人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話   作:赤雑魚

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彼は意外に優秀だった

 ゆっくりと目を開く。

 

 目にはいるのは冬木の街並み。

 

 そこには濃密な死の気配があった。

 

 比喩ではない。俺は物の死を感じとることができる。

 

 俺は父親に殺され、命を落としたあの日から、俺は奇妙な能力を二つ得た。

 

 その一つが死の気配を感じとる能力だ。

 

 別にチートと言う程ではない。死の淵に立つことで根源と繋がった両儀式とは違い、万物の死線を見抜くことはできない。

 

 というか、ぶっちゃけ何もできない。

 

 ただぼんやりと、漠然と、万物の終焉を感じるのだ。

 

 しかも強い死の気配を感じると大抵の場合手遅れ。

 

 幼い頃に飼っていた老犬は看病空しく病で死んだし。通学路で見かけた死の気配を漂わせていた建物は、ある日突然倒壊した。

 

 俺が死ぬことを極度に恐れる理由の一端は間違いなくこのせいだろう。

 

 洒落た言い方をするなら、『死を感じとる程度の能力』。

 

 ある意味、根源への到達に近い奇跡を体験しておきながら、得たのはあまり使い道の無い能力だった。

 

 転生特典と言うにはショボすぎる。もう片方の能力も凄く役に立つというわけではなく、あればマシくらいのものだった。

 

 自分の運の無さに嘆息しながら、前に視線を移す。

 目の前にあるの衛宮邸だ。古めかしい塀にかこまれた和風建築の家。ロマンにレイシフトする場所を指定しておいたが、上手くいったらしい。

 

「······着いたか」

 

 当たりを見回す。

 どうやら骸骨兵はいないようだ。見つけても倒せる自信はあるが、極力戦闘は避けたい。

 

 ここら一帯は聖杯の泥の破壊からは逃れているようで、多少破壊の後が見えるものの無事な建物が並んでいる。遠くを眺めると破壊された街が見え、街を燃やす炎が薄暗い空を赤く染めている。

 

「よし」 

 

 塀を乗り越え、衛宮邸に侵入する。

 入ったところはちょうど庭だったようで、土蔵が見えた。

 すぐさま向かう。

 

 ここからは単独行動だ。

 人手が足りないため、ロマンはぐだ子達のサポートに向かうと言っていたが、俺にとっては好都合だ。余計な説明をしないで済む。

 

「······流石に開いてないか」

 

 扉には南京錠で施錠されている。

 出てくる英霊達から推測するに第五次聖杯戦争だろうが、どうやらここの士郎は防犯意識も高かったようだ。

 

 まあそれでも構わない。

 

 魔術で防護されていたのなら話は別だが、衛宮士郎なら普通に鍵を掛けていた程度だろう。

 

 南京錠を手に取り、精神統一を図る。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 自己を変革する力ある言葉を紡ぎ出す。

 

 言葉自体に意味はない、重要なのはその言葉が魔術回路を動かすに足るかどうかだ。

 

 魔力回路に火が入り、魔力が景気よく精製される。

 行使する魔術は極めて単純な『強化』の魔術だ。個人によって得て不得手がある基礎魔術だが、うちの家系は強化の魔術を主としていたようで、結構応用幅も広い。

 

 たとえば南京錠の構造を把握せず無理矢理に魔力を流せば―――

 

「ふん」

 

 バキンと魔力の流れに耐えきれず南京錠が砕け散った。

 

 これが強化魔術の応用技『敢えてミスる』だ。今回のように鍵や扉がある場合、強引に破壊できる。大きさに比例して消費魔力が増えるが南京錠程度の破壊は容易い。

 

 泥棒などの際には大活躍する。

 

 実際、触媒を用意する時には金銭的な面で問題があったので、鍵をいくつも破壊して盗ませてもらった。

 

 やってることが最低だと思うが、まあ魔術師の中では可愛いもんだと諦めてもらおう。

 

 鼻歌混じりに倉庫の中に踏み込む。

 

「あったあった」

 

 これだ、アイリスフィールが描き上げ、士郎がセイバーの召喚に使用したであろう魔法陣。

 

 とりあえず端末で写真を取っておく。

 

 次にやることはこの魔法陣を使ったサーヴァントの召喚である。

 

 人理焼却されてないと召喚成功率が1割、しかもランダムのカルデアの召喚サークルと違い、この魔法陣は触媒を用意することで狙ったサーヴァントを召喚出来るのが最大の特徴だ。

 

 無論、既に全てのサーヴァントが召喚され終えているので普通は使えないのだが―――そのための魔術師の俺がいる。

 

 背負っていたゴルフバッグを肩から、収納していた日本刀を取り出す。

 

 刀の刃で自分の指を切り、血を垂らす。魔法陣の術式にカルデアの術式を加え都合良く書き換えていく。

 

 『触媒を用いることの出来る召喚サークル』を作り上げる。

 

 もう星5が出ないと嘆かなくていい、午前2時や極大成功などのジンクスにすがらなくてもいい。そんな魔法陣が完成した。

 

「······よし!」

 

 ぶっちゃけ俺のような人間は、一体目で強いサーヴァントを召喚できなければ死んでしまう。確率にすがった結果、『弱いサーヴァント』もしくは『性格に難のあるサーヴァント』を引いてしまえば間違いなく詰むからだ。

 

 作家系のサーヴァントなんぞを引こうものなら泣くに泣けない。

 

「いくぞオラァ!」

 

 日本刀を引き抜き魔法陣の真ん中に突き立てる。

 

 

 

 『菊一文字則宗』

 

 

 

 それが俺の用意した触媒だ。

 俺が『強い』と考え、さらに性格も『良い』と判断したサーヴァントを召喚できる武具。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 詠唱は必要ない。そういう風に術式を弄ってある。

 

 

 俺はただ英霊を現世に呼び込み現界できるだけの魔力を注ぎ続ければ良い。

 

「ぐっ······ぬうゥゥゥウウ!!」

 

 一秒に一%の魔力を消費してると錯覚するほどの魔力を流し込む。

 

 魔術の世界は等価交換。

 自分に都合のいい魔法陣を作ったのだ。霊脈のバックアップも無い以上、自分の魔力だけで召喚を成功させるしかない。

 

 

 

 魔法陣から六つの光球が浮かび上がり、虹の輝きを放ちながら回転する。

 魔力の円環は浮かび上がり、この瞬間、究極の一を顕現せんと白の極光を放つ―――!!

 

 

 赤みがかかった白髪をゆらし、桜色の剣士が姿を現す。

 どこかあどけなさを残しながらも、強い意思を宿した瞳をもつ彼女は俺を見つめ、口を開いた。

 

 その声は凛とした響きを持っていて、心の奥底を揺さぶるような力を持っていた。

 

 きっと俺はこの出会いを生涯忘れることは無いだろう。

 それほどまでに、彼女との出会いは劇的だった。

  

 

「新撰組一番隊隊長 沖田総司推参。 ······あなたが私のマスターですか?」

 

 こうして死なないことを至上とする転生者と、今度こそ戦い抜くことを望みとする剣士の出会いは果たされた。

 

 うんこ垂れと人切りの人理修復の旅が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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