♀ポケに愛されて   作:愛され隊

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ポケモンの恩返し ③

走る、走る、走る。遠くに見える1つの輝きめがけて走り続ける。その輝きはどんどん大きくなり、やがて視界を覆い、全身を覆い、全てを飲み込む。それが晴れれば世界に鮮やかな色で彩られる。

 

「おおっ………!」

 

そこは雲の上、ラナキラマウンテンの頂上、其処は既に目と鼻の先。久々に拝んだ太陽の輝きに思わず口角が上がる。それと同時に体に纏わりついていた何かは剥がれていく。

 

 

微かに散る雪の結晶、次第に解けて行く風の糸。それは人には生み出せない"雪と冷風"で編まれた羽織。それが徐々に照りつける日射しによって消えていく。

 

(……有難う)

 

ただ感謝する事しかできない。それ以上の言葉などどうやって繕えるだろう。彼女の救いなくば俺はあのまま凍えていたかも知れない。雪と風で編まれている筈の羽織は触れると暖かい。

 

(……有難う)

 

蔓で編まれた籠と薪も大きな助けとなった。これが無ければ、俺は余裕を持って登頂出来ていなかった。籠があった事で薪の運搬も楽だった。

 

(……それに)

 

先程自分が出て来た洞窟の出口を見る。其処でうごめく2つの影、それはユラユラと動き洞窟の奥へと消えていこうとする。

 

「待ってくれ」

 

俺はその2つの影を呼び止める。陽に照らされて明るい野外とは違い、洞窟の奥は墨をぶちまけたかの様な黒。しかしその影だけは他の場所よりも明るい黒色。それがどういう存在なのか俺には分かった。

 

「お前達だろ?寝てる時に俺を守ってくれたのは……」

 

俺が寝ている時、手持ちの1匹が交代交代で見張っていてくれていた。それでも1体相手に群れを成す野生ポケモン達が向かって来ないわけがない。実際、俺が起きているうちに何度か襲撃に遭った。でも、俺が寝ている間は誰も襲って来なかったという。

 

 

それを聞いて違和感を感じていたが、その正体を知ることは出来なかった。彼女達の存在に気づいたのは本当についさっきの事だ。彼女達が何故ここまでしてくれるか、原因は俺だ。だから、この件には今ここで付けなければいけないと思う。

 

 

 

 

 

 

「あの………その………」

 

「………………」

 

ルギアとダークライ、その2体が人の姿で俺の前へと現れた。ルギアは困惑して何か言い出そうとしても言葉になっていない、ダークライは何も語らない。そのまま立って話すわけにもいかず、アローラリーグの芝生エリア、其処にビニールシートを引いて俺含めた3人で座っている。

 

 

空には無数の星が輝く。今までこの島で様々な星空を見て来たが、その中で最も雲のない澄み切った空だった。

 

「お前達が何故着いて来たのか、理解している」

 

何せ原因を作ったのは俺で、その所為で今この現状を生み出した。その時の態度や視線、ポケモンといる時間が長いとそれから何が言いたいか分かる。

 

「でもそれは出来ない」

 

彼女達はきっとこう切り出す。私たちを手持ちにして欲しい……と。普通のトレーナーなら自ら頭を下げてでも手持ちに入れようとするだろうが、俺は躊躇している。

 

 

伝説のポケモンは連れているだけで注目の的だ。唯でさえ人型ポケモンを6体フルで連れている俺が彼女達伝説のポケモンを手持ちにすれば更に余計な火種を増やす事になる。そうなると手持ち皆に迷惑を掛ける事になる。信じてくれている皆にも、目の前の2人にもそんな目に会わせるわけにはいかない。

 

「だから、諦めてくれ」

 

俺は頭を下げる。こう言いたくはないが、仕方ないのだ。だから、謝罪した。わざわざ着いて来てくれて悪いが、彼女達を抱え込む事は、出来ない。

 

「…………」

「…………」

 

ルギアは悲しそうに顔を歪める。ダークライは目を閉じ何も言わない。心苦しい、でもそうするしかなかった。

 

 

「あの!」

 

 

彼女が、口を開くまでは………。

 

 

 

レディだった。勝手にボールから出た彼女は泣きかけのルギアの涙をそっと拭ってあげる。そして優しく抱擁し、此方を睨んで来た。思わずギョッとし体が縮む。

 

「なんでですか!」

 

「えっ……いや……」

 

今まで見た事もない様なレディの、最初からの相棒のキレる姿に思わず言葉が出なくなる。確かに悪いのは俺だ、その自覚はある。

 

「なんで仲間に入れてあげないんですか!?」

 

「それは………」

 

言わないといけない。お前達に迷惑を掛ける事になる、彼女達にも危険が及ぶ、出来ない理由がドンドン頭の中から湧いてくる。

 

「いつものマスターはどこ行ったんですか!?」

 

「いつもの……俺……?」

 

いつもの俺とは、一体何なのだろうか……。

 

「傷ついたら心配し、癒してくれる。褒めてくれる。笑ってくれる。誰よりも優しい、私達の唯1人のマスター(主人)です!それに言いました!」

 

それは俺が、下を向いてしまった皆に言っていた言葉。

 

 

『悩んでちゃ、先には進めない。一歩を踏み出し、全てはそこからだ』

 

 

「なら今回も、踏み出して下さい。今までみたいに、踏み出して見せて下さい!私達に言った様に!」

 

レディが背中を押す。俺は視線を向ける。レディの真剣な表情、ルギアの縋るような表情、ダークライの見据えるような表情。

 

「はぁ………」

 

まさかカッコつけて言った言葉がこんな風に帰ってくるとは思わなかった。でも、そうだよなとストンと落ちてくる感覚だ。考えるなんてらしくない。

 

「うん………良し!」

 

俺は立ち上がり、彼女達の横に移動する。そして、2人の目の前に手を出す。早速さっきの発言を覆すようで気が引けるが、言葉にしなければ決まらない。

 

「2人が願うなら、共に行こう。お前達の知らない世界を、俺と、俺の仲間達と見に行こう」

 

2人の手を取る。立ち上がらせ、そのまま纏めて抱き締める。今まで人の温もりを知らないであろう2人に伝える様に

 

「皆さん、私達も!」

 

「ああ!」

「はい」

「分かりました」

「は〜い♬」

「おう!」

 

勝手に出て来た手持ちの皆も輪になって抱き締めてくる。皆の温もりが、伝わってくる。というか暑い。幾ら寒い頂上とはいえ蒸し蒸しする。

 

「AAA………」

 

ラナキラマウンテンに入ってから寝る時以外俺の背中にずっと抱き付いていたイドが声を漏らす。

 

「……アナタ、スキ。ミンナ、ワラッテル」

 

「嗚呼、そうだな」

 

彼女の様子が伺えない。でも彼女は分かっているのだろう。

 

「ふっ…………」

 

ダークライは小さくクールに笑う。

 

「うう〜……良かった、良かったよぉ〜」

 

ルギアは泣きながら笑う。

 

 

俺も笑った。

 

 

皆笑っている。

 

 

この先大きな困難も待っているかもしれない。

 

 

でもそんな事に負けないという気持ちも込めて、

 

 

皆夜空に向かって笑った。

 

 




今回のキャラデザは竹嶋ちくさんの物を参考にしています。
詳しいキャラデザの方はニコニコ静画へどうぞ。


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