闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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FGO始めて今日で一年。記念に私のFGOで初めて召喚出来たSSRの天草ピックアップを10連したら、いつも通りの爆死をした『 黒兎』です。そろそろ私に運をくれって言いたいんですけど、ミリアサだと当たり引けてるしなぁ………もうちょっと運を調整出来ないものか………









幕開く特別実習初日

 ゼダスがⅦ組メンバーの魔改造………もとい強化を請け負うことを宣言して早半週間。

 今日も今日とて、早朝から街道には死屍累々とした光景が広がっていた。

 

「今日から特別実習だから、早めに切り上げるぞ」

 

 平然としながら言うゼダスはその光景を眺める。

 そこにいたのは全身から大量の汗を流し、グテーっと倒れ込んでいる男女二人。リィンとラウラだ。

 

 流石に一気に全員を鍛え上げるのは無理というか非効率的なので、とりあえず最初の特別実習の行き先が一緒で、前衛組の二人を特訓に誘ったのだ。リィンは「勝てたらゼダスの抱えているものについて話す」という約束がある以上乗ってくるし、ラウラは元からゼダスの戦闘技術に興味があったのだろう。快く承諾してくれた。

 で、この半週間、早朝からひたすら実戦訓練を積ませてみたのだが………まぁ、そんな一朝一夕で埋まるような戦力差では無く、未だにゼダスは一太刀も食らっていない。

 しかし、まだ主武装は使っていないにしろ、ゼダスの流派である《聖扉戦術》の体術技は随分と使わされているのだ。

 やはり、リィン単独だったのがリィンとラウラの二人構成になり、その上戦術リンクが絡んできた結果、単純に二人を相手しているよりも大変になってきたのが大きいのだろう。

 

「(思いの外、戦術リンクが厄介だな………今のところはまだ主武装隠したまま戦えているが、これは近いうちに使わされるかもな)」

 

 特別実習の内容にもよるが、行き先であるケルディックで何らかの強化イベントが発生したとすれば………みるみる内に強くなるのは想像に難くない。ただ、血の滲むような努力が必要になるが、それは各個人の問題だ。本当に強くなりたいのなら、勝手に努力するだろう。そこに関して助言するほど、お人好しでは無い。

 

 さて───、と思考を切り替え、ゼダスは、

 

「それじゃあ、お前らも落ち着き次第戻って来いよ。飯作って待ってるから」

 

 と、言い残し、寮へと引き返して行く。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 入学してからの日課となった対大所帯の料理製作。随分と手慣れてきたように自分でも感じてしまい、ゼダスは少しばかり苦笑。

 入学前はこんな風に毎日大量の料理を作る羽目になるとは露程も思っていなかった。これも全てサラが原因なのだが、割と感謝していたりはする。調理している間は他のことについて、余り考えなくて済むし、他人も絡んで来難い………来難い………………はずなのだが。

 

「………………」

 

 時期としては実技テストを終わった翌朝から。

 何故か、調理し始めて、ようやく料理が完成するであろうという時にフィーが寝室から降りてきて、無言で摘み食いを始めているのだ。しかも、ジッと料理に勤しんでいるゼダスを見つめながら。

 正直、落ち着かない。この程度で手の操作を誤るほどヤワでは無いにしろ、どこかむず痒く感じるのだ。

 

「(だけど、何を言っても聞かないんだよな………)」

 

 現に前にわざわざ朝早く起きてまで摘み食いしにくる理由を訊ねてみたのだが、それにすら答えなかったのだ。訊ね直しても、きっと答えないだろう。

 この時、ゼダスはふとある疑問を思い出す。

 

「そういえば、フィー。俺、お前と何処かで会ったことあるか?」

 

 特別オリエンテーリングでフィーの顔を見た時から感じていた疑問だ。何処がで見たこと有るような無いような………

 だが、フィーが真面目に答えてくるかは分からない。というか、ゼダスの訊ね方はベタな口説き文句のそれに近い。いや、直球ストレートか。怪しまれて、答えられない可能性の方が高い気がしてきた。

 これは完全に選択間違えたか………と、思うゼダスを余所にフィーは、

 

「………………どうだろ。あんま、気にしたことない」

 

 と回答。

 肯定か否定か捉え難い答えにゼダスは内心げんなりするが、表には出さずに調理を続ける。

 しかし、フィーがマトモに問いに答えたのだ。これを機に聞きたかったことは聞いておこう。

 

「───特別オリエンテーリングの時、サラとの会話で聞こえたんだが………お前、猟兵なんだな」

「“元”猟兵。今は違う」

「まぁ、そこはどっちでも良いけどな。で、元々所属してたのは何処?」

「………………」

 

 フィーは押し黙る。きっと、答えたくないのか答えれないのだろう。

 だがしかし、沈黙というのも一種の回答なのだ。

 そこから推測混じりで推理すれば、それなりに視える物は確実にあるのだ。

 

「(元いた所属を答えられない、か………だが、元猟兵ということに関して引け目の意識は持っていないっぽいな。じゃなきゃ、即座に猟兵だと認めれないだろう。つまり、考えられる可能性は『元いた所属先の仲間が大事で、情報を渡せないから』答えられないのか、『答えたら作動する即死トラップの類でも仕込まれているから』答えられないのか………って、流石に後者は無いか)」

 

 自身の発想にゼダスは苦笑。そんな物騒なトラップなんて仕込まないだろう。………結社レベルの頭可笑しい集団なら、割と有り得ない話では無いのだが。それかもう後が無くなって、自棄になった集団とかも有り得る。実際にゼダスはそういうことを目にしたことがある。

 今思い出しても、アレは酷かった。死よりも惨く、酷い呪いの類い。

 殺すことでしか、救えなかった。ゼダスは殺すことに抵抗はあまり無くとも、あの時だけは凄い嘔吐感に苛まれたものだ。

 

「(────くそっ………随分と嫌な思い出が出てきたな)」

 

 思い出すにしても、調理中は不味かったか………と、後悔するゼダス。

 もう残っている作業といえば、盛り付けくらいなものなのだが、今日だけは手先と思考を分断して行おう。妙に雑念が混じりそうな気がしないし。

 

「フィー」

「何?」

「もう朝飯出来るから、他の奴ら呼んでこい」

「めんどい」

「朝飯抜きにするぞ」

「分かった。行ってくる」

 

 メンドくさいを理由にサボろうとしたフィーに朝飯を盾にゼダスは言う。

 すると、フィーは渋々と実行し始める。………………やはり、メンドくさいよりも食欲の方が勝るのだろう。食欲とは恐ろしいものだ、と思うゼダスがいた。

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 朝食を終え、各々が実習へ赴く準備が出来たところで、トリスタの駅のホームでⅦ組一同は集合していた。

 ある者は実習に期待し、ある者は面倒くせーと思っていたりする中、一人でホームのベンチに腰掛けて考え込んでいる人物がいた。───シノブだ。

 考えることなんて色々あるのだが、同班のユーシスとマキアスの険悪過ぎる関係性が主だ。

 

「(どうすっかなー………あんだけ溝深い悪関係なのを改善させるのって割と無理ゲー感漂ってるんだよなぁ)」

 

 班分けが発表されてから、ずっと考えていたのだが未だに具体的な解決策が出てこないのだった。

 どう手を打っても、きっと無駄。焼け石に水というか、思わぬ所で種火を撒く始末になるやもしれない。そうなっては完全に悪手だろう。

 だからと言って、この実習という普段とは明らかに違う環境になるであろう状況で、何も好転しないというのは不味いのだ。完全に手の打ちようがないことの証明に成りかねない。それだけは何としても避けねばならないのだ。

 

「(でもなぁ………手詰まりなのは変わりないんだよなぁ。というか────)」

 

 はぁ………と、一度溜息を吐き、シノブは思い直す。

 

 

 ───そもそも自分に(・・・)彼らを(・・・)助ける(・・・)資格(・・)なんて(・・・)あるの(・・・)だろうか(・・・・)、と。

 

 

 シノブ自身の今まで辿ってきた軌跡、その過程で抱えることになった物。その全てを、片鱗の一つも露見させずにいる自分が口を挟むのは良いのだろうか?

 Ⅶ組に入って一ヶ月。全員が全員、馴染めたとは言い難いとはいえ、何とかやっていこうとはしている人もいる。…………まぁ、中にはユーシスとマキアスみたく、どうしようもない位に険悪な仲の奴らもいるのだが。

 そんな未来へ進もうとしている人が多数を占める中、一人過去に囚われている。他の人も過去に囚われている可能性も有り得なくはないが……それはあくまで可能性の話だ。シノブはあるかも分からない可能性に縋るような性格では無いのだ。

 

「あんまり考えたくないんだよなぁ……」

「どうした?」

 

 思考に身を委ねていたから気付かなかったが、シノブのすぐ側にはガイウスが立っていた。

 記憶が確かならば、同班だったか………と思うシノブは応える。

 

「んぁ、別に気にされるようなことじゃねぇって。オレ個人の問題だっての」

「そうか………なら、詳しくは聞かないでおこう」

 

 ガイウスのこの深くは踏み込んでこない姿勢は素晴らしい。下手に色々喋らなくて済むのは有難いのだ。

 

「つーか、そろそろ出発じゃなかったか?」

「だから、呼びに来たのだが」

「あー、なるほどな。悪い悪い。今から向かう」

 

 さて、トリスタから実習地のパルムは相当遠い。ずっと列車に揺られても、きっと到着は夕方頃になるだろう。

 その間、ユーシスとマキアスの険悪な雰囲気をなんとかするか、躱さねばならないわけだが………

 

 

 

「(───まぁ、行くとしますか)」

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

「B班、行ったみたいだな」

「そうね。なんて言っても、パルムは帝国最南の町だし」

 

 列車が一本、出発し終わった頃にそう呟いたのはリィン。で、それに応えるように言葉を紡いだのはアリサ。

 A班はA班の方でそれなりに纏まりながら、目的の列車を待っているのだが………………うーむ、何かがおかしい。

 例えるなら、故障していたはずの時計がいつの間にか直っていたとかいう感じが適切だろうか。

 

「なぁ………さっきからずっと気になってたんだが………………」

 

 余りにも自然過ぎて、完全に聞くタイミングを逃していたのだが、この際聞いてはっきりさせておこうと思いゼダスは訊ねる。

 

「リィンとアリサ。お前ら二人、仲直りしたのか?」

 

 さっきから、オリエンテーリング以降からの嫌な雰囲気が消え失せ、如何にも普通に話しているリィンとアリサ。しかも、同班のエリオットとラウラは何も気にしていないし…………これはゼダスさん完全に聞いてないんですけど、と本人困惑気味の状態。

 そのゼダスの問いに答えたのは当の本人らでは無く、ラウラとエリオット。

 

「今朝───確かゼダスは実習に持って行く物を用意してたのだったか」

「その時にね、二人とも『このままじゃ、実習に支障を来す』って思ったんだろうね。ラウラと一緒に集合場所に向かった時に、互いで謝りあってて───」

「ちょっ、貴方っ⁉︎ べ、別にそういう訳じゃ………」

「まぁまぁ、アリサ。落ち着いて」

「ええ、そうね───って、リィン! 貴方も当事者でしょうが! ああ、もうっ! なんで私だけこんな恥ずかしい思いを………」

 

 謎にアリサが一人だけ、変に思考が先走ってる感じがしなくもないが、とりあえずリィンとアリサの関係は何とかなった模様。これなら、A班の懸念材料の一つは無くなったと言えるだろう。これで少しは安心出来る。

 さて、そろそろ乗るべき列車の到着の時刻だ。A班全員、荷物を持って、列車の方へと歩みを進める。

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 列車に乗り込み、全員が席に座った頃に列車は出発した。

 ガタンゴトンと揺られる中、何やらアリサが今回の実習地であるケルディックに関する情報を語っていた。

 

 交易町ケルディック。

 帝国東部、クロイツェン州にあり、広大な穀倉地帯の中心に位置する昔から交易が盛んな町だ。

 帝都ヘイムダルとクロイツェン州を統治するアルバレア公爵家の総本山とも言える翡翠の都市バリアハート、更に貿易都市クロスベルを結ぶ大陸横断鉄道───今、現在進行形で乗車中の列車の中継駅の役割もあるのだ。

 毎週開かれる『大市』は農作物は勿論のこと、バリアハート産の毛皮や宝石、大陸諸国の輸入品等々が流れてくるため、帝国の中でも活気溢れる町と言えるだろう。

 

「───と、言った感じに普通に旅行で来るなら楽しめるんだけど、サラ教官のことを考えると全然安心出来ないのよね………」

 

 そのアリサの言葉に全員が満場一致で首肯。現地で何をすることになるのか、一切聞かされていない状況で安心しろという方が無理である。

 各々がそれぞれに溜息を吐きたくなる中、リィンは、

 

「町に到着したら、一度宿に寄ろう。そこで実習内容を記した封筒を受け取る手筈になってるはずだ」

「へぇー、そうなのか」

「ゼダス………流石に聞いていなさ過ぎであろう」

 

 ラウラが呆れながら呟くと、それにエリオットはハハハと苦笑。

 

 そんな光景を眺めながら、ゼダスの脳裏にある思いが過ぎる。───Ⅶ組の“重心”足り得るリィンこそがこの班のリーダーだろう、と。

 単純な戦闘能力ではゼダスは勿論、ラウラ相手でもリィンは太刀打ち出来ないかもしれない。が、別にリーダーであるために戦闘能力の高さなんてものは必須ではない。

 かなりキャラの濃いメンバーが揃っているⅦ組で、全員と分かりあおうとコミュニケーションを取る彼の姿勢は紛れもなく、リーダーむきだ。少なくとも、協調性の欠片も無いゼダスよりかは適している。

 

「しかし、さっきの駅といい、妙に準備が良過ぎるというか………」

 

 と、アリサは若干警戒。まぁ、普通に列車に乗る為に要る切符とか手続きとかを全てスルー出来たとなると警戒したくはなる。

 が、その答えは意外な所から飛んできた。

 

「───それだけ士官学院も君達に期待してるってわけよ」

 

 A班が腰掛けている席の裏側から響く声。その声の主はサラ教官だった。

 何故、ここにいるのか───と疑問符が浮かべそうな表情をするゼダスを除くA班メンバーを尻目に、ゼダスは特に驚きもせずにいつも通りの声音で、

 

「最初の特別実習だからって説明に来たのか? リィンとアリサの関係も修復出来てるし、人選自体安定してるから大丈夫だけど、B班はヤバいんじゃないか? ユーシスとマキアスの所為で他のメンバーに迷惑掛かりそう───というか、確実に掛かるだろ」

「まぁ、ヤバいでしょうね。えー、でもそれってメンドくさそうじゃない? 険悪さが極まって、どうしようもならない最悪の状態にでもならない限りはフォローしに行きたくないわー」

 

 教職に就く者が発するものに思えない発言に、全員が半眼で見詰めるが、サラ自身は殆ど気にしていない様子で、

 

「ま、A班を手伝うのは宿のチェックインまでよ。そこからは何とか頑張りなさいな」

 

 と言い残すと、どうやら寝落ちしたらしく、スヤスヤと寝息が聴こえる。

 きっと、口では教職らしくない発言をしているが、ここ数日はこの実習の為に徹夜で色々と頑張ってきたのだろう。

 そんな姿を見れば、誰でも報いたくなる。何としてでも実習を成功させねばならないと思うA班一同なのであった。


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