闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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………………るみるみの声って良いよね(唐突&無関係)







灯台下暗しな弱点に新たな敵との邂逅

 場所は宿である「風見亭」の一階で営まれている酒場。そこでⅦ組A班一同、一つの卓で食事を共にしているのだが………

 

「………………」

「………………」

「あの………お二人さん?」

 

 黙々と料理を食べ続けている二人───ゼダスとラウラがいた。食事を始めた時から今に至るまで、ずっと何も話さずに料理を口に運んでいる。

 流石に居心地が良い訳がなく、他の人たちが懸命に話を振るのだが、それでも全く意味が無かった。もうかれこれ数回試したが、全て不発だった。

 

 ゼダスとラウラがこんなに無口になったのは二人同士で話し合った以降だ、と全員理解している。故にその話した内容がこの今の状況の根源なのだろうが………会話に発展しないのだから、探りようが無い。

 

「(単なる剣術バカだと思ったら、普通に面倒な部類の人間だったのかよ。ああっ………別に期待していた訳じゃないが………)」

 

 ゼダスは先ほどの会話から勝手にラウラの評価を纏めていたが、良いところを一つも挙げていなかった。

 ゼダスという人物は興味こそ持たせれば、その対象を良くも悪くも視れるのだが、ラウラに関しては良い点の一つも出てこなかった。

 判断材料が少ないのか、そもそも興味を持っていないのか。本人でもどちらか判断し難いが………単に興味が無いんだろう。というか、興味が失せた、の方が適切なのかもしれない。

 

 そんな感じの評価を下す原因となった件の話し合い。ゼダスは少しの時を遡り、その話し合いの内容を思い返す─────

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「Ⅶ組を何だと思っている、だって?」

 

 夕焼け照らす街道で、ゼダスはラウラから問われた内容を聞き返していた。

 

「ああ、そうだ。そなたの口から意見を聞きたい」

「なら、何で二人っきりで話すことになる? そういうことなら、俺以外のⅦ組メンバーとも共有しとくべき話題だろ」

 

 ゼダスの言っていることは間違ってはいない。

 Ⅶ組に対する思い……それを一人の立場から見たのでは、確実に偏りが出てしまう。何故なら、その本人の価値観という物が大きく関わるからだ。

 それを防ぐ為に、考えるのは一人で良いとしても、最終的な答えを出すには他人の意見も聞く必要が出てくる。

 そういうことを早く理解したのはラウラの呑み込みの速さ故か……ただ問題なのは、ゼダスが言った通り「二人っきりで話をする」という所なのだ。

 これでは意見の偏りは避けられないし、Ⅶ組にとって重要な話題なのにゼダスとラウラ。この二人間での共有となってしまう。後々、他のメンバーに説明とかしなければならないのだから、完全に無駄な時間と手間がかかるのは誰でも想像付く。

 

「それは…………」

「悪い。ちょっとばかり意地悪い質問だったな、忘れてくれ」

 

 答えるのに叶わず、言い淀んでいたラウラの姿にゼダスは先の問いを撤回。だが、言葉は止まることなく続いていく。

 

「でも、不思議なもんだよなぁ……別にその手の話をするのに二人きりになる理由も無いし、学生の時とかに抱き易い恋だの愛だのの感情が絡むほどにまで親密な仲でも無い。ってことはつまり───」

 

 そして、呼び出された時から内心に芽生えていた“警戒”の雰囲気を一切隠さずに現し、ゼダスは怪訝そうな表情で言いたかった一言を紡ぐ。

 

 

 

「───言いたいことがあるんだろ? それも他人に聞かれたくないようなものが。俺はまどろっこしいことは苦手なんだ。さっさと言え」

 

 

 

 ゼダスの言葉にラウラは微かにだが確実に息を呑む。その反応は言われたことが図星だったからか、それとも他の何かが原因だったのか。お生憎様、ゼダスに推し量る術は無かったが、まずこの場で推し量る必要は無いのだから問題無い。

 

 その後、少しの間沈黙が二人を襲う。その沈黙はラウラが紡ぐ言葉を考えている時間だとゼダスは理解出来た為、特に何も思わずに待っていられた。客観的に見たら、ちょっと気不味そうに見えるのかも知れないが、そんなことはどうでもいい。まず客観的に見ている人は街道にいないのだから。

 そして───

 

「………やはり、回りくどいのは苦手だ」

 

 ラウラの中で言葉が選び終わったのだろう。ジッとゼダスを見据えて、言葉を発する。

 

「そなたは一体、何様のつもりだ?」

 

 開口一番、いきなりの言われ様だがゼダスは特に態度に出さずに、

 

「何様って聞かれたら、普通の一学生って答えるしかないんだが」

「それは違うだろう。………いや、違いはしないが合っている(・・・・・)訳でも(・・・)ない(・・)だろう」

 

 うーむ………ハッキリと分かってはいなくても妙に聡い奴だ、と思うゼダス。

 確かにⅦ組の中でも群を抜いている実力があること自体は露見しているから、普通の一学生じゃないと思うのは当然なのかもしれない。しかし、ここまで確信めいた風に言い切れるのだから、ラウラの中で何か決め手があったのかもしれないが………ゼダスが知る術は無い。

 

「まぁ、そう言われるわな。でも、答える訳には行かない」

「何故だ?」

「答える必要がない、義理がない、意味がない」

 

 三段構成でラウラの問いを叩き落とすゼダス。流れる様な即答にラウラは少し唖然としたが、すぐさまに取り直し、ゼダスの言葉に喰らいつく。

 

「そ、それはどういうことだッ⁉︎」

「お前、さっきから聞いてばっかりだな………ちょっとは説明しろよ。そんなこと聞いてどうする───」

「───私たちは仲間(・・)であろう! 何故そこまで隠したがる! 少しは教えてくれても良いだろう! なのに、なのに───!」

 

 ゼダスの文句の様な言葉を遮って、ラウラは吼えるが───それは不味い。

 発言した本人は気付いていないだろうが、その文言にはゼダスに効く地雷が含まれている……それも盛大にヤバい部類の。

 

「……………………る」

「何だ、何を言っている⁉︎」

「───お前に何が分かるッ!」

「ッ⁉︎」

 

 明らかな“憤り”を露わに叫ぶゼダス。その様子にラウラは少なからず驚いていた。驚いた原因は……まぁ、分からなくもない。

 この一ヶ月、ラウラが見てきたゼダスという存在は、きっと何時も冷静で、それでいて殆どの事をこなせて、そして“強者”だったのだろう。

 そんな人物が、こうも感情を露わに叫ぶなど考えていなかったのかもしれない。

 しかし、当時のゼダスが驚いた原因などに思考を割けるはずがなく、ひたすら感情的に、非常にらしくなく吼えたてる。

 

「さっきから聞いてたら好き勝手に言いやがって! 俺のこと何にも知らないくせに!」

「ああ、知らない。私は知らない! だから、知りたいのだろう! Ⅶ組として、仲間(・・)として!」

「仲間仲間って何なんだよ! そんなもんは信頼の上に成り立つ関係性だ! 高々、出会って一ヶ月程度でただのクラスメイトって間柄だけで言える関係性じゃない!」

 

 と、ゼダスは吐き捨て───吼え捨てる。

 柄にもなく憤りを感じているからかは分からないが、ゼダスはラウラの制服の襟元を掴み、そのまま街道に押し倒していた。

 別にこのまま襲うなんて頭の片隅にも思っていないし、とりあえず黙って欲しかった。

 それ故の行動だったのだが、押し倒したとなると必然的に互いの距離が縮まってしまうわけで…………結果的に黙ってはくれたものの、正直気不味い雰囲気が流れている。

 

 そして、どれほどの時間が経っただろうか。

 ラウラは押し倒された最初の頃は気が動転して何が何やら理解の追いつかないような表情を浮かべていたが、今は随分と平静に戻っている。

 一方のゼダスは依然、瞳に怒りを宿したままラウラを睨んだままだった。余程、先の発言がゼダスの中で許せなかったのか、未だに怒りの炎が消えることは無い。

 

 そんな中、突然ラウラが徐に、ポツリと呟く。

 

 

「ゼダス……まさか、そなた…………怖い(・・)、のか?」

 

 

 …………何を言ってるんだ、ラウラ(コイツ)は。

 

 それがゼダスが今のラウラの発言から感じ取れた率直な感想だった。

 全く意図が理解出来ない。

 怖い? 一体何に対して?

 執行者として生きてきて、眼の前に立つ排除すべきもの全てを捩じ伏せてきた。必要だから捩じ伏せた。

 なのに、それで怖い───?

 純粋な価値観の違いか、欠片も理解出来ないその言葉にゼダスはただ困惑するしかなかった。

 

 だが、発言したラウラにはちゃんと根拠があったのか。ゼダスの瞳を覗き込みながら………そして、ゼダスの手を握りながら、言葉を続ける。

 

「そなたの手………先程からずっと震えている。最初は怒っているからだとばかり思っていたが、ようやく理解出来たよ。そなたは怖がっている。人を(・・)信じる(・・・)ことを(・・・)怖がって(・・・・)いる(・・)。違うか?」

「─────ッ⁉︎」

 

 俺が、人を、信じることを、怖がっている?

 

 ちゃんと内容を聴かされてもゼダスはピンと来なかった。

 

「(別に信じている人がいない訳じゃ────って、あれ?)」

 

 反論すべく、すぐさま頭の中を整理して、ゼダスは気付いてしまった。

 

 

 

 ─────俺が、心の底(・・・)から(・・)信頼を(・・・)置いた(・・・)人物(・・)って(・・)誰だ(・・)

 

 

 

 Ⅶ組のメンバーは? ────いや、信頼出来ていない。

 結社の連中は? ──────あれも同じだ。信頼出来ない。

 結社の長、《盟主》は? ──執行者の人生を歩む道をくれたとしても、信用は出来ていない気がする。

 

 思い付いていく全てが信頼も信用もし切れていない事実に、自分のことなのに驚きを隠せないゼダス。

 そして、最後に行き着いたのは執行者生活で一番トラウマと化している記憶にいる“とある一人の騎士”の存在。

 

 あの騎士にならば、心の底から信頼を置いていたのかもしれないが………

 

「(でも………あいつは俺を絶対に許さない。俺はそれだけの罪を犯したんだから。だから、俺が信頼を置くなんてこと自体が間違ってる)」

 

 ………もう全てが潰えた。

 きっと、ラウラの言う通りなのかもしれない。

 誰も信じてないし、信じれない。───勝手に信じても、傷付くと知っているから。故に怖がっている。

 ゼダスの脳裏で立式が完成してしまった以上、多分それは真実なのだ。現に反論する材料が無い。

 

 でも、それを素直に認めるのが無性に嫌で。

 だからと言って、何も言い返せないし、考え無しで言い返すとみっともなく見えるだけで。

 ゼダスが取れる行動は一つだけ───

 

「………………」

「なっ………ど、何処に行く⁉︎」

 

 振り返らずに、ただ無言で、その場を去ることだけだった。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 その後、半ば逃げるように立ち去ったゼダスは適当にケルディックの街中を歩いていた。勿論、見つからないように氣を操作しての気配遮断は使用している。おかげで見つかりはしないが、同時に街行く人にも見えてない風なので、当たらないように注意しなければならないのは面倒だが仕方ない。

 一定の速度を維持したまま歩き続けて、向かったのはケルディックの目玉である大市。確か、あの広場の奥には簡素だが休憩所があったはずだ。そこである程度時間を潰して休憩しながら、あとで書かないとならないレポートを仕上げてしまおうという魂胆だ。

 

 休憩所に辿り着くや否や、すぐに一席確保し、座り込む。そして、サッサと七面倒なレポートを書き上げてしまおうと紙とペンを取り出すのだが────

 

 

「………………くそっ………」

 

 

 レポートに何を書こうか考えると、最初に出てくるのがさっきのラウラとの一幕で、形容し難い悪感情が湧いてきた。

 

 思考の切り替えは戦場では必須。故に執行者であれば誰でも出来るはず。ならば、自分にも出来る………とゼダスが思うのだが、全く切り替わる気配が無い。完全にドツボにハマっているような感覚だった。

 

 これ以上、深く考えてもロクなことが思い付かないことは何となく察せてしまい、ゼダスはとりあえず脱力しながら、椅子に凭れ掛かる。

 

「あー………もう嫌だ。俺、あいつ苦手だ」

 

 完全に独り言をボヤく変な人なのだが、気配殺してるし、余程のことでもなければ視えないはずだ。別に気にする必要もない。

 もうレポートに綴る内容よりも、ラウラに対する愚痴の方が優先的に頭から湧いて出ている気がする。

 

 ───そんな中、ゼダスはある疑問に打つかった。

 

「そういえば………なんであいつは俺をあんなに気にかける?」

 

 ゼダスがⅦ組の中で浮いてるのは分からなくもないが、そんな奴がいたら、まずは関わらずにした方が良い。そっちの方が面倒ごとを抱えなくて済むし、余計な世話をする必要もない。今回のような案件だって起きなかったはずだ。

 ラウラだって、マトモな思考回路ぐらいは持ち合わせているだろう。ならば、ゼダスを避ける。触らない。関わらないとしておけば良かっただろうに………何故?

 

 頭の中で思い浮かんだ疑問なだけあって、自身の考えだけでは答えが出ないことは理解している。だが、答えが出ないと分かると余計にモヤモヤする。難儀な頭だ。

 

「………………もう今日は何やってもダメっぽいな。最低限の出来でレポートを纏めるか」

 

  ───と、ボヤきながら、レポートを書く際の在り来たりな言葉を適当に並べながら完成させていく。整合性とかは完全に度外視。とりあえず、余白を埋めることだけに専念する。

 そのまま、書き続けて十数分。数枚綴りになっていたレポートも残り一枚に差し掛かったころだ。

 

 

 ───ギィ………………

 

 

 突如、前方から椅子を引く音がした。

 レポートを書いている時も気配遮断を怠った訳では無いから、他からは視え難いはずだ。完全に視えない可能性だって十二分にあり得る。しかし、完全には違和感が消えないので、普通の人は無意識にゼダスの周囲を避けてしまうはずなのだ。

 しかも、大市で開いている殆どの店は今日の営業時間を終えかけているこの時間帯にわざわざ休憩所を使う人はいないだろう。客は客で家やら宿に帰るだろうし、商人は店仕舞いに追われているはずなのだから。

 

「………………」

 

 故に気に掛かり、ゼダスは顔を上げて確認するのだが───その表情は凍り付いた。

 

 無駄に長い髪で顔の殆どが隠れているのだが、紅玉のような眼だけが煌めいて見えるという、顔の造りが理解し難い上に。

 服装は無駄にダボダボな白いローブを着ていて、身体のラインが分からない以上、性別の判断もつかない。

 完全に不明なところしかない姿なのだが………まぁ、そこはどうでも良いのだ。そもそも見たことが無いのだし。ゼダスの表情が凍り付いた理由は他にある。

 

 その座ろうと椅子を引いた席がゼダスと同卓で、対面の席。しかも、無駄に長い髪から覗く赤眼は完全にゼダスの姿を捉えていて………そして、極め付けは物音を立てられるまで全く(・・)気配を(・・・)感じ(・・)取れなかった(・・・・・・)ことだ。

 

 例え、レポートを書いていたとはいえ、普通なら気配は感じ取れる。この程度が出来なければ、実戦でとっくの昔に命を落としている。故に感じ取れないなんて、あってはならない。つまり───

 

 

「(つまり、こいつは─────!)」

 

 

 その時、脳裏には数時間前にブルブランから言われた忠告が浮かんでいた。

 

 

 

『───執行者No.Ⅱ、《天帝》ゼダス・アインフェイト。君は今………中々に厄介な相手に眼を付けられている。用心しておくと良いかもしれないぞ』

 

 

 

 

 

 

 ────ブルブランの言ってた相手かッ!

 

 

 

 

 

 今起きている出来事と忠告が噛み合い、ゼダスは即座に戦闘態勢へと移行する。

 

 

 

 

 

 

 







次回は久々に戦闘シーンな気がします。違うかもしれません



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