TV版恋姫†無双・・・覇気と六爪流を使う転生者 作:ヒーロー好き
ある日の夜
「(どうしたんだろう?今日は学問をされる声が聞こえない……こんなことこれまでなかったことなのに)」
不思議に思い、そっと扉の近くに寄る
ガチャ
不意に扉が開かれた。慌てて定位置に戻る
「ど、どちらへ!?」
「ちょっと、外の空気を吸おうと思って……」
「お供します!」
ぎこちない動作で、扉を閉める。その最中、部屋の中を見るが景色全てがぼやけて見えてしまう
「ん?」
細目で見ていると、怪訝に思った孫権に声をかけられた
「どうかして?」
「えっ、いや…あ、あの、その……今日は書を読む声がしなかったので、学問をしておられないのかと思って……それで……ちょっとその」
「今日は兵書の中で、大事だと思う所を書き写していたの…声に出して読むのもいいけど、こうする事によって内容がより深く理解できるの」
「そ、そうですか。そうとは知らず、失礼しました」
「呂蒙、あなたもしかして、学問に興味あるの?」
「えっ!?あっ、まあ……」
「それなら、私と一緒に勉強しない?」
「…………は?」
部屋の中に入り、書物を持ち、読書を行う呂蒙
「そ、孫子……」
「孫子曰く、よ」
「は、はい……。孫子曰く……兵とは国のだい…………」
「兵とは国の大事なり」
「し、死生の地、存亡の道、察せざるをべからずなり」
「はい、まずはそこまででいいわ」
「戦は国にとっての一大事。だから、兵の生死を分ける戦場や、国の存亡を懸けた進路を選ぶ時は、よく考えなきゃいけないって事よ」
「なるほど………………って!こんな事してていいんでしょうか!?私なんかと一緒じゃ、孫権様の学問が捗らないんじゃ……」
「そんな事ないわ。人に教えるのは、教える方もいい勉強になるのよ」
「けど、私には警護の任務もありますし……」
「扉の前で立っているより、こうやって側にいた方が、私の事をよりちゃんと守れると思わない?」
「それは、まあ、その……」
「さあ、それじゃあ次を読んでみて」
「は、はい!」
読書を再開する。しかし
「兵は詭道なり。ゆえに…能なる…もこれに…」
文字を読むところで躓いてしまう
「不能を示すよ。どうしたの?それ、読めない字じゃないでしょ?」
「すいません……」
目を細め、文字を見る呂蒙。横で見ていた孫権が、あることに気づく
「呂蒙、あなたもしかして、目が悪いんじゃなくて?」
「も、申し訳ありません……自分の目付きが悪いのは、従順承知しておりますが……これはその、気に入らぬ事があるとか……機嫌が悪いとかではなく、生まれつきというか……」
「違う違う。目付きとかじゃなくて、目が悪いんじゃないか、って言ってるの」
そう言うと、呂蒙から二メートル程離れる孫権
「これ、何本か分かる?」
振り返り、指を二本立てる
「からかわないで下さい。いくら学がないとはいえ、数くらい数えられます」
「じゃあ、何本か言ってみて?」
そう言われ、またも目を細める呂蒙
「えっと、二本……いや、三本……二本?やっぱり三本?」
「やっぱりね。今度、あなたの務めが休みの時に、一緒に眼鏡を買いに行きましょう」
「はい………………ええっ!?」
大声を出してしまう呂蒙であった
当日、呉の城下町
「孫権様、本当に良いんですか?御忍びで買い物なんて……」
祭りが行われているかの様な賑わいを見せていた。横笛を奏でる少女の演奏に人が集まる中、賑やかな町中を、二人の少女は歩いていた
「大丈夫よ。姉様なんか、しょっちゅうやってる事なんだし」
「でも、万が一の事があったら」
「心配ないわ。だって、腕利きの護衛が付いているんですもの」
満面の笑顔で言われ、思わず惚けてしまう呂蒙
「もしもの時は、私をしっかり守ってね」
「はい!畏まりましたっ!!」
期待に応えるべく、大声で返事をする。乾いた笑いを浮かべる彼女に対し、呂蒙は機嫌良く、笑みを浮かべていた
「………」
眼鏡店の前では呂蒙が、文字通り目を光らせて見張っている
「う~ん、どれがいいかしら……?」
孫権は数個の眼鏡を物色していく。迷っている中、一つの眼鏡が目に止まった
「これなんて、お洒落でいいかも。呂蒙」
右目用の片眼鏡を手に取る
「はい?」
「これ、かけてみて。きっと貴女に似合うわよ」
早速それを装着
「……」
鏡に写った自分が鮮明に見えた
「どう?」
横にいた孫権の笑顔を直視する呂蒙
「とっても素敵です……。見えすぎて、困るくらい」
いつもよりも魅力が倍増して見え、頬がさくらんぼ色に染まる
「そう。なら、それにしましょう」
そして寮に着くと、いつもの様に、管理人が寮の前で掃き掃除を行っていた
「管理人さん、ただいま」
「おかえりなさい……あら、眼鏡……」
「ええ、まあ……」
管理人の後ろから、そっと顔を出す男の子。呂蒙も目が合い、じっと見つめる
「(眼鏡かけてると、これぐらい離れててもはっきり見えるんだ……)」
頭を撫でてやると、身を委ねる様に目を瞑る子供。お互いが笑顔になっていた
ある日の雨の夜
「えっ!笛の名手?」
二人は休憩がてら、お茶の時間を楽しんでいた
「ええ。なんでも、町に来ている旅芸人の中に、まだ年若い娘なのに大変な名手がいると噂になっていて。それで姉様が是非聞いてみたいと言い出して、近々屋敷に呼ぶことにしたのよ」
「けど、宜しいのですか?その様な、どこの馬の骨とも知れぬ者を、孫策様の側近くに呼び寄せて……」
「もちろん、万が一の事を考えて、武器の類は持ち込めないよう、厳重に調べるとは思うけど……」
「ですが、献上する魚の腹の中に短剣を隠し、それを持って暗殺を成し遂げた刺客の話もありますし……」
「ああ昔、呉王僚を倒した專諸のことね」
「はい。御前で演奏する楽器の中に、何らかの武器を仕込んでいるという事も……」
「流石、学問をすると目の付け所が違ってくるわね」
「か、からかわないで下さい……」
「ごめんなさい。でも心配いらないわ…周瑜の指図でその者達には手ぶらで来させ、演奏する楽器も城の蔵にある物から選ばせるつもりだから」
「そうですか。やはり周瑜様は私が思い付く事は、既に考えておられるのですね」
「あら驚いた……あなた、周瑜の上をいくつもりだったの?」
「めっ、めめめめ滅相もありませっ!!」
慌てた様に取り繕うも、椅子から転げ落ちてしまう呂蒙
「わ、私なんか例えっ!!」
立ち上がろうとする際、追い打ちをかけるようにテーブルの足に脛をぶつけてしまう
「どれだけ学問を積んだ所で…あの方の足元にはおよぶはずありません!!」
かなり痛かったらしく、目尻に涙を溜める
「まあ、周瑜に追い付くのはまだまだ先の事かもしれないけど。とりあえず、今の学力がどれくらいかちょっと試してみない?」
「試す……って、一体?」
「試験をするのよ。私が作った問題を貴方が解いて、そうね…七割正解すれば合格ってことにしましょう」
「って突然そんなこと言われても!」
「試験は十日後。それでいいわね?」
「は、はあ……」
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」
来るべき試験に向け、官舎で自分の部屋にこもりながら、気合いを入れて呂蒙はひたすら勉学に励んでいた
「……」
窓からその様子を小さな男の子が見ていた
「シー」
管理人と男の子は温かい目で見守るのであった