TV版恋姫†無双・・・覇気と六爪流を使う転生者   作:ヒーロー好き

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第六十三席 勇作、典韋と出会うのこと

空はすっかり橙に染まり、もうすぐ夜になろうという頃、それでも街の活気は変わらない。民が行き来する中を二人の男女が共に歩いていた

 

「此処みたいだな」

 

視線を向けると、赤いベレー帽を引っかけている蛇矛が、建物の二階の窓から姿を現していた

 

 

 

 

 

 

今日泊まる宿屋の二階部屋。その部屋では各々がそれぞれの時間を過ごしていた。星は愛槍の龍牙の手入れを、劉備は鈴々と朱里にあや取りを教えていた

 

「ここをこうして、ここに指を入れて…はい、橋」

 

「わぁ!」

 

「はい、定軍山!」

 

「すごいのだぁ!」

慣れた手つきであやとりを行う劉備。鈴々と朱里は劉備を称賛する

 

「劉備さん、あやとりお上手なんですね」

 

「えへへ…私小っちゃい頃から筵や草鞋を織ってたんで、こういうの得意なんです。それじゃあ次は…」

 

星が槍の手入れを終え、劉備が新しいあやとりをしようとしたその時、タイミング良くドアが開かれた

 

「お帰りなのだ」

 

「高杉さん、関羽さん」

 

「遅かったな。ん?」

星が二人に近づくと、何かに気づいたのか、鼻をくんくんと動かす

 

「もしかして、風呂に入って来たのか?」

 

「ああ、曹操殿の所でな」

 

「成程、閨でかいた汗を流して来たというわけか」

 

「なっ!!」

 

「な!何言っているの!!」

 

顔を赤らめながら、朱里。劉備は分からない表情をする

 

「そうではない!色々とあったんだ色々!」

 

「と、所で、郭嘉さんと程昱さんの首尾はどうでした?」

 

「うむ。二人共無事、曹操殿に召し抱えられる様になったそうだ」

 

「それはよかったですね」

 

「(まあ、郭嘉さんは別の事で召し抱えられたけどね)」

心の中でそう思う勇作

 

「そんな事より早く晩ごはん食べに行くのだ!鈴々はお腹ペコペコで背中とお尻がくっつきそうなのだ」

 

「それを言うならお腹と背中だよ」

 

「そうですよ。鈴々ちゃん、背中とお尻がくっついたらお腹真っ二つですよ…」

 

「だからそうならない為にも早く晩ごはん食べに行くのだ!」

 

「お昼ご飯食べたお店、美味しかったからあそこにしませんか?」

 

「うむ、あの店のメンマは中々だった」

 

「鈴々は、羊の肉の炒めものが気に入ったのだ」

 

「麻婆豆腐も美味しかったですよね」

 

「そんなにすごい店だったのか?」

 

「そうなのだ」

 

「それは楽しみだな」

 

「ん?どうした?浮かない顔をして?」

 

愛紗に声を掛ける星

 

「あ、もしかして、別のお店がよかったですか?」

 

「いや、そういうことではなくて、ちょっと華陀殿の事が気になってな…」

 

「華陀のおじちゃんがどうしたのだ?」

 

「詳しくは聞けなかったのだが、どうやら曹操殿を怒らせてしまったようで…」

 

「それは厄介だな」

 

「ああ、まだ、首と胴がくっついていればいいが……」

 

「そうだな……(まあ、あんなこと言えば誰だって怒るけど)」

 

「ご主人様…覇気でわかりますか?」

 

「いや…この街にはいなかった。だから分からない」

 

「そうですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、辺り一面夜の色に染まった。街から少し外れた森の中、夏候惇率いる一部隊が必死に周りを見渡していた

 

「えぇい、逃げ足の早い奴め…!やむを得ん!ここは一旦引き上げるぞ!!」

「はっ!」

 

夏候惇は部隊を連れて引き上げた

 

「ど、どうやら、撒いたようだな……」

 

撤退する様子を、茂みの中から見ていた。ほっと一安心し、荒れた呼吸を整える華陀

 

「ったく、何で俺がこんな目に……」

 

丁度後ろにあった木にもたれて腰かける

 

「一刻も早く太平要術を見つけて、封印せねばならんというのに…」

 

夜空を見上げる。生い茂る木々の間から、北斗七星が輝いていた

 

「(それ自体が強い妖術を持つ妖術書、太平要術。悪しき事に使われていなければ良いのだが…………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所、その書物は今、張三姉妹ありこの日もライブをし観客の心を満たしていた

 

「みんな〜!今日もありがとーー!天和、皆の事、愛しているよ!」

 

「ホワッ!ホワッ!ホワアアアッ!!」

 

「まだまだ元気一杯だね!それじゃあこっちも負けずに」

 

「おい、足踏むなよ!」

「踏んでねぇよ!」

 

張角はおろおろと狼狽えている。すると、張宝の手に持っているマイクが、翡翠色から、暗い紫色に染まった

 

「はぁい!そこの二人、喧嘩はダメだよ?仲良くしてねーー!」

 

そのマイクで声を通す。その音は、周りに広がっていった

 

「喧嘩は駄目……仲良くする…………」

 

「喧嘩は駄目……」

 

「仲良くする……」

 

「喧嘩は駄目……仲良くする……」

 

取っ組み合っていた二人がいつの間にか手を離していた。それだけでなく、他の観客もどこか様子がおかしい。何か、催眠にかかったような。張角と張梁が左の方を向くと、張宝は可愛らしく、片目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

舞台が終わり、三人は控え室で待機していた

 

「今日も大盛況だったわね」

 

「ねぇねぁ、さっきのあれ、どういうことなの?」

 

「まあ、ちょっとね」

 

「何々?勿体ぶらずに教えてよ!」

 

「地和姉さん、新しい術を使ったのね」

 

マイクを持って

 

「昨日これに、もう一つ術をかけといたの。それを発動させてから、これを通してお願いすると、相手に聞いてもらえるってわけ」

 

「それじゃあその術を使えば、誰にでもお願いを聞いてもらえるの?」

 

「とはいかないんだよね~この術が聞くのは、あくまで私達の虜になっている人……つまり、私達の歌を気に入って、私達に好意を持っている人だけなの」

 

「そうなんだ」

 

「つまり、元から私達のお願いを聞いてくれそうな人達のそうした気持ちを増幅させる術なのね?」

 

「まぁ、そんなとこね」

 

「なぁんだ…」

 

「って言うけど、これって結構妖力使うから大変なんだよ?私程度の力じゃあ、使える術じゃないんだけど…ほぉんと、太平要術様様よね~!」

 

張宝は太平要術の手に持ち、抱き抱える

 

「(これで、いつかの人も虜にするわよ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、晩ごはんを摂っている勇作は愛紗たちと一緒に昼食を摂った店で食事をしている

 

「んーやっぱりここは羊の炒めものが最高なのだ!」

 

「麻婆豆腐も侮り難い味ですよ」

 

「ふっ、このメンマの奥深さが分からんとは、二人共まだまだ子供だなぁ」

 

「何言っているんだ?けど本当に美味しいな!」

 

「趙雲さんって、本当にメンマがお好きなんですね」

 

「実は私の母方の祖父がメンマでな」

 

「成程それで……ってなんだそれ!意味分からんぞ!」

 

「炒飯大盛り出来ました!ん?」

 

厨房にいる一人の少女の視界に、その様子が少し入った

 

「「「「「「「ご馳走さま(なのだ)」」」」」」」

 

円卓台の上にある料理を平らげた一同。皿にあった料理は、全て腹に入っていった

 

「この店の料理、見た目は庶民派だが、どれも一工夫してあって、腹が減っていれば何を食っても旨い鈴々には勿体ない位の味だったな」

 

「ホントおいしかったのだ!」

 

「え〜っと鈴々ちゃん……」

 

「あっ、綺麗に平らげてくれたんですね!」

 

「ん?」

 

全員、声のする方を向く。赤い腰エプロンを付けた女の子がそこにいた

 

「(誰だ?)」

お茶を飲む勇作

 

「あ、私、この店で料理人をしている典偉と申します」

 

ブー!!

 

お茶を噴き出す勇作

 

「うわ!どうしたのだ!?」

 

「ご、ごめん、ちょっとむせて」

 

「気を付けてくださいね」

 

「それではこの料理…お主が作ったのか」

 

「はい…それで、もし良かったら、コレ試してくれませんか?」

 

そういうと、典偉は後ろからあるものを取り出した。竹や木を編んで作られた蒸し料理用の、小さめの蒸籠である。俗に、中華まんや小籠包等で使われる容器である。蓋を開けると、硝子が曇る程の湯気を出し、中には六個の中華まんがあった

 

「肉まんなのだ!」

 

「これは旨そうだ」

 

「今度、新しく出そうと思ってるんですけど、食べて感想聞かせてもらえませんか?」

 

「そういう事なら、遠慮なく」

 

六人は中華まんに手を伸ばし、口にする

 

「肉汁たっぷりなのにあっさりしていて美味しいですね」

 

「ほんほにおいひいのら〜!」

 

「お行儀悪いですよ鈴々ちゃん。口に物を入れたまましゃべっちゃ」

 

「しかし本当に美味しいな!」

 

「この肉、豚ではないな…さりとて牛でもないし」

 

「典偉とやら、これは一体何の肉だ?」

 

「えへ!何のお肉か当ててみて下さい」

問題が出題され、う〜んと唸る一同

 

「鹿や猪でもないようですが……」

 

「ほら、分かりませんか?頭ににが付いて、二本足の……」

 

「頭ににが付いて二本足……」

 

「二本足でにから始まる生き物といえば……」

 

「うっ……!」

 

「そ、それは、もしかして……に」

 

深刻な表情を浮かべる

 

「お~い!何を考えているか知らないけど…鶏だよ。これ」

 

「はい、鶏です!」

 

途端、四人がズッコケた

 

「お、脅かすな!」

 

「へっ?」

 

「いや~、正に人を食った…いや、食わなかった話か」

 

「何も冷や汗かきながら上手い事言わなくてもいいですよ…」

 

「おごりの肉まんおいしかったのだ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「(この美味しい料理を作っているのが、あの悪来典偉だと誰が信じるかね……あははは)」

 

心の中で苦笑いをする勇作であった


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