問題児が聖杯探索するそうですよ? 作:最強系主人公大好き
「オレはクー・フーリンってんだ。しがないドルイドで 見ての通りキャスターのサーヴァントだ。まあ 冬木の聖杯戦争の生き残りってやつだな」
カラカラと快活に笑う長身の男、クー・フーリン。十六夜はその名前を聞いて、少しばかり驚いたように目を見開いて、へぇ、とクー・フーリンの身なりを観察する。
『うぇぇえ!?マシュ!クー・フーリンがそこに居るのかい?クー・フーリンといえば』
ロマニが解説を始めようとしたその時、十六夜が被せるように解説を始める。
「クー・フーリンといえば ケルト・アルスター神話における半神半人の英雄 高名な光の御子様じゃねぇか。影の国の女王スカサハから譲り受けた 二頭の海獣『コインヘン』と『クリード』が争った際に その敗れた方の骨をつかって『ボルグ・マク・ブアイン』が作り上げたとされる『ゲイ・ボルグ』の槍の使い手だろ?なるほど、原初の18のルーン魔術を修めてたって話もあるから魔術師 キャスターってか?ドルイドといえば ケルトの言葉で『オークの賢者』を意味するドルイド教の祭司のことだし、そこら辺も影響してるわけだ」
『そんな……僕の見せ場が…………』
「おっ、詳しいな坊主。だが、一部とはいえ勝手に人のプロフィールを赤裸々に語るのはいただけねぇぜ?」
「ヤハハ 誰でも知ってる一般常識の範疇くらい構わないだろ?」
「一般……?」
≫……常識?
十六夜の口からスラスラと語られた知識の羅列に困惑の色を顔に浮かべたのはマシュとぐだ子である。まるでありえないものを見たかのような視線を十六夜へと送る。
「……なんだよお前ら その目は?」
「ああ いえ お詳しいなと」
マシュもクー・フーリンの伝承については一通り把握してはいるが、それをここでスラスラ語れるかと問われればその限りではない。なにより、他ならぬ十六夜の口から語られたということにマシュは困惑していた。
「当然 俺はバリバリの頭脳派だからな」
何を今更とばかりにわざとらしく肩を竦めておどけてみせた十六夜の言葉に、マシュは、知らねぇよそんな設定、と内心で思う。
「…………はあ これは失礼しました。わたしはてっきり十六夜さんはガチガチの武闘派であるとばかり」
十六夜に戦闘狂のきらいがあることはこれまでで最早明らかなことである。故に、マシュは。
≫率直に 脳筋だと思ってた
ぐだ子のその言葉に全力で頷いた。これだけの力を有する人物が、まさか知識まで豊富であるなどと誰が予想するだろう。力と知恵を併せ持つなど、どんなおとぎ話の英雄だという話だ。この対応には流石の十六夜も少し不機嫌になる。
「本当に失礼だなお前ら……。あんまし人を見た目で判断するなよ?」
そんなやり取りを見ていたクー・フーリンはカラカラと心底可笑しそうに笑った。
「ハハッ あの戦いっぷりを見ちまえばそう思うのも仕方ねぇよ!にしても惜しいなぁ オレがランサークラスで召喚されてりゃあ オマエさんと存分に殺り合えたってのによぉ」
十六夜の計り知れない力を肌で感じ取っていたクー・フーリンは神の血を引く者の証である紅い瞳にギラギラと闘志を燃やし、しかし、本当に残念そうに眉を下げる。十六夜もその意見には同意を示す。
「そいつはたしかに惜しいな。俺も全力の光の御子と戦ってみたかったぜ!」
二人の会話の意味が理解できないマシュは疑問の声をあげる。
「あの クー・フーリンさんは別に敵ではないんですよね?」
マシュの疑問に今度はクー・フーリンが不思議そうな顔をする。
「ああん?敵じゃなくても友好を深めるとかって名目で殺り合うことなんざ珍しくもねぇだろ?」
クー・フーリンの生きたケルトとはそういう世界なのである。
≫マシュ ケルトは……魔窟だよ…………
マシュ
「はあ そのようですね。どうやら わたしたちの常識や価値観では計り知れない世界のようです。十六夜さんは妙に馴染んでいらっしゃいますが……」
意気投合している十六夜とクー・フーリンを見ながら。ぐだ子とマシュは何かを諦めたように溜め息を吐いた。
ここで十六夜に見せ場を奪われ、落ち込んでいたロマニが話を切り出す。
『光の御子 確認しますが あなたはこの街で行われた聖杯戦争に参加するサーヴァントであり唯一の生存者なのですね?』
おう、まあな。とクー・フーリンはあっけらかんと答える。
「だが 生存者とは言っても 負けてないって意味でならってことになる。なんせ オレたちの聖杯戦争は途中からまったく違うものにすり替わってたんだからな」
『聖杯戦争が狂った……もしかしてそれが原因で特異点に…………』
「経緯はオレにもよくわからねぇが。街が一夜にして炎に包まれ 人間は消え そこに残ったのはサーヴァントだけだった」
クー・フーリンはここにきて始めて快活な笑みを潜める。そして続きを語り出した。
「混乱極める中 いち早く聖杯戦争を再開したのはセイバーのサーヴァントだった。そして セイバーに倒されたサーヴァントはさっきのヤツらみたいに真っ黒な泥に汚染された」
「面倒なことに聖杯戦争はオレを倒すか セイバーが倒されない限り終わらねぇからな。ランサーならセイバーなんざ一刺しで倒せるってもんなんだが 生憎と今のオレはキャスターだ。ったく 冬木の聖杯戦争でキャスターとかやってられねぇぜ……」
そう言って、クー・フーリンは苛立たし気に頭を掻きむしる。
『なるほど あなたはセイバーを倒したいが 戦力が足りなかった そこでマシュたちに目をつけて接触を図った……』
「応っ、流石に話が早いじゃねぇか。まあ そうじゃなくともスケルトンどもが無尽蔵に涌いてきやがるからな。味方は多いに越したことはねぇってこった。あんたらの目的はこの異常の調査。オレの目的はこの聖杯戦争の幕引き。利害は一致してんだ。ここはいっちょ仮契約って形で手を組まねぇか?」
≫こっちとしては大歓迎だよ!
「はい。十六夜さんに加え クー・フーリンさんまで協力してくださるなら心強いです!」
「俺も異存はないぜ?それに どうやらそっちには当てがあるみたいだしな?闇雲に動くよりも効率的で結構」
十六夜は見透かしたような視線を言葉と共にクー・フーリンへと向ける。ハハッ 見抜かれてたか。とクー・フーリンは参った参ったと頬を掻く。
「大聖杯。セイバーのヤロウが居座ってる場所だ。ヤツに汚染された残りのサーヴァントもな」
『大聖杯?聞いたことないな……』
「冬木の心臓さ。特異点とやらがあるとすればまず間違いなくそこだろうぜ?」
「なあ 光の御子。あんたはセイバーの正体を知ってんのか?」
「応っ。何度か対峙したからな。なんだ 聞きてぇのか?」
「是非」
本当は士気が下がりそうだから直前まで黙っとくつもりだったんだがな……。とクー・フーリンは渋々に口を開く。
「ヤツの真名はアーサー王。王を選定する剣の二振り目 世界で最も有名だと言える聖剣 『エクスカリバー』の担い手にして 誉れ高き騎士王だ」
キャスターの口から出た思わぬビッグネームに、マシュたちが押し黙ってしまう中、十六夜だけはその口元に弧を描いていた。
…………
……
「ところで そこの盾の嬢ちゃん。オマエさん見たところ真っ当なサーヴァントじゃねぇな?」
クー・フーリンから唐突に放たれたその言葉に、マシュは驚いたように目を見張った後、こくりと肯定するように頷いた。
「はい わたしはデミ・サーヴァントと呼ばれる人間と英霊の融合体です」
デミ・サーヴァント。それはカルデアで行われていた実験のひとつで、英霊召喚システム・フェイトを利用した、人間を依り代として英霊の霊基を召喚するという。少しばかり風変わりな召喚方法。召喚そのものには成功したものの、宿った霊基がうんともすんともいわず、実験自体は失敗として終わっていたのだが、冬木へとレイシフトした際にどういうわけかマシュの中で眠っていた霊基が力を貸してくれるようになったのだ。
そこら辺の事情を聞いたクー・フーリンは、ほーん、と情報を一通り整理して把握した後。一つの疑問を呈した。
「宝具は使えんのか?」
≫宝具?
「マスター 宝具とは英霊の持つスペシャルアーツ 英雄として残した伝承や偉業から来る切り札のことを指します」
「平たく言えば必殺技か……」
身も蓋もない言い方ではあるが、ある意味では核心に近い例えをする十六夜。マシュもあながち間違いではないと肯定する。
「そんな感じです。クー・フーリンさんの質問に答えるなら わたしの場合は融合したサーヴァントの真名がわからないこともあって 現状で未だに宝具を使うことができません……」
『まあ 宝具に関しては一朝一夕でどうにかなるものではないからね。英霊の奥の手をそんな簡単に引き出せちゃったらサーヴァントの方の面目が立たないさ』
ロマニがマシュをフォローするような発言をするが、当のマシュは少し悔しそうな表情を浮かべた。
「やはり今後必要となってくるのでしょうか?」
あー、とクー・フーリンはマシュを見た後に十六夜を一瞥して首を縦に振る。
「いや まあ 必要か必要でないかと言えば正直 必要だと思うぜ?単純な戦力アップもそうだが。戦闘はオレとこの坊主に任せるにしても、テメェのマスターを守れるのはそんな立派な盾を担いでる嬢ちゃんだけだからな。宝具使えるようになってて損はねぇさ」
そうですか……。と不安気な顔のマシュ。
「ですが どうすれば使えるようになるのでしょうか?」
「そんなもん気合いだろ 気合い。英霊と宝具ってのは本来同一のもんだ。サーヴァントとして戦えるのに宝具が使えねぇってことは そりゃあ単なる魔力詰まりだよ。やる気?弾け具合ってーの?とにかく腹から声出す練習をしてねぇだけだ」
「そうなんですか!?そーうーなーんーでーすーかー!?」
「いや ものの例えだったんだが……。まあ やる気があんのはいいことだ。そんじゃあ 少しばかり寄り道になっちまうが 特訓といきますかね。ああ それと 坊主は手ぇ出すなよ?強いヤツが居るとどうしても気持ち的に頼っちまうだろうからな」
「特訓って……まあ 流石に水を挿すようなような真似はしねぇよ。大人しく周囲の警戒にあたっといてやるから安心しろ」
十六夜もマシュの宝具に興味がないわけではないらしく、二つ返事で了承した。
…………
……
「宝具ってのはいわば英霊の本能だ。なまじ理性があると引き出しづらいんだよな」
ニヤリとクー・フーリンは悪どい笑みを浮かべた。
「あんまし時間もとれねぇし 手っ取り早く嬢ちゃんを追い詰める。全力で守れや?じゃねぇとマスター諸ともあの世行きだぜ?」
言うや否や、クー・フーリンの身体から魔力が放出され始める。それを見てマシュが頬を引きつらせる。
「あの ものスゴく嫌な予感しかしないんですが…………」
「【我が魔術は炎の檻 茨の如き緑の巨人。因果応報 人事の厄を清める社】」
「やっぱり……!マスター!早くわたしの後ろへ!」
≫うん。マシュ……信じてるからね!
「……ッ!!はい!わたしの全身全霊をかけてあなたをお守りします!」
「【倒壊するはウィッカー・マン!善悪問わず土に還りな!】」
顕現するはすべて焼き尽くさんとする炎を纏った、無数の細木の枝で構成された巨人。それはドルイド信仰における人身御供の祭儀。
巨人の胸部に設置されたる鉄格子の檻には、しかし、本来納めるべき生贄が収められておらず、巨人は神々への贄を求めて荒れ狂う。
燃え盛る炎は近づくだけで肉体が蒸発してしまうのではないかと思えるほどの熱を発していた。
遠巻きに見ていた十六夜はその光景を囃すように短く口笛を吹いた。
「なんだよ 魔術師でも全然楽しめそうじゃねぇか……」
マシュは襲い来る熱気を大盾で防ぎながら、苦し気にその端整な顔を歪ませた。
「くぅ……ッ!?」
「オラオラァ!どうしたどうしたぁ!そんなんじゃ黒焦げになっちまうぜぇ!!根性見せろやぁ!!!」
「うぅ……っ マスターは……先輩は……わたしが守る…………ッ!!仮想宝具!擬似展開!真名偽装登録!
マシュの覚悟と勇気に呼応するように展開された強力な守護障壁は、そして、キャスターの宝具をして容易く凌ぐほどのものであった。