先程の女性ハンターから離れたリオンは、そのままカウンターへ向かう。
「あっ、リオンさん。こんにちは!装備、新調されたんですね!」
「あ、はい。あの、このクエスト受注しに来たんですけど……」
そういって採取ツアーの依頼書を下位受付嬢に渡すと、手慣れた手つきで判子を押し、依頼書を差し出してくる。
「ありがとうござ……ん?」
リオンが依頼書を受け取ろうとするが、下位受付嬢の手から離れない。下位受付嬢をみると顔を俯かせている。
え、もしかしてこの依頼はダメなのか?
しかし、予想していた言葉とは違う言葉がとんできた。
「あの、先程の人は……えと、彼女さん、ですか?」
「先程の人?」
下位受付嬢は気まずそうに上目遣いでリオンに訪ねる。
先程の人って、あの女性ハンターの事だろうか。
「……いえ、さっきの人とはたまたま話しただけで、初対面です」
すると下位受付嬢が何故か安心した様に息を漏らす。
というか、依頼書……。
「あの、依頼書が……」
「へ?……あっ⁉す、すみません‼」
そう言って、依頼書から手を離す。
あぁ、破れてる……。
「でっでは!依頼、頑張って下さい‼」
「え、あ、はい」
何故か顔を真っ赤にしながら言ってくるので、追求はしなかった。
出口に歩く中、少し破れた依頼書を眺め、呟く。
「……この依頼書、使えるかなぁ……」
☆☆☆
金色の草が風で靡く。心地よい風が頬を撫でる。
リオンは遺跡平原に到着した。
「ありがとう。ガーグァタクシーさん」
「はいニャ!依頼、頑張って下さいニャ‼」
ここまで連れて来てくれたガーグァタクシーのアイルーにお礼を済ませ、気を引き締める。
今日の目的は採取、そしてあわよくば野良大型モンスターの討伐。
「……いるな」
リオンは昔から何故か察知能力が異常に高く、幼少時は100m程までなら親の位置がすぐにわかったくらいだ。
取り敢えず、モンスターの細かい位置はまだわからないが、この遺跡平原に大型モンスターがいる事は分かった。
ガーグァタクシーで縮こまっていた身体を伸ばし、ほぐす。
程よく筋肉を伸ばした後、アイテムBOXから取り出す。
「さてと……じゃあ、行くか」
☆☆☆
「……いた」
リオンが慎重にエリアを進み、エリア2に来たとき、そいつは姿を表した。
エリア4から前脚の飛膜を広げて滑空し、エリア2のツタへ着地した。枝渡りに適した特徴的な構造の手足を使い、勢いを殺す。
ケチャワチャ。『奇猿狐』とも呼ばれる牙獣種のモンスター。
図鑑では見た事があるが、生で見るのは始めてだ。
幸い、まだこちらに気付いてはいない。
気配を殺し、一歩一歩慎重に歩を進める。
だが、ケチャワチャはツタの上にいる。
ケチャワチャを警戒するには、当然上を見るから、下の警戒が疎かな訳で____
パキン
「あ」
リオンの脚が、落ちていた木の枝を踏み抜いた。
ケチャワチャがリオンを見る。
視線がぶつかり、動きが止まる。
見つかったことに気付くのに、一瞬反応が遅れた。
急いで耳を塞ごうとしたが時既に遅し。
空気を震わすケチャワチャの咆哮が開戦の合図となった。
☆☆☆
「ぐえっ」
リオンはネコタクから勢いよく地面へ落とされ、うめき声が漏れる。
人生初のネコタク。
これは辛い。痛い。もっとソフトに降ろして欲しい。
あのあと、なんとか体制を立て直し、良いところまで言ったのだ。
だが攻め急ぎ過ぎ、体力の事をあまり考えていなかった。
ケチャワチャが滑空している時に、どこから来たのかメラルーがリオンに攻撃したのだ。
一瞬だけ動きが止まる。
たかが一瞬。されど一瞬。
その隙が命取りとなった。
滑空して来たケチャワチャを避けきれず、直撃。
体力も持たず、ネコタクされたのだ。
「……盗られたのは石ころか」
不幸中の幸いは、盗られたのが研ぎ石や回復薬ではなく、石ころだったということ。
採取しておいて良かった。
「……ん?」
リオンはケチャワチャの他に何かの気配を捉えた。
それも、ケチャワチャより遥かに強い。
まだ遺跡平原にはいないようだが、確実に近づいて来ている。
「……早めに倒さないとな」
ジャギットショテルを研ぎ直し、こんがり肉を頬張り、目的地まで一気に駆け出した。