人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話   作:赤雑魚

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どうしようもなくヤバイ感じ

「卑王鉄槌、極光は反転する·······!!」

 

 膨大な魔力を受け取った聖剣が黒く輝き、規格外の魔力の集束に大気が鳴動する。

 

 人々の願いによって精製された『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)』、聖剣の頂点に位置し『空想の身でありながら最強』と称えられる光の剣。

 

 並みの魔術師(マスター)では一度としてまともに撃たせることができない対城宝具。

 

 だが、今の騎士王は聖杯によるバックアップを受けているため魔力的な制限は皆無。魔術王が造り出した万能の願望器は彼女のスペックを最大限にまで引き出していた。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)

 

 黒の極光が放たれる。

 

 魔力を光へと変換、集束、加速し光の断層として放たれる『究極の斬撃』が俺達に迫る。

 

疑似展開(ロード)―――』

 

 大楯を持つ少女はそれを迎え撃つ。

 

 未だ少女は、憑依する英霊の真名を知らない。宝具の真価を発揮することは出来ない。

 

 が、問題ない。

 

『―――人理の礎(カルデアス)!』

 

 浅い緑光を放つ幾何学的な魔方陣が前方に展開される。

 光の線で細やかに描かれる守護障壁は、防御と呼ぶにはあまりにも頼りない。

 

 だが俺は知っている。宝具の真価を発揮出来ずとも。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を防げる事を知っている。

 

 黒の極光と緑光の膜がぶつかり合う。

 

「はあァァァアアアア!!」

 

 聖剣の一撃をマシュが耐えて、耐えて、耐え抜いた。

 

 究極の斬撃は過ぎ去り、障壁は消え去った。

 

「防ぎ、ました······!」

 

「よくやったぜ、嬢ちゃん」

 

 クーフーリンの言葉で緊張の糸が切れたのか、ガクリとマシュが膝を突く。

 当然だろう、手加減抜きの『約束された勝利の剣』。喧嘩もしたことがなかった少女があれを正面から受け止めて普通でいられる訳がない。

 

「いや、マジで助かりまし―――」

 

 俺も媚び気味にマシュに礼を言おうとして気付く。

 俺は宝具の膨大な熱によって地面が蒸発し、悪い視界の中で確かに見た。

 

 ()()()()()()()()()()()騎士王の姿を。

 

 黒き聖剣が、輝く。

 

「二撃目が来るぞ!」

 

 反射的に叫んでいた。

 

 気付いたマシュが立ち上がろうとして―――倒れる。

 

「マシュ!?」

 

「くぅっ······!」

 

 立香とマシュ、両方とも顔色が悪い。恐らくは魔力切れ。

 次の聖剣を防ぎきるだけの余力は、無い。

 

「連発とか聞いてねーぞ·······!!」

 

 マジでありえねーぞ。

 

 開幕カリバーですら許されない暴挙だというのに、必殺技を連発とか冗談でも笑えない。

 

 想定しておくべきだった。

 聖杯を得た今の騎士王に魔力切れは存在しない。無論、聖剣を連発することも十分有り得る。

 

 無意識に原作を信じ過ぎていた。

 二撃目は無いと、思い込んでいた。

 

 焦燥で上手く頭が回らないにも関わらず。死刑宣告に等しい声が聞こえてきた。

 

約束された(エクス)―――』

 

『覆え―――!!』

 

 ほとんど反射的な行動だった。

 

 身体から音もなく闇が染みだし、光の速さで騎士王を包み込む。

 極光によって即座に打ち消されていくが、一瞬だけ隙を作り出せれば良い。騎士王を殺せるだけの隙を作れれば、それで良い。

 

「セイバー!!」

 

 念話によって、セイバーはすでに動き出していた。

 聖剣を止めるにはもはや、撃たれる前に騎士王を倒すしか手はない。

 

「―――一歩音越え」

 

 セイバーの姿が掻き消える。

 否、掻き消えるほどの速度で加速した。

 

「二歩無間」

 

 縮地、それがセイバーの加速要因。

 

 瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。

 

 単純な素早さではない。

 歩法、体捌き、呼吸法、死角、幾多の現象が絡み合い完成するソレを駆使し、騎士王の背後へと肉薄する。

 

「三歩絶刀―――」 

 

 セイバーの秘剣をもって、即座に切り捨てる。

 

 未だ騎士王は闇に包まれている。

 視覚による妨害を受け隙を見せている今こそが千載一遇の好機だと、そう思っていた。

 

「―――後ろか?」

 

 確信を得た、騎士王の声を聞くまでは。

 

 突如、暴風が吹き荒れる。

 冗談のような威力の風は、騎士王の背後へと肉薄した沖田を軽々と吹き飛ばした。

 

 遅れて何が起こったのかを理解する。

 

 魔力放出だ。

 

 セイバーの背後からの接近を察知し、全方位へ向けて暴風を放ったのだろう。

 

 セイバーの持つ防御不可の対人魔剣も、相手に届かなければ意味はない。

 

「クソッ····! ミスった!」

 

 焦り過ぎた。

 

 騎士王のスキル、直感による危機察知。Bランクに下がっているとは言え、ただ不意打っただけでは魔力放出で対処されることは目に見えていた筈なのに。

 

 恐らく聖剣の二撃目はブラフだったのだろう。

 

 物陰に潜ませていたセイバーを引き摺り出すための罠。奴が常勝の王ということを忘れていた。戦場での駆け引きは最も得意とすることの一つだろうに。 

 

「すみません、マスター······!」

 

 吹き飛ばされたセイバーが身体を起こす。

 セイバーの耐久は低い、目立った外傷はないが魔力放出をモロに食らったのだ。相応のダメージを受けているはずだ。 

 

 こちらの作戦が瓦解したことを察した騎士王がこちらを見て鼻で笑う。

 

「さて、マスター達よ。次はどうする?」

 

 煽ってやがる。

 

 だが言っていることは正しい。

 防御手段は失った。不意打ちも失敗した。なら残されている手は一つしかない。

 

「騎士王を倒せ、セイバー!!」

 

 正面からの撃破、それしかない。

 

「はい、マスター。全力で行きます!」

 

 沖田が騎士王へと疾走する。

 

「嬢ちゃん達は休んでな!」

 

 キャスターが叫ぶ。

 対魔力で騎士王には魔術が通じない。故にキャスターも騎士王へと白兵戦を挑みかかる。

 

 勝つにせよ、負けるにせよ。

 

 もうすぐそこまで、終わりの気配は近付いていた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

  

 ―――不味い。

 

 キャスターとセイバーが連携を取り、騎士王に杖の打突と剣の斬撃を放つ。

 光の御子に幕末の天才剣士。両者ともにその時代に名を馳せた戦士。類い稀なる戦闘技量を誇る両者を相手にすれば並みのサーヴァントでは数秒と持たないだろう。

 

 だが―――騎士王は並みのサーヴァントを大きく上回る。

 

「どうした、もっと足掻いて見せろ」

 

 正面と背後。見えていないはずの打突を鎧で受け、振り返るようにして斬撃を剣で弾く。

 更に接近してきたセイバーとキャスターを魔力放出で吹き飛ばす。

 

 マジでヤバい。 

 状況は動いていないが攻めきれてもいない。たまに傷を負わせても大聖杯と直結しているせいですぐに回復する。いい感じに攻めてても隙ができれば魔力放出で仕切り直される。

 もう勝つには首を切り飛ばすか霊核をぶち抜くしか手はないんじゃないだろうか。

 

 キャスニキが槍ニキじゃないのが非常に悔やまれる。いや、今もキャスターのクセに近接で戦うなんていう、赤い弓兵に凄まじくデジャヴったことしてるし強いんだけども。

 でもランサーだったら刺しボルグでどうにかなるし、やっぱ槍ニキの方がよかった。

 

 てか騎士王も騎士王だよ。

 味方やってるときはあんまりパッとしないくせに敵に回ったときの強さがオカシイ。MP無限、スタミナ無限、慈悲もない。もう完全に魔王じゃん。

 これがチュートリアルなんて信じたくないんですけど。

 

 マシュとぐだ子にはポーションモドキを飲ませて魔力回復をさせているが、それも誤差の範囲だろう。経験不足のマシュが戦闘に参加しても足を引っ張る未来しか見えてこない。  

 

 

 間違いなく追い詰められている。

 

 

 魔力の心配はない。そのためにポーションを用意してきた。魔力がどうこうという心配をする必要はない。

 

 だが不味い。長期戦だけは不味い。

 

 他の英霊は問題ないだろう。

 だがセイバー―――沖田総司にとって長期戦は最も危険な事態を引き起こす。

 

 

 

 

 

 「―――······こふっ」

 

 

 

 

 それは唐突に起こった。

 

 

 病弱A。

 

 俺はソレが、あらゆる行動に急激なステータス低下のリスクが伴うデメリットスキルだと知っている。発生率はそれほど高くない。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 短時間の戦闘ではそれこそ無いに等しい確率でしか発動しないスキルだが、長期戦になれば発動する確率は跳ね上がる。

 

 戦闘時に起これば致命的、騎士王相手では尚更だ。

 

 セイバーも俺も、病弱の発動に対処できるよう警戒していたが、甘かった。騎士王を前にしてその場で対処なんてできる訳がなかった。

 

 病弱が発動し、目に見えてセイバーの動きが悪くなる。

 その一瞬はあまりにも唐突で、致命的で。その隙を見逃すことなく騎士王は剣を降り下ろした。 

 

「······ぁ」

 

 それが誰の声だったか解らない。

 俺か、新人マスターか、それとも大楯の少女か、セイバー自身だったのかもしれない。

 

 

 ただ、身体を斬ると言うにはあまりにもあっさりと、聖剣はセイバーの身体に沈み込み、真っ赤な血の華を咲かせたことだけは理解できた。

 

 

 糸が切れた人形の様にセイバーが崩れ落ちる。

 ビシャリと、大きな赤の水溜まりを作り上げながら動かなくなった。動けなくなった。

 

「あ―――あああああああああ!?」

 

 俺の叫びは何だったのだろうか。セイバーが傷付いたことへの衝撃か、それとも重要な戦力を失ったことへの焦燥か。

 

 どちらにせよ騎士王は、冷酷な王は止まらない。

 二度と起きることが無いように。再び立ち上がることの無いように。徹底的に破壊するため再度剣を降り下ろす。

 

「クソッ!!」

 

 悪態を吐きながら、キャスターがセイバーを庇おうとする。

 強引に騎士王とセイバーの間に割り込み、杖で剣の軌道を逸らそうとして―――。

 

「貴様の小細工も―――もう飽きた」

 

 ―――黒い極光を纏った斬撃で杖ごとキャスターを切り捨てた。

 

 ドチャリと、水っぽい音が響き渡る。

 

 単独になった非近接戦闘職(キャスター)では、騎士王が相手では一瞬しか持たなかった。

 

「戻れ、セイバァァァアアアア!!」

 

「戻ってキャスター!!」

 

 だがその一瞬、藤丸と俺は令呪を用いてサーヴァントを呼び戻す。

 

 極めて効果が限定された令呪は、空間跳躍すら可能とする。

 

 騎士王の側から手元に一瞬で移動したセイバーの身体に力はなく、あまりにも頼りなかった。

 

「う、嘘だろ······!?」

 

 誰に問う訳でもない、泣き笑いのような声が漏れる。

 

 

 不測の事態で回らない頭で唯一理解出来たこと。 

 それはこれ以上無いほどに、状況が悪い方向に動いた事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 


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