♀ポケに愛されて 作:愛され隊
ラナキラマウンテンのチャンピオンロードは昔から用いられていた試練用の洞窟をアーカラリーグ用に改良を加えたものらしい。それを聞いた時俺は少なからずこの山を侮っていた。一人前になる為の試練で其処まで難しい物を用意しているわけがない、それを改良した程度ならイッシュに比べたら簡単だろうと楽に見積もっていた。
日中は其処まででもなかった。平地の暖かさに比べて涼しいラナキラマウンテンの洞窟は寧ろ涼しく快適だった。それが思い込みを悪化させる原因ともなった。
「うっ………寒い」
その結果がこれだ。夜になると空気中の温度が急激に低下していき、高所での風も相まって震えずには居られなくなる。暖まろうにも植物が植生する高さを超えた為木々が見当たらず薪がない。手元には簡単なランプくらいしか無く、それで暖めた汁物を摂取してなんとか暖をとっている状況である。
「寒い」
それでも寒さは余り和らがない。内部から暖まっても外側が暖まらないと全く震えが止まらない。これでは碌に寝れもしない。
「っ!」
一段と強い風が吹き抜ける。それだけで全身が凍りついていくような感覚に苛まれなんとか体温を逃さないように身体を丸める。それでも寒さが染み込んで来るのを止める事は出来ない。
(………やばい、眠気が)
次第に手足の感覚が鈍り、思考能力の低下を感じる。瞼は少しずつ落ちる回数を増やして行く。このまま寝たら、きっと目覚めない永遠の眠りに落ちてしまう。でも身体を動かそうにも今の体勢を崩すと熱が奪われてしまうと考えてしまい、動く事は出来ない。
ヒュォォォ〜
「ひっ!?」
まるでダウンを擦り抜ける様に衣服の隙間に入って来た冷たい空気が俺の背筋をなぞる様に通り抜けた事で意識がはっきりする。それと同時に違和感に気づいた。
「………あれ?」
先程まで感じていた寒さが少し和らいだ気がする。それに先程まで吹いていた風がピタリと止んだ。周りの空気が俺の周りに纏わり付いてくる。周囲の環境から、凍てつく様な風から、俺を守ってくれている。
「山の厳しさは、如何でしたか?」
背後から、女性特有の高い声が聞こえる。振り返ると和服を身に纏った女性が立っていた。しかしその足は地面に付いておらず、体は宙に浮いている。
白い髪につけた氷の様なアクセサリー、水色と白色の着物、腰に巻いた赤い帯、そして額に付いた紫に菱形模様。その容姿から俺は1つの答えに至った。
「まさか……ユキメ_____」
名前を呼ぼうとして、その言葉は突然の風音でかき消された。同時にその風は土煙を巻き上げ一時的に視界を奪う。
次に目を開けた時、其処に立っていた女性は姿を消していた。如何して人の形をしていたのか、如何してここに来たのか、如何して俺を助けてくれたのか。問いたい事は山ほどあったけれど、聞けずじまい。
「有難う」
俺は立ち去った彼女を思いながら、お礼を口にした。
"現在地点 全体の1/3。まだまだこれから"
今回のキャラデザは竹嶋えく氏の物をモデルにした物です。
詳しいキャラクターデザインの方はニコニコ静画にどうぞ
渡した物:???
防寒目的の何からしいが目に見えず、微かに身体に纏わり付いている感覚だけがある。しかしお陰で貰う前まで寒さや冷風の影響を受けなくなった。