闇影の軌跡 〜黎明〜 作: 黒兎
はいはい、原作:英雄伝説で検索した人の一部では見た事ある人もいるかもしれないと思ったけど、実際はそんなに見てる人いないよねっていう位に存在感の無いことで有名な『 黒兎』です!
えーと、軌跡シリーズの二作目です。厳密に言えば、一作目にして処女作である『闇影の軌跡』のリメイク版です!
活動報告で報告させてもらった通り、リメイク前が行き詰まったが故のリメイクです。………もうちょっと色々と言いたいですが、後で活動報告に纏めます。前書き長くて、読むの萎えられたら、私悲しくて泣いちゃいそうです、ヨヨヨ………とまぁ、冗談は抜きで、一読頂けると幸いです
あ、あと! リメイク版という事もあって、心機一転。新しいタイトルを付けたいので、ドシドシ募集中です!
歯車の廻り始めし時
それは、この世界においては裏社会で暗躍する結社《
誰も彼もが人外魔境にして、桁外れの戦闘能力を持っている実力者。生半可な実力を付けた程度で挑もうならば、敗北は必定の事実。仮定として考えるだけ無駄と思っても相違無いだろう。
故に少年……齢17歳にして、執行者の中でも最強格の一人と謳われるNo.Ⅱ。…………いや、厳密にはNo.Ⅱを特例で約2年前に引き継いだ《天帝》ゼダス・アインフェイトには下された指令の内容に眉を顰めていた。
「エレボニア帝国で……学生を演じろ、と?」
ゼダスがいるのは結社の最高幹部である
なのに、言葉を発していると、結社の背景を知らない者にとっては奇怪極まりない光景に見える。だが、それも致し方無いこと。そう……ここにはもう一人。いや、“人”と称して良いのか分からない存在がそこにはいるなどと気付けという方が無理あるだろう。
『ええ、そうです』
脳内に流れ込んでくる声。こんな芸当が出来るのは世界広しと言えど……しかも、この空間内において、出来るのはただ一人のみ。
結社の長にして、絶対的権力者。空の女神の様な典雅な声と慈悲深さに加え、他の追随を許さないカリスマの持ち主である《
『貴方が適任だと思いましてね』
「適任、ですか……」
容姿といい、年齢といい、学生の範疇なゼダス。
だが、《盟主》の言葉に納得のいかないゼダスは細やかな意見を述べる。
「俺が適任ってのも語弊がある気が……だって、《盟主》こそ知っているでしょう? ……俺の手が、どれだけの人を殺めてきたか」
細やかでも芯の通った声音に意見。それもそのはず。
何を隠そう、このゼダス・アインフェイトという執行者は……その位を与えられてからの2年間。結社の手となり、足となり、任務を遂行してきた。
その任務を遂行する過程で、数え切れない程に人を殺した。
とは言え、ある事情により、ゼダスは至って正常。……厳密に言えば、正常に
が、どれだけ正常に見えようとも、何度も赤く染まった手を持つ存在が学生を演じる。配役としては最低だ。
加え、執行者は結社側からあらゆる自由が保障されている。故にこの指令を跳ね除けるのも容易いと言えば容易い。
「そんな俺が、今更学生? 流石に冗談が過ぎますよ」
『これも結社の計画の為。加え、貴方が欲している物を見付ける手掛かりになるやもしれませんよ?』
だが……ことゼダスにとって、《盟主》の勅令には逆らえない。大きな要因といえば二つ。
一つ目は、ゼダスには執行者になった2年前以前の記憶が無い。そして、ゼダス自身がその無き記憶を取り戻すと渇望している。
故に記憶の手掛かりをちらつかされたら、拒否は出来ない。記憶の為なら、どれだけ残酷無慈悲な殺戮でも任務でも喜んで行おう。その結果が執行者の中でも最強格と謳われる様になった所以。
二つ目が、執行者になった2年前。つまり、現在の記憶の開始時点の際、ゼダスは《リベル=アーク》とかいう空中都市の墜落に巻き込まれたらしく、生死を彷徨っていた。
最初にある記憶は、身体に伸し掛かり、所々に瓦礫が刺さって、灼ける様な痛みを味わう中で垣間見た一人……いや、人と称して良いか分からぬ存在からの一言だった。
『君は───生きたいかい?』
何を言っているのか。記憶喪失による混乱と激痛による意識の不定さの所為で理解が及ばなかった。あの時は幻覚を見ていたのだと言われても納得するに違いない。
だが、当時のゼダスにその様な思考に至る余裕も無く、ただ只管に。直向きに願っていた。懇願していた。
───生きたい
───生かしてくれ
───まだ……まだ死ねない
何故、そこまで生きることに拘ったのか。未だに理解出来ずにいる。
まぁ、その命乞いの懇願が功を成し、ゼダスは生きる為の力を得た。
それこそが、ゼダスが命を落とす切っ掛けとなった空中都市《リベル=アーク》の中枢となっていた《空》の至宝、《
至宝、というのは、この世界において、古代の人々が《空の女神》エイドスから授かったとされる七つの───七属性の聖遺物。通称、《
その至宝の一つの断片とはいえ、放つ力はまさしく神の威厳の体現。しかも、空間操作・掌握・制御に加え、絶大なる治癒能力を有する空属性の至宝ともなれば、それはもう凄まじい速度でゼダスの傷を癒していったものだ。
そして、記憶無く、全快したゼダスだが、行く宛を失っていた訳だ。記憶が無いのだから、当然だろう。
だが、そんなゼダスの元に舞い降りたのは、一人の天使………………とかいう綺麗なものではなく、道化師だった。
その道化師はゼダスを見て、こう言ったのだ。
『………へぇ〜………君が。ちょっと予想外の反応を示したと思ったら、そういうことか。いつの時代にも例外は付き物って事なんだよねぇ』
完全に己が納得するだけの言葉に聞こえた為、ゼダスにとっては道化師の言葉は理解出来なかった。
さっきから、理解出来ない事が多過ぎる。やはり、いきなりの状況を無意識に混乱を齎しているのか………。その割には、随分と冷静で、おかげで問いを返す事が出来た。
『………………誰だ、アンタ』
『ふむふむ………なーんだ。至宝が人体を持ったのかと思ったら、逆か。数秒前のボクの感動を返してほしいよ、全く』
『回答になってないぞ』
『分かった分かった。ボクは結社って所の執行者さ。君………厳密には、君に中と外に産み落とされた《輝く環》を回収しに来たのさ』
で、後に分かったのだが、その道化師は執行者No.0にして、《盟主》の代行者だったのだ。
そこからはトントン拍子で進んで、結社入り。見事に執行者になったのだ。
ゼダスは記憶を、結社は《輝く環》を。
ゼダスが結社に籍を置く事で互いの側にWinWinな関係を築けるから、別に利用されようとも何も思わないが………
───と、長くなったが、要約してしまえば、結社に恩があるのだ。故に断れない。
「はぁ………分かりました。要するに行けば良いんでしょ、行けば」
『そうしてくれると有り難いです』
きっと、《盟主》の顔が見えていたならば、慈愛に満ちた笑顔を浮かべていたに違いない。
だが、今回に限っては見えてなくて正解かもしれない。だって、学生を演じる事自体は不服なのだから。
『まぁまぁ、そう拗ねないで下さい。私から細やかながら、贈り物をさせて下さい。───手、出して下さい』
言われるがまま、ゼダスは手を常闇の虚空へと差し伸ばしていた。
すると、眩い光が手先へ集まり、凝縮。右手の人差し指に輝く白銀の指輪が嵌っていた。
「これは………」
『一応の為の保険です。もし、貴方の中にある《輝く環》の断片だけで起こせる奇蹟の度合いを超える状況に面した際には、その指輪を使って下さい。一時的にですが、こっち側で回収してある《輝く環》の本体にアクセス、そして能力を借りれる様にしてありますから』
「………凄い貰い物ですね、これ」
ただ、学生を演じるだけで、この様な物騒極まりない物が必要かと聞かれれば、疑問符しか出てこないが。
だから、ゼダスは重要視していなかった。
別にこの指輪が使う場面なんて来るはずも無く、学生を演じるなんて今までの任務と同じで、きっと時期が来れば終わる───そんな話だから。
どうせ、学生を演じて、誰かと仲良くなる必要は無い。そう………結社の計画の為。そこから察するに、入学する学校に諜報するだけなのだろう。
故に………気付けなかった。
この任務が彼、ゼダスにとって………………
────掛け替えの無いものになるなんて。