闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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結局またもや前話から一ヶ月空いて申し訳ございません! 色々立て込んでいました!(と言ってみるけども、普段のTwitterの感じだと立て込んでる感/Zeroなんですけどね)

最近、シンフォギアに嵌って大変です。ストーリーが胸熱過ぎて好き過ぎる………楽曲を歌いたい絶唱したい。感化されて御蔵入りしてた歌姫キャラ引っ張り出そうと思ったけども、歌の表現ってどうするのが正解か分からないので諦めたという………悲しい(泣)





真実は見えてくる

「ぜ、ゼダス! 貴方、本気なの⁉︎」

「お前が愚痴ばっかり漏らすからだろ。本人達に言ってやれ、スカッとするから。あと、俺も確認することあるし」

 

 一切止まるつもりは無いのか、歩みを止めないゼダスにアリサは言葉を掛けていた。

 ゼダスが向かっているのは言葉通りクロイツェン領邦軍の詰所なのだが、このやり取りは数回繰り返した。それでも止まらないのだから、もう何を言っても通じないだろう。妙に頑固である。

 

「いやー、楽しみだなー。アリサの本音聴いて、あいつらどんな顔するかなぁー」

「それって、敵のど真ん中で言うことになるんでしょ⁉︎ 袋叩きされる未来しか見えないんですけど!」

「そこは何とかするさ。うん、きっと何とかなる」

「なんで、きっととか不確定性しかない言葉なのよ! 不安しかない!」

 

 アリサが無駄に喚くから街行く人たちの視線が痛い。故にちょっと足速に歩みを進めるゼダスである。

 

 そして、約数分後。目的地である領邦軍の詰所に着いたのだが、その門には警備員が二人立っていた。時間帯が合えば、誰も居ないという可能性も無くは無いと思っていたのだが、流石にそう上手くはいかなかった。まぁ、居ても居なくても大して支障は無い。

 歩いてきたそのままの勢いで詰所の中へと突き進んで行こうとしたのだが………

 

「おい、そこのお前。ちょっと止まれ」

 

 ………警備員に止められた。当然だ。

 

「? なんか止められる用事あります?」

「お前、ここが何処か分かっているのか?」

「領邦軍の詰所だろ? このラインフォルト家の(・・・・・・・・・)御息女様(・・・・)が今から愚痴を思いっ切り打ちまける舞台な────」

 

 瞬間、空気が凍った。というか、この場の全員の表情が凍った。

 警備員達はラインフォルト家の御息女(アリサ)の家名故に。そして、当の本人(アリサ)は何故サラッと家名を告げられた故に。

 

 “ラインフォルト”といえば、帝国最大の重工業メーカーのことを指す。

 導力製品の製造・開発を主業としていて、Ⅶ組で支給されている戦術オーブメント《ARCUS》やエリオットとエマが試験運用に携わっている魔導杖なども作っている。

 元々、武器工房が発展し、大規模になって成った企業だからか、軍事関連の兵器開発事業なども数多い。その為、帝国正規軍や各州の領邦軍と契約を結んでいるのだ。

 そんな所の家名を背負っている御令嬢を? ここで無下に追い払ったら? 最悪は契約打ち切りからの何らかの嫌がらせが飛んでくる可能性だって無くは無いのだ。

 

「という訳で、サッサと通してくれ? ここで面倒な問答を重ねる気は無いんだ。それとも、堪忍袋の尾が切れかけてる御息女様の御機嫌を損ねた結果、色んな兵器で嗾けられるような地獄でも見たいか?」

 

 そんなゼダスの言葉に何を感じたのかは知らないが、警備員達は無言で道を開いてくれた。

 その開いた道を「ありがとさん」と随分気軽そうに言いながら進むゼダスに急いで着いて行くことしか出来ないアリサであった。

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

「───待ちなさいよ!」

 

 領邦軍の詰所の廊下を悠然と歩くゼダスは突如上げたアリサの言葉に足を止めた。

 

「さっきからなんなんだ? 何か気に掛かることでも?」

「あるわよ、大いにあるわよ! ───なんで、なんで貴方が私の家名(ファミリーネーム)を知ってるのよ!」

 

 ───そう、それがさっきアリサが驚いた一番の原因。

 

 アリサは特別オリエンテーリングの時から一貫して家名を「R」で通してきている。

 そもそもⅦ組自体、平民とか貴族とかの階級による問題を一部の誰かさん達を除き、触れないようにしているからか、本来の家名を隠していても誰も気にしていないし、誰も触れようとしてこなかった。

 故にアリサの本来の家名を知る由など無いはずなのだが………………まぁ、アリサ本人の言葉から察するに気付いていないのだろう。

 

「そこまで隠したがるんなら、隠し事が上手くなるように少しは努力しろよ。列車での事件の時、全く隠さず普通に家名言ってたからな」

「え、う、ウソ………」

 

 やはり、無自覚だった。

 アリサは軽く絶望し掛けているが、ゼダスは気にせず歩みを進め始めた。

 

「(………………ま、お前の家名は随分前から知ってたんだけどな)」

 

 と、内心呟くで止めたゼダスはアリサに言う。

 

「んじゃあ、そろそろ行こうぜ。この扉の先だろうしさ」

 

 ゼダスが指差す先には扉があった。最奥に位置する所にあったことを考えると、この先には領邦軍の奴らがいる訳だ。

 アリサは少しばかり緊張している風だったが、そんなことを気にせずにゼダスは扉を壊すかのように思いっ切り押し開く。ちょっと扉から危ない音がしたが、外れてはいないし大丈夫だろう。

 

「な、なんだいきなり!」

「誰の断りで入ってきた!?」

「あーあーうるさいったらありゃしない。ちょっと黙るってこと出来ません? 流石に目障りだぞ───って、この場合は耳障りか」

「て、テメェ───!」

 

 きっと、領邦軍の中に一際短気な輩がいたのだろう。平然としたままのゼダス目掛けて殴り掛かってくるが、相手は執行者。その行動をしっかりと視て、パシッと受けながら、その力を利用して投げ飛ばす。

 ゼダスは投げ飛ばした相手の方に歩み寄り、懐に隠されていた拳銃一丁を拝借。いつでも発砲出来るように準備した後に相手の眉間に銃口を突き付けた。

 

「これで良しっと。おーし、お前ら動くなよー。下手に動いたら、この人即殺しちゃうからな」

 

 ゼダスは間の抜けた声でそう言うが、一切の冗談さは感じられない。つまりは本気。殺ろうと思えばいつでも殺る訳だ。

 

「それじゃあ、ラインフォルトのお嬢様。言いたい愚痴というか文句、存分にどうぞ!」

 

 アリサのことを名で呼ばず、あえて家名で呼ぶ。しかも、いつも以上に嬉々とした声音で。

 ここで本当に言って良いのだろうか判断しかねているアリサはゼダスに視線で尋ねるが、返した応答は無言の首肯のみ。

 

「(───ってことは、言えってことだよね………)」

 

 後がどうなろうと知ったことではない。ゼダスが自信満々にしているのだ。きっと何か策があると信じて、アリサは口を開く。

 

「あなた達は一体何なの………あなた達は何の為に存在しているの!?」

 

 一度口から漏れ出せば、止まらなかった。

 

「領邦軍なんでしょ! なら、自分たちが治めている土地で起きたトラブルくらい解決しようと努めなさいよ! 何なの、あの理不尽な収め方は!」

「小娘に何が分かr「───分かるわよッ!」」

 

 アリサの言葉は有無も言わせない。言わせる暇も与えない。

 

「あなた達が間違ってることくらいは分かるわよッ! 絶対におかしい! 絶対に違う! なんで………なんで困っている人をあんな風に見捨てられるの! 理解出来ない………ッ!」

 

 冷静さを欠いて文句を吼えているように見え、それ故にアリサの身体は僅かながらに震えているように見えるが───それは少しばかり違う。

 

 ────普通に怖いのだ。そして、それは真っ当な人間としては当然の反応である。

 

 ゼダスが人質を抑えているから領邦軍の連中は身動きを取れていないとはいえ、敵陣のど真ん中というのに変わりはない。その上、相手の数は優に二桁に達している。未だに本気の片鱗を見せてないゼダスだとしても、容易に“数の差”を覆せるとは思わない。

 しかも、下手をしなくても退路を塞がれる可能性だって無くはないし、一見優勢に見えてもたった一手で挽回不能の劣勢に追い詰められる可能性がある現状で、怖くならないほうが変なのだ。

 

「ま、ちょっとは感情的過ぎはするが、概ね言いたかったことは言ってくれたぜ………確かにあの対応の仕方はお世辞にも良いとは言えないな。何であんな対応を取った? あれは不信感抱かせるには充分過ぎるぞ」

 

 と、アリサの言葉を継いで、ゼダスは領邦軍に問う。

 

「………あの状況において、あの対応が最善だと判断したからだ。それ以外にあり得ると思うのか?」

 

 どうせ思ってもいない建前だらけの回答にゼダスはうへーとしたくなるが、表情には出さずにして返す。

 

「…………人の判断は、人それぞれの価値観によるからな。そう言われると、こっちもあまり言い返せる言葉は無い訳だ。それじゃあ、用は済んだ(・・・・・)し、そろそろお暇させてもらおうかな」

 

 そう言ったゼダスは拳銃を突き付けることを止め、アリサの手を引き、領邦軍の詰所を後にしようとするが────まぁ、ただで出てる訳が無かった。

 いきなりズカズカと入ってくるわ、サラッと赤子の手を捻るかのように投げ飛ばされるわ、挙げ句の果てに拳銃を突き付けられて脅されるわなどで散々とコケにされたが故、領邦軍のプライドはズダズダ。ゼダスとアリサが部屋から出る前に領邦軍は二人を包囲する。

 

「(素直に帰らせてはくれないか……)」

 

 完全に予想のままに事が進んでいたからか、ゼダスは一切動揺せずに歩みを進める。

 その先に誰が立ち塞がろうが構わない。誰であろうと前に立つなら“障害”と同義なのだ。踏み倒して、貫いて、突き進むまでのこと。

 ゼダスは片手片足で綺麗に巧く領邦軍の連中を捌く。が、実際の力で劣る領邦軍だが、ある一点においては優位に立っていた。

 

 

 ────それは“数”。

 

 

 二人と多数では、そもそもの数が違う。しかも、戦闘力に換算すればゼダスは物凄い強大な存在でも、アリサはさして問題になるほどに強い訳ではない。

 一人に対して大人数で当たれ、その上片方の相手は気にする必要が無いとなれば、確実にゼダスたちは不利なのだ……なのだが。

 

「死ね───!」

 

 それは殺意の篭った一撃。人の影に隠れたところから放たれた致命的な一発の銃弾。

 しかも、狙うはアリサ。反応する暇も無く、ただ命を散らすだけ──の運命は一瞬で覆った。

 

 まるで視えていたかのようにゼダスは瞬時に対応していた。

 まずはアリサを詰所の外へと蹴り飛ばし(・・・・・)、そして銃弾は手刀で弾き飛ばしたのだ。

 

「───ったく、無駄に数が多いとやっぱり厄介だな」

 

 信じられないものを観たかのように呆然とする領邦軍の連中。それもそうだ。銃弾を手刀で弾き飛ばすなど常人が出来るような技ではない。

 銃弾を弾くのに使った手を軽く振りながら冷ますゼダス。流石に無傷という訳では無かったが、動きに鈍りが滲み出るほどではない。軽く振っておけば大丈夫だろう。

 

「無駄な事をせず、ここから出してくれればお互いに下手な手間を掛けずに済むんだけどな。序でに言うとさっき起きてたトラブルに関しても首を突っ込まないでくれると助かるんだが」

 

 心からの願いを吐露する……………が、それを聞き入れる連中でないのは百も承知。結局、道を空けず仕舞いにゼダスは。

 

「そうか………それがお前らの選択ってなら文句は言わないさ。ただ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────ちょっとばかし痛い目見てもらうぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

「………ったく………………一体何なのよ」

 

 気がつくと領邦軍の詰所から出ていた────もとい蹴り飛ばされたアリサは困惑の表情を浮かべながら言葉を紡ぐ。

 “困惑”───と称してはいるが、あの状況でゼダスに蹴り飛ばされた理由が分からないほどアリサという少女は馬鹿でも疎くも無かった。

 

「(あの場において私は完全に足手纏いだった………何も出来なかった)」

 

 蹴り飛ばされる寸前、ほんの数瞬だけ見えた気がしたが、あのまま踏み止まる………または同速度で行進を続けていたら、間違いなく命を摘まれていた。そして、それを一人で反応し、回避出来たかと問われれば、否としか答えれないだろう。

 だが、ゼダスならば余裕綽々に反応出来たに違いない。彼の素性・経歴に関して何か知っているわけではないが、彼からはそう言わんとする“何か”が滲み出ているから、そういう思考に辿り着くのだ。

 

 そんなことを思い始めたからか、アリサは若干気分が落ち気味になるが、瞬間。詰所から轟音が鳴り響く。そして、その音が鳴り終わると特に変わった様子が無いゼダスが歩いて出てくる。

 

「い、今の轟音は一体何よ⁉︎」

「アリサか………さっき思いっきり蹴り飛ばしたけど大丈夫っぽいな。ちょっと領邦軍の奴らを懲らしめただけだ」

「“懲らしめた”であの音って何したのよ………?」

 

 と問うたが、アリサは尋ねたことを後悔した。何故なら、ゼダスはただ無言で笑みを浮かべていただけだから。

 

「(きっと口に出ないようなことをしたのね………)」

 

 そう思ったアリサは苦笑を返すことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────みたいなことがあった」

 

 

 聞き込みを任せていたリィン、エリオット、ラウラと合流し、詰所での一件を報告したゼダス。

 

「それって、ただ領邦軍に喧嘩を売っただけなんじゃ………」

「確かにそうだ。これではこちらの行動に茶々を入れられるだけではないか?」

 

 エリオットとラウラの指摘にゼダスは首肯を返す。

 勝手に侵入して、言いたいことだけ言って出てきたのだ。それ相応の仕返しがあっても可笑しくないし、寧ろ仕返しがない方が可笑しい。が────

 

「普通に考えればそうなんだが………まぁ、なんだ。殺してはいないが(・・・・・・・・)軽く行動不能(・・・・・・)にはしてきた(・・・・・・)。数日は動けないだろうから大丈夫だろ」

 

 何やら物騒なことを呟くゼダスに全員の半眼の視線が突き刺さるが、当の本人は全くもって気にしていない。ゼダスとしては建前だらけの回答が聞けた時点で領邦軍の連中は用済みだったのだ。寧ろ、これ以上この件に介入してほしくないのが本音だ。なのに殺していないのだから、その事実だけでマシだと思ってほしい。

 

「───で、そっちは何か有益な情報を掴めたのか?」

「有益かは分からないんだけど、ちょっと気になることは聞けたんだ」

「気になること………?」

 

 リィンの発した「気になること」にアリサは食い付く。

 

「どうやら最近、いきなり勤め先をクビにされた人がいたらしい」

「そいつが単に無能だった可能性は? 別に気になるような内容じゃないだろ」

「最後まで聞いてくれよ………で、その人はこの町の郊外にある自然公園の管理をしていたらしいんだ」

「自然公園といえば、『ルナリア自然公園』よね?」

 

 ルナリア自然公園といえば、リィンが発した言葉にあった通り、ケルディックの郊外に位置する自然公園だ。しかも、相当の広さの敷地があると有名だ。そこの管理を任されていたとなると、クビになったというその人は仕事が出来る人なのだろう。

 しかし、そうなると理解し難い点が出てくる。───それほどの人が即日クビという点だ。せめて、事前通告の一つを入れるべきだろう。

 

「ほう………」

 

 脳裏に疑問点が浮かんでくるとゼダスは考え始める。そして、聞いておきたい疑問を素直に口にした。

 

「因みにその後任はどんな奴か分かるか?」

「その人曰く『チャラチャラした若僧』らしいが、いかんせん酔っ払ってたからな………」

「聞いた感じ、後任の方が仕事は出来なさそうだな………で、言ってることは事実なんだろうな。多分、それ自棄酒だ。そんな奴を何人か見たことある」

 

 そう答えるとゼダスはまた思考に身を落とす。

 深く、深く、深く。己の仮説を組み立てるべく、脳内の情報を整理する。

 そして、徐ろに口走り始めた。

 

「一晩で二人分の商品を盗み出す方法………これに関しては人を雇えば解決と前に結論出来ている。そして、隠すには一晩で商品を持って移動出来る距離と隠せるだけの広さがあるという条件の場所が必要だ。それこそ、さっき話題に挙がった『ルナリア自然公園』が最適だろう。で、管理を任せられた人を理不尽に解雇されたことにも辻褄が合う。だって、首謀者側の人間に管理させないと真夜中に運び込むなんて無理だろうしな」

 

 ズラズラと推理を並べたゼダス。

 

「確かにそれなら不整合な点が無いと言えるのか………」

 

 ふむ、と頷きながらラウラは納得する。

 

「ってことは………」

「次の行き先は………」

 

 次の行き先は決まった。なら、するべきことは決まっている。

 

 

 

 

「それじゃあ、この面倒な一件に終止符を打つ為にルナリア自然公園に向かうとしようぜ」

 

 

 

 

 

 








次話こそは! もっと早く書き上げます!(失敗フラグ)



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