人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話   作:赤雑魚

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彼はやっぱり最低だった

―――『闇』と、俺はそれを呼んでいる。

 

 あの日、父に殺され得た二つの能力の、もう片割れ。

 

 自身を起点として闇を生み出し、操る能力こそが俺が転生して得た最後の力だ。

 

 例えるなら魔力放出(闇)だろうか。

 

 ただこの能力、アルトリアやモードレッドのような英霊の持つとんでもスキルと違い、ロケットブーストみたいな使い方はできない。

 

 本当に闇を生み出すことしかできないのだ。

 

 闇の効果を具体的に言うと、消費魔力に比例した存在の隠蔽だ。

 

 存在を覆い隠すだけの性能の為、直接な攻撃手段にはなり得ないのが欠点だろうか。

 

 まあ性能の低さ故か魔力の消費量はとても少なく、纏えば気配遮断に近い状態になることができるので魔術師向きの能力と言えなくもないか。

 

 今回のように相手に使えば一時的に視界を奪うことも可能なので、戦闘ではなかなかに有用だったりする。

 

 

 

 

 ―――事実、エミヤは為す術なく視界を奪われ、敗北したのだから。

 

 

 

 

「······認めよう、私の負けだ」

 

 闇もそう長く維持できるモノでもない。

 アーチャーを呑み込んでいた闇が薄れ、()()()姿が現れる。

 

 背後からエミヤの胸を刺し貫いたセイバーの姿が現れる。

 

 遠目から見ても確実に、セイバーの刃はアーチャーの霊核を破壊していた。

 

「好きなだけ罵ってください。この人斬り、恨み言は全て受けましょう」

 

「いや、気にしていないさ。彼の名高い天才剣士の剣ならば背の傷でも恥にはならないだろうさ」

 

 ずるりと、セイバーが剣をアーチャーから引き抜く。

 剣という支えを、唐突に失ったアーチャーは崩れ去る―――のを踏みとどまった。

 

 踏みとどまり、俺を睨む。

 すでに死に体のはずの男に気圧され、一歩下がってしまう。

 

「鴻上ヒズミ、貴様は―――本当に世界を救うつもりか?」 

「·······そうだよ。人理の崩壊を阻止し、人類の未来を取り戻す。これが俺達の―――カルデアの目的だ。正義の味方みたいでカッコいいだろ?」 

 

「……フッ。そうかも、しれんな」

 

 皮肉を言ったつもりだったのだが、俺の言葉にアーチャーの険しい表情が僅かに和らいだ。

 もともと気合いで堪えていたのだろう。アーチャーの姿は、そう時間が掛かることもなく、世界に融けるように消えてしまった。

 

「……結構、あっさり消えるもんなんだな」 

 

 後ろから不意打ったもんだから、罵倒くらいはされると思ったのだが。

 なんとなく、物悲しい感覚を覚える。

 

 出来ることならアーチャーを味方に引き入れ、騎士王の相手をさせたかった。

 

 まあアーチャーも泥か何かで汚染されていただろうし、土壇場で裏切る可能性もあったので難しい話ではあったんだろう。

 

 結局、殺すしかなかった相手だ。

 そう考えれば損はしていない、むしろ最善の判断を下したと言える。

 

 だが、なんとなくスッキリしない。

 心に引っ掛かるような気持ち悪い感覚が残るが、どうしようもない。

 

 戦いに勝ったはずなのにどうしてこんな気分なのだろうか。解せぬ。

 

「片付きましたね、お怪我はありませんか、マスター」

 

 沖田さんが洞窟の隅に転がしておいたゴルフバッグを拾ってくれる。

 てか俺を労ってくれるとか、天使かよ。そんなことしてくれたのは初対面の人だけなんですけど。

 

「ああ、ありがとう」

 

 とりあえず意識を切り換えよう。

 はぁ、と溜め息を吐いて、ゴルフバッグを受け取り、刀をしまう。

 

 エミヤとの戦闘で持っていたのは菊一文字ではなく、ネットで適当に購入した剣だった。

 

 多少の改造はしてあったが、別に有名な刀匠の物ではない。

 

 エミヤに菊一文字を解析されサーヴァントの触媒だとバレ、セイバーの存在が露呈するのを避けるために用意した武器だったのだが、効果があったのかはわからなかった。

 

 ひょっとしたら完全に無駄金だったかもしれない。 

 

「まあ、倒せたんだから良いか」

 

 あとは騎士王を倒すだけだ。

 まだヘラクレスが存在するが、そちらは放っておけばいいだろう。確か変に刺激しなければ安全だったはずだ。

 

 十二回コンテニューはさすがに無謀すぎる。 

 少なくとも長期戦が難しい沖田さんでは不可能だ。

 

 今はどうやって騎士王を倒しきるかを考えるべきだろう。

 

「あの……ヒズミ先輩?」

 

 ·········やっべ、そういやマシュとかいたんだったわ。

 おもっくそ目の前で手榴弾使っちゃったんだが。大丈夫かな、これ。

 

「あ、ああー! マシュさんじゃあないか、そんな薄着でどうしたんだ。コスプレ?」

 

「ち、違います。これは止むに止まれぬ事情があったんです!」

 

 マシュが顔を真っ赤に染めながら、全力で弁明するのをうんうんと頷く。

 

 マシュ・キリエライト

 遺伝子操作によってデザインされた少女だ。本来は研究室みたいな所で隔離されていたのだが、ロマンの説得でカルデアのスタッフ入りすることができた。

 一応、俺も裏から所長に「マシュをスタッフ入りさせないとお互いに不幸な結果になる。具体的にはうっかり貴方の私物に(ry」と頼み込んで免職をくらいそうになった。

 なんだかんだあってスタッフ入りしたマシュが主席になり、俺がクビになりそうになったのも今では良い思い出でだ。

 

 ちなみに現在では完全に疎遠だった。

 

 会話したのも実に3ヶ月振りだったりする。

 

「あの······」

 

「ん?」

 

 久しくマシュと会話できた感動に打ち震えていると隣にいる女の子に声を掛けられる。て言うかぐだ子だった。

 

「あ、先輩は知りませんよね。この方はカルデアの戦闘員、鴻上ヒズミさんです」

 

「ヨロシク、お嬢さん」

 

 唇の端をクイッと上げてニカッと笑いかける。伊達に毎食後に歯を磨いちゃいない。俺の歯は街を焼く炎の光でキラキラと輝いているはずだ。

 

 こういうのは最初が肝心なんだよ。こういうのは。

 

 ―――藤丸立香。

 

 特筆すべきことはないので説明は省くが、事前に所長室に忍び込んでプロフィールを調べているので個人情報はバッチリ把握している。

 まあ糞の役にも立たないだろうが。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 計画通り―――!!

 

 くくく、流石は善良な少女だ。頬を赤らめて完全に俺のキラースマイルに落とされてやがる。沖田さんとの仲も悪くない。これは、温め続けていた計画『ハーレム計画』を始動しても良いのでは―――!?

 

「そしてカルデアで最も忌避されている方でもあります」

 

「え?」

 

 え、なに言ってんスか、マシュさん。言って良いことと悪いことがありますよ。弁えようよTPO。

 

「ちょ―――」

 

「具体的に言うと、大勢の前でその·······う、うんちを漏らしてしまうのです。······月一くらいの頻度で」

 

 はい終わった。

 

 もう完全に空気凍っちゃってますよ。

 後ろで黙ってたキャスニキすら引き気味なんですが。

 

 ········俺が何をしたって言うんだ。

 

「ま、マスター?」

 

 後ろから沖田さんの声が聞こえた。心なし声が震えている気がする。

 

 振り返ると親を失った子犬みたいな雰囲気を出しながらこっちを見ている。やべえよ、ぐだ子どころかサーヴァントとの関係すら破綻しそうな勢いなんですけど。

 

「う、嘘ですよね?」

 

「スマン、マジだわ」

 

「こふっ!?」

 

 沖田さんの吐いた血が綺麗な弧を描いて俺の顔面に直撃する。

 滴る血液をハンカチで拭き取り、状況を打破するための言い訳を考える。

 

 導き出せ、この場を収められるだけの回答(言い訳)を。 

 

「······沖田、俺は生まれつき括約筋の弱い男だったんだ。望まずして尻が緩く生まれた、そんな憐れな男をお前は笑うか?」

 

「······え?」

 

 俺の問に、一瞬だけ沖田が返答に詰まる。

 当然だ、あえて返答に困る質問を俺は投げ掛けたのだから。

 

 そこに生まれた空白の時間、刹那のタイミングに畳み掛ける。

 

「確かに公衆の面前での脱糞は恥ずべきことだろう。だがお前は、俺の脱糞を見たことがあるか? 言葉に踊らされ偏った考えを持つことこそ最も恥じるべきことじゃないのか?」

 

 もう自分でもなに言ってるのか分からなくなってきたが、これで押しきる。

 

「そ、それは―――」

 

「なにより、俺達はこれから強大な敵に挑まなくちゃならない。人類の明日と、栄光の朝、俺達に続く歴史のために戦わないといけないんだ。愛のために、友のために、家族のために、戦うんだ。

 そもそもの話、アインシュタインの相対性理論や、フェルマーの大定理、数々の偉人の発見や宇宙という天文的数字の前にして見れば俺一個人の成すことなんて小さいとは思わないか?」

 

「·········はい!」

 

 よし、考える事を止めたな。

 俺の強引な話のすり替え術に掛かれば人斬り程度、煙に撒くのは容易かったようだ。

 

 計画通り―――!

 

「うわぁ·······」

 

 後ろで藤丸立香がドン引きしているが、知ったことか。

 勝手に引いてろよ、くそったれ! ······くそったれは俺だったよ!

 

「·······なあ、そろそろ行かねーか?」

 

 いい加減、茶番に飽きたのかキャスニキが口を開く。

 

「そうですね、行きましょうか」

 

「うん、頑張ろうね、マシュ」

 

「··········」

 

 なんなんだろう、このやれやれみたいな雰囲気。

 俺、一応助っ人なんですけど。なんで「ホントしょーがねーな、コイツ」みたいな空気なんですかね。

 

 もう帰って寝ようかなー。

 

「······さ、マスターも頑張りましょうね」

 

「とりあえず、その優しい目を止めろ」

 

 いい加減泣くぞ。

 

 て言うかマジで帰って寝たい。

 

 そんな感じで、カルデア一行は騎士王オルタ討伐に向かうのだった。

 

 

 

 

 


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