人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話 作:赤雑魚
「や、やった······成功したぞ」
―――頼りなさそうな人。
それがセイバーの、沖田総司の懐いた第一印象だった。
別に沖田の観察眼は優れているわけではない。
だが彼女もある程度常識を持った人間として、己のマスターの力量はある程度推し量ることができた。
「あかん、ちょっと休ませて········」
「だ、大丈夫ですか?」
たぶん彼は魔力の量が少ないのだろう。
ゼイゼイと荒い呼吸をしながら、力なく地べたに転がり自分を見上げるマスターを見ながら沖田はそう思った。
話を聞くには複雑な魔法陣を弄って書き換えたのに魔力を喰ったらしいが、必死に身体を起こしペットボトルに詰めた緑の液体(彼曰くMPポーションらしい)を飲み下す彼を見ていると、とてもではないが才能に恵まれた人間には見えなかった。
(今回は、戦い切れるといいのですが)
最後まで戦い抜くこと。
それが新撰組一番隊隊長である沖田総司の、現世に残した願いだ。
未練といってもいい。
持病が原因で最後の時まで新撰組(みんな)と共に戦うことができずに死んだ、半端者の願い。
今度こそは全力で。命散るその瞬間(とき)まで戦おう。
そう誓った。
土方歳三や近藤勇、新撰組の隊士達に誓ったのだ。
それが自分に出来る彼等への唯一の償いなのだから。
「······ああロマン? なに、アーチャーと交戦中で押され気味? ヤベーじゃん、今向かうわ。」
ピッと聞き慣れない音を鳴らして通信機を切ったマスターを見る。
沖田を召喚した時とは違い顔色は良い。
魔力が回復したのだろう。彼はゴルフバッグを背負い、勢いよく立ち上がりこちらを向く。
が、みっともない姿を見せた自覚があるのだろう。少し目をそらして口を開いた。
「あー······、これからはサーヴァントとして戦って貰うことになる。嫌なら言ってくれ。最悪、自分で戦うから」
目付きを鋭くする。
触媒に使ったのであろう、名刀である菊一文字を持ち上げながら話す彼の、戦力を量る。
重心、足運びの身のこなしは良い。
動きに必要とする筋肉の付き方も悪くない。結構な修練も重ねてきたのだろう、手に瘤もできている。
―――だが、弱い。
おそらく実戦経験が足りていない。周囲への警戒が薄い、注意が散漫だ。力量は新入りの隊士と同等か、それ以下。間違っても上ということはないだろう。
天賦の才があるというのならその限りではないだろうが。
力不足。
現代の魔術師とは戦えても、一騎当千の英雄達には及ばない。
それが沖田の出した結論だった。
マスターは戦えない。戦えるだけの実力はない。
ならば、沖田のとるべき行動は決まっている。
「いいえ、マスター。この沖田さんにお任せあれ! どんな相手でも斬って見せますとも!」
大きく、明るく声を張り上げる。
そんな必要はないと、私が戦うとマスターを安心させる。
大丈夫、自分は人斬りだ。
誇れるような事ではないけれど、それだけが自分にある取り柄なのだから。
おそらく、マスターが戦うことになるのは、自分が死んだ時になるだろう。
そうならないように、全力を尽くそう。
―――そう思った。