リオンが弾かれたように動きを出すのとリオレウスのアギトから、暴力的な熱を秘めた必殺の火球が放たれたのは、同時だった。
リオレウスの火球が放たれた瞬間、リオンは“右斜め前”、つまり少しずつ“壁側”へ寄りながら、前へ全力で走りはじめた。
火球とリオン。
彼我の距離が、凄まじい速度で減少する。
10m、6m、3m、___
そして途轍もない熱量を放つ火球がリオンに直撃する寸前、リオンは驚くべき行動に出た。
リオンは一瞬身を沈めると、壁へと一気に跳躍した。
そして壁に足をつき、そのまま前へと走りはじめる。
そう、壁走り。
火球がリオンの後方に流れ、視界から消える。
リオン自身、自分はこんな事が出来るとは思っていなかった。
しかし、迷いはなかった。
そしてリオンはそのまま壁を走り続け、リオレウスの少し手前で、壁からリオレウスの背中目掛けて跳ぶ。
「ウォォォォォォォッ‼‼‼」
流れるような動作で双剣を抜き放ち。
二筋の流星が閃いた。
それは前進運動と落下運動の力を余す事なく剣に乗せた一撃。
双剣の刃は、リオレウスの鱗を砕き、鱗の下の皮を斬り裂き、肉に到達した。
グルゥッ⁉
リオレウスが始めて呻き声を上げて、転倒する。
リオンの体力的にも、クエストの残り時間的にも最後のアタックチャンス。
リオンは着地後、リオレウスの背中に飛び移る。
そして腰から剥ぎ取りナイフを抜き放ち、先程斬り裂いた部分に突き刺す。
そこでリオレウスが激しく暴れる。
リオンの身体にケチャワチャとは比べものにならない程の遠心力が襲い、身体の下半身が空中に投げ出される。
「うぁぁぁぁっ‼」
しかし、手は絶対に離さない。
ここはリオレウスのスタミナとリオンの根性の勝負だ。
リオレウスがリオンの身体を大きく振り回す度に、凄まじい重力がリオンの身体を貫く。
しかし、リオンを振り回せば振り回すほど、リオレウスのナイフを刺している背中の傷口は大きくなる。
この勝負に勝ったのは____
____リオンだった。
リオレウスが呼吸を荒くして、動きを止める。
「っっったぁぁぁぁっ‼‼」
これぞ待ちわびた瞬間。
リオンは次に振り回されたら、しがみつけるだけのスタミナも根性も残っていなかった。
リオンは腕の筋肉がねじ切れんばかりの勢いで剥ぎ取りナイフを刺し抜きする。
この刺して抜くという単純作業に、まさしくリオンの全身全霊が込められていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼‼‼‼」
しかし、リオレウスは呼吸を整え、身体を揺らし始め_____
___リオンが吹っ飛ぶのと、リオレウスが転倒するのは同時だった。