♀ポケに愛されて   作:愛され隊

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ポケモンの恩返し ②

今日も、なんとか登り進めることが出来た。彼女に貰った"何か"が無ければ途中で野垂れ死ぬか今ここで凍死していたかも知れないと考えると冗談じゃなくゾッとする。だから彼女には再会次第礼を尽くそうと心の中で決めている。

 

「しかし………」

 

着々と減っているランプの燃料を見ながら溜息を漏らす。恐らくこのままだと登り切る前に燃料が尽きる。パーティーメンバーの誰もフラッシュを使えない俺はこれまで洞窟の暗い場所を進むのにも使っていたが、明日は如何したらいいかと考えを巡らせる。

 

「如何したものか………」

 

幾ら彼女に貰った"何か"が有っても暖かいわけではない。単に異常に寒くないだけで普通に冷える。それに体温は少しずつ奪われている。

 

(使わない選択肢は取れない)

 

食事に加熱は必須。そうなるとそれ以外を削る他ない。

 

(でも………)

 

移動中に火を焚くのは道を照らす為だけではない。闇に暮らすポケモンは光を嫌う。移動時にも火を焚くことは戦闘回数を減らす意味を持つ。火を消せば視界が狭くなり、その上闇に暮らすポケモンの狙いの的になりかねない。そうなると必然的に登るのに時間が掛かり、結果的にジリ貧となっていく。

 

「………せめて、燃やせるものでもあれば」

 

そう思ってカバンを漁るも、中から出てくるのは食料品や水、救急セットと回復アイテム。一応アルコール消毒と包帯なんかの布類はある。簡易な松明を作ることも可能だろう。でもこれからどんな難所が待っているか分からない、それがチャンピオンロードであり、登山であると思い知らされている。少量しかないアルコールと包帯を浪費したくはない。そもそも持ち手となる棒がない。

 

ガラガラッ!!

 

近場で何かが崩れる音が聞こえた。その音は石が崩れた音ではなく、それより軽い何か。それも自然と崩されたのではなく、誰かに力強く崩される様な音が聞こえた。

 

(なんだ?)

 

立ち上がりその音が聞こえた方向に向かってみる。俺が休憩していた広場、其処から少し戻った所に音の発信源はあった。

 

「薪?」

 

散乱していたのは薪。しっかり乾燥していて、よく燃えそうで、持ち運びできる様にしっかり編まれたカゴまで付いている。周囲に人の気配はない。今までの道は一本道で入れ違うこともない。だからと言って下っていく者がいるとも思えない。

 

「もしかして…………」

 

俺はふとこの展開に覚えがある。薪の中から一本を失敬して内心惜しむ様にしながら包帯を巻き付け、それにアルコールを染み込ませて火を点け、即席の松明にして元来た道を急いで下る。

 

 

 

 

 

 

「これで良かったですの?」

 

「ああ、これで良い」

 

2人の女性が暗い洞窟を歩いていく。

 

 

1人は緑の長いツインテールを左右に揺らし地面をブーツで踏み鳴らしながら、1人は肩までくらいの長さに伸ばした銀の髪を特に意識する事なく背中に背負った巨大な武器を背負い直しそっと息を吐きながら。緑髪の女性は不満げな表情、対して銀髪の女性は何処か悲しそうとも取れる様な表情をしている。

 

「会わなくて良くて?」

 

「ああ、会ったらきっと……」

 

其処までで彼女は口を閉ざす。緑髪の女性は呆れ果てながらこう告げる。

 

「まさか、抑えられなくなる(・・・・・・・・)なんて言いませんわよね?」

 

「っ!?」

 

銀髪の女性は体をビクリと跳ねさせる。何か、図星を突かれたかの様な反応に緑髪の女性は呆れた様子を貫きながら言葉を続ける。

 

「アタクシは元より人に近い形だから変化は少ないですが、貴女はそうでもない様ですね」

 

「………ああ」

 

銀髪の女性は頷き、そしてポツポツと話し始める。

 

「この姿になると五感が鋭くなったり鈍くなったりする。聴覚や嗅覚、視覚が鈍くなり味覚や触覚、痛覚は鋭くなる。あんまり便利とは言えない。でも………」

 

彼女は足を止めて自分の体を抱く。まるで何かから自身を守るかの様に。

 

「嬉しい、楽しい、悲しい、腹立たしい。色々な感情がはっきりと分かる。そして、あの男に抱いている感情もハッキリとした。でも、それが何より怖い(・・・・・・・・)

 

深く考えていなかった事が人の姿をとる事で理解できる様になった。しかしそれは自覚なかった物を自覚ある物に変えてしまった。本来ゆっくり気付くはずのものに急に気づいてしまった彼女は如何その気持ちを整理すれば良いか分からない。それが怖くて仕方ないのだろう。

 

「っ!」

 

「むぐっ」

 

銀髪の女性は緑髪の女性を抱えて側の岩陰に隠れた。急のことに緑髪の女性は抗議しようとしたがすぐに理由を理解し、口を閉ざす。銀髪の女性が言うあの男が近くにやってきたのだ。折角登ってきた道をわざわざ戻ってきてまで。

 

「…………………」

 

その男、コウヤは周囲を見渡し始める。銀髪の女性は必死に息を殺しているが、緑髪の女性はその様子を内心楽しんでいた。それはコウヤには自分たちが隠れていることなどすぐにバレると分かっているから。

 

何故なら銀髪の女性は背中に背負った獲物が岩陰から飛び出しているし、緑髪の女性は衣服の裾が岩陰から見えている。

 

「………有難う」

 

コウヤは視線を彼女達の隠れている岩場に向けてそれだけ呟き、来た道を戻って行った。バレていた事を告げるべく、緑髪の女性は未だ目を閉じ息を殺している銀髪の女性の肩を叩く。

 

「アタクシ達、バレてましたわよ。だって、ほら………」

 

「__________________」

 

緑髪の女性の指摘で真っ赤に染まる銀髪の女性の顔。それを苦笑い気味に見ながら、緑髪の女性は告げた。

 

「難しく考えなくて良いわ。でも、その時はいずれ来る。今のうちから決めておきなさい」

 

その目は真剣で、飲まれる様な威圧感を秘めている。その姿は、少なくとも只者ではない。あらゆる者を従える女王が如き迫力を持っていた。

 

「まあ、その姿をとったという事は殆ど決まっている様な物ですけど、ね?」

 

彼女は銀髪の女性に問い掛ける。しかし彼女の威圧感に飲まれ、その問いに答える事は叶わなかった。

 

 

"現在地点 2/3。あと少し"

 

 




今回のキャラデザはぬるはけ100さんの物を参考にしました。
詳しいキャラクターデザインの方はニコニコ静画にどうぞ

渡した物:薪+籠
しっかりと水気の切られた薪と蔓などで編まれた籠。薪の切り口は斧で割ったというより刃物で切られたかの様に美しく、籠は異常な程にしっかりかつ丁寧に編み込まれている。

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