人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話 作:赤雑魚
死
―――ロクでもない人生だった。
「そんな目で見てんじゃねえよ········!」
親父を名乗る男が喚きながら首を締め付ける。
幾度となく行われた虐待とはかけ離れた、明確な殺意によって命の灯火が揺らぎ始めた時を前にしても、少年の思考は冷静だった。
―――本当に下らない。
なんとなく、こうなることは予想していた。
別に明確な根拠があった訳ではないが、酒とクスリに溺れた男が、いつか馬鹿な行動を取るような気がしていた。母親に助けを求めようかと思ったが、男の暴力に怯え、部屋の隅に蹲った彼女がこの状況をどうにかするのは無理だろう。
ただただ冷静に自分の人生が詰んだことを悟った。
「······かひゅッ」
ミシミシと首の骨が軋む音をたて、圧迫された喉から細い声が漏れる。
目を見開き、空気を求めて舌を突き出し、死にもの狂いで暴れるが、クスリの入った男をどうにかできる程の力はない。
「·········ぁ」
メキリと、不意に首から嫌な音が鳴り、脳に反響する。ガクンと、首から下の感覚が消えた、さっきまで動いていた自分の身体が物のように動かなくなる。
自分の生命を維持するための重要な何かが破壊されたことを理解した。
―――寒い。
声が出せない。動かなくなった身体から熱が失われていく。
端から滲むように、闇が視界を覆っていく。
喚き続ける男の声も、隅で震える母の懺悔も、全てが聞こえなくなっていく。
そこでようやく、自分の身体が感覚を失うほどに弱っている事に気が付いた。
やがて視界が黒く染まりきり、何も聞こえなくなるほど弱った状態で、かろうじて残った思考力がこの状態を、この現象を理解した。
―――嗚呼、これが「死」か。
俺の、
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
えー、なんというか、屑みたいな親父にぶっ殺された後の話。
どうやら俺はFateの世界へ転生したらしい。
そこそこの魔術回路をもった一般家庭の魔術師の子供として生まれたのだ。庶民の出であるが故に根源なんぞより家のローンを気にする程度には人畜無害な家族だったようだ。
前世では高校生で人生の幕を降ろした俺は、小中高と勉強面で無双を繰り返した。
親の希望もあってロンドンの時計塔で魔術について勉強し、自分に転生特典があることに気付いたり、魔術の知識をそこそこ得たり、科学にも理解のある柔軟な発想を買われ、カルデアへと就職した時に俺の人生難度がヘルモードへと移行した事を悟った。
とりあえず断ろうとも思ったが、どこから聞き付けたのかカルデアへの就職を喜ぶ両親の声を聞いたら断れなくなった。
見事カルデアへと就職を果たした俺は案の定と言うべきか、レイシフト可能な戦闘要員になった。
ニコニコ笑うレフと対面したときはちょっと漏れそうになった。
ホント止めて欲しい。
このままの流れでいったら、間違いなく主人公が来たときにレフさんにテロられて爆殺されそうなんですが。
いや、もちろん俺も座して死を待つつもりは無いのでいろいろ作戦等を考えてある。
いざというときにサーヴァントと戦う為の礼装を作ったり、自分のサーヴァントを召喚するための触媒も用意した。
思い付く限り、手に入りやすくて強いサーヴァントの、だ。
ダヴィンチちゃんとも仲良くなって自分の魔術礼装に魔改造を施したりしたし、身体を鍛えたり、武術を学んだりしたし、もうこれで駄目なら俺はもう無理と言い切れるくらいには頑張ったのだ。
で、本番。
レイシフトである。
藤丸立香と言う名の新人マスターがやって来てオルガマリー所長にビンタをくらい追い出され。所長がヒステリックな状態のままコフィンに入ったところである。
ちなみにぐだ男ではなくぐだ子だった。
他のマスターがコフィンに入って行くのをレフがニコニコしながら眺めている。
チラリと自分が入る予定のコフィンに目をやる。俺はすべてのコフィンの横側に爆破の魔術式が彫られているのを既に確認している。
残念ながら解除は出来ていない。レフは超一流の魔術師なので、三流の俺が術式をどうにかするとモロバレしてしまうのだ。
術式の存在をバラしても、犯人がレフだということを所長は信じないだろうし、レフに目をつけられて始末されたくないので、放置しておいた。
所長やその他大勢の方々には悪いがここで大人しく爆破されてもらう。ゴメンね、俺も死にたくないのだ。
俺だけが作戦を実行し、生き残らせてもらう。
大きく一度深呼吸する。
·········大丈夫だ。きっと上手くいく。
この
恐れる必要はない。
俺は大きく天へと手を持ち上げ、そしてカルデア全体に響かんばかりの大声で叫んだ。
「すいませェェェエエん!! ウンコ漏れそうなのでトイレ行ってきます!!」
「ちょ」
所長が何かを言い切る前に俺は全速力で部屋から離脱した。