人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話 作:赤雑魚
竜の魔女と俺が睨み合う中、耳に響く電子音のカルデアの端末から響き渡り、非常事態を告げる音に何事かと立香やマシュが目覚めだした。
タイミングの悪さに思わず舌打ちをする。
俺の壮絶極まる弁舌スキルで泣くまで苛めようと思っていたのに運のいい奴だ。
心底残念に思いながら竜の魔女から視線を移し、端末を弄るとやはりと言うべきかロマンが画面に映し出された。
「大変だ! 大量の敵性反応が君達のいる場所に向かって接近している、各自対処に当たってくれ!」
まあ安定の敵襲である。
現在の状況から考えて間違いなく青髭の旦那だろう。
念話辺りで情報をあらかじめ知っていたとするならば、竜の魔女の冗談みたいな態度にも納得がいく。
とりあえず我らが主人公の藤丸立香ちゃんに指示を仰ぐことにする。
「話は聞いたな? どうする立香?」
「え、私ですか?」
唐突に自分に話を振られたのが意外だったのか立香が戸惑う。
「そうだ、俺は戦闘要員だからな。どちらかと言えば護衛に近い。助言はするが、大体の指針はお前が決めてくれ」
カルデアに来たばかりの右も左もわからない新人を突き放すようで悪いが、今後のストーリー展開を考えるのならば藤丸立香という少女も実践経験を積み上げて貰わなければならない。
俺が欲しいのは一般人のマスターではなく世界を救えるマスターなのだ。
そのためには自分で危機的状況を切り抜けられる判断力や鋼のメンタルを培ってもらう必要がある。
具体的には、現在の比較的難易度が低い特異点で実践経験を積み上げつつマシュと親睦を深めてもらいたい。じゃないと六章辺りで詰む気がする。
まだ受け止めきれていないのだろう、いきなり重要な役割を与えられ戸惑いの表情を浮かべる少女に
「まあ俺に活動方針を決めさせてもいいが――――街の住民は助けないぞ? 怖いし」
俺が視線を向けた先には巨大な海魔が近くの街の中に佇んでいた。
間違いなくジルドレが召喚したのであろう巨大海魔を見て立香の表情が強張る。どうやら俺の言っている事を理解したらしい。
リーダーを担っていいのなら、俺は街の住民を見捨てるだろう。別に目の前で死ぬわけでもないし、俺にとくに関わりがないのなら別に躊躇わない。
放っておいても野良サーヴァントは動き出すだろうし。
後々気分は悪くなるだろうが、それはそれ。
まあ俺の考えなどどうでもいい。
藤丸立香はそんな風に割り切れる性格はしてないはずなので、間違いなくリーダーになるだろう。
そんな事を考えていると立香が覚悟を決めたように大きく頷いた。
「私は、街の皆を助けたいです」
「そうか、ならどうする?」
「街に向かいます!」
立香が叫ぶ。
彼女の目には確かに強い自分の意志が宿っていた。
作戦とかは頭にないけど、目的は定まってる感じだ。
まあこんなもんじゃないだろうか。これなら今後は自主的に行動を考えてくれそうだ。
ゆっくりと、俺の主人公育成計画が動き出す音が聞こえたような気がした。
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「よし、じゃあ作戦通り頑張れよ。立香」
「はい!」
立香達が街に向かって駆けていく。
しばらくすれば街の海魔達は全滅するだろう。
俺達は二手に別れて行動することにした。
マスター適正を持つ人間が二人いる以上、その別々に行動できるという利点を使わない手はない。
街に救出に向かうのは立香、マシュ、アルトリア、ジャンヌ、ゲオルギウス、マリー、アマデウス。
色々理由はあるが、街で暴れる小型の海魔も倒すにはこのくらいの人数が必要だろうという判断だ。
で、俺のメンバーは沖田にジークフリート、あとは捕虜の竜の魔女だ。
おそらくというか、間違いなくあの巨大海魔はアルトリアのような対軍攻撃を可能とするサーヴァントを引き離すための囮だろう。
魔力さえあれば海魔をほぼ無制限に召喚できるジルドレにとって脅威になるのは間違いなく敵を殲滅出来るだけ威力を持つ宝具なのだから。アルトリアの情報について捕まっている竜の魔女から念話で仕入れたと考えれば説明がつく。
まあジルドレの本命は竜の魔女の筈、小型の海魔は俺のメンバーに向かってくるので、立香達は比較的に邪魔されずに街までたどり着けるというのが俺の読みだ。
で、此方に向かってくる海魔の群れだが―――
「じゃあジークフリートは近付いてくる海魔の所に向かって一掃してきてくれ」
「ああ、全力を尽くそう」
ジークフリートが霊体化して消えるのを見送る。
これで海魔の群れの対処はどうにかなるだろう。
今回、俺達がやるべきことは二つ。
襲ってくる海魔達から身を守ることだ。ジルドレが何処にいるかわからない以上、攻めに回ることはできない。
ひょっとしたらZero時空のように巨大海魔と合体しているのかもしれないが、それも確証がある話ではないし期待しない方がいいだろう。
とりあえず海魔についてはジークフリートの宝具で一掃できるので問題はない。
対軍宝具持ちは強い、はっきりわかんだね。ゲームではかなり不遇だったけども。
重要なのは二つ目だ。
「さて、お前には個人的な恨みも多少はあるが······。苦しまないよう一瞬で済ませてやる」
「あの小娘達が見てない所で始末なんてお優しいのね。気持ち悪くてヘドが出るわ」
「言ってろクソガキ」
吐き捨てるように話す竜の魔女に蹴りを入れて強引に膝をつかせ、後ろで静かに剣を抜き放つ。
二つ目の目的は竜の魔女を始末することだ。
今回の襲撃でこいつが重要な存在であることはサーヴァント達は理解したはずだ。おそらく竜の魔女が居なければ
巨大海魔が街に現れることも無かっただろうと。
始末することを主張していた俺が竜の魔女と同行すると言ったのにサーヴァント達が反対しなかったと言うことは―――好きにしていいということだろう。
というか今やらないと殺すタイミングを逃しそうなので、独断だったとしても殺る。
カルデア職員達は監視しているだろうがもう別にいい。評価は最低だし。いまさら嘘つきの称号が増えたところで問題はない。
「最後に言い残すことはあるか? 遺言くらいは聞いてやる」
このままだと首を跳ねられて、それで終わり。
だというのに俺の言葉に竜の魔女が笑いだす。滑稽でしかたがないというように
「言い残すこと? そうねぇ―――」
ゆっくりと竜の魔女が振り返る。
その目は憎悪と怒りと、なにより嘲りに満ちていた。
「あんたは救いようのない馬鹿よ」
「そうか」
竜の魔女の挑発に特に思うことはなかった。
さっさと剣を振り上げ、剣を降り下ろす。
破損していた陰鉄の刃はすでにスペアと取り替えてある。菊一文字とは比べるのも
数瞬先に迫る死を前にしてもなお、竜の魔女の嘲りの表情は崩れない。
彼女は怒りも恐れもせず、ただ短く呟いた。
「――――来なさい、アーチャー」
俺と竜の魔女の、その中間。
紅い輝きと共に、バーサーク・アーチャーが唐突に姿を現した。