闇影の軌跡 〜黎明〜 作: 黒兎
前回の投稿から一ヶ月も経ってました。お待たせしてスミマセンm(_ _)m
現実生活が忙しかったのもあるのですが、FGOしてたりミリアサしてたりしたら、執筆時間取りにくくなってて………←おい
だ、だって、へヴリディーズの報酬美味いのが悪いんだ! 私は悪くない!
「………」
「………」
「あの………お二人さん?」
何か、昨日辺りの状態とほぼ同じように黙々と朝食を食べ進めるゼダスとラウラの二人。だがしかし、その沈黙には昨日のような気不味さはなく、ただ普通に無言で食事をしているという、寮で見掛ける光景となっていた。
口に含んでいたパンを呑み込んだゼダスは、リィンの言葉に答えるべく問い返す。
「ん? どうかしたか?」
「いや、問題が解決した感じがしてるのは何でだ?」
「そうよ、昨日なんて口の一つも利けそうにない雰囲気だったじゃない」
リィンの指摘に便乗するアリサ。口を挟んでいないエリオットも気になった風の視線を向けてくる。
朝から追求されるという状況は、あまりゼダスとしては好ましくないのだが、返す言葉は自然と出てきた。
「リィンが口利けって言ったから、口利いたんだろ」
「なっ、ゼダス貴様! そういう訳だったのか⁉︎」
猛然と喰ってかかるラウラにゼダスは、
「あー、いや、違うといえば嘘になるが、あの時の言葉に嘘偽りは無いからな。交渉は全く問題無く成立してるんだから、別に良いだろ」
と弁解。
何処も間違ってないし、ラウラだって分かっているだろう。だが、他のメンバーにとっては要領を得ない発言だったに違いない。
朝の二人っきりの会話を聞いていなければ、“あの時の言葉”や“交渉”などの明確な意味は理解出来ない。出来るはずがない。
いずれ、各自に伝えねばならないのだろうが、今はラウラだけで手一杯な気もしている。一度に複数の関係を掛け持つのは宜しくないと理解しているが故、まだ言わなくても良いだろう。
「というか、リィン。お前もラウラと色々あって気不味いんだろ? だったら、今の内に解決しとけよ。後に持ち越されると面倒極まりない」
昨晩の会話から得た情報をゼダスは忘れていなかった。言葉通り、後々に響くと厄介なのもこのタイミングで発言した原因の一つなのだが、原因として最たるものは単純に話を逸らしたかったから。
「そうだな………ラウラ、昨日は済まなかった」
別に図った訳ではないのだろうが、今朝の謝罪と似たり寄ったりな文言にゼダスは吹きそうになるが、ここは堪える。流石に真面目な雰囲気を叩き潰す気は一切無い。
「何故謝る? あの事に関してはそなた自身の問題故、謝る必要はないと言ったはずだが?」
「いや、違うんだ。謝るのは、“剣の道”を軽んじる発言をしたことについてだ」
詳しくは聞いていなかったものの、何となく話の流れを掴めてきたゼダス。確かにリィンとラウラが揉める内容としては納得出来るものだった。
“剣の道”に対しての価値観は剣を振るう者によってそれぞれだ。そして、この二人に関しても例外ではない。故に、意見が食い違った末に揉めても何ら可笑しくは無い。
「『ただの初伝止まり』なんて、よく考えたら失礼な言葉だ………老師にも、八葉一刀流にも、“剣の道”そのものに対しても。それを軽んじたことだけは、せめて謝らせて欲しいんだ」
しかし、どうやら和解する雰囲気らしいし、ゼダスが口を挟む必要は無いだろう。というか、口を挟むつもりは元から無かった。
「………一つ抜けている」
「え………」
「そなたの事情は知らぬ。だが、身分や立場に関係無く、どんな人間だろうと誇り高くあれると私は信じている。ならばそなたは、そなた自身を軽んじたことを恥じるべきだろう」
ラウラの言葉に何やら思うところがあったのか、リィンは一度押し黙る。が、そんな中ラウラは問う。
「リィン………そなた、“剣の道”は好きか?」
「………好きとか嫌いとかいう感じじゃないな。あるのが当たり前で、自分の一部みたいなものだから」
そのリィンの答えに納得したのか、ラウラは頷く。
「そうか……ならば良い」
こうして、解決解決───と思ったのも束の間。
「女将さん! 大変大変!」
そんな声と共に勢いよく開かれた宿屋の扉。あまりの勢いにA班全員は、驚きの度合いは違うとはいえ、驚いていた。エリオットなんて、相当凄い顔をしていた。写真にでも収めておけば、後々弄る素材としては申し分無い気がしたが、そんな話は今はどうでも良い。
服装から察するにこの宿屋のウエイトレスだろう。その声音からは相当の焦りが垣間見える。
「朝っぱらから五月蝿いよ、ルイセ。出て来るのが遅いよ」
宿の女将さんの言葉を察するにウエイトレスの少女はルイセという名なのだろう………そのルイセは遅刻に関して謝りながら、慌てている事情を説明し始めた。
どうやら、大市の方で事件があったらしい。昨日から屋台の出店場所をかけて争っていた二人がいたらしいのだ。で、その日には決まり切らなかったそうなのだが………昨晩中の内に両方の屋台が綺麗に壊されていたそうだ。しかも、商品まで盗まれたと言う。
そして、今現在─────
―――*―――*―――
「────喧嘩してるって訳か」
Ⅶ組A班は現場となった大市に出てきた。
そこでは、平民風貌の男性と貴族風貌の男性が喧嘩していた。初老の男性が何とか仲裁を試みているが、多分その程度で怒りは収まらないだろう。
商人にとっては商品は文字通り生命線といっても差し支えない上、全部盗っていかれたのだ。争っている相手の所為にしたいのはよく分かる。が、冷静に考えたら有り得ないのだ。
何故なら、互いに商品を綺麗さっぱりに盗まれているからだ。相手の所為にするのなら、別に自分の商品を紛失させる必要は無い。………そういう一般的な思考を逆手に取ったが故に、“紛失した”体を装っているのかもしれない。まぁ、今幾ら考察しても答えが出る話では無い。
現状を把握したゼダスは一度頷き、言葉を発する。
「───よし、俺らは実習課題片付けるか」
「「「「────ッ⁉︎」」」」
ゼダスの言葉に何やら驚いた表情を浮かべるその他大勢にゼダスは首を傾げる。
「何か間違ったことを言ったか? 至極真っ当な意見だろ」
「助けるって選択肢は……?」
「“助ける”だぁ? どう見ても、学生の分際で首突っ込める内容じゃないだろ」
言い分としては何処も間違っていない。
商人同士のいざこざ相手に学生が何が出来るというのか。普通に考えて、何も出来ない。それでも何かしようとして、話の内容が拗れても駄目なのだ。結果的に迷惑を掛けることになってしまうのならば、何もしない方が良い。
しかも、こういう問題に関しては、もっと別に適任な役職の人達がいるのだ。
「だから、俺達がわざわざ動く必要は無いんだって。………ほら、彼奴らに任せれば良いから」
ゼダスの視線の先にいたのは、武装をした軍隊………このケルディックの街を統治しているクロイツェン領邦軍だった。
街で起こった盗難事件なのだから、彼らには解決する“義務”がある。ならば、任せてしまっても何も不思議ではない。
そう思い、そそくさとゼダスは大市から離れようとしたのだが────
「こんな早朝から何事だ! 即刻解散しろ!」
───その怒号が耳朶を打った瞬間、足が止まった。
そのまま、話の内容を聴いていたのだが、解決する気が更々無いのだと嫌でも理解させる。
流石に異を唱えたくなり、ゼダスは走り出して、商人と領邦軍の隊長の間に割って入る。
「『いがみあう2人の商人が同時に同じ事件を起こしたと考えたら、辻褄が合う』って………仮にも大市に出店するとなったら相当の量の商品があったはずだろう? それを一晩で綺麗さっぱり盗むのでさえ大変過ぎるのに、屋台までも破壊だぞ? しかも、互いの身に起こってるんだ。アンタらが示した意見を元に考えると、その上に互いに気付かれないようにやったってことだろ? そんなの有り得る訳が無い」
「いきなり、しゃしゃり出てきてなんだ、貴様は。学生風情が知ったような口を利くなよ。生憎、領邦軍にはこんな
完全に隠蔽する気しかない。本来、権力を振り翳すことが出来る領邦軍が行ってはならない行為だろう。
その言葉に当事者2人とその現場を見ていた野次馬達は一同に押し黙る。それに隊長は、
「フン、それで良い。それでは失礼する。我々も忙しいのでな」
と言い残し、隊を率いて大市を後にして行った。
残された当事者たちは、何に当たって良いか分からず、行き場の無い怒りを地面に叩きつけた。その気持ちもよく分かる。
ただでさえ、商品窃盗に屋台破壊というだけで心情の荒れ具合はある程度凄いのに、その上にあの領邦軍の不適切な対応だ。故に怒りを地面に叩きつけたことを咎める者は誰一人として居なかった。
だから…………だろうか。
別に困った人を助けようとする世間一般の綺麗な“正義”では無い。
もっと、単純で。明確で。そして───私欲的な理由。
───単に腹が立ったから。
ただそれだけの理由で、ゼダスは呟いていた。
「この一件、任せてもらえませんか?」
学生では身に余る。それはさっき他のメンバーに言った通りだ。
だが、このゼダス・アインフェイトという人物は“学生”であり、“執行者”である。この程度の案件ならば、別に捌けない訳ではない。
「お前ら、この件を何とかしたかったんだろ? なら、良かったな、関われて」
「でも、さっき無理って………」
「
若干キレ気味だからか、投げ捨てるような言葉を吐くゼダスだが、その身からは自信で溢れているように視えた。
「───で、
「………ゼダスの言う通りだ。ハナから見過ごすことは出来ないし、解決出来る見込みがあるなら、やってみるべきだ」
その言葉に異論は無いのか、一同は頷いた。
「それじゃあ、解決に向けて動き始めますか」
―――*―――*―――
その後、大市の元締めであるオットーから事態の一時収拾及び解決に向けて動くことになったⅦ組A班に礼が施された。その際にこのケルディックの現状についての情報を聞き出したのだが、得ていた知識以上に深刻だった。
どうやら、このケルディックを納めている翡翠の都バリアハートの公爵家にして、クラスメイトであるユーシスの実家であるアルバレア公爵家が二月ほど前に、大市の売上税を大幅に上げてきたそうなのだ。しかも、その増税の量は並大抵の商人だと普通の生活を維持するのが危うくなるレベル。
その為、元締めであるオットーはその増税の量を少しでも下げてもらおうと、直接公爵家に訴えに行くのだが、全て門前払いに遭っている。しかも、公爵家はそれを煩わしく思っているのか、領邦軍を利用した嫌がらせを行ってくるのだ。今回のような諍いにも不干渉だし、基本困っていても助けないと来た。
「ホント、無茶苦茶じゃない!」
「お前、ちょっと五月蝿いぞ。もう少し静かに出来ないのか?」
男女二人────ゼダスとアリサは、そんな会話をしながら、ケルディックの街中を歩いていた。
何故、こうなったかというと、班内で役割分担をしたからだ。因みに分けたのはゼダス。
リィン、エリオット、ラウラには聞き込みを任せ、ゼダスとアリサは証拠を探すことにしたのだ。が、先程からアリサの愚痴ばかりを聴いてる気しかしない。別にいいのだが、少しは証拠を探す方に注力してほしい。
「(んー、一晩の内に商人二人分の品物を盗み出す方法か………あの
「なんなのよ、あの対応は! もう思い出しただけで腹立つ!」
「てめぇ、本当に五月蝿いなッ! 考えが纏まらないだろ!」
思考が纏まり切らない苛立ちとアリサの愚痴が合わさり、耐えきれなくなったゼダスは猛然と叫ぶ。
その瞬間、ゼダスの脳裏に一筋の光明が差した。
“これ”ならば、推理がある程度進むだろうし、アリサの愚痴だって少しは減るだろう。若干の危険は伴うだろうが、そこはゼダスの手腕で何とかするしかない。いや、何とかなる。
「よーし、分かった分かった。そこまで領邦軍の野郎どもに言いたいことが溜まってるんだな?」
「………? そうだけど、何よ………」
「それじゃあ──────」
きっと、この時のゼダスは良い笑顔をしていたのだろう。………どういう意味で良い笑顔かは想像に任せるが。
「領邦軍の詰所に突撃しに行こうぜ? 俺ら二人だけでさ」