♀ポケに愛されて   作:愛され隊

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目標

俺はこれでもこの世界に来てから色々と調べ物をした事がある。それはゲーム時代と世界観や地名の差異がないかを知る為だ。

 

 

結果から言えばそこまで差異はなかった。勿論ゲームでは描写できない様な規模の小さい村々や地名などはあったが重要な都市などに差異は見受けられなかった。

 

 

そのついでと言ってはなんだが、俺は建物の写真なども同時進行で漁った。ゲームでは同じグラフィックのジムやポケモンセンター、住居などがどうなっているか興味が湧いたからだ。それで調べたら出るわ出るわ。ジムは扱うタイプや街のイメージが反映されたデザインになっており、ポケモンセンターや住居はその地の景観に合った壁色や装飾が為されていた。

 

 

それはポケモン研究所も風土に沿っている。だから多少期待みたいなものも抱いていたのだが…………。

 

 

「此処……ですか?」

 

「ああ!」

 

 

海際に立った一軒の小屋。その壁には木で強引に補強した様な跡が見られ、小さい事よりボロい事が一際目を惹く。どうなればこうなるんだと頭を抱え掛けたがちゃんと修繕している辺り研究職の割にしっかりしているという事にして考えを放棄した。

 

 

 

 

 

 

「はい、麦茶だ」

 

「どうも」

 

グラスで渡された麦茶を一気に飲み干し乾いた喉を潤す。ついでに唇にも滑らせ動きを良くしておく。これも全てこれから質問責めに合うだろうという予測からだ。

 

「では改めて、ようこそアローラへ」

 

ククイ博士に差し出された手をしっかりと取って握手を交わす。そして互いに視線を合わせ、ほぼ同じタイミングで手を離す。

 

「君の事はアララギ博士から聞いているよ」

 

「それはどうも。此方もククイ博士の事はアララギ博士から伺ってます。技の研究者だそうで」

 

「ああそうさ!ついでに言うならトレーナースクールの講師もやっている」

 

「!ほう……」

 

博士が何か違う職を兼任しているとは珍しい。研究に没頭する為というのもあるしその道に進む事を志し人生全てを捧げているからだ。勿論、ククイ博士の在り方を否定する気は無い。彼は彼なりの意図を持っているのだからそれに部外者が口を挟むのは野暮という物。

 

「君のポケモン達の技には感動を覚えたよ!完璧な連携とタイミング、そしてそれを生み出す指示の的確さ。流石はリーグ優勝者だと感心させられたぞ!!」

 

「はははっ………あれでもまだまだです」

 

「ほう!それは実際の対戦を見るのが楽しみになって来た!!」

 

ククイ博士との会話は非常に心地良い。ククイ博士の振る舞いもそうだが、トレーナーの中には変にプライドが高かったり意地があったりで俺の育成方針に理解を示さない奴が殆どで博士の様に理解を示す人が珍しいのもある。

 

「俺は基本覚える技や戦闘時の方針はポケモンの自由にさせています」

 

「ほう、それはどうしてだい?」

 

「スポーツ選手が自分の使う道具を選ぶ様に、ポケモン達には自分の好きな技で、自分の思い描く最良のイメージで戦って欲しいからです」

 

人に個性があるようにポケモンも同様に個性を持つ。大らかだったり穏やかだったり勇敢だったり臆病だったり。それによって戦い方や好む技種は異なる。しかしこの世界では以下のトレーナーが跋扈しておりポケモンは自由を奪われている。

 

 

1.トレーナーの碌でもない考えでポケモンの思想を縛り付ける、トレーナーが上でポケモンが下という考えを持つ主従論者。

 

 

1の様なトレーナーは自分が上だから自分が支配して当然だという考えに至る。その結果横暴な振る舞いや無理矢理な指示でポケモンを駒の様に扱い、そして自分の好きに行かなければ捨てる。若しくはポケモンを脅し強引に戦いを指示する。そして言うことを聞かなくなったり新しいポケモンが手に入って要らなくなったら、捨てる。そんなトレーナーは三流以下だ。

 

 

互いに自分の理想を押し付け合わず、自分を押し殺さない。戦いでは最善手が浮かびそれを忠実に再現出来る。その境地に至れば指示すらする必要もない。現にイッシュリーグの四天王やチャンピオンは指示なしで技を出している場面がいくつかあった。しかし暗黙の了解として指示を答え合わせのつもりで出している節がある……というか俺もそうしている。

 

その事をククイ博士に話すと驚きつつも感心している様な対応を示す。

 

「君は、天才かも知れないな」

 

「いえいえ、俺はあくまで切っ掛けを掴んだだけです」

 

この世界はまだまだ明らかになっていないことばかり。探せば必ず新しい事が、その派生された事象が顔を出す。だから俺のは唯のきっかけに過ぎないと考えている。

 

「いいや、少なくともそんな事が出来る人間をボクは知らない。Z技を極めるしまキングやしまクイーンですら、その領域には行っていない筈だ」

 

「しまキングにしまクイーン?」

 

「ああ、このアローラ地方を形成する四島。そこに居る強いトレーナーの事だ。当然このメレメレ島にも居る」

 

ほう、それは興味深い。

 

「そしてコウヤ、君は運が良い。今年、アローラ地方にリーグが設立される。その為に、島巡りをしてはどうだ?」

 

「島巡り?」

 

俺の疑問に、ククイ博士が説明をしてくれた。島巡りとは各島々のしまキングやしまクイーンの出す試練を攻略していき、一人前として認めて貰うという儀式の様な物で、今年からは新生リーグに参加する権利が付属。そして何より、今年優勝した者が無条件でチャンピオンになる事が出来る。

 

「ククイ博士、説明有難うございます」

 

「いや、この位お安い御用さ」

 

俺はククイ博士に礼を言って天井を見上げる。これは、ツキが回ってきた様だ。恐らくチャンピオンに成るべく地方外からもトレーナーが来る。きっと、熱いバトルが繰り広げられる事だろう。ククイ博士の表情を見るに凄く楽しそう、何か面白いものを見つけた様な顔をしている。

 

「俺は、必ず頂点を取ります」

 

「ああ、君ならそう言うと思ったよ」

 

俺の新しい目標がその日決まった。

 

 


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