意味も持ってるんですから、先輩とクレアさんの会話に入り込む必要無いですよ⁉︎」

「別に会話に入り込んでこいとか言ってないし、しかも事情聴取盗み聞きとか尚更良くないだろ」

 

 言い訳を完全に切り落とされたリンナは小さく「うぅ……」と唸りながら、テント内に入ってくる。

 

「リンナを向かわせたのはクレア───お前だろ?」

「一応はそうですけど、殆ど彼女の独断です」

「先輩の近くに厄介な雰囲気がしたのを薄っすらとですけど、感じ取れましたからね。念には念を、ということで駆けつけました」

 

 ゼダスと謎の相手との戦いはほぼ引き分けに近かった。相手に痛手こそ負わせたものの、まだ動けたようだし。あの場でリンナが駆けつけてくれなければ、間違いなくゼダスの首は今ここに無い。

 

「そういえばあの後、どうなった?」

「残念ですが、仕留め損ねましたね。あと伝言を預かってます」

「ふむ……内容は?」

 

 リンナは記憶してある文言を一字一句逃さずに復唱する。

 

 

「『次は……次こそは殺す。忘れるな、貴様という存在が犯してきた罪の数々を』」

 

 

「……内容としては予想通りと言えば予想通りか」

「あの相手についての話があるので、先輩には後でお時間頂きますね」

「分かった。後で向かうからちょっと外出てろ。クレアとの話は終わってないしな」

「了解です」

 

 その言葉を区切りに再び外へ出るリンナ。別にこれからの話を聞かれても困るわけではないのだが、事情聴取的な意味を含んでいるらしいのだから、一対一の会話が望ましいと判断してのことだった。

 

「───で、話を戻すが、次はこっちから質問だ。お前の質問に対しても答えたし、ちゃんと答えろよ……あの後Ⅶ組はどうなった?」

 

 自然公園内で途中から別々に行動していたが故、事の顛末を知らないゼダスが問うには納得の質問内容にクレアは、

 

「結論から言うと大丈夫です。寧ろ、学生の身で出来る最良の結果だったと言えるでしょう」

「そこまで断言出来るってことは、もうそっちの事情聴取は済ませたって感じか?」

「ゼダスさんが目覚める前には殆ど終わってましたからね」

「それじゃあ、詳細な説明を頼む」

 

 すると、クレアはⅦ組A班の事情聴取によって得られた事の顛末について語り始めた。

 

 ゼダスと別行動を取る事になった後、戦闘が続いたと。盗品を監視していた武装集団───こちらに関してはゼダスも姿を確認していたので覚えている───は余裕綽々に倒せたらしい。きっと戦術リンクを活用したのだろう。そう簡単に遅れを取るはずがない。

 その次に自然公園のヌシと思われる大型の狒々が現れたそうなのだが───

 

「(そういえば、あの謎の相手と戦ってる最中にそれっぽいのとぶつかった記憶があるな……アレか)」

 

 と、不意に思うゼダスであった。

 その狒々相手にも勝利を収めていたのだが、どうやら少々不可解な点があったらしい。何やら、その狒々が現れる寸前に微かに(・・・)笛の音が(・・・)聞こえた(・・・・)そうなのだ。これを“偶然”と片付けるのは執行者としての勘故か出来なかった。

 

「そして、ゼダスさんから見れば少々誤算かもしれませんが、ここで領邦軍が一隊規模で介入してきたという供述がありましたね」

「はぁッ⁉︎ どういうことだ⁉︎」

 

 先も話した通り、詰所に押しかけた時に領邦軍の殆どを行動不能にしている。仮に取り零しがあったとしてもさしたる数では無かっただろう。

 なのに、一隊規模で介入してきた? 明らかに何かがおかしい。

 

「普通なら有り得ないことを可能にする手段………まさか別種の古代遺物(アーティファクト)があったってことかよ」

「そこら辺のことに関しては真実が分かっていないので何とも言えませんね………一応こちらでも調査を続けるつもりですが」

「止めとけ、どうせ証拠が出てこないから完全に無駄な苦労になる。証拠を残すなんて三流なことをする相手な訳がないだろ」

「敢えて残したって可能性も無くは無いですか? 見つけてもらうことに意味があったりすれば………」

「うーむ………そこまで考え始めるとどの可能性も検討しなくちゃならないからなぁ………で、その後どうなった?」

「丁度その時に《鉄道憲兵隊(私たち)》が現場に駆け付けることが出来たので、そこからは順を追って事態を収束させましたね」

「そうか………なら良かった」

 

 聞きたいことをほぼ聞き終えたゼダスは一度息を吐く。

 先のクレアの一言から、Ⅶ組A班のメンバーが無事だったことは察せていたのだが、こうしてちゃんとした流れを聞くとしっかりと安心出来る。………………安心?

 

「(ん………? 俺が何でここで安心した?)」

 

 何故安心したのか。全く以って理解出来なかったが、ゼダスは不要な情報だと判断し、深く考えることは止めておいた。

 

「聞きたいことはそれだけですか?」

「そういうわけでも無いんだが、今聞く必要はあんまり無いんだよなぁ………ありがとな、事の顛末教えてくれて」

「別にお礼を言われるようなことはしていませんよ。どうせ私の口から聞かなくても、ゼダスさんなら何処からともなく情報を伝え聞くでしょうし」

「ハハッ、確かにな。遅かれ早かれ耳に入ってきてただろうな。でも、礼は言っておきたいんだ。後に貸しとか作りたくないし」

「ゼダスさんらしいですね」

「よく言われるよ」

 

 このような軽口を叩き合える仲。互いが互いに既知の存在であるかのような───否。事実、既知の存在であるのだが、何故ここまでの間柄になったのか。それはまた別の機会に綴るとしよう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼダスは運ばれていたテントから出るや否や、気配を探りながら歩き始めた。誰の気配を探っているかというと「後で話がある」と言っていたリンナだ。

 探り始めて数分。いつの間にかケルディックの街に入っていたゼダスは、街中のベンチに座っているリンナの姿を確認した。

 

「予想以上に早かったですね」

「こっちとしても話が気になって仕方なかったんだ。別にいいだろ」

 

 リンナの言葉に応答しながら、自然と隣に腰掛けるゼダス。……クラスメートや知った仲の奴に見られると良からぬ噂を立てられそうな気がしなくもないが、二人ともこういう野次馬対策には慣れていた。きっちりと気配を遮断し、普通では知覚出来ても意識は向けられないようにしておいていた。

 

「で、話というのは先の相手の話ですが、どうしても伝えておきたいことが一つありまして……そして、内容的には一対一で話すのは最善かと思って、わざわざ呼びました。で、肝心の内容ですが、相手の身元と対人性能───についての憶測です」

「憶測? 確定した情報じゃないのか?」

「確定させるのには圧倒的に時間が足りなかったのと、不確定でも伝えなきゃいけない情報(モノ)と判断したんです。真偽の判断は先輩に任せますよ」

 

 一度コホンと咳払ったリンナは情報を一つ一つ並べ始める。

 

「まず、相手の身元についてですが、これに関してはほぼ判断材料が無いので、正直割り出せてません。正体を隠すことに特化した古代遺物(アーティファクト)の所為で、性別すらもあやふやですしね」

「やっぱり、アレは古代遺物だったのか?」

「そこに関しては首肯しますね。仮に異能によるものだとすれば、少し不便過ぎませんか?」

「それもそうか………」

 

 古代遺物ならば、その能力の解除は大抵の場合は身から外せば行えるが、身に根付いた異能となれば話は変わってくる。

 しっかりと異能と向き合い、それを克服し律することが出来れば意のままに解除することくらいは造作も無いかもしれないが、いきなりのことで気が動転させられたりした衝撃(ショック)で能力が暴発するだろう。

 そして、ゼダスが謎の相手に致命的な一撃を叩き込んだ時、多かれ少なかれ気は動転したはずなのだ。

 仮に相手の正体隠しが異能ならば、その時点で視界に入れることすら叶わなかった可能性がある。

 だが、あの場、あの状況においてゼダスはしっかりと視れてはいれた。

 ならば、消去法で古代遺物と踏むのが妥当だろう。

 

「─────でも、ここまでは先輩でも予想付いていたでしょう」

「そりゃ、勿論。戦闘中に何度か考えてたしな」

「戦闘には集中してくださいよ………流石に今回は余裕をこき過ぎでしたよ? ちゃんとしてれば先輩が遅れを取ることなんて………」

「それに関してはリンナの言う通りだ。ちゃんと出来てたら遅れを取ることも無かった気はするが、もう一ヶ月近く本格的な戦場に出れてないし、任務もこなしてない。否が応でも腕が鈍ってるのを感じさせられたよ」

 

 この後、ゼダスは口にこそしなかったが、このままの状態で同等の相手と戦うことになったら………

 

 

「(………………勝てない、よなぁ………)」

 

 

「で、お前の方で何か掴んだのか? さっきの言い振りだとそう聞こえるんだが………」

「こっちも事態の収集と平行して、結社の諜報網………と言っても、結社内で私が使える権限なんてたかが知れてますから、期待はあまり出来ないんですけども、今のところは何も(・・)出て(・・)こなかった(・・・・・)んです」

「何も出てこなかった、だと………?」

 

 リンナが及ぼせる影響力が多くはないとはいえ、結社の諜報網で何も引っかからないなんてことはそう無い。どれだけ微かでも証拠があれば、ある程度の目星が付くはずなのに、一切合切出てこないなんてことは果たして有り得るのか?

 

「これは嫌な予感しかしないな」

「同感です。何か進捗があれば連絡はしますけど………多分出てこないでしょうね」

 

 相手の身元に関しては最早無証拠で探すのと大差ないことに気付かされて終わった。次は───

 

「───対人性能、だが何か分かったのか?」

「これに関しては実際に剣を───というか私は盾ですけど───を交えての感触に加えて、結社のデータベースから探って大方の憶測は付きました」

 

 そう言ったリンナは何処からともなくタブレットを取り出し、ゼダスに差し出す。

 その画面に映し出されていたのはリストだった。きっと目ぼしい武装を見易い様に並べてくれたのだろう。

 ゼダスはそれに目を通し───

 

「─────って、これ全部古代遺物か?」

「そうとしか考えようがないというか………それくらいに厄介でしたよ」

「だが、古代遺物の複数操作は………」

「先輩もご存知の通り、それには相当な技量が必要とされます。半端な腕では古代遺物に身体も精神も喰い潰されますしね」

 

 古代遺物はとても強力な存在ではあるが、それ故に危険を伴う。

 使用者自身の技量で使える性能以上に力を引き出そうとすれば、身体の一部が動かなくなったり精神が変質したりすることもよくあると聞く。下手すれば精神が崩壊して、廃人となった例も無くは無い。

 それなのに古代遺物の複数操作を行う奴は、余程自分に自信があるか、全てを捨ててでも力を手に入れたいのだろう。

 

「まぁ、このタブレットは先輩に貸しますので、寮で寛いだタイミングにでも目を通しておいてください。もう直ぐ、トリスタ行きの列車が出発しちゃいますし」

「え────?」

 

 言われて初めてゼダスは気付いた。もう少し時間が経てば、陽は地平線の先に沈んでしまいそうだった。

 確か実習帰りに使う便はそろそろ出発だったはず。………別にもう少し遅れた便でも良いのだが、説明に手間が掛かりそうな予感がしたので、出来れば同班の面子と帰りたい。

 

「というわけでちょっと話を巻いて、伝えなきゃいけないことを伝えてしまいます」

「まだ何かあるのか?」

「先輩も体感したかもしれませんが、アレは東洋系の流派ですよね。しかも、護身術」

「俺、あんまり東洋系の流派詳しくないんだけど………そうなのか?」

「あくまでも私の感想ですよ。身を護る系の技に関しては少々齧っているので、そう思ったんでしょうかね………」

「お前がそう言うなら、多分そうなんだろ。注意しておくよ」

 

 ここで時間が来た。そろそろ行かねば間に合わない。

 

「以上で最低限伝えたいことは伝えました。先輩にはあの相手に関して注意を割いておいてもらいたいですけど、それ以上に学院生活を楽しんでくださいね。人生そう何度も体験出来るものでもないですし」

「別に楽しむつもりは無いんだが………………まぁ、一応は気をつけるよ」

 

 そう言って、またゼダスは駆けていく。そして、その背を見たリンナが静かに微笑み手を振る。

 それはいつの日にかあった、先輩(ゼダス)後輩(リンナ)の関係からなる「行ってきます」と「行ってらっしゃい」の光景に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンナと別れたゼダスは無事、Ⅶ組A班と合流出来た。その際に色々と質問されたが、それとなく適当に返してやり過ごした。

 そして、丁度良いタイミングで来た列車に乗り、学院のあるトリスタへの帰路に着いたのだが────その列車が駆けていく姿を遠くの丘から見つめる眼鏡の男がいた。

 

「………………」

 

 ただ無言で静観しているだけなのだが、それに横に並ぶ様に背後から新たな人物が歩いてくる。

 全身の漆黒のマントで覆い、フルフェイスの仮面を付けた人。そうとしか形容出来なかった。

 

「やれやれ、あのタイミングで《氷の乙女(アイスメイデン)》が現れたとは………少々段取りを狂わされたな」

「………想定の範囲内だ。今後の障害と成り得る《鉄道憲兵隊》の手腕が見えただけでも大きな成果と言えるだろう。それに………」

 

 眼鏡の男が視線を移した先にはボロマントに身を包んだ人がいた。ボロマントと同じくらいに身もボロボロで、今も血を流し続けていた。

 

「謎の提供者から預かったこいつの強さも把握出来た時点で今回は勝利を言えるだろう」

「ふふ、確かに………それではこのまま《計画》を進めるとしようか?」

「ああ、勿論だ。全ては“あの男”に無慈悲なる鉄槌を下すために」

「全ては“あの男”の野望を完膚なきまでに叩き潰すために」

 

 まるで示し合わせたかの様な台詞を吐いて、立ち去っていく仮面の人。そして、訪れるは“静寂”だが、そんな中ボロマントの人は誰にも聞こえない声で一言だけ本音を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は、次こそは………殺す。殺して、殺して、殺して、殺して、そして殺さ(救わ)れるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







一章ようやく終了デスよ! というわけで、キャラ設定とか公開出来る範囲内でする(かもしれないし、しないかもしれない)



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