TV版恋姫†無双・・・覇気と六爪流を使う転生者   作:ヒーロー好き

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第九十六席 呂蒙、学問を志すのこと

ある日の夜

 

「(どうしたんだろう?今日は学問をされる声が聞こえない……こんなことこれまでなかったことなのに)」

 

不思議に思い、そっと扉の近くに寄る

 

ガチャ

 

不意に扉が開かれた。慌てて定位置に戻る

 

「ど、どちらへ!?」

 

「ちょっと、外の空気を吸おうと思って……」

 

「お供します!」

 

ぎこちない動作で、扉を閉める。その最中、部屋の中を見るが景色全てがぼやけて見えてしまう

 

「ん?」

細目で見ていると、怪訝に思った孫権に声をかけられた

 

「どうかして?」

 

「えっ、いや…あ、あの、その……今日は書を読む声がしなかったので、学問をしておられないのかと思って……それで……ちょっとその」

 

「今日は兵書の中で、大事だと思う所を書き写していたの…声に出して読むのもいいけど、こうする事によって内容がより深く理解できるの」

 

「そ、そうですか。そうとは知らず、失礼しました」

 

「呂蒙、あなたもしかして、学問に興味あるの?」

 

「えっ!?あっ、まあ……」

 

「それなら、私と一緒に勉強しない?」

 

「…………は?」

 

部屋の中に入り、書物を持ち、読書を行う呂蒙

 

「そ、孫子……」

 

「孫子曰く、よ」

 

「は、はい……。孫子曰く……兵とは国のだい…………」

 

「兵とは国の大事なり」

 

「し、死生の地、存亡の道、察せざるをべからずなり」

 

「はい、まずはそこまででいいわ」

 

「戦は国にとっての一大事。だから、兵の生死を分ける戦場や、国の存亡を懸けた進路を選ぶ時は、よく考えなきゃいけないって事よ」

 

「なるほど………………って!こんな事してていいんでしょうか!?私なんかと一緒じゃ、孫権様の学問が捗らないんじゃ……」

 

「そんな事ないわ。人に教えるのは、教える方もいい勉強になるのよ」

 

「けど、私には警護の任務もありますし……」

 

「扉の前で立っているより、こうやって側にいた方が、私の事をよりちゃんと守れると思わない?」

 

「それは、まあ、その……」

 

「さあ、それじゃあ次を読んでみて」

 

「は、はい!」

 

読書を再開する。しかし

 

「兵は詭道なり。ゆえに…能なる…もこれに…」

 

文字を読むところで躓いてしまう

 

「不能を示すよ。どうしたの?それ、読めない字じゃないでしょ?」

 

「すいません……」

 

目を細め、文字を見る呂蒙。横で見ていた孫権が、あることに気づく

 

「呂蒙、あなたもしかして、目が悪いんじゃなくて?」

 

「も、申し訳ありません……自分の目付きが悪いのは、従順承知しておりますが……これはその、気に入らぬ事があるとか……機嫌が悪いとかではなく、生まれつきというか……」

 

「違う違う。目付きとかじゃなくて、目が悪いんじゃないか、って言ってるの」

 

そう言うと、呂蒙から二メートル程離れる孫権

 

「これ、何本か分かる?」

 

振り返り、指を二本立てる

 

「からかわないで下さい。いくら学がないとはいえ、数くらい数えられます」

 

「じゃあ、何本か言ってみて?」

 

そう言われ、またも目を細める呂蒙

 

「えっと、二本……いや、三本……二本?やっぱり三本?」

 

「やっぱりね。今度、あなたの務めが休みの時に、一緒に眼鏡を買いに行きましょう」

 

「はい………………ええっ!?」

大声を出してしまう呂蒙であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当日、呉の城下町

 

「孫権様、本当に良いんですか?御忍びで買い物なんて……」

 

祭りが行われているかの様な賑わいを見せていた。横笛を奏でる少女の演奏に人が集まる中、賑やかな町中を、二人の少女は歩いていた

 

「大丈夫よ。姉様なんか、しょっちゅうやってる事なんだし」

 

「でも、万が一の事があったら」

 

「心配ないわ。だって、腕利きの護衛が付いているんですもの」

 

満面の笑顔で言われ、思わず惚けてしまう呂蒙

 

「もしもの時は、私をしっかり守ってね」

 

「はい!畏まりましたっ!!」

 

期待に応えるべく、大声で返事をする。乾いた笑いを浮かべる彼女に対し、呂蒙は機嫌良く、笑みを浮かべていた

 

 

 

「………」

 

眼鏡店の前では呂蒙が、文字通り目を光らせて見張っている

 

「う~ん、どれがいいかしら……?」

 

孫権は数個の眼鏡を物色していく。迷っている中、一つの眼鏡が目に止まった

 

「これなんて、お洒落でいいかも。呂蒙」

 

右目用の片眼鏡を手に取る

 

「はい?」

 

「これ、かけてみて。きっと貴女に似合うわよ」

 

早速それを装着

 

「……」

 

鏡に写った自分が鮮明に見えた

 

「どう?」

 

横にいた孫権の笑顔を直視する呂蒙

 

「とっても素敵です……。見えすぎて、困るくらい」

 

いつもよりも魅力が倍増して見え、頬がさくらんぼ色に染まる

 

「そう。なら、それにしましょう」

 

そして寮に着くと、いつもの様に、管理人が寮の前で掃き掃除を行っていた

 

「管理人さん、ただいま」

 

「おかえりなさい……あら、眼鏡……」

 

「ええ、まあ……」

 

管理人の後ろから、そっと顔を出す男の子。呂蒙も目が合い、じっと見つめる

 

「(眼鏡かけてると、これぐらい離れててもはっきり見えるんだ……)」

 

頭を撫でてやると、身を委ねる様に目を瞑る子供。お互いが笑顔になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の雨の夜

 

「えっ!笛の名手?」

 

二人は休憩がてら、お茶の時間を楽しんでいた

 

「ええ。なんでも、町に来ている旅芸人の中に、まだ年若い娘なのに大変な名手がいると噂になっていて。それで姉様が是非聞いてみたいと言い出して、近々屋敷に呼ぶことにしたのよ」

 

「けど、宜しいのですか?その様な、どこの馬の骨とも知れぬ者を、孫策様の側近くに呼び寄せて……」

 

「もちろん、万が一の事を考えて、武器の類は持ち込めないよう、厳重に調べるとは思うけど……」

 

「ですが、献上する魚の腹の中に短剣を隠し、それを持って暗殺を成し遂げた刺客の話もありますし……」

 

「ああ昔、呉王僚を倒した專諸のことね」

 

「はい。御前で演奏する楽器の中に、何らかの武器を仕込んでいるという事も……」

 

「流石、学問をすると目の付け所が違ってくるわね」

 

「か、からかわないで下さい……」

 

「ごめんなさい。でも心配いらないわ…周瑜の指図でその者達には手ぶらで来させ、演奏する楽器も城の蔵にある物から選ばせるつもりだから」

 

「そうですか。やはり周瑜様は私が思い付く事は、既に考えておられるのですね」

 

「あら驚いた……あなた、周瑜の上をいくつもりだったの?」

 

「めっ、めめめめ滅相もありませっ!!」

 

慌てた様に取り繕うも、椅子から転げ落ちてしまう呂蒙

 

「わ、私なんか例えっ!!」

 

立ち上がろうとする際、追い打ちをかけるようにテーブルの足に脛をぶつけてしまう

 

「どれだけ学問を積んだ所で…あの方の足元にはおよぶはずありません!!」

 

かなり痛かったらしく、目尻に涙を溜める

 

「まあ、周瑜に追い付くのはまだまだ先の事かもしれないけど。とりあえず、今の学力がどれくらいかちょっと試してみない?」

 

「試す……って、一体?」

 

「試験をするのよ。私が作った問題を貴方が解いて、そうね…七割正解すれば合格ってことにしましょう」

 

「って突然そんなこと言われても!」

 

「試験は十日後。それでいいわね?」

 

「は、はあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」

 

来るべき試験に向け、官舎で自分の部屋にこもりながら、気合いを入れて呂蒙はひたすら勉学に励んでいた

 

 

「……」

 

窓からその様子を小さな男の子が見ていた

 

「シー」

 

管理人と男の子は温かい目で見守るのであった


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