闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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みんなの幸運を私に少しでも良いから恵んでくださいって言いたくなるレベルで壊滅的な不運ステータスを持ってる「 黒兎」です。そろそろ当たりくれていいのよ………?

今回はタイトル通り、実技テスト回です。ただ………うん、まぁ、なんだ。話の展開とはいえ………いや、これ以上は読んでから察して下さい。本来あるべきシーンをここまで省けるってあり得ないなって自分で思い返しただけなので




初の実技テスト 意外に生じた《天帝》の欠陥

「おいおい、こんなもんか?」

 

 まだ朝日が昇って間もない頃。街道には二つの影があった。

 

 一つはリィン。

 ハァハァと息を切らしながら、汗を流す彼の姿は全力を出し切っているように見える。というか、出せる全力は出しているのだろう。

 

 もう一つはゼダス。

 疲労困憊なリィンとは対照的にまだまだ余力があるようで、終いには欠伸までし始めている。

 

 何故、こんな朝早くから二人が街道にいるかというと、原因は勿論昨晩の一幕だ。

 リィンはゼダスの抱える“何か”を知る為に勝ちを取りに来て。ゼダスはリィンを特訓させることで自身が欲している死線を感じさせてくれるレベルまで育て上げる。

 互いに利害が一致しているからこそ、わざわざこんな朝早くから模擬戦なんてものをしているのだ。

 何故、特訓なのに模擬戦なのかというと「口で言うよりも体感して掴んだ方が早い」という理屈もあるが、ゼダス自身が単純に教える柄じゃないから。

 しかも、ゼダスの仕事が減る訳ではないので、こういう模擬戦を行えるのは朝食準備に執り掛かる早朝か、夕食の片付けが終えてからの晩かの二択しかないときた。……まぁ、ゼダスとしては大して苦では無いので良いのだが。

 

「初日ってことを考慮してはいるが、もう少し頑張れ。せめて、徒手空拳の俺を防勢に回させろよ」

 

 如何にも「掛かって来い」という態度のまま、挑発。リィンはその行動に少し苛立ちを覚えたが、同時に理解してしまう。

 

「(ゼダスのあの態度………それも仕方無い(・・・・)んだ)」

 

 ──そう、仕方無い。

 リィンがどれだけ力を搾り出しても、無手のゼダスに防勢に持ち込めていないのだ。その上、主武装は全く手を付けていない。

 つまり、彼我の戦力差が天と地ほどに空いているのだ。ならば、ゼダスに挑発する余裕があるのは至極当然。

 

「(でも………せめて、一矢。一矢だけでも報いれれば………)」

 

 そんな現状でも、少しでもその差を埋めれないかと思考を走らせる中、“ある力”に行き着くが………リィンは即座に首を横に振る。

 

「(ダメだ………アレ(・・)はまだ上手く使えないし、そもそも使わないって決めてるんだ。だが、それなら───)」

 

「………ゼダス、今日のところは降参だ。完敗だよ」

 

 リィンは自身の得物である太刀を地に置き、降伏宣言。それにゼダスは脱力しながら、言葉を紡ぐ。

 

「そうやって、自身の負けを潔く認めれるって所が垣間見えただけでも、初日としては上出来ってことにしといてやるよ」

 

 と、言いながら、もしかして使うかもと持ってきた得物を入れた包みをゼダスは担ぎ、寮へと帰っていく。

 

「少し休憩したら、適当に帰って来いよ。全員分の朝飯用意したら、先に学院行ってるから」

「そんなに早く行くのか? もしかして、今日の実技テスト絡みか?」

「あー……それに関してはノーコメントで」

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「誰にも……見られてないよな?」

 

 まだ朝は早い。トリスタを行き交う人は殆どいないし、見知った気配もしない。

 一応、辺りを見渡し、誰もいないことを確認し───路地裏へと脚を運ぶ。

 路地裏の更に入り組んだ奥へと足を進め、辿り着いたのは行き止まり。

 だが、そこには何も無く、ただの変哲も無い行き止まりのようにしか見えないのだが………………

 

「(………見えないだけで、そこにいる。武人がある一定の領域に至ることで会得出来る隠形技能(ハイドスキル)か………流石というべきかな)」

 

 一般人の目は誤魔化せても、執行者のゼダスの目は誤魔化せない。確実にそこに“在る”ことを実感し、建前抜きで本題に入る。

 

「…………で、朝っぱらから何の用だ、《雪華》?」

「流石は先輩。私程度の熟練度じゃ、普通に視えているのですか?」

 

 返答が返ってくると自ずと場所が分かり、焦点が合い始める。

 どうやら、相手は正面数アージュ先に立っていたらしい。

 そこにいたのは、短く切り揃えた薄紫色の髪に、綺麗な紫の瞳をした少女だった。それだけならば、普通の美少女と捉えれるのだが───そうは問屋が卸さない。背面に背負っている少女の背の丈程の大きさの盾が少女を普通とは言わせなかったのだ。

 

「別に視えた訳じゃないけど、気配を辿った時に感じる空間情報と見た視界情報とが食い違うだろ? そこから察しただけだ」

「情報の不整合さから見抜いたんですか。やっぱり、凄いです」

「というか、呼び出したのはお前だ。一体、何の用だ?」

「先輩は余程時間が無いようで。では、これを」

 

 少女が取り出したのは書類の束。結構な量を束ねられたそれにゼダスは納得が行く。

 

「ああ、アイツに頼んでた入学式の日に襲撃してきた奴らの資料か。というか、それを届ける為だけにわざわざ執行者(・・・)を使うか?」

 

 言葉通り、眼前に立っている少女はゼダスと同じ結社《身喰らう蛇》に属している執行者の一人で、与えられた番号はⅪ。二つ名は《雪華》。さっき、ゼダスが少女を呼ぶ時に使ったのは二つ名だったのだ。

 別に本名で呼んでも良かったのだが、両者共に執行者だ。名前で呼んでしまった場合、もし衣類の中に盗聴器でも仕込まれていたら、素性を辿られるかもしれない。それは処理が面倒なので却下したい。

 で、その《雪華》と呼ばれた少女は苦笑を浮かべながら応える。

 

「まぁ、他の誰かに任せるより、私が少し足労する方が情報漏れが少なくなりますからね。雰囲気を一般人に近付けたり、気配を搔き消したりなどで注視されませんから」

「確かにそれなら執行者に任せるのが適任だな」

「それに…………先輩と久しぶりに会いたかったから」

 

 顔を仄かに赤くし、上目遣いで見上げる少女。

 普通の人ならば、少しは動揺するであろう状況だが、ゼダスは一切揺るがず、至っていつも通りに返答。

 

「……そうか。会いたかったなら連絡くれれば、こっちから行ったのに」

「私だって、この間までは任務入ってたんですよ。会ってる暇なんて無かったんです」

「何の任務だ? しかも、執行者なら断れただろ?」

「護衛任務です。それも結社宛じゃなくて私個人への。そういうのは断れないんです」

 

 少女の表情から察するにきっと何か厄介な出来事とか嫌な事があったのだろう。話され始めると愚痴だらけになりそうな気しかしないので、ここは追求しないが吉。

 ついでに学院に向かう時間としては良い頃合いに差し掛かっている。今くらいに学院に向かい始めれば、普段通りの時間に到着するはずだろう。

 

「ふーん、お仕事お疲れ様。じゃあ、俺これから学校あるからさ。行かせてもらうぞ?」

「はい、じゃあ先輩。お元気で」

 

 ヒラヒラと手を振りながら立ち去るゼダスに少女は祈りを込めながら、お辞儀していたのであった。

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「───それじゃ、昨日言った通り、実技テスト始めるわよ」

 

 サラによって、Ⅶ組全員が朝一番にグラウンドに呼び出された。どうやら、ここでテストするらしい。

 しかし、事前に明確なテスト内容が聞かされていない。その為、マキアスが挙手して、訊ねた。

 

「教官。テスト内容とは、一体どんな感じになるのですか?」

「そういえば、まだ説明してなかったわね。なら、最初に納得出来るレベルに説明してしまおうかしらね」

 

 一度、咳払いしてから、サラは説明を始める。

 

「実技テスト。その名の通り、『実技』のテストよ。計測方法は実戦ね。でも、単純な戦闘能力で点をあげる訳じゃないから、そこは留意しておいてね」

「じゃ、何で点稼ぐの?」

 

 意外にもサラの言葉に突っ掛かって行ったのは猫のような銀髪少女───フィー・クラウゼル。普段、教室や寮で見た時の雰囲気では、決して自分から突っ掛かるような質ではないと思っていたのだが………

 

「いい質問ね、フィー。でも、アンタが自分から質問なんて珍しいわね………ま、いいか。評価するのは『状況に応じた適切な行動』よ」

 

 きっと、これが普通のクラスの普通の実技テストならば、単純な戦闘能力で評価しても良いのだろう。

 だが、これは特科クラスⅦ組で行う特別カリキュラムの一つだ。当然のことながら、普通な訳が無く、それが『状況に応じた適切な行動』という評価の形なのかもしれない。

 

「(だとすれば………ちょっと厄介だな)」

 

 評価が『状況に応じた〜』ということになると、純粋に火力押しで瞬殺は一切評価にならないということだ。つまり、それなりに力を制限しなければならないという面倒で、スッキリしない結末になるのは最初から眼に見えてしまっている状況なのだ。

 どこまで下げれば、相応の点を獲れるのか。というか、相手は何になるのか。

 割と訊ねたいことが山のように積まれている気がするが、実践してみて確かめる他無い。

 

「そろそろ良いわね。それではこれより4月の実技テストを開始する。リィン、エリオット、ガイウス。まずはアンタたちよ」

 

 どうやら、テストは何人かに分けて行われるらしい。一斉にテストしても、採点漏れが出るだろうし、当然といえば当然か。

 サラに名前を呼ばれた3人は各々に得物を持ち、前に出てくるが………そこに広がるのはただのグラウンドな訳で。どう見ても、テストを始められるような状況では無い。今呼ばれたメンバーによる三つ巴の乱戦がテストならば、確かに他の用意は要らないが………と、変な方向に思考が走る中、サラは、

 

「───それじゃ、とっとと呼ぶとしますか」

 

 と言い、指をパチンと鳴らす。

 すると、虚空から突如、流線型のフォルムの機械が姿を現わす。

 全く機械っぽくない緩やかさで、その上駆動している原理が一切分からないそれにある者は驚き、ある者は首を傾げ、また他のある者(ゼダス)は─────

 

「(………………あっれー、アレって確か結社の人形兵器だよな? 何故に学院にあるんだ?)」

 

 と、その機械の正体に見当を付けながら、ここにある原因を探るが、直接サラに訊ねた方が正確だし、早いし、無駄が無い。………変にはぐらかされる可能性も無くは無いが。その時はその時で対処法を考案することにする。

 

「これは一言で表せば『作り物の動くカカシ』よ。ま、テスト用に反撃とか攻撃とかするように設定してあるし、誰かさんの場合を除き、頑張れば勝てるようにしてあるわ」

 

 視線で明らかにゼダスの事を指すサラに当の本人は苦笑。

 サラが言わんとした通り、ゼダスならば何も頑張らずに勝てる。むしろ、負ける可能性を考える方が難しい。

 

 それが彼にとっての“常識”であり、追い求める物を掴むために辿ってきた軌跡の“結果”だ。

 そして、それはきっと、これからも変わらずに続いていく道なのだと彼は理解出来ている。

 未だに追い求める物は掴めていない。ならば、掴める為に強くなるしかない。

 

「(自分の願いを叶える為なら、それが茨の道だろうが修羅の道だろうが歩んでみせる。歩み続けるしかないんだ)」

 

 静かにゼダスはグッと拳を握り締める。少し爪が指肉に食い込み、痛みが走ったが別に気にするほどでは無かった。

 

 そうやって、ゼダスが決意を固め直す中、もう実技テストは開始されていた。

 流線型のフォルムを持つ機械──通称、戦術殻がそれなりの速度で突進してくるが、リィンたちは回避し、反撃を叩き込む。しかも、個人単位での反撃では無く、複数人による連携反撃だ。

 しかし、そんな芸当は出会って数週間しか経たない間柄では不可能。では、何故出来ているか?

 答えは簡単だ。Ⅶ組に支給されてる戦術オーブメント《ARCUS》によって引き起こされる高度な思想共有機能───戦術リンクだ。

 あれならば、連携に関する大抵のことを実現するのは容易だろう。それこそ、連携を絡めた反撃なんて朝飯前に違いない。

 

 そんな感じに推測していると、戦術殻が行動を停止する。きっと、ダメージが蓄積して、一時的に全機能が停止したのだろう。これでリィン、エリオット、ガイウスの3人の実技テストは終了らしい。

 

「───うん、アンタたちは充分合格点ね。前の自由行動日に旧校舎の探索してもらったのが特訓になったのかしら?」

 

 どうやら、前の自由行動日にあの3人はそんなことをしていたらしい………ゼダスといえば、ひたすら大浴場造ってたのに。何処かで「楽しそうだなおい羨ましいぞ」と思うゼダスがいたりいなかったり。

 

「それじゃあ、次! ラウラ、エマ、ユーシス、マキアス、フィー。前に出なさい!」

 

 実技テスト二組目のメンバーが発表され、先ほどと同じように開始されたのだが、その戦闘光景を見て、ゼダスは思う。

 

「(うわー……あれは酷い。酷すぎるわ)」

 

 一組目が充分出来過ぎていたことも相成り、二組目の酷さが如実に表れている気がした。

 

 集団行動に向かず、一人で淡々と行動するフィーに、貴族と平民のいざこざで不協和なマキアスとユーシス。最早、連携なんて無いに等しい。

 入学当初からアルゼイド流を会得しているラウラと元から才能があったのか導力魔法(オーバルアーツ)の運用が上手いエマが何とかその穴を補填しようと頑張るが、焼け石に水だろう。

 

 結果的に言えば、勝てた。勝ててはいた。

 しかし、一組目が快勝ならば、二組目は辛勝。戦闘の出来に差があり過ぎるのが現状だ。

 

「フィーの協調性の無さはまだ何とかなるにしても、ユーシスとマキアス。アンタたちもう少しどうにかならないの? 明らかに足引っ張ってるじゃない」

 

 サラは険しい声音で妥当と取れる厳し気な評価を下す。

 しかし、当の本人たちは反省よりも────

 

「この平民が合わせれば問題無かった話だ」

「貴族に合わせるものか!」

 

 ────と、互いが相手の方に非があると言い張る。

 これはしばらく口論が終わりそうにないと全員が呆れながら溜息を吐き、サラは実技テスト最終組のメンバーの名を呼ぶ。

 

「最後はアリサ、シノブ、ゼダスよ。前へ」

 

 アリサはそれなりに緊張した面持ちで、シノブは良い感じにリラックスした様子で、ゼダスは完全にいつも通りの様子で前に出てくる。

 

「何で貴方たちはそんなに平然としていられるのよ………」

 

 シノブとゼダスの様子に疑問しか湧いてこないアリサは訊ねていた。が、二人は一度顔を見合わせた後、

 

「まぁ、なぁ………」

「そうなんだよな………」

 

 全く意思の読み取れない言葉を漏らし、何故か頷き合う。

 ゼダスはシノブのことを。シノブはゼダスのことを詳しくは知らない。が、この時だけはきっと、思っていることは一緒だろうとお互い直感で理解していた。

 

 

 ────別に死ぬ訳じゃないんだから緊張するだけ無駄だ、と。

 

 

「それじゃあ、テスト開始するから、戦術リンク繋ぎなさいな」

 

 と、サラに促される。その言葉にゼダスは───

 

「(そういえば俺、戦術リンク一回も使ったことないな。まず、特別オリエンテーリング以来、戦闘する羽目になったのはリィンの特訓だけだし。複数人戦闘とか何時以来だ?)」

 

 そもそもⅦ組だけの特権であるARCUSの機能を何一つ使ってないことに気付く。

 つまり、この実技テストが初使用、ぶっつけ本番だが………まぁ、大して支障は無い。きっと、すぐに順応するのだから。

 

「これって、どう繋ぐんだぜ?」

 

 どうやら、シノブも使った事がないらしく、質問していた。

 大抵、こういうものは心と機器を同調させて、それを他人のと結び付ける感じのイメージで行けるはずだ。

 

 ゼダスは自身の心意をARCUSに読み込ませ、シノブとアリサの二人と結び繋ごうとする、が────

 

 

「「────ッ⁉︎」」

 

 

 二人して何か感じ取ったのか、頭を抑えながら、片膝を着く。その上、微かに聞こえる漏れ出た声は随分と苦し気だ。

 そんな状態の二人にサラは、

 

「まさか────! ゼダス! 戦術リンクを断ちなさい、早く!」

 

 そう叫ばれ、ゼダスは心とARCUSの間に壁を作るように想起し、強制的に戦術リンクを断ち切る。

 すると、二人は尋常じゃない量の汗と共に息を吐く。

 

「何アレ………今のは一体何なのよ?」

 

 アリサは頭を撫りながら言う。それと対照的にシノブは今の現象について無言で考え込んでいる様子だった。

 だが、サラは何が起こったのかを理解しているようで───

 

「………誤算だったわ。予定変更。実技テスト最後はアリサとシノブの二人で行うわ」

「ちょっと待て! じゃあ、俺は一体どうなる⁉︎」

 

 いきなり、最終組から除外されてゼダスは困惑気味に訊ねる。

 しかし、そういう反応を取ることは最初から分かっていたのだろう。サラは、

 

 

 

「アンタは特例で合格点ギリギリ分の点は入れとくわ。代わりに後で個別に話があるから、逃げずに職員室に来なさい。良いわね?」

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 結局、ゼダス以外の全員が戦術殻と戦って、実技テストは幕を閉じた。

 

 先から聞いていた通り、特別実習の班分けと行き先が発表されたのだが───

 

 

【4月特別実習】

 

A班:リィン、アリサ、エリオット、ラウラ、ゼダス(実習地:交易地ケルディック)

 

B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス、シノブ(実習地:紡績町パルム)

 

 

 

 比較的にどういう環境でも安定していそうなエマとガイウスに、問題児たち+シノブをB班にし、その他をA班に纏めたような感じの分け方で、ゼダスは一応安堵していた。Ⅶ組最大の面倒な問題であるユーシスとマキアスの関係をどうにかする為に頑張らなくて良いのだし。きっと、B班が何とかしてくれる。そうに違いない。そう信じている。

 

 

 ───と、頭の片隅に思っただけで、ゼダスの脳内は実技テストで起きた事だけを考えていた。

 

 確実に戦術リンクの起動法は合っていたはずだ。現に接続に成功しようとはしていた。

 だが、繋ぎ終える寸前で二人が膝を折った訳で───つまり、その瞬間に何かが起きたのは明らか。

 

 何が起きた? 何が原因だ? 何処かに間違いがあったか?

 

 幾ら考えても答えの欠片も見えない疑問に、延々と思考を重ねていると、何時の間にか特別実習に関する話は終わり、自由解散状態だった。

 しかし、ゼダスはサラから「個別の話がある」と告げられた為、言葉通り職員室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「───で、一体どういうことだ?」

 

 言われた通り、職員室に着くや否や、開口一番ゼダスはサラに問う。

 サラはそれに答える前に自分の席に腰掛けて、フーッと息を吐いていた。妙に落ち着いているところ、若干の苛立ちを覚えかけたが耐える。この程度を耐えるのは別に苦じゃない。

 すると、ゼダスの顔をジッと見据えてから、サラは先ほど起きたことについて話し始める。

 

「戦術リンクはまだ試験段階の技術よ。分からないことだって、まだまだ一杯ある………けども、さっきの現象は私も見覚えがある」

 

 どうやら、特科クラスⅦ組を設立するにあたり、昨年に現在二年生で先輩にあたる人複数人でARCUSの試験運用をしていたらしいのだ。

 その時に一回だけ起きた現象………しかも、戦術リンクを(・・・・・・)使い始めた(・・・・・)その時に(・・・・)起きた(・・・)現象(・・)がある、とサラは言う。

 全く同じ条件で起きている現象にゼダスは、

 

「何なんだ? 一体何が起きたんだ?」

「今から話すから落ち着きなさいっての………で、多分だけど、アンタは戦術リンクに適応(・・)し過ぎ(・・・)なのよ」

「適応、し過ぎ………?」

 

 サラの言葉にゼダスは首を傾げる。

 

 適応し過ぎていて何が悪いのか? 元からⅦ組はARCUSの適性値の高さで見出されているのだし、適応出来て当然だろう。それが偶々、上手く出来ただけで、何故失敗する?

 

 更に疑問が深まった気しかしない現状に文句を発しようとした瞬間、サラは言葉を続ける。

 

「そう、適応し過ぎているの。言い換えれば、ARCUSとの同調率が異常なまでに高いのよ」

 

 

 ───人の心とは、解析不能にして一生理解出来ない代物である。

 

 

 ふと、ゼダスの頭を過ぎった言葉。

 その言葉とサラの言葉が今だけは繋がって思えた。

 

 心が解析不能で一生理解出来ない───それはつまり、心に関する情報量が多過ぎて、解析しようにも理解しようにも“全”を捉えきれないということで。

 加え、ゼダスには二年以上前の記憶が無い故に生じる『虚無』と、この二年間の執行者としての記憶の情報量の多い二面性が存在している以上、生半可な心では受け止めきれない。

 その上、ゼダスはさっきの戦術リンク接続の時に全開で同調率を引き上げた。

 結果、アリサもシノブも脳での情報整理が追いつかずに膝を着いたという訳だ。

 

「───って、いうことは………」

「察しが良いわね。アンタが戦術リンクを使うには、同調率を無理矢理引き下げるか、膨大な情報量に耐えれるまでにⅦ組のみんなを強くするしかないわけよ。………ただ、どっちにしても貴方に面倒ごとを押し付けることになるわ」

 

 前者の同調率を無理矢理引き下げるということは、ゼダスが自身で掛けている制限を更に増やせということだ。これ以上、制限を増やせば、逆に体力を使うだろうし、ストレスも溜まる。きっと、持って数週間が関の山だ。

 で、後者の膨大な情報量に耐えれるまでにⅦ組メンバーの強化だが………………

 

「どっちも厄介で面倒なのは分かってるが………………よし、決めた」

 

 一瞬で思考を走らせたゼダスは実に簡潔に述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅶ組(あいつら)の強化、請け負うよ。ササっと強く仕上げてみせるさ。それこそ──執行者(おれたち)レベルまでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 







主人公から発せられてしまった公式チート化発言。Ⅶ組が一体何処まで化け物になるのか、私ワクワクしてます………




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