イナバ-前編- ①
U.C.0096――スノーアース 元アメリカ大陸の何処か――
本日は晴天也。気温は氷点下六十度。
連日、静かな降雪が続く。そんな中、二人の鉄塊巨人と小舟が闊歩する。
一機はMS-06Je ZAKU II COLD CLIMATE TYPE―陸戦型ザクⅡ寒冷地仕様―。MS-06Je ザクⅡを寒冷地に適応改修した機体である。基本的なモデル構造及びコクピット構造は旧式と変わっておらず、カラーリングのみが元のザクよりかけ離れた雪原用迷彩となっている。
本機に搭載された兵装は、従来のヒート・ホークに、120mmザク・マシンガン。右肩に増設された二門の大型ミサイルランチャー・ユニットとなっている。
もう一機はMS-18E KÄMPFER II―ケンプファーⅡ―。過去開発されたケンプファーを元に胸部、腕部、脚部に装甲を増設。コクピットを新型同様の全天周囲モニターを採用している。しかし強化に伴い本機の強みであった「機体軽量による高速襲撃」が成立しなくなった為、スラスター、バーニアも増設する事となった。
新型と名乗っているただの増設機体と捉えられるが、以前よりも強力となったGによる姿勢制御が難しくなっており、熟練のパイロットでない限り乗りこなすのは難しい。
本機には以前はあったビーム・サーベルは取り外されており、近接兵装はヒート・ホークのみとなっている。此の機体には他にもMMP-80 後期型。そして先端を尖らせ、徐々に太みを増した滑らかな大型シールド・ブースターを左腕に装着している。
二機は周囲を見渡しながらも、自分たちに障害が無いのを良いことに、頭をグルグルと回転させたり、上体を左右交互に回旋させている。まるで子供のお遊戯かのように、MSはその秘めたる恐怖を感じさせない。
「おいー、遊びでやってんじゃないんだぞ」パイロットを叱責する声は、後方から二機を追う緑のコムサイからだった。ホバー機能を搭載した船はコバンザメのように着かず離れずを保っている。
いちいち五月蠅ぇな。今日で何日目だと思ってんだ。二機のパイロットはそんな事を各々思ってはいたが、怒鳴る相手は上官。いくら長年付き合ってきた仲とはいえ、そう易々と罵詈雑言を吐ける相手ではなかった。
彼らは今危機的状況に陥っていた。それは食料が無い――。
寝床はある。着替えもある。風呂に、数多くの娯楽もある。だが食料だけが足りなかった。
自分たちを含めて約八十名。母艦ではひもじい思いで待つ仲間たちが居る。何か無いかと作戦外の行動を開始して、八日目。
コムサイの搭乗員もだろうが、特に二機のパイロットが息苦しい毎日だった。
それというのも外気マイナス六十度という世界に身を晒す訳にもいかず、ずっとMSの中で生活をしているからだ。
過去に宇宙空間での長期間に渡る索敵作戦などを行っていたとしても、やはり辛いものがあった。
食事は二日に一度の腹持ちの良い高カロリー乾物のみ。個人的持ち込みとしての雑誌や携帯プレイヤーで見る映画も、幾度となく楽しみ飽きた。まともな睡眠もとれず、自慰も出来ない。いい加減さっさと食料を見つけて帰りたい気分であった。
だが世界はスノーアース。この地で生きていられる陸上生物など存在する筈がなく、闇雲に何かを探し続けているだけだった。
「あーあーあーあー……」ケンプファーのパイロットが唸り声をあげる。
新型改修が行われたとは言え、それでも安価で組み上げられた機体。コクピットのシートモデルは旧型の頃と何ら変わりない。腰と尻が悲鳴をあげていた。
(元はと言えば上層部が物資補給の件を断ったのが原因。生かしたいのか、殺したいのか……)
果てさてどうしたものかと悩む彼の名は、《ウィルセン・オルコット》。階級は曹長。愛称はウィリー。切る暇がなく伸びきった金髪は、後ろ髪で三つ編みに結われている。顔立ちは悪くはないが、如何せん生傷が多い。特に左目に充てているアイパッチが、歳以上の恐怖を彩っていた。
彼は他の部隊員と変わっている部分が多い。気性が荒く、感覚が鋭いのか鈍いのか分からない時がある。今も寒くないと言い張ってパイロットスーツでもない普通の衣服を着て、その上から防弾チョッキとヘッドギア一つという軽装だ。
彼はこのネオ・ジオン地球方面軍第三特務部隊〈イナバ〉の一員であり、この部隊随一の成績を持つエースでもある。
今日で八日目。まだ八日目。もう八日目。
軍人であり、パイロットだからと無理して食料探しなんてしているが、そろそろ限界も近い。腹が減っているとはいえ、暖かい母艦でぬくぬくと待っているだけの船員が羨ましさを超え、呪いたくもなる。
娯楽も尽きた今、外の景色を見たところで真っ白、白、白――。一面真っ白。ツマラナイにも程がある。
「本当にふざけてるって話だよなぁ、ルイ」赤い小さな無線ボタンを押して、ザクⅡのパイロットに通信を送る。
「ああ、ふざけてる。滑稽、不合理、笑いの種にもなりゃしねぇ……キキッ」ウィリーと同じぐらい若い男の声が返ってきた。
《ルイ・マックリー・ウェトン》。階級は曹長。愛称はルイ。彼はウィリーの数少ない同期。
ルイは如何せん獣じみた笑い方が不快とよく言われるが、それよりも今は彼の通信からカリカリと時折聞こえる咀嚼音にウィリーは不快を感じた。
(この野郎、何か隠し持ってたのか)寄越せと言ったところで、「どぅやって?」と 返ってくるだけだ。余分な怒気を放つのもストレスに繋がるだけ。
仕方がないのでウィリーは口角付近の下唇を嚙み始めた。強く噛めば噛むほど血の味が口内に広がる。美味い。美味い。味気ないレーション続きの日々に、飽きを忘れさせる良い特効薬だ。
肉が食いたい。肉が食いたい。肉が食いたい。毎夜そう念じて、下唇を噛みちぎる。
酒が飲みたい。酒が飲みたい。酒が飲みたい。死ぬほど浴びたい。
心臓に回るガソリンが足りていないと胸の痛みが教えてくる。五臓六腑、三感四肢、二目一魂。この心身全てで暴飲暴食を味わえと脳が命じるのだ。
今日で八日目。今が八日目。既に八日目。
何も進展が無い事に苛立ちを覚える。この怒りをどこにぶつけるかと、そんな思考ばかりが闇雲に脳内を駆け回る。
腹の足しにと噛み続けていた両手の爪は、既に爪甲にまで達している。
しかしそんな事もお構いなしにウィリーは爪を食う。もはや指肉を食っているに等しいが、それを美味いと脳は錯覚する。
時間にしてどれだけ経っただろうか。今日の活動時間はどれだけになっただろうか。無理を続ければMSにもパイロットにも響く。
左手首に鎖で巻いた懐中時計を眺めると時刻は十六時二十八分。既に七時間近くは移動を続けている事になる。
あと二時間で今日の行動は終了。そうすれば念願の交代だ。明日から八日間、自分はコムサイの中。今よりかは幾分楽な日々を過ごせるというものだ。
操縦桿から手を放し、グッと大きな伸びをする。狭苦しいコクピットの中で肉体が腐らないように、時折行うストレッチ。
さあ、あと二時間、何を空想して過ごそうか――と思った時だ。
甲高いアラーム音とピピピと小さな受信音がコクピット内に響いた。それに反応したウィリーがすぐさま眼前にあるモニターの操作を行った。
「ボス!」すぐさま受信音への返事をする。コムサイからの通信で渋く野太い男の声が届いた。「熱源反応だ。座標位置を送る」
ウィリーを取り囲む周囲モニターにおおよその位置を示す赤いサークルが発生した。
表示されたサークルが示すのは、目標までの距離と熱源の数。距離にして一キロ弱、数にして七。目の前の起伏ある雪丘を越えた先に、目標は居るのだろう。目に映る風景とサークル位置を確認しながら、頭の中で自身の位置と敵位置の構図を描く。
――余裕だ。思わずウィリーは笑みを零した。サークルの動きからして、敵はまだこちらに気づいていないと分かったからだ。
素人だ、マヌケめ、自身の勝ちを確信する。それは操縦桿を握る際にも表れた。女淫を弄ぶように優しく撫で、軽く抓む。知りもしないピアノを弾くように、何度もそれを行った。
その余裕綽々な態度はルイも同様であった。ウィリーを呼ぶ声が歓喜に満ちている。
「ボォスボォス、ボスボォス」見事に外したリズムでルイは通信を送った。「久しぶりの食事だ。しっかりと、やれよ」先ほどの男が命令を下した。
その言葉を火種にウィリーとルイは、右操縦桿の横にあるキーパッドを幾度か押す。それはMSへのコールサイン。今より強く稼働する為にエンジンが唸りをあげる。MS全身からの排熱で辺りの雪が溶け始めていた。
長時間機体が冷やされていた為か、酷く重い駆動音がザクⅡの足元から発生しだした。
――かと思うと、もの凄い速さでザクⅡは雪上を滑り出した。
僅かにしゃがんだ体勢でザクⅡは上手なスキーを披露しながら、マシンガンを両手でしっかりと構える。
「先行しろ、ウィリー!」ルイの指示に従う。
ウィリーはグッと両桿を押し込むと、機体はそれに呼応する。
ケンプファーの持つスペックは凄まじい。ザクⅡより少し遅れて出発したにも関わらず、簡単にザクⅡを追い抜いてしまった。
そしてケンプファーはシールドの先端を前身に覆い被せながら、徐々に前傾姿勢を取るべく腰を落としていく。ホバー走行するケンプファーを、ウィリーはペダルを踏んでグングンと加速させる。
(鉄塊にスキーをさせる、一苦労な話だ)加速のGで桿に両腕を残して、肩の肉が千切れそうになる。
これこそが戦場、これこそがMS。ウィリーは衝撃に意識を取られないように下唇を噛み締めながら、迷いなくペダルをさらに踏み込んでいく。
やがてコクピット内に速度を落とせとアラートが響くが、この時こそがコイツの真骨頂である。
ケンプファーの体を地面に寝かせるように倒していく。転ばぬよう、削れぬよう、細心の注意を払い、手慣れた手つきでケンプファーを独特な高速移動状態へと持ち込む。
アラートが響く中、ウィリーは頻りに目標への距離を確認する。
七百、六百、五百。相手はまだ気づいていないようだ、とんだ素人だ。
四百、三百……。身構えもしていないのか、奴らは無意味な進行を続けている。
相手との境である小さな雪の起伏を目にする。ウィリーはすぐさま目の前の操作盤のスイッチを三つ押す。すると自身のヘルメット・ディスプレイが淡い紫色を帯び、SEARCHと右上に白い文字で表示された。
「いいな、ウィリー。一機は残せ。一機だけは残せよ」コムサイからの通信にウィリーは「サー、ボス」とだけ答えた。
(一機だけ残せ。簡単そうで案外無茶な命令だ。まとめて殺してしまえばいいものを。一番最初に自分を捉えたのを残そ)
目標の距離、二百――今だ、此処だ。ウィリーは操縦桿とペダルを同時に操作し、雪上滑走する巨体を横向きにスライドさせた。急激な移行に雪塵を巻き上げながら、ケンプファーはホバードリフトする。ウィリーの体をシートへ押さえつけていたGが今度は左半身から襲い掛かった。
そのまま減速せず、横滑りのままで雪の起伏まで走っていく。そしてそのまま勢いを殺さぬように、一気に雪山の境を飛び越えた。
静かな白色世界だけだった視界に、大量の視覚情報が飛び込んでくる。七機のMSが縦一列に部隊を作っている。
ヘルメット・ディスプレイはセンサーで捉えた熱源反応に対して、白いサークルで目標を取り囲んでいく。サークルが生まれていくのを目で追いながら、ウィリーは機体のドリフトをさらに強くし、弧を描くように敵目標の最後尾へと滑っていく。
「ネモ二機、ジム五機……」目についた機体からそれぞれ脳内箪笥より、情報を引き出していく。
武装は実弾自動小銃と貧相なもの。予備弾倉もない。シールドには半分溶断された物まである。近接武装なんて無いだろう。それにしても遅い。遅すぎる。未だ目標はまともにウィリーをMSのメインカメラで追えていない。
ウィリーはシールド・ブースターへ遠隔操作を行う。シグナルを接続から強制射出へと切り替える。
信号がシールドに到達すると同時に内装ブースターが点火した。
そして勢いを付け始めたのを機体越しに感じると、シールドから手を放した。
まだこちらに気づいてすらいない最後尾のネモに飛び上がったシールドが襲い掛かる。シールドは腹部辺りに突き刺さり、そのまま雪の起伏にネモを押し込んだ。
(まずは一機。簡単なものだ。挨拶代わりにもならない)
(ッ――アイツだな)
一機だけ確実に自分を視認し続けているジムを見つけた。前から四番目、後ろから三番目。
周りがアタフタとしているというのに、既にあのジムはケンプファーへと小銃を構えていた。
ウィリーはすぐさま目標のジムにだけ特別なマークを付けると、視認情報を味方へと送信する。そして索敵モードを解除する。
「よォし、好きなだけやれ!」というボスの言葉を聞くやいなやウィリーは右手で構えたMMP-80を撃ちまくる。後ろから二番目のジム、その頭部から足元へと定まりなく乱れて着弾していく。
「軍人でないのに、玩具を持つから」ウィリーはグッとペダルを踏み込む。着弾してよろけたジムまで、高速移動状態のままで飛び込んだ。
マークを付けていたジム――奴が攻撃を開始する。
「それで狙ってるつもりか? マヌケが」
高速移動状態を解き、通常のホバー走行へと移りながらケンプファーはすぐさま怯んだジムを盾にする。味方へ攻撃していると気づいた奴は、ケンプファーの方へと回り込もうと動いた。
ようやく他の機体も気づいたのか、コクピット内に一斉に危険が鳴り響く。
遅い。遅い。遅すぎる。何度も同じ言葉を頭でわめく。それは滑稽に感じた。
何も見ていない、何も感じていない。どれだけ良い玩具を得ていても、彼らは何もできていないのだ。
勿体ない、勿体ない。
淡く心に浮かび上がる冷酷な魂が、ウィリーに冷たい口調で罵りをあげさせる。
「ハンッ! これで人間ってのかよ! ルイ!」彼の名を呼ぶ。「そこだね!」ケンプファーを追って、雪の起伏から飛び出るザクⅡ。両手でしっかりと構えたザク・マシンガンから弾が吐き出される。
弾は先頭に居たジム二機のバックパックに見事命中する。動力の回らなくなった二機は体を痙攣させ、起動を停止させた。
「トーシロかぁ!? クソの味にもなりゃしねぇ!」ルイもウィリー同様呆れと怒りを露わにした。
挟み撃ちの状態へと持ち込んだウィリーとルイは手筈通りに攻撃を開始する。ルイはザクⅡを飛び上がらせ、上空から敵機を撃ち抜いていく。ダダダと体を震わせる銃音。機械の作る幻覚とはいえ、操縦桿越しに振動が伝わり、手が震えている。
ザク・マシンガン特有のドラムマガジンから弾が無くなるまでに、生存したのは最初に目標を決めたジムだけとなった。
明らかにジムは困惑を隠しきれていないようだ。頭部が左右を行ったり来たり。挙動不審な動きをしている。
ここまでわずか十数秒。一機を落とすのに二秒と要していない。呆気に取られているうちに、味方は死んだ。銃声に意識を向けた時には自分一人が戦場に立っている状況。ジムのパイロットは恐怖が身を支配している事だろう。
しかし覚悟を決めたのか、ジムは持っていたライフルを投げ捨てると、バックパックからビーム・サーベルを引き抜き、両手でしっかりと握った。ピンクに発光する刃はケンプファーを捉えていた。
「おもしれぇ」そんなルイの言葉がウィリーを助長する。ウィリーも同様にマシンガンを投げ捨てると、臀部に取り付けたヒート・ホークを構える。
「来いよ……ジム。殺したいんだろう? そのサーベルでよ」敢えて拡声器で奴を煽った。ジムから殺意を感じ取ったからだ。
ならばそれを利用するのは当然の策。しかしこちらは間違っても殺さぬように出力を控え、わずかに溶断する程度にしか熱を放出させない。それが難しい。
――ジムが動いた。点火した導火線が火薬に到達したかのように、突如として飛び出す。ジムは仲間の無念を怒りに変えたかのように、ズシズシと踏み込んでくる。
サーベルの構えからして右袈裟斬り。当たれば確実にウィリーのコクピットを焼き切る。
だがそれを待っていたのだ。ウィリーにとって近接戦闘、それも敵機から仕掛けてきた場合の反撃を最も得意とする。
「戦いってものを、教えてやるよ……」
ビーム・サーベルが振り下ろされる瞬間、ウィリーはケンプファーを奴の懐に忍び込ませる。スルリと風が手助けしたように、僅かな空間に身を仕込ませたケンプファーは、右肩でジムの体を押し飛ばす。スラスターを全開にした攻撃だ。ウィリーにまで伝わった衝撃。
ジムが柔らかい雪上に尻餅をついた。その一瞬を狙ってウィリーはヒート・ホークを頭部めがけて振り下ろす。薪を割るかのように腰に力を込めて振った一閃は、ジムの頭蓋骨を割り、首元にまで達したところで止まった。
ジムの無念そうに振り上げていた右腕は痙攣を起こしながら、ゆっくりと地に落ちる。
ウィリーは万が一を考えてビーム・サーベルを踏み砕いた後、ヒート・ホークを奴の体から引き抜き、ジムを蹴り倒す。
「あーあー、やっちまって」ザクⅡが着地した時には全てが終わった。落胆した声でルイはコムサイに戦闘終了の報告をする。
その間ウィリーはもう一度索敵モードで倒した全ての機体をチェックする。念には念を入れてだ。生きてでもしたら奇襲を仕掛けられる、そんなのたまったもんじゃない。
だがコクピットに熱反応はあっても、全ての機体が活動を行える状態ではなかった。
ウィリーは安堵と余裕の吐息を漏らすと、頭を左右に振って首の骨を鳴らす。
すると遠くで待機していたコムサイがようやく到着した。
「ルイ、戻ってこい。ウィリー、後始末を頼むぞ」
命令が届く。また自分が後片付けかと舌打ちをすると、ルイから「悪いな」と馬鹿にした声が届く。
――あの野郎。
ザクⅡが手を振りながら去るのを尻目に、ウィリーは右足元に備え付けたクーラーボックスの蓋を開ける。フワッと冷気が漏れ出るクーラーボックスの中から一本の注射器を取り出すと、間髪入れず首筋に突き刺し、中の液体を注入する。
「フゥウ~~~~……」快楽に身が支配される。吐息が漏れた。徐々に体が温まってくる。むしろ暑い。
左操縦桿に手を固定しているベルトを外す。今度は左足をペダルに固定しているベルトを外した。
体の自由が効いたのをよく確認して、ようやくケンプファーのハッチを開いた。外気の寒風がコクピットに雪崩れ込んでくる。火照った体には心地よい。
ヘッドギアを脱いでシートに投げ捨てるとウィリーはウィンチで地上へと降りていく。