人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話   作:赤雑魚

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決戦前

「あの、なんで私服を着てたんですか?」

 

 道中、藤丸立香がそんな事を聞いてきた。

 

 騎士王戦を前にして緊張しているのだろう、若干顔を強ばらせている。

 

 よく見ると彼女の疲労の色は濃い。

 まあバーサーカーとセイバーを除く全サーヴァントと戦ったのだから当然だろう。というかそれで生き残っているのが奇跡とも言える。

 

 類い稀なる幸運。それが藤丸立香を主人公たらしめている要因の一つなのだろう。

 

 是非ともあやかりたいので、仲良くなっておくべきなのは確かだ。たとえ俺の評価がマイナスに振りきっていたとしても。 

 

「ああ、黒いパーカーだと目立たないと思って」

 

「·······おっきいのが漏れた時ですか?」

 

「違うよ?」

 

 なんでこの年頃の子って、なんでもかんでも下ネタに繋げたがるかなー。いや、解るよ? 下ネタって楽しいもんね。変なテンションの時は特に。

 でもなー、お兄さんは頭の足りない小娘見ると悲しくなっちゃうなー。

 

 失礼なこと言われても許せる俺ってマジ聖人。

 世界中の人々が俺になれば恒久的世界平和が実現まであるんじゃないだろうか。

 

「······擬態的な意味でだよ。ほら、アーチャーの時も見つからなかっただろ?」

 

 あの時は可能な限り不意打ちに成功する可能性を上げておきたかったのだ。

 

 闇の補助があるとはいえ、真っ白な職員の制服、カルデア礼装だと目の良いアーチャーだとバレやすいと思っていた。実際は洞窟での『闇』の使用だったのでそんな心配は必要なかったのだが。

 

 普通に『闇』が優秀だった。

 

 あとブースター機能が付いてれば言うことなしだったのに。

 

「ああ、そういう······」

 

「とりあえずもう必要ないから着替えるけど」

 

 アーチャーには通じても騎士王には不意打ちが通じないので、さっさとゴルフバッグからカルデア礼装を取りだし、パーカーを脱いで着替える。

 

 カルデア礼装はレイシフトをする職員に配布される魔術礼装だ。

 ゲームでは治癒、瞬間強化、緊急回避のスキル付与能力を持っていた。なんだかんだで一番使い勝手がよく、多くのユーザーもといマスター達に愛用されていた。

 

 そんな優秀な魔術礼装だが、リアル仕様になると礼装に魔力を通すだけで治癒と強化が使えるようになる。それだけかよと思うかもしれないが、魔力の通し方さえ理解していれば誰でも使えるのでぐだ子のような一般人だと重宝する。

 

 俺が使うかは微妙だけども。

 

 下の服装に付いてはカルデアでは特に決まりはないのでジーンズで通している。

 

「そういえばヒズミ先輩。そのゴルフバッグには何が入ってるのですか?」

 

「······秘密どうg―――」

 

「あ、そういうのはいいので」

 

 ······あれれー? おかしいぞー? マシュの態度がなんか辛辣なんだけども。

 嫌われてんのかな、俺。

 

 おかしい、基本的に本編キャラには嫌われないよう立ち回ってきたはずなのに。脱糞現場もそんなに目撃されてないはずなのに。

 

 肩を落として、ゴルフバッグの中に入ってる物を説明する。

 

 まあいいさ、可愛い後輩であるマシュには俺の改造刀、菊一文字の素晴らしさを説明でもしてあげようじゃないか。

 

「これは俺が戦闘員として使用する武器が入っていてな。やっぱり一番の目玉はこのジャパニーズブレードで柄の部分が俺のオリジナル魔術礼装なんだ。流用っていうか、オマージュっていうか、とにかく切り札で―――」

 

「悪いが、お遊び気分はここまでだ。奴に気付かれた」

 

「―――!」

 

 キャスニキの声で我に帰るまでもなく、気付く。

 

 全てを捩じ伏せんと言わんばかりに撒き散らされている魔力。見えなくとも感じる圧力を目で追い、発見した。

 

 ―――黒。

 

 そう形容するしかない者がそこにはいた。

 

 アルトリア・ペンドラゴン。

 常勝と謳われた偉大なる騎士王が、聖杯を守る番人の様に佇んでいた。

 聖杯を獲得したが故に魔力を気にする必要が無くなったのだろう、冗談のような禍々しさを伴った魔力が颶風となって吹き荒れる。

 

「なんという魔力放出······、あれが本当に伝説の騎士、アーサー王なのですか·····!?」

 

『どこか変質しているみたいだけど間違いない、彼女はアーサー王だ!』

 

 気圧されるマシュにキャスニキの注意が飛ぶ。

 

「見た目は小柄だが、ありゃ魔力放出で化ける。油断すると上半身ごと持ってかれんぞ」

 

「か、勝てるんですか? これ」

 

「ひえぇ······」

 

 漆黒に染まったかつてのメインヒロインを見て、藤丸立香が呟く。ちなみに最後の悲鳴は俺だ。

 

 やべえよ、マジでやベーよ、これ。

 本当に同じ人間かよ、怒ってないのに怖い人とか生まれて初めて見たんですけど。

 

 圧倒的ラスボス感を放つ彼女を見て戦慄していると、切り立った崖の上から黙ってこちらを眺める騎士王が口を開いた。

 

「来たか、名も知らぬマスター達よ」

 

 思わず膝を屈しそうになる、重圧を含んだ言葉が響き渡る。

 

「ああ!? テメー、口が利けたのかよ!」

 

「ああ話せたとも、だが何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが―――」

 

 騎士王が笑う。

 

 青セイバーが見せるような慈しむタイプの笑みではなく、もっと底意地の悪いSッ気全開の微笑みだった。

 

 こわい、怖すぎるぞアルトリア。それはヒロインのやっていい顔じゃない。

 

「―――面白い。その盾は、その宝具は面白い」

 

 騎士王の持つ聖剣が、魔力を喰らい黒く輝く。

 垂れ流されていた魔力が束ねられ、黒の刃に集束していく。

 

 ―――来る。

 

 騎士王に常勝を約束した、アーサー王伝説で最も高名な対城宝具が来る。

 

「構えるがいい、小娘。その守りが真実かどうか、この私が確かめてやろう」

 

 膨大な魔力の鳴動に大気が震える。

 

 本能が危険を訴え、逃げろ逃げろと叫び続ける。

 

「あばばば·····!?」

 

「マシュ、準備は良い?」

 

「大丈夫です、マスター。―――戦闘を開始します!」

 

「ここが正念場だ。気張れよ、お前ら!!」

 

 戦力は不十分、相手は常勝の王。

 

 特異点F、あまりに絶望的な最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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