「隊長っ!」
「あちらに逃げた者達はお前達四人に任せる!逃がさない事に集中しろ!中央部に逃げた三人は俺が対処する!」
「了解!」
現在、俺達は街の中を逃げているゴロツキ達を捕まえるべく走っている。
「はぁっっ!」
「ぐは・・・っ」
中央に逃げた者達全員を縛り上げた俺は、部下達の応援に行くべく駈け出した。のだが、
「おお、翼!ちょうど良い所に」
俺が見たのは倒れ伏すゴロツキ達と春蘭、そして呆然としている部下達の姿。
「どうやら部下達の手助けをしてくれたようだな」
「・・・全く、何をやっているのだ。お前の部下達は」
「あまり酷な事を言われてもな。つい最近入ったばかりで、鍛えている最中なのだ」
そう、だからこそこうして経験を積ませたり、応援に向かったりと手間をかけている。
「ともかく、ありがとう、春蘭」
縛り上げられたゴロツキを運んでいく、警備隊を見ながら、春蘭はためいきをひとつ。それに対し俺は言う。
「警備隊には実践に投入できるまでに届かない者達も多い。それを補う形で私が共に回っているのが現状だ」
ただそういう者達も少しづつ成長しているし。警備隊の活躍もあって、入隊希望者も日に日に増えている。最終的には今の数倍にまで増やすつまりなのだが、それもそう遠くはなさそうだ。
「まあ、軍からも何人か出している現状を早く解決してもらいたいな」
「ああ、そのつもりだ。それで、今日はどうした?春蘭が街に出るとは珍しいなー」
「珍しくて悪かったな。私が買い物に来るのがそんなに不満か?」
「ごめん、ただ気になってね。おわびに案内でもしようか?街の案内も警備隊の任務の一つなのでな」
「それを頼もうと思っていたのだ」
まあ秋蘭も案内したからな。
「それで、今日は何を買いに来たのだ?」
「下着だ」
春蘭はきっぱりと言い切った。
「・・・・・・少し待ってくれ。女性の警備隊員に案内させよう」
「お前に案内を頼むと言ったのだ。おわびなのだろう」
「そうですね・・・」
「まずはここだな」
「ここはダメだ」
「品揃え、質、共に評判だが?」
「前に来た事があるが・・・半裸の筋肉達磨が踊りながら接客に出て来て、思わず叩き斬りそうになったぞ」
「変態ではあるものの、悪い存在ではないようだが?」
「・・・・人とは言わないのだな」
何件か回るが、春蘭は否定の言葉しか出さない。
「・・・・・春蘭はどういうのがいいのだ?」
「なんでもいい」
・・・・・随分とタチの悪い[なんでもいい]だな。
「ここで最後だ。街で下着を売る場所は全部回った」
「ここは知らないな」
「では、これで失礼させてもらおう」
・・・・ようやく終わったか。帰って明日に提出する書類を仕上げなければ。
「ここまで来たのだ付き合え!」
不意を突かれ俺は店に引き込まれた。
「・・・・・春蘭、君は俺が男だと分かっているかね?」
「ん?何を言う、翼。分かっているぞ」
「いらっしゃいませ。今日は彼氏に下着を選んでもらいにきたのですか?」
俺達の会話に対し店員が言った。
「ちょっと待て!どこの誰が彼氏などと・・・っ!」
「でも、殿方に真名で呼ばせるなんて・・・ねぇ?」
「ねぇ?」
「(普通はそう思うだろうな)」
春蘭は店員の言葉と勧められるカップル用下着にますます怒る中、俺は頭を抱えたくなった。って、
「おい、春蘭!ここで獲物を抜く気か!?」
「おやめなさい!」
店内を貫くその声に、俺や春蘭はおろか・・・俺達を囲んでいた店員達まで、動きを止める。
「・・・まったく、どこの田舎者が騒いでいるのかと思えば・・・。呆れて物も言えないわ」
「か・・・華琳さまっ!?」
「よかった、華琳。一時はどうなるかと思った」
俺の言葉に華琳は言う。
「あら、翼。今日は仕事だと言っていなかった?」
「・・・・仕事として春蘭を案内したまではいいのだが、・・・まさか買うところまで付き合わされるとは」
疲れた声で俺は返答した。
「まあ・・・・何となく予想は付くが」
華琳に付き添っていた秋蘭が言った。
「で、ですが、私と翼のことを・・・そ、その・・・恋人などと!まったくもう、ワケが分かりませぬ!」
春蘭は必至に言い訳をしたが、
「それは姉者が悪い」
「それは春蘭が悪いわ」
「それは春蘭が悪い」
「なんですと!」
全員から否定を食らった。
「女性物の下着を売る店に男連れで来れば、その連れはそれなりに近しい関係と考えるでしょうよ」
「姉者。翼が男だと・・・忘れているのではないか?」
「・・・・春蘭は俺が男だと分かっていると言ったな?」
俺の問いに春蘭は頷いた。
「では、男と女がどう違うか分かるか?」
「ああ、それは・・・・」
「それは?」
「金的を蹴れば悶絶する!」
場の空気が止まった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「な、なんだその目は!」
「(あたりまえだ。)」
「・・・・今回ばかりは部下の無知を詫びさせて頂戴。翼」
「大丈夫だ・・・」
「姉者。姉者の下着は私が選んでやるから。な?こっちへ来い」
「お?おう・・・?」
「華琳さま。申し訳ありませんが、私は我が愚姉の面倒を見ねばならぬようです。代わりに翼がお相手をいたしますゆえ・・・それでご容赦していただきたく」
「・・・仕方がないわね。いいわ、言って来なさい」
「翼。すまんが、華琳さまのお相手を頼むぞ」
「俺がやるの・・・」
「ほかにだれが居るの・・・」
「わかった。やってみる」
SIDE 華琳
「これはどう?」
「良いんじゃないか?」
「じゃあ、これはどう?」
「んーあんまり良くないなー」
「あんた、ちゃんと考えてやっているの?」
「こういうこと初めてだからどうすれいいかわからないんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。だから思ったことを言っているだけけど・・・」
「そう・・・(ちょっとイタズラしちゃお)」
「これなら、どう?」
「・・・・っ!・・・それは想い人が出来たときにでも見せるべきだと思う」
「(・・・・正直、自分でも恥ずかしい。だが、・・・よし!少し効果があったようね。この調子でいくわよ!)」
SIDE 華琳out
「ああ、楽しかった」
「・・・・それは良かった。・・・・でなければ、俺の苦労は・・・」
「(・・・何故わざわざ、あのような下着を選ぶのだ?・・・理由は分かるが、・・・あまり分かりたくない。そこまで俺をからかいたかったのか・・・。)」
「あら、そんなに私といるのは疲れる?」
「初めてのことだったからすごく疲れた・・・」
「機会があったら頼むことにしようかしら?」
「え?」
「華琳さま。こちらの買い物も終わりました」
「(どうやら春蘭の買い物も終わったようだ。)」
「で、春蘭はちゃんと買えたのかしら?」
「もちろんです。三枚ひと組の・・・」
「・・・秋蘭?」
「は。全身全霊をもって阻止いたしました」
「結構」
「(・・・・春蘭。それを買おうとするのは女性としてどうかと思うぞ。)」
「・・・?良く分かりませんが、それは秋蘭に止められたので、秋蘭に選んでもらいました」
「それは、ちゃんと買えたとは言わないでしょう」
「はぁ・・・」
「今度は翼にでも選んでもらいなさい・・・って翼どこに行くの」
「(まずい)もう終わったから帰ろうと・・・」
「何言っているの?もう仕事は終わったでしょう・・・」
「まだ、残っていることが・・・・・」
「どうせ書類でしょう。明後日まで良いわ。それに逃げようとしていたから罰として・・・」
「ちょっと!?」
「慣れる必要があるから・・・」
「まさか・・・」
「もう一軒行きましょう。良いわね・・・」
「・・・はい」
この後、日が暮れるまで付き合わされた
「・・・・・・・・・・・・疲れた」