闇影の軌跡 〜黎明〜 作: 黒兎
もうさ………サブタイ思い付かない! どれだけ頭絞っても出てこないわ!
今回は若干………というか、だいぶ文量少なめです。次回はもう少し文量増やせれば良いんですけど………
「やっぱり、トリスタから近いって良いな、ここ」
列車が実習地であるケルディックに着き、下車するや否やゼダスは呟いていた。
情報通り、それなりに繁盛しているようで、道を行き交う人の姿が多く見受けられる。
「そういえば、ゼダスって何処から来たの? ここら辺から?」
「いいや、違う。家はまた別のところにある」
エリオットの質問にゼダスは即座に答える。…………まぁ、真実を告げた訳では無いのだが。
執行者であるゼダスにとって、明確に“家”と呼べるものは存在しない。結社自体を家と出来るのかもしれないが、あんな危険極まりない所を家として良いのか?
本来、家というものは心の底から落ち着けるような場所が相応しく、間違っても常時死と隣り合わせなのは何かが可笑しい。それは暗殺業を生業とする一家とか、それに類似する系統のイかれてる奴らの家だろう。
「(───って、それこそ結社だな。あそこほど、イかれてる連中が揃ってる所なんて、早々無いぞ)」
改めてゼダスが結社の危険さを感じた時、
「んじゃあ、宿まで行くからついて来なさい〜。ちなみにここの特産品はライ麦を使った地ビールよ。あれ美味しいのよねぇ〜。あ、でも君たち学生だから飲んじゃダメよ」
と、サラが。妙に後半部分の声音が弾んでいたので、A班全員「この教官、A班に説明しに来たというよりも地ビール飲みに来ただけじゃないのか?」と思ったりしていた。多分当たっているに違いない。
「………………………」
────と、サラの思惑云々に思考を割いていた時、ふとゼダスは明後日の方向に何かの気配を感じた。しかも………そう簡単に無視出来ない気配。
「悪い、教官。先に宿の方に行っててくれないか? ちょっと気になることが出来た」
「……はぁ………分かったわ。サッサと戻って来なさいよ」
―――*―――*―――
「一体何の用だ、《怪盗紳士》」
ケルディックの通りを横に曲がり、日が差し難い裏路地へと足を進めた先にゼダスが感じた気配の主がいた。
如何にも高価そうな白い服を纏う姿は貴族に見える。……………その顔に趣味の悪そうな仮面さえ付いていなければ。
「おやおや、これは《天帝》よ。こんな所で会うとは奇遇だな」
「別に俺としては会いたい訳じゃないんだけど。で、何で執行者のお前が此処に居る?」
眼前にいる男はゼダスと同じ結社の執行者でNo.Ⅹ。さっき呼んだ通り《怪盗紳士》が二つ名で、執行者としては珍しいのだが、表社会である名でよく知られている人物である。
その名も───怪盗B。
西ゼムリア大陸全土を股にかける神出鬼没の怪盗として名が通っているのだ。数々の芸術品等々を鮮やかな盗むところから、一部熱狂的なファンがいるとも言われている。
「はは、そう殺気を出さなくても大丈夫さ。この地で何か問題を起こすつもりは無いのでね。………強いて言うなら、《天帝》の君に忠告が用、なのかな」
「忠告───? 一体、どういう内容だ?」
《怪盗紳士》の言葉に眉を顰めるゼダスは問うていた。
普段からテンションの変な奴だ。何かの冗談、妄言な可能性だって充分有り得る。
だが、執行者の本能が「これは聞き逃すべきでない」と告げているのだ。
「まぁ、君が執行者としての実力を十二分に発揮出来るのなら、別に苦ならないだろう。何故なら、こういった事は今まで何度もあった筈だからな」
「要点を掻い摘んで説明しろ、
話の進め方が一々回りくどいのに苛立ち、ゼダスは《怪盗紳士》の本名───ブルブランの名を呼んでいた。
「そんなに語気を強めなくともちゃんと伝えるさ。君が全力で殺しにかかってこられては私も危ないのでね」
ブルブランは一度、咳払いをし、その忠告とやらを告げる。
「───執行者No.Ⅱ、《天帝》ゼダス・アインフェイト。君は今………中々に厄介な相手に目を付けられている。用心しておくと良いかもしれないぞ」
―――*―――*―――
「どう考えても可笑しいでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゼダスはブルブランと別れ、A班と合流しようと宿泊する宿である「風見亭」に足を運び、A班が泊まることになる部屋に向かうや否や、そのようなアリサの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「何叫んでるんだよ………下の階の人たち驚いてたぞ」
「あ、ゼダス。おかえり〜」
「気になること、とやらの確認は済んだのか?」
「まぁ………済んだって言えば済んだな」
少し歯切れが悪そうに答えるゼダス。
ラウラの質問に答えた通り、確認は済んだ。だが、あの忠告の内容が全く理解出来ずに現在進行形で考え込んでいるのだ。
誰かに目を付けられている………狙われているのはよくあることだ。執行者業をこなしていれば、恨みを買うことだってあるし、その報復しようと企てられることもある。現にあった。
しかし、あんな巫山戯た形でも執行者であるブルブランが「中々に厄介な相手」と言う相手で、恨みを買った相手なんて………いない訳では無いが、わざわざコソコソ嗅ぎ回ってくるような奴はいなかった筈だ。
「(なら、誰だ?)」
考えれば考える程に混乱する。ハッキリとした答えが出ないというのは、やはりモヤモヤして心地の良いものではない。
「────ス………ゼダス?」
「………どうかしたか?」
どうやら、いつの間にか深く考え過ぎていたようで、完全に周りの状態をおざなりにしていた。ゼダスはリィンの呼び掛けに気付き、顔をあげる。
「そろそろ実習始めるけど………大丈夫か? 何か考え事してた風だったけど」
「別に大丈夫だ。気にされるような事じゃないし」
執行者という素性をゼダスはⅦ組には隠している以上、忠告内容に関して考えていたなんて言える筈がない。
とりあえず、変に勘繰られないようにA班と一緒に実習に赴くことにする。
―――*―――*―――
「………なぁ、リィン。ちょっと思ったんだが」
ケルディックの街中を歩きながら、遅れて合流した為に見通せていなかった実習内容が記された紙を眺めながらゼダスは思ったことをそのまま口にする。
「これ、どう見ても全員で一個一個こなすより、分担してやった方が早く片付くよな?」
その紙に記されていた実習内容は───
特別実習・1日目、実習内容は以下の通り
・東ケルディック街道の手配魔獣
・壊れた街道灯の交換
・薬の材料調達
実習範囲はケルディック周辺、200セルジュ(1セルジュ=100メートル)以内とする。なお、1日ごとにレポートをまとめて、後日担当教官に提出すること。
というもので、一項目の依頼の難度は楽であっても、三つある。
この程度の難度ならば、A班全員で一つに当たるより、分担してやった方が効率が良いだろう。
「ゼダスの言う通り、確かに分担した方が早く片付くけど………」
「でも、これ一応実習だしね………全員でやった方が良いんじゃない?」
「………そうだよな、忘れてくれ。普通にやっても早く終わるだろうしな」
ハナから通るなんて思っていなかったのか、すぐにゼダスは意見を下げる。
これは学院が定めたⅦ組特有のカリキュラムだ。流石にいきなり別行動が認められることはないと薄々気付いていた。せめて、何らかの目に見える結果……その先にある信頼を得ないことには了承されないだろう。
それがいつになるかは分かったものではないが…………
「(今回の特別実習じゃ、無理だろうなぁ……)」
と、思っていたゼダスは気付いていなかった。さっきの発言にただ一人……そうたった一人だけ、違う解釈をしていたことに…………
―――*―――*―――
時は夕刻。
提示されていた依頼の全てを片したⅦ組A班は宿である「風見亭」へと向かう帰路についていた。
別にそこまで面倒な依頼は無かったのだが、町中を何度も行き来する羽目になれば、疲れが溜まるだろう。
「あー………疲れた、早く寝たい。でも、今日のレポートも纏めないとだし、しかも、男女共用部屋………はぁ」
「え、何。宿泊部屋って男女共用なのか?」
何それ聞いてない………そんな雰囲気を纏いながら、ゼダスは訊ねていた。
「ああ、ゼダス遅れて合流してたんだったな。うん、男女共用らしい」
丁寧にリィンが答えてくれた。言われてみれば、確かに部屋には五つベットがあったような………だから、部屋に到着した時にアリサが叫んでいた訳だ。合点がいった。
男女一緒の部屋とか道徳的な意味ではあまりよろしくない気がするが、今の所属は士官学院───軍人として育て上げる場所だ。そして、軍とは昔から男女問わずに寝食を共にするところ。
故にどれだけアリサが納得していなくて、どれだけ抗議しても絶対に男女共用部屋は覆らないだろう。
そういうところで騒がないところ、ラウラの方が軍人としての心得というか素質があると言えるのだろうか。………アリサの方が素質があろうが、ラウラの方が素質があろうがゼダスにとってはどうでもいいのだが。
「そうかー、男女共用部屋……まぁ、気にすることでもないか」
一般的に考えて、年頃の男女が同部屋とか、ある種の間違いが発生する可能性も無くはないが、ゼダスに限っては絶対に有り得ない。
ゼダスが執行者として生きていた二年間の間に恋だの愛だのの感情が絡んだ事案で良い思い出なんて殆ど無い。しかも、半ばトラウマに成りかけている記憶が原因で随分前にそういった感情は捨ててきた。
今なら、別に目の前で女が無防備な姿を晒していても襲うなんて行動を絶対に取らないだろう。一時の感情に任せて行動するのは良くないのだ。
「───ちょっといいか?」
唐突に響く声。それはA班の中で一人、一歩引いた位置で歩いていたラウラだった。
「どうかした、ラウラ?」
ラウラの言葉にアリサは訊ねるが、
「いや、皆に話がある訳ではなくてな………ゼダス。そなたに少し聞きたいことがある」
「んぁ? 何、聞きたいことって」
怠そうにゼダスはラウラの言葉の意味を問う。
だが、ラウラはすぐそれに答えるでなく、
「とりあえず、他の人らは先に宿の方に向かっててもらえるか? 二人で話がしたい」
―――*―――*―――
「───で、なんだよ。話って」
「………………」
ゼダスの呼びかけに応えず、道を歩く人の流れに逆らって、歩みを進めるラウラ。そして、全くの無反応に少しばかり苛つきを覚えるゼダスは、そんなラウラに付いて行っていた。
その後、どれだけの時間が経ち、歩き続けただろうか。
ケルディックの町を抜け、街道に出てきた頃。初めてラウラは振り抜き、ゼダスを真正面からジッと見詰める。
夕陽に照らされているその表情はまるで何かに怒っているように思える。
「ゼダス………そなたに聞きたい」
静かに、それでいて芯の通った声。何の気配も無い街道によく響いて聞こえた。
「そなたは………………Ⅶ組を何だと思っている?」