ケチャワチャはエリア4にいた。身体の所々に傷があり、左手の爪もひび割れている。
そんなケチャワチャは段差の前でこちらに背中を向け、ゆったりと歩いていた。
モンスターを攻撃する手段の一つとして、ジャンプ攻撃というものがある。
段差などを使い、落下しながら攻撃を行い、モンスターのダウンを狙う技だ。
そして転倒したモンスターに飛び乗り、ナイフで何度も刺すことによって、より長いダウンをとることが出来る。
そして、こちらに気付いておらず、背中を無防備に晒し出している今は、ジャンプ攻撃に絶好のチャンス。
リオンはケチャワチャに向かって一気に駆ける。
段差で地面が途切れる直前で、思い切りジャンプ。
空中で双剣を抜刀する。しゃりぃいん!という鮮烈な刃鳴りが響き渡り、双剣の刃が太陽の光を反射し、ギラリと輝く。
そして突進と落下の勢いを余すことなく乗せた斬撃が、ケチャワチャの背中を深く切り裂いた。
ケチャワチャは思わず前に転倒した。
リオンはケチャワチャが起き上がる前に、その背中に飛び乗った。
そして、剥ぎ取りナイフを取り出し、滅多刺しにしようとするがケチャワチャはリオンを引き剥がそうと、暴れ始める。
暴れている間は気を抜いていると振り落とされるので、思い切りしがみつく。
そして暴れが止まると剥ぎ取りナイフで背中を刺す。抜く。
刺して抜いて、刺して抜いて刺して抜いてさしてぬいて____
また暴れ始める、が今度は攻撃を辞めない。
そのまま突き刺し続け____
ケチャワチャは堪らず転倒した。
ケチャワチャの背中と地面に潰される前にケチャワチャから飛び降りたリオンは、立ち上がろうともがくケチャワチャに二段切り、そこから鬼人化、鬼人乱舞を叩き込み、鬼人強化へと繋げる。
ケチャワチャは起き上がり、リオンに右手を伸ばし、爪で切り裂こうとする。
それをリオンは脇へステップしながら躱しつつ斬りつける。
パキンと、ケチャワチャの右の爪が砕け散った。
ケチャワチャが一瞬うめき声をあげ、止まる。
すかさず鬼人連撃を叩き込んだ。
一度ネコタクされたのが良かったのだろうか。リオンの動きに淀みがなくなっていた。
鬼人連撃フィニッシュがケチャワチャの背中を深く刻み、ケチャワチャは再度転倒した。
そんな無防備な背中を双剣がさらに苛烈に切り刻む。
身体から迸る紅いオーラが、宙に幾つもの弧を描く。
リオンは完璧に戦いの主導権を奪うことに成功した。
ここからは、一方的な展開となった。
☆☆☆
「っらぁっ‼‼」
双剣をニ閃。
ケチャワチャは大きく空を仰ぎ、糸が切れたかのように地面倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。
ケチャワチャの素材を剥ぎ取り、時間を確認すると、残り30分は残っている。
因みにこのジャギットショテルの強化に必要な素材の、奇猿狐の長骨を剥ぎ取る事が出来た。ラッキー。
「……っ!しまった!」
突然、強大な気配を感じた。
近い。
しかも隣のエリアからこちらに向かってきている。
「くそっ‼」
急いで岩陰に身を隠すが、その意味は無かった。
モンスターは上から飛来してきたのだから。
燃えるような紅い鱗をまとい、空から悠然と降下してくる。
毒を含む強力な爪を持ち、その優れた飛行能力から『天空の王者』と呼称され、畏れられる飛竜。
雄火竜リオレウス。
子どもでも知っている、最も有名と言ってもいい飛竜。
縦の瞳孔の蒼眼は真っ直ぐこちらを睨みつけている。
到底逃がす気は無い様だ。
「……何処までやれるか、やってみるか」
リオンは背中からジャギットショテルを抜き、構える。
引きつった顔で無理やり笑みを作り、リオレウス見返た。
それが気に障ったのか。
リオレウスは息を大きく吸い、ケチャワチャとは比べものにならない程の咆哮が、遺跡平原に木霊した。